77章 龍王遺跡の主
龍王の意思は、源が望んだように、聖書の66巻である可能性が高くなった。ユダ村の守っていた書簡は、モーセ五書の中の創世記・出エジプト記・レビ記・民数記だった。
しかも、愛の情報の聖書と比べても一文字の間違いもなく、龍王は子孫たちに、聖書を書き残していたのだ。龍王がもし人間だったのなら、驚異的な記憶力だ。
そして、龍王という後ろ楯を持ちながら、聖書を完成させることができたのなら、この仮想世界にも光りはある。
そして、ユダ村は、龍王の意思の書簡だけではなく、遺跡も残していたと聞いた。
源は、もしや・・・と思った。
シャルロイ・ジャジャ司祭に頼んで、その神殿に向かった。もちろん、ロックもリリスも一緒に来てもらう。
赤い山の頂上から下降していき、大きな岩が並ぶ場所があり、そこに、大きな洞穴があった。洞穴の入り口には、松明が用意されていて、シャルロイ・ジャジャ司祭が、火をつけると洞窟内部を照らした。
まだ、太陽の光は暗くなってはいなかったが、洞窟内部にまでは光は届いていなかった。人工物的なものはなく、ただの洞窟にしかみえない。何も知らない人が偶然ここを発見したとしても、まさかここが龍王の遺跡だとは思わないだろう。
思った以上に洞窟内部は広く、50mほど歩いたのか、そこで、シャルロイ・ジャジャ司祭が、足を止めた。
「龍王の遺跡と言われているのは、ここまでなのですが、特に目立ったものはないのです」
源は、手から小さい炎を出して、周りを確かめるが、思ったような文字は無かった。狼王の遺跡にあったような英語の聖書の箇所があると思っていたのだ。
「この洞窟には、太古の文字のようなものはないでしょうか?」
「太古の文字ですか・・・わたしの記憶には、そういったものは無かったと思いますが・・・」
源はみんなに言った。
「50mぐらいの道だから、どこか壁などに、文字が書かれているかもしれないから、みんな探してみてくれ」
みんなで改めて、壁や上に文字のようなものがあるのか、調べたが、やはりどこにも文字らしきものはなかった。
源はどういうことだろうかと考えた。シャルロイ・ジャジャ司祭が、間違っているとは思えない。ウオウルフの洞窟も、文字以外は何の変哲もない洞窟で、それを守り続けてきたからだ。
源は、質問した。
「司祭様。この洞窟は、この状態のままだったのでしょうか。以前は、何かが置かれていたなどありませんか?」
シャルロイ・ジャジャ司祭は、そういうものがあったのかを考えた。
「この中に物があったなどのことは、聞いたことがありませんね」
「何か変ってしまったものとかでもかまいません」
「変わってしまったことですか・・・そういえば、長らくこの洞窟は、入ることも出来なかったと聞いたことはあります」
「入れなかったとは、どういうことでしょうか?」
「入口にある大きな岩が、穴の前にあって、それを移動させることさえも、禁止されていた時代があったのですが、昔、移動させた司祭や村人たちがいたと思われます。移動させて中に入ったとだけ聞いたことありますから。」
イエスキリストは、死んだあと三日間、岩の中に葬られ、その入り口には、誰も入らせないように、見張りのローマ兵を置き、さらに大きな岩の扉を置いていたと聖書に書かれている。
源は、その動かしたという岩をリトシスで簡単に浮かした。
それをみて、司祭様が驚く。
「うお!」
源は、その大きな岩をゆっくりとまわしながら調べると、入り口からみて、内側に英語が書かれていた。
『Jesus said to her,"I am the resurrection and the life.He who believes in me will live,even though he dies;』
と書かれていた。
源は思った。
ヨハネの福音書11章25節か。これもクリスチャンならこどもの頃から暗唱で覚える有名な箇所だ。
そして、御言葉を口にした。
「イエスは言われた。わたしは、よみがえりです。いのちです。わたしを信じる者は、死んでも生きるのです」
