81章 外交
ボルフ王国の上空に、巨大な物体が近づいてきた。それは、遠くから迫ってきたことが、見張りの兵士から報告で解っている。
多くの騎士や貴族たちが、目にしていたが、はじめは小さい物体だと思っていた。だが、時間と共に、近づいてきたそれは、とてつもなく大きかった。
半径、1kmにもなるかという大きさで、直径2kmほどもあった巨大な黒い物体が、まるで雲から召喚されたかのように、猛スピードで、やって来たかと思うと、ボルフ王国に付近になり、その速度は低速になりはじめた。そして、ボルフ王国の上空をまで来ると、完全に空中で停止して、いつまでも浮いていた。
その巨大な物体は、丸い円盤のような物で、遠くからみると、どこにも入り口らしきものはなく、ただただ黒くて、巨大すぎる物体だった。
ボルフ王国の市民園や貴族園の人々は、叫んだ。
「地獄がやって来た!」
「世終わりだ!」
と、得体のしれない巨大な上空に浮かぶものをみて、騒ぎ始めた。
貴族の中には、大勢の人間を呼んで、次々と荷物を荷馬車に放り込み、ボルフ王国から逃げようとする者までいた。
その巨大な物体は大きすぎるので、太陽の光りを遮断して、ボルフ王国を影にした。1時間経っても、2時間経っても、得体のしれない巨大物体は、ボルフ王国の上空に浮かび続ける。
―――ボルフ王国の宮殿内は、王族すべてが集まり、緊急決議が開かれていた。
ボルフ王国国王を前にして、大勢の臣下たちが、並んで議論をしては騒ぎ立てていた。
何が起こっているのか解らずに、騒ぎは時間とともに大きくなっていく。
あんなに大きなものが落ちてきたら、一気にボルフ王国は壊滅してしまうと避難勧告を促す者もいた。
だが、ひとりが、大きな声で騒ぎを静止させた。
「黙れーー!!」
その声をあげたのは、ボルフ王国第三王子キグダム・ハラ・コンソニョール・サムジだった。
サムジ王子は、大勢が並ぶ列から飛び出して、王座の上に座る国王に向かって話し始める。
「国王様。あの物体の正体をわたしは知っております」
「おおー!」という声が宮殿大広場に広がった。
「以前からわたしが、申し上げているように、あの所業をする存在。それこそが、セルフィなのでございます!」
国王は、声をあげた。
「何!?お前が言っていた、例の少年のことか!?」
サムジ王子は、首を大きく振って頷き、次に王宮に集まる兵士たちに振り向き、大きな声で言った。
「この中で、わたしが言っていることを馬鹿げた話だと誹謗中傷してきた方たちがいる!そんな言葉を今、ボルフ王国の上空にあるあれに向かって言えるのなら、言え!わたしが言っていることは、本当のことだったのだ!」
集まっていた貴族や兵士の中に、その言葉を聞いて、目を伏せるひとたちが、何人かいた。
サムジ王子は、言う。
「国王様!どうか、あの巨大な物体に目をそらさずに、ご覧ください。そして、心して、あれらに挑まねばならぬのです」
国王は、言った。
「解った。キグダム・ハラ・コンソニョール・サムジ!お主にすべてをまかせよう。今回のことは、お主がすべて指示するのじゃ!誰一人、それを邪魔するものは、この国王が、ゆるさん!」
すべての王族・貴族・騎士たちは、一斉に、床に片膝をつけて、平服した。
―――ボルフ王国第三王子キグダム・ハラ・コンソニョール・サムジは、ボルフ王国国王キグダム・ハラ・コンソニョール・ソールをボルフ王国のすべてが見える城の高台まで連れて行き、用意していた豪華な椅子に座らせて、外の様子をその目で拝見するように促した。
そして、サムジ王子は、力強い声で、国王に語る。
「わたしは、これから、あの者たちを迎え入れますゆえ、こちらですべてをご覧いただきたい!」
「分かったぞ!サムジ。お主を信頼しておる。今、お前以外は、すべてのものが、恐怖し、慄いておる。お前だけが力強く行動しておる。まかせたぞ!」
