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73章 森の恩恵

レジェンドは思った以上にうまく回っていた。それはボルフ王国の政治があまりにも杜撰ずさんで、民を守るのではなく、民を減らそうとするほどだったことが、レジェンドの政策のありがたみが、浸透していた理由だと思われた。


そして、農業もとてもうまくいっていた。

農具は、源が鉄やグラファイトなどから簡単に作って与えた。


特に役立ったのは、リリス・パームで、ビックボアや野で見つけた牛や馬や色々な動物を沢山集めて、農家に提供してくれた。動物たちに付けた農具はさらに効率を上げさせた。

それらの動物たちと源の農具を使って、土地を作って行くことができた。


そして、土地は、もともと森で、森の木々から葉が落ちてはそれが、下に落ち、腐敗して、土地を肥やしていた。まったく、そこで、農業をしていなかったので、その土地は、とても栄養が豊富で、育てる食物の出来が、すこぶるよかった。


森は何百年、何千年も人が手を加えていなかったので、大量の大きな木々が不規則に育っていた。

狭いところに木々が増えすぎると、栄養を取り合ってしまって、腐ってしまう木も現れる。

なので、レジェンドの民のように人が介入して、木々を減らしていくことは、森のためにもなった。


ボルフ王国の農民の土地は、木々を伐採しすぎて、もう土地が栄養を無くしていた。

肥溜めなどで循環するようにしていたが、それでも野菜が出来る度に栄養は奪われていくので、それが限界に来ていたということだろう。

レジェンドは、農業をはじめたばかりなので、まだまだ土地の栄養は、豊富にあった。

2・3年に一度の割合で、農業用の土地を別の場所に移動させていけば、3・4つの土地でグルグル回していくこともできるだろう。


ガーウが、森の中の果物を教えてくれたことがあったが、その果物の種を使って、畑とは違う場所で、果物の土地を設けて育て始めた。

それも栄養があるためか、育つ速度が速く、今のところは、とてもうまくいっているように思える。

はまだまだ育つわけもないので、今後に期待だ。

もともとあった森の果物は、他の動物やモンスターたちのために、残して置いた。そして、レジェンドは別の土地で、果物を栽培する土地を作って行く。


人が介入することで、多すぎる木々を抜いてはそれを家や家具にすると森も生命が増えて行くのだった。


生活していくと、レジェンドの人たちのさまざまな才能が解り始めた。


例えば、1000棟もの家を建てた男性たちは、建物や家具を作る楽しさを知ったのか、色々なものを作っては、レジェンドの民に配り始めてくれた。ツーバイフォー工法の家のあじけないものではなく、個性のある家を建て始め、人々に提供してくれた。大工組合というものを作ってもらいモノづくりの繁栄を取り組んでもらう。


これらは趣味趣向のようなものなので、時間や報酬、お金に依存していないだけに、出来がよかった。

報酬や時間が決まっていると、人はやっつけ仕事をしてしまうが、趣味趣向でやっているものは、能力の限界を超えていい物を世に残そうとするので、時間をかけて、いいものを作り始めた。


現世では、お金というものが邪魔をして、その工程を省くことだけに意識をするので、芸術的な面や素晴らしい技術が殺されていくが、レジェンドではそんな余計なものは無かった。

家を建てるにしても、現世では、どれだけ短い時間で建てるのかを考えて、耐震偽装という犯罪に走ったり、大工は納得しない適当な家を建てたが、レジェンドの物づくりの人間は、どれだけ時間をかけても文句をいわれる筋合いもないので、良いものを満足して作って行くのだった。自分の生きた証を残すかのように、趣味を続けていた。


趣味なので頑張りすぎてしまうので、無理やり時間を設けて、休憩させたり、仕事をしないようにさせるほうが大変だった。みなに喜んでもらい楽しいからといって生き物の体力は無限ではないので、知らないところで疲労が貯まってしまうからだ。


モノづくりの中では、鋳造をして、武器や鉄などを生産しようとするものもいたので、源は、それらに必要な物や知識を与えて行った。鋳造機なども源は与えた。それらは少し危険な仕事でもあったので、レジェンドのはずれのほうに仕事場を与えた。


