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82章 win-winの罠

源とロック。そして、5人の黒い騎士たちは、宮殿内に案内され、ボルフ王国国王キグダム・ハラ・コンソニョール・ソールに拝謁はいえつする。



シンダラード森林の主で、あれだけの見世物を用意できるセルフィだとしても、一国の主をないがしろには出来ない。膝をついて、頭を下げる。


「頭をあげい」


源たちは、頭を下げ続ける。


「よろしい。頭をあげい」


2度の国王からの呼びかけに、一斉に頭を上げる。


源は、ボルフ王国国王に挨拶をする。


「ボルフ王国国王キグダム・ハラ・コンソニョール・ソール殿下に拝謁できる喜びを頂き至極感謝しております。本日は、ボルフ王国国王キグダム・ハラ・コンソニョール・ソール殿下の直々のお手紙を拝見し、協議を重ねたいというお気持ちを知りましたので、わたしたちが出来る最上の方法で、惨状しました」


ボルフ王国国王キグダム・ハラ・コンソニョール・ソールは、このセルフィという者やレジェンドという謎の村の驚異的な能力を目の当たりにして、どうするべきかと考えた。

あれだけの力を持っていながら、それでも、下手に出ようとするセルフィをどう扱えばいいのか解らずにいた。

しかし、以前からサムジが考慮して思案を重ねたことを実行していくしかないと考える。



「セルフィ殿は、あの巨大な物から出てこられたが、あれは一体何なのか」


「はい。あれはシンダラード森林のレジェンドでは、移動手段として、利用している飛行する乗り物でございます」


「あれが・・・あの巨大なものが乗り物だと?」


「はい。その通りでございます」


「それに、あのドラゴンはどうされたのか」


「あのアイスドラゴンは、龍王の遺跡に踏み込んだ際に、手なずけたものでございます」


「あ・・・あの巨大なドラゴンは龍王のドラゴン・・・それを手なずけた・・・どのようにして手なずけられたのか」


「わたしセルフィと、ここにいる岩モンスターのロック。そして、冒険者アドベンチャーの手助けによってアイスドラゴンを倒したのです」


サムジからは聞いていたが、非凡な能力ではない。サイクロプスを素手で倒したという話も事実なのやもしれぬ。とボルフ王国国王は警戒を強める。


「また、驚かされたのは、あの数の騎士たちだ。あの者たちの鎧は、どのようにして手に入れたのだ」


「あれは、すべて鉄の鎧でございます。シンダラード森林の資源をお望みのボルフ王国国王様ならご存知のはずですが、シンダラード森林には、鉄が出土します。その鉄を用いて、鎧を制作していくのです」


