表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/269

74章 3つの村

「司祭様、わたしに会ってほしいとは、どういう者ですか?」


「セルフィ様。わたしは、あなたと出会い龍王の意思を伝えることができましたのじゃ

1000年間、龍王の意思をセルフィ様に伝えるためにわたしたちは、守り抜いてきたとも言えますのじゃ

さきほどの5つの地区の村人たちの大騒ぎをした喜びの比ではありません。それほど、深い想いが代々伝えられておるのですじゃ」


源は、まだ自分が龍王のいうような存在なのかは確信が持てなかった。だが、司祭様たちの気持ちを考えれば、すべて否定することもできないでいた。


「わたしたちは、仕事の1つをやり遂げたとも言えるでしょう。ですが、龍王の意思は、まだ存在し、それらを長らく守り続けているのですじゃ」


「ロー村のように龍王の意思である書物を持っている場所を司祭様は何カ所知っておられるのですか?」


「はい。わたしが知っているのは3つですじゃ。そして、セルフィ様に会ってほしいというのは、その3つの村の司祭たちのことですじゃ」


「そうですね。わたしも、いつかは伺いに行きたいとは思っていました」


「本来ならセルフィ様に会いに、向こうから書物を持って来るべきだとは思いますが、彼らはわたしたちと同じほどの能力しか有しておりませんから、道中の旅で、書物を守り切れる保証もありませぬ。ですから、セルフィ様から行かれることが一番安全だと思われるのですじゃ」


「そうですね。書物もそうですが、みなさんの安全を考えれば、わたしが向かったほうがいいでしょう。それに他の司祭様たちも、わたしが龍王のいう者だとは思われていないのではないでしょうか?」


「確かに彼らも自分の目で見なければ本当には、確信は持てないでしょうな。ですが、わたしが天使族を探す旅をしていたことを知っているだけに、わたしが認めたセルフィ様とは会いたいということを言ってきたのですじゃ

1000年待ち望んできたその存在に会えるかもしれないという想いは強いはずですじゃ

この想いを分かっていただけますか?」


確かに1000年は長いと思わされた。それをモンスターもいるようなこの世界で、必死に守り抜いてきたと考えたら、並大抵の想いではないのだろう

ニーナもそうだったが、ロー村のひとたちが俺が天使族だということを知った時、泣いていた

それほど、伝承に対する熱い想いがあるのだ。辛い事や悲しいことを乗り越えながら、口伝を伝え続けてきたのだ。


「解りました。行ってみたいと思います。ですが、龍王の意思の書物は、いくつあるのでしょうか」


「書物は、全部で66あると言われていますが、わたしが旅をして見せてもらったものは、15冊ですじゃ」


「司祭様の知っている3つに15冊あるということでしょうか?」


「いえ、違いますじゃ。多くて1つの村に4つの書物が守られていますが、ほとんどが1つや2つですじゃ」


源は、少し考え込んで質問する。

「えと・・・司祭様が今ご存知の村は3つなのに、なぜ15冊も読むことが司祭様は出来たのでしょうか?」


「はい。書物を守る村は、世界中に21あり、ロー村のように移動する村もあるからですじゃ

司祭たちは、それぞれ3つの村とやり取りが出来るようになっておりますのじゃ

3つしか連絡が出来ないようにされている理由は、悪用しようとする者たちが、すぐに場所を突き止められないようにするためで、わたしの知っておる村は、またわたしの知らない村2つと連絡ができるようになっておるのですじゃ

信用できるという人物にだけ、他の村の情報を教えられるというわけですじゃ」


ロー村のような龍王の意思を守る村が21個あり、それぞれが3つの村の場所を知っていて、三角形のようなネットワークを作っているということだ。



「司祭様がご存知の3つの村のことを教えてくださいますか?」


「はいですじゃ。1つは、このシンダラード森林から西の方角、約4000kmにあるペルマゼ獣王国の南東400km地点にあるユダ村ですじゃ。ここには、4つの書物があり、保管されております