狩人になる者は、ウオウルフと一緒に狩に出かけたり、魚釣りをしたりするものもいる。源が与えたボウガンなどを利用して狩をしていた。


文字の読み書きの先生として、リタ・パームやリリス・パームに頼んだり、司祭様や巫女の方たちにも参加してもらって、レジェンドの人たちも少しずつ文字が使えるようになりつつある。ウオウルフもまた同じだ。

学んだものが、次は他の人に教えて行くという伝言ゲームのように広げていった。


裁縫が得意な女性。髪やモンスターの毛を整える仕事など、様々な才能が出始め、お店が出来そうな人には、家とは別にお店を与えた。


お店の第一号は、リタ商店だった。なので、リタから商店の運営の心得などを教えてもらいながら、みんなで助け合って、さまざまなお店を作り始めた。

家具屋ももちろんある。

リタ商店は別だが、まだまだ、お店の品質はよくはなく、素人に毛が生えた程度だったが、そこからはじめていってくれることが、源の望むことだった。


洋服なども本当なら売れるような物ではなかったが、レジェンドではみなが喜んで洋服を買いにいき、作った野菜などと物々交換していった。


美容院というお店を出して、髪の毛を切るサービスをはじめたら、大盛況になってしまった。ボルフ王国でもこのようなお店は無かったからだ。みな家で切るのが普通で、他人に髪を切らせるのは貴族ぐらいのものだったからだ。


お店への報酬のほとんどは食べ物であり物々交換だった。お金で払う場合もあるが、お金を使う必要はほとんどなかった。物を渡す決まりもないので、こどもなどは、平気で利用して、お礼の言葉が、報酬となった。


食べ物の生産は、このままいけば、大量に取れ過ぎてしまうようだった。そこで、源は、巨大な倉庫を造ろうと考えた。

何重にも重ねた上物うわもので、まるで魔法瓶のような倉庫にしたあと、源のアイスドームの氷をいれて、ある程度の保存を可能にしたのだ。昔の日本の冷蔵庫のようなものだ。それらを地下に埋めたので、また温度も安定した。


農民たちは、ガリガリの体をしていたが、レジェンドにきてから肥え始めたようにさえ感じる。栄養が行きわたっているので、病死で死ぬような人もひとりもいない。病気になっても熱を出せるほど体力を増している。


戦士になろうとする人たちも募り、7地区で、200人が集まった。他の仕事もありながらも、レジェンドを守るために戦おうという者たちだった。戦士とまではいかないが、戦ってもいいという男性はさらに800人いて、全員で1000人になる。


彼らには、カーボンナノチューブの装備を準備しつづけた。その装備を使って狩りをするものも多数いた。

カーボン製の剣や鎧は軽く農民だった人でもまるで戦士のように強くなってしまう。


そして、かなりのモンスターにもその装備があれば、倒せることを理解した戦士たちは、シンダラード森林の5つの遺跡に、ロー村のひとたちと挑む者たちまで出始めた。

遺跡にいどむので、自分たちの力で、マナやスキルも手に入れ始めた。

大怪我をしたこともあったが、ロー村の治療班はリタ商店の商品によって回復した。


レジェンドでは、税はなかったが、みんなは、なぜかセルフィに物を送り続けてきたので、源は食べ物や家具、あらゆる物が貯まりはじめてしまった。


それらを商店をはじめたばかりの人や戦士、モノ作りをするもの、学校で教える者、治療班などに、均等に配っていった。食べ物などは、多すぎて、腐ってしまうので、配るしかなかった。


それでも貯まるので、困りリタ・パームに相談して、ボルフ王国の貧民地で、内緒で配るということをしてもらいはじめたほどだ。


夜中の貧民地では、扉の外に、突然食べ物が置かれていることが多くなり、誰がしているのかという謎が広まっていった。

家具もやたらと作りまくる人もいたので、それらを貧民地の人々に無料で提供しはじめた。リタ商店の無料バーゲンセールというのを開いた。

何といっても、多く集まる食べ物は、イモ類で、ジャガイモやさつまいもなどは、すぐに大量に作れてしまうし、保存もそこそこ効くので、大量に貯まりはじめていた。1つ1つの食べ物の大きさも異常だった。栄養がありすぎるためか、同じ種類とは思えないほど巨大なイモなどになってしまっている。