「あれだけの数を用意できるだけの技術力を持っておるということじゃな」


「鎧を精製することぐらいなら、ご覧の通りできます。以前からボルフ王国にわたしたちの鉄の武具を提供させてもらっていました。

そして、前回は、そちらのボルフ王国第三王子キグダム・ハラ・コンソニョール・サムジ殿に許可を頂き、ボルフ王国との貿易を行わせて頂いています」


「そうか。今日はわざわざボルフ王国に来てくださった。長い挨拶もお互い疲れるであろうから、協議のすり合わせをしたいと思うが、よろしいか」


「はい。是非、進めさせて頂きたいと思っております」


「では、場所を移そう」


ボルフ王国国王キグダム・ハラ・コンソニョール・ソールが、そう言うと、女性が立ち上がり、かごの中の花びらを国王の足元に撒きながら、国王は、移動していく。


そして、源たちも、違うルートから別室に移動させられた。


さー。ここからが本番だ。ボルフ王国は、何を企んで、俺たちを呼んだのか。

それを知ることからはじめなければいけない。

ただ単に鉄の武具を手に入れるためだけに、動いているわけがない。

さらに狙っていること、そして、その先にある彼らのみている利益は何なのかを探る。


以前、サムジ王子が、源を招いた大広間の会議室に案内された。

そこにいるのは、数人の騎士と国王そして、サムジ王子だけだ。他の王子などは、出席していない。


かなりの大人数で攻めて来ると思っていたが、なぜか、ボルフ王国国王は、サムジだけを呼び寄せた。


そして、さらに、その部屋にいた騎士たちをも下がらせて、ボルフ王国は、国王とサムジだけになった。水などを運ぶ女性たちも部屋からいなくなった。


こちらは、俺とロック。そして、5人の黒い騎士を連れているのにだ。


ボルフ王国の人間が、サムジだけになると、国王は話はじめた。


「セルフィ殿。はじめにそなたには、謝っておかねばならぬことがある」


ん?謝る?


「どういうことでしょうか?」


「わたしは、そなたが、ここへ来た時、そなたの力を垣間見たものたちの報告をうけておった。そして、なぜ、そなたが、あのようなこと大それたことをして、ボルフ王国を驚かせようとしたのかを調べさせたのだ」


横から、サムジが声をあげる。


「国王様!」


国王は、大きな声で怒鳴った。

「黙れ!」


サムジは、その声にビクっと体を震わした。


「どうやら、このバカ息子が、そなたやそなたの仲間に、不敬を表したのではないかという疑惑が持ち上がったのだ」


源は、その話を黙って聞いていた。


「ボルフ王国の国王と、そして、王子としての立場上のことがあるゆえ、人がいるところでは、話せなかったが、セルフィ殿」


「はい」


「サムジが、何かしでかしたのではないか?」


源は少し悩んだ。この場合どうするべきか。

本心は、このサムジをさらし首にでもしたいほどだが、そんなことを国王が認めるはずもない。自分の息子と言っている以上、可愛い息子だということだろう。サムジをたてて国王の機嫌を取るのがいいのか。


「シンダラード森林の者たちは、ボルフ王国、そしてコボルトとも戦いたくはありませんでした

ですが、問答無用で、攻め込まれたので、こちらは防衛するしかない状況だったのです

サムジ王子が言われたように、モンスターに話をしても通じないと思うのは、当然だったでしょう

ですが、わたしと交渉を続けている間に、サムジ王子は、話し合いで解決を望まれました

攻め込まれ、仲間を失ったことは、わたしたちとっては、今も心を痛めていることです

ですが、今後、ボルフ王国が、わたしたちシンダラード森林の者たちとの和睦を望まれ、それを続けて行ってくださるのなら、わたしたちの想いは、表に出さず、内に秘めようと考えています」


国王は、言った。


「申し訳ない。セルフィ殿。だが、1つだけ解っていただきたいのは、1つの国を背負うこと、そして、王子も国の在り方を考えながら、プレッシャーの中を生きているのだということを理解していただきたい」


あれを理解しろというほうが、無理な話だが、無理やり、合わせるしかない。


「確かに、国を背負うことは大きなことです。それは理解しているつもりです」


サムジ王子が、口をはさむ。


「わ・・・わたしは、国のためと思って、おこなったまででございます!」


国王は、サムジ王子の顔をひっぱたいた。


「出ていけ!この会議にお主は、必要ない!」


源は、少し驚いた。意外と親バカではないのかもしれないと思わされた。


サムジ王子は、慌てふためきながら、部屋を出て行った。


「どうか、ボルフ王国のすべてが、悪いわけではないということをご理解されよ」


「少し驚かされました」


「お見苦しいところを申し訳ない。そして、セルフィ殿には、ボルフ王国の心強い味方として、共に歩んでほしい」


「申し訳ありませんが、ボルフ王国が、わたしたちの希望通りに運営されていれば、みなさんのお役に立てるように努力もしたいところですが、今は、正直に言いますと、疑問が多いのがわたしたちの気持ちです」


