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80章 苦渋の選択

源は、無断でボルフ王国からレジェンドに亡命してきた100人を連れて、ボルフ王国に移動した。


途中、100km/hを超える速さで空を飛びながらも、安全を考慮しながら、無事に、ボルフ王国へと辿り着いた。


源は、言った。


「みなさん。本当に今回は、申し訳ありませんでした

ですが、わたしが出来ることは、何かさせてもらいますから、どうか希望を持って前に進んでいきましょう

レジェンドは、決してみなさんを否定したのではなく、今は、仕方なく受け入れられないということをご理解ください」


「セルフィ様。本当にすまなかったね。わたしたちが勝手に行動して・・・謝らないでおくれ」


とおばさんが、優しく声をかけてくれた。


「ありがとうございます」と源は頭を下げた。


100人は、ゆっくりと重たい足取りで、元いたボルフ王国の貧民地の家へと帰って行った。


源は、さっきのおばさんに声をかけて少し話を聞いた。


「すみません。少しお聞きしたいのですが、ボルフ王国から亡命しようとした理由をお聞かせくださいませんか?」


「わたしたちは、このままでは生きてはいけません・・・ボルフ王国からもらった土地の大きさでは、課せられる税は払えないのです・・・今回、亡命しようとした人たちは、すべてを捨てて、レジェンドに向かったので、もう生きてはいけません。最後の望みがレジェンドだったのです」


源は、悩んだ。


源は財宝などがあるから、彼らにあげることもできるが、もし、それをしてしまえば、レジェンドにいくだけで金がもらえると思い込むものたちが出てくるだろう。


そんなことをしたら、止められるものも、止められなくなる。


源は、悲しいと思って、ため息をついたが、さらに質問をした。


「ボルフ王国では、どれぐらいの土地を許可されているのですか?」


「人それぞれだけれど、大体、1a~2aほどの土地でしょうか。お金を用立てして、土地を増やしている農民もいるのですが、多くはやってはいけません。土地も、もう栄養がなく、作物も育たないのです」


「おばさん、絶対に内緒にしてくださいね」


おばさんは、分からない顔で聞いてきた。


「何をでしょうか?」


「おばさんの今の情報をわたしは買い取らせてもらいます。ですが、おばさんにだけしか、あげられません。もし、おばさんから、わたしがお金を渡したという噂が流れれば、レジェンドがさらに問題が膨れ上がります。内緒にしておいてもらえますか?家族にも誰にも話さないという約束です」


「わ・・・わかりました・・・」


源は、鎧の中の服から袋を出して、その袋のままおばさんにあげた。

おばさんは、中身をみようとしたので、止めた。


「見るのは帰ってからにしてください。ここではダメですよ。情報ありがとうございました」



源は、少し落ち込みながら、リタ商店へと向かった。


リタ商店の売り上げはすこぶる良く、かなりの収益をあげていた。利益の4割は、リタ・パームとバルト・ピレリリに払われている。

貧民地での税は、5.5割で、ほとんどの利益をボルフ王国に奪われるのだが、4.5割の純利益うちの4割をリタたちが取っている。源は6割だ。


農民の利益と比べたら、比較にならない利益を生んでいた。


源が渡していた武具は、はがねでもない鉄製だったが、銅などでも鎧を使っていた世界では、鉄でも売れてしまっていた。そして、源のリトシスで作った鉄の武具は、他の不純物がまざっていないので、その技術にボルフ王国は、目をつけていたのだ。


源ならもっと色々な武器や防具、アイディアを持ってリタ商店を流行らすことができるが、わざと適当な商品を並べるようにしている。


良い武具を渡すということは、次の日に、その武具がレジェンドに使われ兼ねないからだ。ボルフ王国は、まったく信用ならない。


源は、リタ商店に入って行った。


「こんちにわ。リタさん。バルトさん」


「おー。セルフィ様!」


とバルト・ピレリリは声をあげた。


「お店のほうはどうですか?」


「おかげさまで、大繁盛していますよ。セルフィ様」


「これもセルフィのおかげよ。ポーションや薬草、その他のアイテムも飛ぶように売れていくわ」


とリタは、声をかけてくれた。


「リリスも無事にレジェンドに帰ってきましたら、ご安心ください」


「そう。それはよかったわ。それで、今日は何のご用?」


「はい。7日ほど前に、ボルフ王国からレジェンドに手紙が届きまして、レジェンドときちんと協議をしたいということで、ボルフ王国国王キグダム・ハラ・コンソニョール・ソール殿下が書かれてよこされました