地下倉庫などを作って、地下の低温で乾燥した場所に保管し続けている。倉庫の数も日に日に増える一方だった。


ボルフ王国のリタ商店も、もの凄い利益を出していた。


源からすれば、鉄を粘土のようにこねて、愛の設計図通りのデザインで作っただけの鎧をパパっと作って、箱にいれて、リタのお店に流していただけだが、鉄の鎧で、見たこともないデザインがあるといううわさが広がり、貧民地なのに、多くの者たちが、鎧を買いに来ていた。ボルフ王国でも、受注されたので、リタ商店が仲介して、流すようにした。


注文が増える一方だったので、ボルフ王国に鎧の倉庫を置くための土地を探したが、簡単に手に入るものではなかった。

レジェンドに来たひとたちの空き地や空き家があったが、勝手に使えないのだ。


そこで、バルト・ピレリリの家の畑を平地にして、そこに源が作った頑丈な倉庫を置いた。見た目はなるべくボロボロにみえるように木の板などを貼って誤魔化したが、実際は、かなり頑丈な防犯に強い作りになっている。


バルト・ピレリリは、リタと共同経営という立場になって、生活を成り立たしている。


その倉庫の地下に、レジェンドで食べきれない食べ物の一部を保存する冷蔵庫のような倉庫も内緒で置いた。そこからリタは、生活が苦しいひとたちに、食料を配るのだ。

バルト・ピレリリは、武具の4割の利益をリタと分け合っているのだが、農業をしているよりも、何百倍もの利益があるということだった。


ボルフ王国としては、鉄の資源を手に入れるだけの目的だったが、セルフィのおかげで、武具にまで制作された状態で手に入るので、リタ商店から多くの発注をした。リタ商店は安いというのもあった。本当なら、信じられないほど安く提供できるのだが、それでは、他の武器屋がやっていけないので、同じぐらいの値段にして売るようにしたので、利益が膨れ上がっているのだ。


リタ・パームやバルト・ピレリリは、その利益を貧民地に内緒で流していった。


貧民地でのパーム家の名前は、知らないうちに広がっていた。

生活ギリギリのボルフ王国の貧民地に豊かさを配る存在として、尊敬を集めて行った。


また、リリスの英雄的な行動もうわさの的だった。フィアンセを殺された悲劇のヒロインとして、貧民地では、英雄的存在となっていたのだ。


レジェンドの有り余る豊かさが、内緒で、貧民地に流れていることの影響は日に日に増えて行ったのだ。


レジェンドのひとたちも、貧民地の人たちの助けになるということで、内緒で流すことが出来ることを嬉しく思っていた。一度は捨てた土地だったが、仲間は、仲間だったからだ。


だが、問題とは違うが、レジェンドに新しく来たひとたちから、疑問が毎日のように司祭様や巫女たちに浴びせられているということを聞いた。


それは、あらゆる豊かさやレジェンドの安全を守る巨大な壁などを作って行くセルフィという少年の謎だった。

なぜ、セルフィは、あれだけのことが出来るのかという質問が絶えないという。

ロックやウオウルフ、ロー地区の人たちは、その秘密を知っているが、農民兵のつながりでレジェンドに住み始めたA~E地区に住み始めたひとたちは、謎だらけだったのだ。リリスもまた同じようにセルフィの謎に疑問を抱いていた。


何とか司祭様は、誤魔化してきたが、それも限界だということで、教会で、3000人を集めて、説明することになった。


源は、ガラススペースに入って、話をはじめた。


「みなさんがここに来てくださったことで、レジェンドの生産性は、飛躍的にあがりました。みなさんには感謝の言葉がつきません」


そう源がいうと


「わたしたちの方が感謝しています。セルフィ様!」という声が次々と上がる。


その声がこそばゆいが話を進める。


「最近、レジェンド内で、わたしセルフィとは、何者なのかという質問が、司祭様にされる方が多いと聞きました」


みんなの表情をみると、多くの者が自分のことを知りたいと思っているのだと痛感した。確かに謎すぎる行動をするわけだから、知りたいと思うのは、当然だろう。特に農民兵は、自分やロックがサイクロプスと戦うところをみているからだ。