「例えば、どのようなところが、希望通りではないと申されるのか?」


「わたしは、数日前、レジェンドに亡命をしようとしてきたボルフ王国の農民を追い帰しました

ボルフ王国の許可なく、勝手に亡命を許可することは、出来ないと断ったのです

ですが、彼らの言い分からすると、彼らはもうボルフ王国では、生きていけないと言うのです

税も高く、土地は萎えて、生産性を落としているので、年を越せない、危機的状況だといいます」


「そうか・・・それが、ボルフ王国を信用できない理由の1つか」


「正直にいうとそういうことになります・・・」


「セルフィ殿には、わたしたちボルフ王国の危機を正直に言わなければならぬだろう・・・」


「危機ですか?」


「ご存知の通り、このボルフ王国は、ドラゴネル帝国の属国

その属国が帝国に反乱を起こさぬように、帝国は、ボルフ王国にレジスタンスなどのスパイを入り込ませたり、ボルフ王国の力を裂くために、高い請求をしてくるのじゃ。その年の収穫の量など関係なくじゃ

140年に渡って、ボルフ王国は、ドラゴネル帝国に貢いでいかなければ、滅んでしまうような国。だから、そのしわ寄せが、農民へとどうしても向いてしまう

考えてみてれば、お金を持つ貴族、そして、力を持つ騎士や兵士、そして、利益をもたらす商人などがボルフ王国に来てもらうには、それなりの発展している現状をみせつけなればらない」


源は、リタからもドラゴネル帝国のレジスタンスのことを聞いていたし、確かに帝国からすれば、各国の力を削ごうとするのは、歴史では当然の策だと理解できた。そして、それが一番弱いところに不幸を広げる。

「確かにそうですね・・・」


「だが、ボルフ王国は、それほど豊かな国ではない

豊ではないのに、豊にみせて、貴族や商人を呼び込まなければやってゆけぬ

では、どうすればやっていけるのか

それは、農民の年貢を上げることだ

貴族や商人たちの税をあげれば、これもまた人が去り、農民の100よりも富をもたらす人間たちが、集まらなくなる

そうすれば、さらに農民の税を上げざる負えない・・・我らの策はつきはて、農民を遠ざけるしか無くなったのじゃ・・・この事実を正直に農民に話せば帝国に物も言えぬ能無しと思われよう」


国王は、大きな声をあげた。


「だが!!」


「申し訳ない。だが、決して農民をないがしろにしたくて、しているのではない

農民を苦しめればまた反乱が起こる。農民を優先にしても、運営できず、農民を見捨てても、運営できなくなる。板挟みの状態。それがボルフ王国なのだ

出来れば、策があり、農民までもが豊かになれる方法さえあれば、ボルフ王国は、救われるのじゃ・・・だが、その策がない!」


源は考えた。経済的な面でも、農業的な面でも、今のこの仮想世界では、発展が遅れている。

自分は知っているから策を生み出すことができるが、知らないひとたちからすれば、まるで飛行機を発明するかのような革新的な発想が必要になるのだ。

この人たちは、その策を知らないだけなのかもしれないと思った。


源は国王に言った。

「では、国王様は、貧民地が豊かになることは、反対されないのですね?」


「そんな方法がないから悩んでおるのじゃよ。セルフィ殿」


「わたしにまかせてもらえないでしょうか?」


「なんと!何か策があると申されるのか?」


「貧民地の発展をわたしに全面的にゆるしていただけるのなら、わたしは、ボルフ王国のために、知恵と能力を使おうと思います。ですが、それを邪魔されるのであれば、わたしはお手伝いする必要性は無くなります」


国王は、大きくセルフィに宣言する。

「分かった!セルフィ殿。そなたに、貧民地の発展の全面的な権利を与える。そして、農民たちを救ってくれ!」


この国王は、それほど悪い王様ではないのかもしれないと源は思った。話せば解かる王様もいるのだ。俺たちの最初の登場がインパクトがありすぎて、聞く耳を持ったのかもしれないが、計画通り、それが成功した理由なら、それでいいと源は思った。