すると、ズズズという音がして、洞窟内のすぐ下に、深い階段が現れた。
司祭様はまた驚いた。
「うお!」
「これはユダ村と同じで、ウオウルフの秘密のことなのですが、ウオウルフは長年、狼王の洞窟を守り続けていたのです。その洞窟にも、この文字が書かれていて、それを言葉にして口にするとこのように、道が現れたのです」
シャルロイ・ジャジャ司祭は、納得して頷いた。
「だから、文字を探されていたのですね・・・分かりました」
リリスも、何も無かったところから階段が出てくるのをみて、驚いた。
タークが、「グルルルル」と唸り始めた。
「セルフィ。中に何かいるわ」
「何?」
『源。確かに階段の奥から何かがいる空気の揺れが観測されます。まだ遠くて、どのような生き物かは分かりません』
「リリスが言うように、何かいるぞ」と源も言った。
危険なものなのか?でも、狼王の時は、モンスターなどはまったく存在していなかった。龍王の遺跡には、危険なものが配置されているのか・・・。
狼王は、そうでも、龍王は、やはり何か害するものを残しているのかもしれない。
謎すぎるぜ・・・龍王・・・。
「司祭様。危険かもしれないので、一旦ユダ村に戻ってもらえますか?わたしたちが、確認をして、安全だと思ったら、すぐに迎えにいきます。危険で、わたしたちでも無理そうなら、ここは閉めて、入らないようにしたいと思います」
「分かりました。どうかご無事で」
シャルロイ・ジャジャ司祭は、そこから、速足で、ユタ村に帰って行った。源たちの邪魔をしたくないという想いなのだろう。
『愛。情報が分かり次第。何でもいいから教えてくれ』
『解りました。源。そして、中からは冷たい冷気が漂っています』
冷気か・・・。この遺跡の特長なのか、それとも中にいる何かが冷気を作り出しているのかだな
源は、リリスとロックに注意を促す。
「遺跡の中は、冷気が漂っているようだ。寒さに注意してくれ。マナで温めることも出来るけど、それで先に気づかれてもおもしろくない」
「わかったわ」
リリスは、何がいるのか分からない狭い場所に、フィーネルを連れて行くのは、どうかと思った。この階段の大きさから考えると内部は、それほど広くはないはずだ。
フィーネル2体に指示を出して、ここで待機するようにさせた。
リリスは大型犬タークとビックボアを連れて、源とロックのあとについて入って行く。
階段の角度は深く、かなり下まで続いていた。階段が現れてからは、壁が光り出しているので、松明なども必要はない。
だが、奥に入れば入るほど、寒さが増していっているように感じる。
100mも下に降りて行くと、さらにその通路は、長く前へと続いていた。
「かなり奥までは、生き物の気配はないようだ」と源は、情報を流すとふたりも頷く。
200mほど進み、広場へと続く入口が見えてきた。
『源。とても大きな生き物が、遺跡内部にいるようです。24mにもなるほどの大きさです。そして、この形は、ドラゴンだと思われます』
『ドラゴンだと・・・こんなに狭い通路の先にどうして、そんな大きな巨大なドラゴンが、いるんだ・・・』
『解りません。源』
同じように、タークもドラゴンに気づいたようだったが、タークは脅え始めていた。
リリスは、源たちに言う。
「タークがこんなに脅えるなんてはじめてだわ。この先に行くのは危険かもしれないわよ」
「ああ。どうやら、向こうにいるのは、ドラゴンのようだ」
「ドラゴン!?ドラゴンなんて生き物は、400年以上も見た人がいないという空想上の存在だとも言われているような生き物よ。遺跡深くにいるとか、いないとかそれぐらいのレベルの存在よ!」
「行くのは、まずいか・・・。ふたりは、ここで待っててくれ、俺が少し様子を伺いに行ってみる」
ロックは答えた。
「そんなわけにいくか。源がいくなら俺も行く」
「もちろん、わたしも冒険者として、あなたを見捨てることなんて出来ないわ」
「わかった。でも、本当に危険だったら、俺はすぐに君たちを連れて、外に一気に逃げるつもりだから、それも想定に入れておいてくれ」