そして、もう1つは、シンダラード森林から東の方角、約3000kmにあるシュモウ村という村ですじゃ。ここには、2つの書物があり、この村は、ロー村と同じように、移動する村になっておりまする


そして、最後の1つが、シンダラード森林から南の方角、約9000kmにあるドラゴネル帝国の首都ドラゴからみて、東北3000kmにあるヨシュア村ですじゃ。ここには、2つの書物があり、この村も移動する村ですじゃ」


ユダ村、シュモウ村、そして、ヨシュア村と村の名前が挙がっていくが、どれも聖書の出てくる人物の名前だ

ユダは、色々なユダが聖書には書かれているが、イスラエル人の12部族のうちの1つが、ユダ族で、そのユダ族からあのダビデ王が生まれた

そして、シュモウとは、アブラハムの孫のヤコブのヘブライ語読みだ

ヨシュアは、モーセの弟子であり後継者の名前だ。

源は、最初にロー村という名前を聞いた時、聖書の律法のローと連想したが、実はそれは当たっていたのだろうと思った。


「司祭様からみて、最初に行くべきだと思う村は、どの村になりますか?」


司祭は、考える。


「そうですなー。やはり、最初に行くべき村は、ユダ村だと思いまする」


「それはなぜですか?」


「このユダ村が守っておる書物は、この世の最初の出来事が書かれておるからですじゃ

理解しようと思うのなら、最初の書簡から読まれるほうがよろしいのではないでしょうか」


「そうですね。そのユダ村には、さらに4つも書簡があるらしいですから、やはりユダ村がいいのでしょうね」


「はい。わたしはその書簡を全部読まさせてもらい、またユダ村や残り2つの村の伝承なども聞いておるので、それぞれの村の情報も知っておるのですが、その内容は、それぞれの村の司祭からセルフィ様が聞かれるのがよろしいでしょうな」


「分かりました。それも楽しみということにしておきます」


司祭様は、その言葉に笑顔でうなずいた。


1000年間、その場所で固定されて存在し続けたユダ村とは、どういった村なのかも知りたいと源は思った。だが、そのユダ村の目印になると思われるペルマゼ獣王国とはどういった国なのだろうと思った。


「西にあるペルマゼ獣王国とは、どういう国なのでしょうか」


「ペルマゼ獣王国は、知的モンスターである獣人が治める国ですじゃ

わたしが旅をした時は、マゼラン・パテ・アガという獣王が統治しておりましたが、今は息子のゼブル・パテ・アガが国を治めておるはずですじゃ

ペルマゼ獣王国は、誇りを持って戦いに明け暮れるような国で、小さい頃から戦うことを戦士たちは義務づけられておりますのじゃ

身体能力を売りにした国ですじゃ。この国は、帝国に加盟はしておりますが、何度もドラゴネル帝国に戦いを挑んでは負けている国の1つですじゃ」


モンスターが中心になって国を作っている国か。どういった価値観があるのか、みてみたい気がした。

この地域は、モンスターが中心ということだから、リリス・パームも一緒に来てもらえるか聞くほうがいいかと源は思った。そして、そのペルマゼ獣王国から南東400km地点にあるのがユダ村か。


「ペルマゼ獣王国から南東へ移動していけば、ユダ村は、見つかるものなのでしょうか?」


「ユダ村は、とても厳しい幻滅マインドレスの力が働いておりますのじゃ

固定されて存続しておるゆえに、見つけにくい工夫がされております

ですから、目印として、ユダ村の近くにある赤い色の山がありますので、その頂上で、人を待機させておくということですじゃ」


「そうですか。赤い色の山ですね。行ってみればその山は発見できるということですね?」


「他の山の色とまったく違う色の山なので、目印としては解りやすいと思いますのじゃ」


今回は、リリスにアドベンチャーとして、依頼して、俺の護衛を頼もうと考えた。本当ならロックにも付いてきてほしいところだが、レジェンドの守りも必要なので連れて行くことはできないだろう。