サムジ王子は、威厳ある声で国王に応える。
「ハッ!お任せください!」
サムジ王子は、マントを翻して、兵士の部隊を連れ、ボルフ王国の城下町を抜けていく。
その兵士の数は300。すべての兵士がフル装備をして、ボルフ王国第三王子を先頭にして、進んでいく。
街の中を騎士の行列が、規則正しい行進をしながら、通りすぎていくのを国の民たちは見送る。
巨大な黒い物体のために大勢の民が外に出ていて、心配していたので、騎士たちが向かうのをみて、何とかしてくれるかもしれないと思っていた。
「ボルフ王国第三王子キグダム・ハラ・コンソニョール・サムジ様ー!!」という叫ぶ声がいくつか上がる。
その中をサムジ王子は、騎士たちと行進していく。
騎士の行列が過ぎ去ると、叫んでいた者たちは、報酬を受け取って消えた。
ボルフ王国第三王子キグダム・ハラ・コンソニョール・サムジが、騎士とともに、行列を壁の外の門の前に並べると、その得たいのしれない巨大な黒い物体が、待っていたかのように、ゆっくりと下降しはじめた。
ボルフ王国内の人々の叫びは、絶頂を迎える。
巨大な黒い物体は、静かに、地面すれすれに下降していくと、そのままわずかに浮遊しながら、静止すると、その物体の上部が、扉が開閉するかのように開いた。
しかし、その扉だけでも、100mはあるかというほどの巨大さだった。
それをみて、並んでいた騎士たちもたじろぐ。あの巨大な扉をどうやって動かすのか想像もできなかったからだ。
そして、さらに目にしたものによって、後ろに倒れる騎士までいた。
多くの騎士たちが、声をあげた。
巨大な黒い物体の上部の開いた扉から現れたのは、巨大なドラゴン。アイスドラゴンだった。
アイスドラゴンは、空を飛び、凍てつく息を上空の周りに、吹き込むと巨大な氷が、作られては落ちて、辺り一面を氷が散乱する。
「ド・・・ドラゴンじゃとぉ!」と国王は、声を荒げる。
「ドラゴンは、滅んだのではないのか!?」
アイスドラゴンは、その物体の横から下へと降りて、山のような氷を作り始めた。
氷の山は厚くなっていき、小さな山ほどにもなると、アイスドラゴンは、巨大物体の左へと移動して、動きを止めた。
アイスドラゴンが、静止したと思うと、巨大物体からこれもまた巨大な炎が飛び出し、先ほど、アイスドラゴンが作った氷の山を一撃で、吹き飛ばした。辺り一面に散らばっていた氷まで、溶かして、炎は消える。
巨大物体は、前方方向と左右に3カ所から巨大な穴が、開き始めた。それは、巨大な扉だった。それぞれ、「ガゴン」という大きな音を響かせて、扉がそのまま橋となり、その橋から、次々と黒い鎧の騎士たちが、行進して現れる。
その数、1000。その先頭には、岩の巨大なモンスターが精強な鎧をまとって直立する。
サムジ王子が並ばせた300人の騎士の前に、黒い騎士1000が、整列して、対峙する。
すると、アイスドラゴンが、大きな雄たけびをあげた。
「グオオオオオ!」
巨大物体の上から、小さな少年が、空を飛んで、1000人の黒い騎士の前に、降り立った。
セルフィだ。
ボルフ王国第三王子キグダム・ハラ・コンソニョール・サムジは、鍔を飲みこんで、顔をひきつらせたが、馬から降りて、セルフィの元へと歩いていく。
サムジは、大きな声で語りかけた。
「シンダラード森林レジェンドのロード。セルフィ殿。よくおみえになられた。どうぞ、我がボルフ王国へお入りいただきたい」
「ボルフ王国第三王子キグダム・ハラ・コンソニョール・サムジ殿、わざわざお出迎え感謝致します。そして、わたしたちシンダラード森林の者をお招きくださいましたこと、心よりお礼を申し上げます」
サムジ王子は、顔を無理やり笑顔にして、気持ち悪い顔で、セルフィを連れて行く。セルフィには、5人の黒い騎士とロックが、後ろを護衛する。