ふたりは、うなずいて了解した。
「ドラゴンの大きさは、24mある。冷気を操るドラゴンのようだ」
「アイスドラゴンね。本当にいたのね・・・24mもあるのなら、間違いなく普通にはいないモンスターだわ」
「どういうモンスターだ?」
「口から炎ではなく、冷気の息を吐いて、まわりを氷付かせると言われているわ。でも、実際は何をしてくるのかは、わからない」
さらに50mほど進み、入り口へと辿り着いた。源は、声を殺して、手探りだけで指示をする。そして、ひとりで、少し様子を見に行った。
入口の奥は、高さ80mはあるかと思える大きな広場になっていた。物凄く広い場所で、氷が張り巡らされている。青い鱗のアイスドラゴンが、息をするたびに、床の氷の厚さが、増えている。息をするだけで凍らせるのだから、意識してブレスをしかけてきたら、どうなるのか、想像できる。
こちらには、気づいてはいない。
源は、ロックたちのところにゆっくりと戻って、その状況を話した。
「アイスドラゴンによって床は氷漬けにされている。俺はリトシスで浮くことができるから、氷だろうと大丈夫だけど、ロックやリリス、そして、動物たちは、そうは行かない。ここは、俺に任せてくれないか?」
ロックは、提案した。
「なら、俺たちの足元を滑らないようにしてくれ。そうすれば、俺たちも何か役に立てるかもしれない」
「そういう手もあるか・・・でも、無理はしないでくれよ」と源は言うと、みんなの鎧の足や手に針のような突起物を作り、氷でも踏ん張れるように作り変えた。
リリスは、その間に、フィーネル2体を呼び寄せた。内部が80mもの広い空間なら、氷の床では、タークたちよりもフィーネルのほうが役に立つと思ったからだった。
「よし、じゃーまずは、俺が様子を見に行くから、みんなは、無理をしないで、待っててくれ。危ないと思ったら、俺もすぐに逃げかえる」
「わかった」
『愛。頼むぞ。相手は大きいだけに動きは、早くないはずだ。何をしてくるのかを想定して、安全な戦いかたを模索してくれ』
『解りました。源』
源は、集中した。
アイスドラゴンの息のタイミング。そして、首の動き、あらゆるものを把握しながら、感じ取り、アイスドラゴンの視界から、入口が消えたのを把握して、素早く、内部へと入っていった。
源の感覚が外部接続として、情報となり、その情報を愛から源へと返すことで、正確な情報を源も得ることが出来る。
源は、リトシスによって浮きながら、移動する。
リトシスは、空気抵抗さえもなく、動けるので、空気の流れによる気配を消しながら移動できる。以前、一角うさぎを捕らえた時も、気づかれることなく捕まえられたようにだ。
スーっと素早く動き、アイスドラゴンの視界に入らないように動いて、気づかれないようにしたが、アイスドラゴンは、首を向けて、もの凄い雄たけびをあげてきた。
「ゴアアアバアアア!!」
その雄たけびとともに、空気が一瞬で氷付き、大きな壁の氷が源とアイスドラゴンの間に作り出された。それだけではなく、その氷の壁は、源のほうに分厚くなりながら近づいていく。
まずいと思い、源は、移動して、その壁から逃れる。
『源。うしろです』
すると、後ろの氷が形をかえて、まるでロープの手のように、源を捕らえようとしてきた。
こんな攻撃もできるのか!と源は驚いた。
源は、クルっと回転させて、グラファイソードを振りぬき、氷のロープを粉砕する。
グラファイソードに付いた氷のせいか、剣が氷はじめた。それだけではなく、源の足や鎧まで氷はじめた。動かなかったせいかと思い、移動するが、関係なく、体が凍って行く。
『源。アイスドラゴンは、相手の熱にも感知できるようです』
源の体が氷始めたのをみてロックが叫ぶ。
「源!」という声をあげて、ロックが、広場に入って来た。
「バッ」と源は声を出そうとするが、一瞬で、氷付いて、源の周りは、丸い球体の氷で埋め尽くされてしまった。