「分かりました。司祭様、このレジェンドの守りは、ウオガウとロックにまかせて、私は今日、ペルマゼ獣王国に向かおうと思います」


「では、わたしも、そのようにユダ村への手紙をこれから書きますので、その手紙を持って向かってくださいですじゃ

その手紙をみせれば、向こうもセルフィ様だということを理解するはずですじゃ」



源は、司祭様の手紙が書き終わるまで、そのいきさつをロックとウオガウ、そして、ボルア・ニールセン、リリス・パームに報告した。するとロックは、源に頼んできた。


「セルフィ。俺もこの世界の知識を深めたいんだ。だから、俺も一緒に行くことはできないか?」


「うーん。そうだよね・・・。ロックも外に出て知識を持って生きていきたいよね・・・俺もロックはロー村の書簡を一緒に聞いた人だから本当は来てほしいんだけど・・・」


ロックもレジェンドの守りは大切だと思っているだけに頼んできたのだと源は思うと断り切れなくなる。


リリスが言う。


「レジェンドに何かあれば、連絡がすぐにセルフィに行くようにすればいいんだよね?」


源はうなずきながら答える。


「そうだね。そういう手段があれば、ロックも一緒に来てもらえるんだけど、いい方法があるの?」


「レジェンドの人に頼んで、何かあった時には、わたしの鷲に手紙をいれてよこしてもらえば、数日で、その手紙は、届くと思うわ」


「おー。そんなことも出来るんだ。もし、攻撃されたのなら、その手紙を俺が知って戻ったとしても、二日ほどで戻ってこれることになる。ウオガウとボルア・ニールセンは、それでもいいと思うかい?」


「このレジェンドの守りなら、数日は、持ちこたえられるとわたしは思います。それにウオウルフ隊もいるので、守りどころか攻撃で追い返すことも出来るかもしれません

セルフィ様と出会う前でも貧弱な壁で守りつづけてきましたしね

だから、大丈夫だとわたしは思います」


とボルア・ニールセンは、言ってくれた。


ウオガウも、同じく賛成してくれたので、ロックとリリスと源で、ペルマゼ獣王国に向かうことにした。ロックはとても喜んで、誰よりも先に、装備をしにロックハウスに走って行った。