それで、レジェンドからは、ボルフ王国に、どのような戦略で協議に臨もうかと、おふたりの知恵をお借りしたいと思い来たのです。時間を設けてもらえないでしょうか?」


「わたしはいいわよ。リリスにも会いたいですしね」


「わたしも是非参加させてください」


ふたりは承諾してくれた。


そして、源はふたりには、別の話もした。さきほどの亡命者たちのことを話したのだ。


「そう・・・レジェンドに亡命しようとしたのね・・・」


「そうなんです。しかも、レジェンドに辿りつくまでに、何人かが犠牲になったと言っていました・・・」


バルト・ピレリリは言った。


「そりゃそうさ。俺たちはリリスがいたから辿り着けただけで、あそこまで、何の護衛もなくて、無事に着けるわけがねー。作戦もなく行くから自業自得ですよ」


「でも、そこまで追い込まれての行動ですからね・・・」


リタは言った。


「最近、ボルフ王国への不信感がとても広がり始めているのよ」


「そうなんですか?」


「これは、あなたたちだから、言うけれど、この前なんて、レジスタンスの人たちが、この店に来て、わたしの情報が知りたいとやってきたわ」


源は聞いた。


「レジスタンス?ですか・・・バルト・ピレリリさんが言っていたボルフ王国側のですよね」


「いいえ、その時に来たレジスタンスは、帝国側のレジスタンスと名乗っていたわ」


「帝国側?」


「ボルフ王国は、帝国に参加している属国だけど、帝国側としては、反乱などを起こすかもしれない国々にレジスタンスというものを作ってスパイのように潜伏させてるのよ

本当は、帝国内のすべての国にかもしれないけどね

そして、もし、ボルフ王国が裏切ろうとしていたり、謀反を起こそうとしていたら、そのレジスタンスで内部から崩壊させようと企むわけね」


源は言った。


「ボルフ王国は、帝国からの自由を手に入れるために、シンダラード森林の鉄資源をほしがっていたという噂は、まんざら嘘ではないということでしょうか?」


「はっきりとは分からないわ。そのレジスタンスたちも、本当に帝国側の者なのかも怪しいわね」


「ボルフ王国には、いくつかのレジスタンスがあるのは、間違いないようですね」


「そうね」


「そういう後ろめたさがあるのなら、シンダラード森林から取り寄せている鎧を重要視しているのもわかりますね」


「だから、ボルフ王国は、本当にレジェンドと手を結びたいと思ってるかもしれないわね」


源は少し、悩みを打ち明けた。


「僕は、ボルフ王国の農民も助けたいと思ってしまってるんですよ・・・」


バルト・ピレリリは言う。


「セルフィ様ありがとうございます。そこまで俺たちのことを・・・」


と言っている間に、源はバルト・ピレリリの話を手で遮った。


「違いますよ。バルトさん。僕が言ってるのは、僕からしたら、レジェンドの村人だけのことを考えたいと言ってるんです・・・」


リタは、少し微笑んで言った。


「それでいいのよ。セルフィ。あなたは優しすぎる。そして、あなたには、少し力があるかもしれない」


バルト・ピレリリは言う。


「少しじゃないでしょ!リタさん!」


リタは笑みを浮かべながら話を続ける。


「少しだけよ。セルフィは、万能じゃないのよ

全部うまくいかせられるわけじゃないの

そして、セルフィ、あなたにとっての家族は、レジェンドの村人なの。あなたは、その村人を守ることを優先にすればいいのよ」


源は、胸を締め付けられた。リタ・パームはとてつもなく優しい人だと思った。

そんなことを言えば、俺がレジェンドだけを助けるように決断するかもしれないのに、それが悪くないと断言して言うリタを源は、尊敬した。


そんなリタが、守りたい人たちを源も、見捨てられないと、どうしても思ってしまう。


いつからだろう・・・自分の村人ではないのに、貧民地の農民たちが仲間のように思えてしまっているのは・・・。


レジェンドに来た農民兵の家族は、もともとボルフ王国の農民だった。

その彼らとのつながりが、簡単に村を変えたというだけで切れるはずもないのだ。

想いや絆は、目にみえないけれど、つながっている。そして、その農民兵は今はレジェンドで暮らしていて、俺との絆が出来ている。


源は言った。


「すみません・・・僕は、彼らを見捨てるかもしれません」


リタは言った。


「それでいいのよ。あなたは間違ってないわ。それが正しいのよ」


源は、ありがたい気持ちで言う。


「リタさんは、本当に優しいですね」


「優しさだけでいってるだけじゃないのよ。セルフィ

世界には、悪魔族ではないかと言われているものたちがいるの。あなたが貧民地のために動くということは、そんな悪魔族と戦う可能性にもつながるわ」


「悪魔族?それは何ですか?」


「明確には、定義されていないし、そんな事実はないと言われているけれど、この世界には、種族ランクのようなものが存在している可能性があるのよ」


「種族ランクですか・・・」


「そうよ。例えば、世界を平定した龍王は、龍人族というランクかもしれないの

これは種族の違いではなくて、もうランク自体が違う

その存在自体のレベルが違うかもしれないのよ

その龍人族と匹敵するほどの能力を持っているのが、悪魔族なのよ」


「そんなに強いんですか?」


「強いなんてものじゃないわ。余りにも強すぎて、悪魔族は、国を独自に形成しているほどで、この帝国領土内でも、まるで特区のように、帝国に加盟せずに、存続しているほどなのよ。全50カ国の国々の中でも異例な存在ね」