ロックは、足をズガズガと氷に突起を差し込みながら、まっすぐアイスドラゴンに向かっていく。ロックは2mもある巨大なモンスターだが、アイスドラゴンは、その10倍以上もある24m級のモンスターだ。それでも背中のカーボンアックスを両手に持って、「はじめー!!」と言いながら走り出した。
アイスドラゴンは、まるで笑うかのように、「グワグワグワ」と声を出したかと思うと、ロックの足もすぐに氷ついてしまった。
ロックは、それでも、足を動かし、氷を割り前に進もうとするが、またその足は凍り付く。
ロックは、その場に動けなくなると、カーボンアックスを一本、おもいっきり投げ込んだ。
カーボンアックスは、グルグルと回転しながら、アイスドラゴンに飛んでいったが、途中で、空気が氷の壁になり、カーボンアックスをその壁でアイスドラゴンは、止めてしまった。
ロックは、左手のカーボンアックスをさらに投げようとするが、その前に全身が凍ってしまった。
だが、それでもロックは動こうとして、氷には、ヒビが入る。
リリスは、どうすればいいのか、分からなかった。あのロックでさえも、一瞬で氷つかせるアイスドラゴンの攻撃を自分の動物たちでどうにかできるとは思えなかった。タークやビックボアは、氷の上を進まなければ、相手に攻撃さえもできない。
届いたとしても、あのアイスドラゴンの分厚い鱗と巨体にタークどろこか、ビックボアの攻撃が通じるとは思えなかった。
ふたりを外につれて、逃がすことさえ出来ないと思った。
考えている間に、アイスドラゴンは、ドガッドガッと動き出し、セルフィへと近づいていく。セルフィは、まだ、空中で氷づけにされている状態で、球体の氷が宙に浮いているようだった。
このまま攻撃されたらセルフィは、ひとたまりもないとリリスは、思うと、フィーネルを1体、中にいれて、撹乱させ、時間稼ぎをはじめた。
フィーネルは素早く、冷気が充満している広場に入り込み、宙を飛び回ったが、アイスドラゴンは、相手しようとはせず、そのままセルフィに向かっていく。
リリスは、集中して、アイスドラゴンの横っ腹にボウガンを打ち込ませた。
硬い鱗に、グラファイトの矢じりが食い込んだ。グラファイトはダイヤモンド並みの硬さを誇るので、アイスドラゴンの体にも突き刺さる。
アイスドラゴンは、セルフィではなく、フィーネルに意識を移す。
「グアアアアア!」とアイスドラゴンが、雄たけびをあげるが、フィーネルは、広場を飛び回りながら、矢を放っていく。
巨大な動物にどれだけ矢を打ち込んだとしても、倒せるわけもないが、これぐらいしかリリスは、攻撃が考え付かない。
アイスドラゴンは、フィーネルを捕らえようと巨大な手を振りぬくが、フィーネルは、みごとに躱して、飛び回る。
そして、リリスは、もう一体のフィーネルも参加させて、さらに撹乱させようと広場を飛び回らせる。
その間に、ビックボアを突進させた。その突進したのは、アイスドラゴンにではなく、ロックにだった。ロックの周りの氷を一気に粉砕させると、中からロックが出てきて、ロックは、膝をついた。
ビックボアは、ロックの腕にガンガンと頭をぶつけると、ロックは、ビックボアにしがみついたので、ビックボアは、素早く、入り口に、ロックを連れて行った。氷の上を滑らせるように、重いロックを移動させたのだ。
その間も、フィーネルが、アイスドラゴンを撹乱させている。
ロックは、地面にいたので、ビックボアの威力で氷を砕けたが、源の氷は宙に浮いている状態なので、助けようがない。
アイスドラゴンは、手や体では捕らえられないと思ったのか、次第に、氷の壁の厚さを広げていき、フィーネルが飛べるスペースを削って行く。
このままでは、フィーネルも氷にされてしまうのは、時間の問題だ。
ロックは、岩だったから氷を割っても大丈夫だったが、セルフィは、体まで凍っていたとしたら、氷を割るのも危険かもしれない。
フィーネルが飛べるスペースさえも無くなりはじめて、リリスは、もうロックを連れて、逃げるしかないと思った時、アイスドラゴンが、さらに雄たけびをあげて、残っていたスペースを一気に氷に変えようとしてきた。