「リリスに聞きたいんだけど、君を冒険者アドベンチャーとして、雇うのは、どれぐらいのお金でやってくれるものなのかな?」


リリスは答える。


「お金なんていらないわ!セルフィには、多くのものをもらっているから、とんでもない」


「いや、冒険者アドベンチャーというものが、どれぐらいの相場なのかを知りたいし、そこは、ちゃんと仕事として割り切って、報酬を出そうと思ってるよ」


リリスは、考えた。護衛として、数日間、セルフィとロックを守るという仕事内容を今までの仕事と比べて、計算してみる。


「報酬の値段は、その時によってバラバラだから、何とも言えないけれど、今回の仕事内容なら銀貨30枚ってところかしら」


「銀貨30枚あれば、アドベンチャーひとりを数日間、雇えるってことか」


「仕事内容によるのよ。命の危険があればあるほど、その報酬は、高くなるわ。今回は、護衛だけということだから、それぐらいってことね」


「なるほどね」


源は、狼王の遺跡の宝では、相場が変わってしまうと思い、リタ商店の鎧の6割の報酬で得ていた銀貨から30枚を袋にいれて、リリスに先払いで渡した。


「報酬をもらうのは気が引けるけど、ありがとう。依頼は承諾しました」


とリリスは笑顔で応え、リリスチームの装備を整えに向かった


リリスが、口笛を吹くと、ターク、フィーネル、そして、ビックボアは、それぞれのロッカーの場所に待機した。

リリスからの連絡があって、農民の中の動物担当の相棒も、ロッカーに着て、3匹に、それぞれ3人の相棒が、装備を付けて行く。


ロー村のウオウルフの相棒よりも時間がまだかかってしまうが、リリスひとりで3匹の装備を付けるよりも数段速く、準備を整えられる。


この特権もレジェンドにいる時だけだ。


ボルフ王国に戻った時には、リリスが、装備を付けてあげなければいけなくなる。

バルト・ピレリリも手伝ってくれるが、全部の装備を付けようと思うと、はやり時間がかかってしまうのだった。


ロックも装備を付けて、集合場所に待機した。


ロックの背中には、長い武器のカーボンアックスが、Xの形で、後ろに収まるように装備された。

カーボンアックスは、木目がある軽くて、強度のあるカーボンナノチューブで造られた武器で、ロックの力なら、まるで剣を振るかのように扱えるのだった。

そして、その上にビックボウが背中に付けられている。カーボンアックスは横にスライドさせて取り外しができるようになっているからだ。


リリスチームもそれぞれ装備を整え、集まった。そして、司祭様も手紙を書き終えて、源を待つ。


源の装備は、グラファイトのままだ。源にとっては比重の重いグラファイトも、カーボンナノチューブも関係が無かったからだ。

むしろ、グラファイトのほうが、強度もあるので、こちらのほうが都合がよかった。ただ、鎖帷子くさりかたびらだけは、カーボン製のものにして、かさばらないようにした。


源も、装備をして、集合地点に行ったが、そこに、リリス・パームを守るためにきた3人も動物たちと共に待機していた。ポル・パラインとその弟のライム・パライン。そして、ジョゼフ・プリューレだ。


ポルが、源に頼んでくる。


「わたしたちは、リリス・パームを守るために、やってきました。そして、今回は、ペルマゼ獣王国方面に向かうということですから、わたしたちもお供させていただけないでしょうか?」


源は、少し悩んだ。リリスの動物たちには、装備を作って渡していたが、ポルたちは、その存在が源からすると謎だったので、彼らの装備を与えていなかった。連れていって、もし怪我でもされたら、後味が悪くなる。そして、謎の存在にユダ村の場所などを教えるのは・・・と思った。


「俺たちの旅のために、君たちが怪我でもしてしまったらと思うと、申し訳ないけど今回は・・・」

と言うと、ポルがさらに頼んできた。


「わたしたちは、リリスが怪我をした時、治したように回復させる手段があります。ですから、役に立つはずです。それに、わたしたちは、シャウア森林から来たので、ペルマゼ獣王国の道案内も出来ます」


と言うと、司祭様が声を出した。


「おー。シャウア森林から来られたのですね」


源は、聞く。

「司祭様はご存知なのですか?」


「はいですじゃ。シャウア森林は、シンダラード森林の100倍もの大きな森で、帝国領土の中心に存在する森なのですじゃ。確かに、シャウア森林は、ペルマゼ獣王国と同じ方面になりますのじゃ」


100倍は凄いと思いながら、司祭様が言うのだから、間違いないということだろうと源は判断した。


「じゃー。ペルマゼ獣王国までの道案内として、付いてくるというだけなら、構いませんが、それでもいいですか?」


ポル・パラインは言った。


「分かりました。わたしたちは、ペルマゼ獣王国までは、リリス・パームを守る役目をして、その後は、シャウア森林に戻らせてもらいます」


それなら、ユダ村の場所も知られずに済むと思い、源も納得した。移動するだけなら危険なこともないだろうと判断した。


そして、冒険者アドベンチャーのエリーゼ・プルとバーボン・パスタポも、当然リリスを守るためについていきたいと言ってきたが、リリスの仕事だからといって、今回はレジェンドでの待機を命じられた。ロー村の秘密は少し教えられても、まだ行ってもいないユダ村の場所の秘密を教えるわけにはいかないからだ。


源は、レジェンドに残るみんなに頼む。

「レジェンドのことは頼みます。もし、何かあったら、リリスの鷲に手紙を渡して連絡してきてください」


ボルア・ニールセンは「はい」という返事をして、見送ってくれた。


源・リリス・パーム、そして、ロック。ポル・パラインとライム・パライン、ジョセフ・プリューレの6人とその動物たちで、ペルマゼ獣王国に向かう。


グラファイロープで、それぞれ固定させて、動物もみな、リトシスで、飛んでいく。それなりの場数を踏んでいるメンバーなので、100km/hを超えて、移動して、目指した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