「帝国領土内には、50カ国の国があるんですね」


「そうよ。ボルフ王国のような大きな国が50カ国あって、帝国に加盟しているのは、そのうちの40カ国よ。ボルフ王国も加盟しているわ。そして、悪魔族がいる国は、その悪魔族のひとりの力が強すぎて、独立できてしまうほどなの」


「その悪魔族は、今何人いるんですか?」


「今のところ、悪魔族ではないかと言われているのは、3人よ。大死霊たいしりょうハデスの王、ディア・ガル・ア・ダリウスヘルと魔法国モーメントのミシェル・サダエラ

そして、獣魔兵国アプルの王、ブタンよ」


ペルマゼ獣王国に行った時、ハデスの名前が出ていたのを源は、思い出した

アンデッド系の軍団との戦いで、ペルマゼ獣王国の王が死んだと言っていたが、その裏にハデスが関わっていたという話だった。

アンデッド、魔法使い?そして、獣魔?という悪側のイメージという共通点はあるが、どうも、同じみかけというわけではないのが、悪魔族なのだろうと源は考えた。モンスターの中にも色々種類があるように、悪魔族の中にも種類があるのだろう。


「個人の能力が強すぎて、それらは帝国から独立する国を作るほどだと言うのですね」


「そうよ。そして、その悪魔族たちと同等だとさえ言われている戦士が、ドラゴネル帝国にいるのよ。あなたも強いけれど、この悪魔族レベルと戦おうなんて思ったらダメよ」


「それほど強いのですか?」


「わたしは実際には、誰もみたことがないけれど、悪魔族だと言われているものたちとは単独では戦わないのは、常識よ」


龍王の龍人族と同じレベルの悪魔族か・・・確かに勝てるとは思えない・・・。悪魔族の存在さえ知らなかったのに、戦う以前の問題だ。


「その帝国の戦士とは何者なんですか?」


「ドラゴネル帝国最強戦士長サムエル・ダニョル・クライシス。彼は、人間なのに、悪魔族に匹敵する強さを持っていると言われていて、帝国では、彼を勇者だと言っている一部の者もいるわ

彼は、帝国皇帝を常に守るために、帝国から離れないとはいわれているけれど、それは、他の悪魔族を警戒しているからなの

悪魔族の者たちが来た時に、戦えるのは、彼だけだとさえ言われているわ」


「では、帝国と何かあったとしても、ここには、来ないのでしょうね。ボルフ王国には、悪魔族はいないのでしょうから」


「そうね。だから、ボルフ王国と帝国の関係がこじれても最強戦士長サムエル・ダニョル・クライシスも出てこない可能性が高い。でも、レジェンドには、セルフィ。あなたがいるわ」


「俺・・・ですか?俺は有名じゃないですし、俺のことを帝国が知っているとは思えないですけど」


「何を言ってるのよ。ボルフ王国では、あなたの話でもちきりよ?あなたのしたことで知らない人なんていないというほど、ボルフ王国では、噂が広がっているわ

そこまで噂になっているあなたのことが、帝国の密偵が情報を流していないわけがないでしょ」


帝国のスパイのような情報を流す人間が、ボルフ王国には、政治家、貴族、戦士、冒険者アドベンチャー、商人、レジシタンスなどに多くいるだろう。そして、ボルフ王国への俺の脅しの出来事も、目にしたかもしれない。確かに、知っていて当たり前だということか・・・


「相手が、悪魔族の国なら、あなたも人間だと思われているから出て来ないかもしれないけど、帝国最強戦士は、人間よ。自分と同じような者がいるかもしれないと思って、戦いに参加してくる可能性はあるわ」


「サムエル・ダニョル・クライシスの他の情報は、何かありませんか?」


「ごめんなさい。わたしが知っていることは、これぐらいよ。なぜ彼がそれほど強いのか、どんな戦い方をするのか、まったく知らないわ」


ウサイン・ボルトがジャマイカの100m走の選手だということは、世界中の人が知っていても、ウサイン・ボルトの好きな食べ物や生い立ちまで知っている人など少ない。

ましてやこの世界はテレビもなければ、ラジオもないのだから、確かに、情報不足になるのは、当然だ。そこまで読み切ったリタ・パームが見事だというしかない。レジェンドの者たちは、もしかしたら、俺ならその戦士にも勝てると思い込んでいる可能性さえある。


源はこの世界に来てからの経験で、考え、想定してみた。


この世界に来て、まったく手に負えないという相手とはまだ出会ったことが無い。サイクロプスもアイスドラゴンも倒すことができた。

俺は、今は、リトシスも毎日のように使用して、熟練度も上がっている。だから、勝てないかもしれないが、負けることもないのではないかと思える。リトシスは、外部の関渉を受け付けない。あのロックのパワーでも、衝撃を感じなかったからだ。



源は、この後、ふたりを連れて、レジェンドへと向かった。


そして、主要人物14人で会議をして、念入りに計画を建てた。

これは外交だが、ボルフ王国とレジェンドとの戦いだ。間違えれば、未来に何が起こるのか分からない。そして、成功すれば、今のような貧民地の悪い状況を改善できるかもしれないのだ。

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