もう・・・フィーネルも逃げられない!そうリリスが思った瞬間、広場に、燃え盛る炎が、突然現れた。
氷付いていた広場は、一気にその熱で、溶けて行き、地面も、氷が解けて、床の岩がみえはじめた。
源が、炎弾を発動させたのだ。
「だから、観ておいてっていったじゃないか」
平然とした口調で話すセルフィにリリスは、叫んだ。
「驚かせないでよ!!もう無理だと思ったわ!」
「俺もマナが氷守だけだったら、倒せなかったかもしれないな」とまた平然とした顔で言う。
眼の前にアイスドラゴンがいるのに、なぜかセルフィは、落ち着いた様子だった。
源は、ゆっくりと床に降りると、アイスドラゴンに話しかける。
「俺も君と同じアイス系のマナを持ってるんだ。一瞬で空気を凍らせる能力さ。それを持っているということは、俺は、アイス抵抗が高いってことなんだ。君が俺を凍らせてくれて気づかせてくれたよ」
「グアアアア」とアイスドラゴンは、さらに雄たけびをあげて、源を凍らせようとしてくるが、源は、右手の炎弾をかざして、すぐにその氷を解かす。
「そして、何と言っても、この炎弾さ。これさえあれば、この広場はもう凍ることはないよ」
リリスは、広場の氷が水になり、融けたので、タークとビックボアも参加させて、広場に入らせた。セルフィのマナのおかげで、床も氷ではなくなり、いつもの攻撃を敵に与えることができる。
アイスドラゴンが、セルフィに注意を向けている間に、大型犬タークは、素早く忍び寄り、鎧についてあるカーボン製のウィングソードをアイスドラゴンの足に突き刺して、そのまま走りぬいた。
ドラゴンの鱗は、まるで鉄のような硬さだといわれているが、カーボン製の武器は、鉄の20倍の強度があるダイヤモンド級だ。アイスドラゴンの足を大きく切裂いた。
「グアアアア」とアイスドラゴンは、叫ぶ。
源はまた話しかける。
「動物たちが使っている装備は、カーボン製の武具だが、これは軽くて強度があるだけじゃないんだ。カーボンナノチューブの特長としては、熱伝導力が優れているという特徴もある。」
そう源は言うと、炎弾の欠片をわざとタークのウィングソードに当てると、タークのウィングソードが赤く熱を帯び始めた。
そして、タークは、そのウィングソードでまたアイスドラゴンを攻撃すると、さっきよりもスムーズにその強度なアイスドラゴンの体を切裂いた。
「グアアアア!」
その後、ビックボアもドラゴンに突進して、攻撃を与える。サイのような鎧につけられた角は、アイスドラゴンの体に突き刺さる。
アイスドラゴンは、ビックボアを掴むと、もう片方の手を振り上げた。
ロックがカーボンアックスで、その腕を攻撃すると、ガゴンという強烈な音がして、大きなアイスドラゴンの腕を弾き飛ばした。そして、ビックボアを掴んでいるアイスドラゴンの腕も攻撃して、ビックボアを解放する。
ロックは
「さっきは助けてくれてありがとうな。ビックボア」
と声をかけた。
広場に氷の壁が無くなった空間にフィーネルは自由自在に飛び回りながら、アイスドラゴンにグラファイトの矢を放ち続ける。体に向けてもあまり効果はないが、顔を狙えば、アイスドラゴンも嫌がる。
源は、ロックの床に落ちていたカーボン製のカーボンアックスを手に取り、炎弾の熱をカーボンアックスに注ぎ込みはじめると、カーボンアックスも、赤く熱を帯び始めた。
アイスドラゴンは、巨大な牙を源に向けて襲い掛かるが、源は、スーっと移動して、簡単に、その攻撃を躱した。精密な情報伝達による空間認識は予知のごとく先を見通す源と愛だけの能力を持つ。
源が、ロックの武器のカーボンアックスを振り上げると、アイスドラゴンは、凄い声を出しながらブレスを吐き出し、分厚い氷の壁を作り出した。
源は、わざと、それにもおかないなしに、おもいっきりファイア系の効果を帯びたカーボンアックスを振り下ろすと、氷の壁は蒸気を発して、粉砕した。
アイスドラゴンは、「クワクワクワ」と小さい声をあげたが、源は、アイスドラゴンの首を狙って、カーボンアックスを振りぬこうとした。