「あと1つよろしいでしょうか?」


「何だろうか。セルフィ殿」


「貧民地の農民の中には、レジェンドに亡命をしたいという人たちがいるのですが、それを許可してはもらえないでしょうか」


国王は、少し考えた後、答える。


「セルフィ殿。考えてみてくれ。農民がいなくなったら、我らは、どうやって食べ物を用意できるのだろうか。農民は財産で、大切な存在。それをいなくなることを許可する国王がいるのか」


やはり・・・大々的に亡命を許可などできないのか・・・と源は思った。当然と言えば、当然の話だ。でも、貧民地の発展を全面的に、許可してくれたのだから、ここを良い場所にすれば、亡命しようとする農民も考え直すだろうと源は思った。

わざわざレジェンドに来るまでもない。


レジェンドの会議での話では、亡命者だけを受け入れる許可を取る作戦を考えたが、それ以上の許可をもらったのかもしれないと源は思った。

ここは、国王が正論だろう。


「その通りですね。おっしゃることは解ります。ですが、貧民地の発展の全面的な許可というのは、市街地の外の場所は、自由にしてもいいという本当に全面的な許可だということでよろしいですね?」


「ああ。任せる。貧民地の暮らしが良くなるのなら、セルフィ殿にすべてまかせる!お主の好きなように進めてくれ」


「分かりました。全面的な許可については必ずお守りください。そして、鉄の鎧なども以前と同じように貿易を続けて行くということでよろしいのですね」


「もしよければ、是非ボルフ王国との貿易を続けさせてくれ」


国王は、源に両手を差し出した。


源も両手を出すと、国王は、暖かい手で、源の手を握りしめた。


「頼む。貧民地を救ってくれ」




源は、協議を終え、そして、巨大物体にレジェンドの皆を乗せて、浮かび上がらせて、ゆっくりと戻って行く。あの巨大な物体が、また動き出して騒ぎになったが、ボルフ王国から姿を消したと分ると、やっとボルフ王国の国民たちは、安心感を取り戻した。


『源。少しだけよろしいですか?』


『うん。どうした?』


『あの協議の内容で、本当によろしいのでしょうか?』


『何か問題でもあったか?』


『源と会話をしていた国王は、最初から最後まで、嘘をついていましたが、よろしいのでしょうか?』


『ん?嘘をついていた?どの辺が?』


『恐怖していたということ以外の全てです。源』


源は考えた。あんな嘘をついて何の得があるというのか・・・ほとんど、こちらの望むような結果が得られたような協議だったのに・・・。


『こちらの言い分ばかりが通ったが、向こうに何か思惑があるというのか?』


『申し訳ありません。国王が嘘をついていることは解りますが、国王の真意まではわたしには分かりません。源』


ボルフ王国が、あんな嘘をついて得することと言えば、ボルフ王国の利益だろう・・・。貧民地を豊にするというのは、確かに利益だから、俺を無理やり、貧民地の開発に携わらせようと、嘘の芝居を企てたのかもしれない。レジェンドの豊かさをどこかで情報を得て、俺を利用しようとしているのかもしれないのだ。


もし、そうなら、別にいいんじゃないのか?と源は思った。それが向こうの利益になり、そして、こちらは、貧民地のみなを助けることが出来る。これこそwin-winの関係だろ?


確かにボルフ王国からすれば、無料で、この俺を雇って、貧民地を発展させられるわけだし、うまくいけば、ボルフ王国の仲間にもなってくれると思うだろう。そのための嘘をあのオヤジがしたのなら、何か問題があるのか??


あれだけの力を見せつけられた相手を利用して、貧民地を豊にさせようという悪巧みなら、大歓迎としか言えない。別にこっちは利益なんていらないし・・・。


悪巧みというか、普通の政治の貿易で、お互いの利益にあうように誘導することは、嘘というかすべて悪いことではないだろう・・・営業マンでも当たり前のようにする笑顔が嘘だと言われても、そりゃーそうですねとしか言えない。


―――ボルフ王国第三王子キグダム・ハラ・コンソニョール・サムジは、セルフィたちがいなくなって、ニヤリと笑った。


そして、サムジの後ろには、黒い影が控えていた。その影も笑っていた。

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