大きな声で、リリスは止めた。
「待って!!セルフィ!」
その声に反応して、源は攻撃をピタっと止めた。
「どうしたんだ?リリス」
「その子。さっきケイト・ピューマ・モーゼスの名前を口にしたわ」
「ケイト?」
「さっきユダ村でわたしがシャルロイ・ジャジャ司祭と話していた人物の名前よ。龍王騎士団のひとり、ケイト・ピューマ・モーゼスよ」
源は、アイスドラゴンに話しかけた。
「お前何か知ってるのか?」
アイスドラゴンは、首を振って頷くと「ガオウウオオウ」と長く鳴き続ける。
まったく何を言っているのか分からない。
「そのアイスドラゴンの名前は、フレーというらしいわ。龍王の加勢をしていたそうよ。そして、フレーは、ケイト・ピューマ・モーゼスから龍王に贈られたモンスターだということよ」
「そうか。だから龍王の遺跡に、お前がいたんだな」
リリスは、鳴くアイスドラゴンの言葉を通訳していく。
「この遺跡を守るように、龍王に頼まれていたらしいわ」
「ということは・・・1000年ここにいたのか?」
「そうらしいわね。龍王と一緒にいたときは、とても小さかったみたいよ」
だから、狭い通路の先のこの広場に来れたわけだ・・・。と源は思った。
「でも、1000年もここでどうやって生きていたんだ?」
「アイスドラゴンは、空気をエネルギーにして、アイスを食べて生きていけるみたいね」
「燃費がよろしいことで・・・そうか、俺たちは、お前の敵じゃない。俺たちは、龍王の意思を大切に守ろうとしている者たちなんだ」
「お前たちには勝てないから、言うことを聞くしかないと言っているわ」
「そうか。解ってくれたのなら、お前に危害を加えることはないよ。ただ、お前も外に出たくないか?」
「ガウグアアアグア」
「出られるのなら、出たいそうよ」
「たぶん、この広場の一番上から地上までは、20mほどしか距離がないはずだ。リトシスで穴をあければ、外に出すことができるだろう」
アイスドラゴンは、その巨体を揺らし始めた。
「あーでも、フレーは、強すぎるから自由にはさせておけない。リリスに従うという条件なら外にだしてやるよ」
「え!?いいの?龍王のドラゴンだから、セルフィに従うようにすればいいのに・・・」
源は、少し悩んだ。
「うーん。だってほら、俺は会話もできないだろ。リリスなら、ちゃんと会話できるし、動物やモンスターの理解もあるから君のほうが役に立てるだろうからね」
リリスは、フレーに語りかけた。
「じゃーフレー。これからはわたしと一緒に暮らすのよ。よろしくね」
「グアアアワア」と鳴く。どうやら、喜んでいるようだと源は思った。女の子のほうが好きそうだ。
リリスは、ナイフを取り出して、自分の手を切った。
源は驚いて聞いた
「何してるんだ!?」
「モンスターとの契約よ。わたしの血を使って、モンスターや動物がわたしに敬意を表したものには、わたしの意識が強く反映させられるようになるの。契約をしなくても、簡単なことなら操れるけれど、より交信を強めようとするのなら、契約をする必要があるのよ」
そういって、リリスは、アイスドラゴンの前に血のついた手をかざすと、その血が、見た事もない文字が浮かび上がり、アイスドラゴンの体の中にまるで入って行くように消えて行った。封印の珠を解いたようなことの逆のような作用があるのかと源は思った。
『愛。他に俺たちにとって脅威になるような生き物は、遺跡内にいるか?』
『いません。源』
「よし、この遺跡の内部には、他の脅威は探知できない。これで安全になったようだから、俺は司祭様を呼んでくるよ。遺跡の探索は、司祭様が来るまでは待っててくれ。」
「分かった」とロックとリリスは、返事をした。
リリスは、源がシャルロイ・ジャジャ司祭を呼びに行っている間に、アイスドラゴンの傷にリタ商店の薬をつけてあげた。アイスドラゴンの巨体からすれば、タークのウィングソードは、カッターで斬られたようなものだが、それでも優しく治してあげた。