「わたしは、岩のモンスターロックと共に、ここから約50km離れた遺跡から生まれた。ミステリアスバースです

みなさんが、知っておられる通り、ミステリアスバースは、生まれたばかりなので、手探りで生きて行くしかなかったのです

そこで、偶然、出会ったロー村のみなさんやウオウルフたちと出会うことが出来ました


わたしは、この世のことを何も知らなかったのですが、彼らが色々なことを教えてくださったのです

そして、ロー村は、龍王の意思を守り抜いてきたコミュニティでした

また、ウオウルフは、狼王の意思を守り抜いてきたモンスターだったのです

龍王の伝承には、このような一文が書かれているのです。司祭様に読んでいただきます」


というと司祭様が、隣で、龍王の書物を出して、読んだ。


『ここからは龍王の言葉である。これらは龍王の意思であり、のちのちまで伝えていくことだ。のちに世界を平和にする天使が生まれ出る。天使とは、人間の体をしながら、背中に羽を生えた天使という種族だ。その者が現れたのなら、おのおのが守っている龍王の意思を読み聞かせろ。その者の名は、ハジメスエナガという』


その書物の言葉を聞いて、3000人の中で、「知っている」という言葉が出始める。世の中にも、救世主伝説は、昔から存在していて、広まっていたからだ。


源は、話を続ける。


「これは龍王が残した予言だと言われていますが、みなさんの中にも知っている方もいるでしょう」


「知っています!」という大きな返答をしてくれる人たちもいた。


「わたしはミステリアスバースなので、何が何なのか分からずロックと一緒に生きていたのですが、自分の姿と酷似していたので、ロー村の方たちは、わたしたちを受け入れてくれたのです。ウオウルフたちも同じでした。みなさんを騙そうとしていたわけではありません」


と源がいうと、少しざわめいた。話の内容が分からず、何が騙しなのかと思ったのだろう。


「わたしは今でも分からないことだらけなので、自分でも信じてはいないのですが、みなさんに見せなければいけないものがあります」


すると、源は、背中のマントを脱いで、背をむけて、背中の羽を見せた。


一斉に、大きな声が教会内に広がる。「天使だ!」「あの姿は、天使だ!」


うわーー!!!という声が広がる。


源は、話を続ける。


「わたしは、この姿なので、あらぬ噂やわたしを利用する者が出てくるかもしれないと思い名前をセルフィと変えました。セルフィという名前を考えてくださったのは、司祭様です。そして、わたしの本当の名前は、末永源すえながはじめと言うのです」


それを聞いて、天使の姿で、名前が、スエナガハジメだと知って、「救世主だ!」という声まで上がった。さきほどよりも、物凄い歓声が教会に広がる。


「そうか!そうだったのか!」という声も上がっていた。不思議なことをする少年の能力、謎が解ったと思ったのだろう。大歓声は鳴りやまない。何だか泣いているひとたちまでいた。歴史的瞬間に自分たちは関わっているとでも感じたのだろう。


源は、ここまで反応するのかと思ったが、俺も同じぐらい驚いたので、しょうがないと思った。


そして、人々が静かにするように、手をあげて止めるような仕草をみせると、徐々に歓声が、治まって行った。鳴りやむ時間はかなりかかったほど、みな興奮していた。


「みなさんに知ってほしいことは、わたしは、ミステリアスバースで生まれたばかりなので、自覚がないのです


まだ、本当に龍王や狼王がいっていた存在なのか、確信がないので、名前を変えて、知らない人たちには、誤解されないように、セルフィという名前にしたのです

ですから、このことは、レジェンドの人たちだけの秘密にしておいてほしいのです

ボルフ王国などにでも知られたら、わたしは悪用されてしまうかもしれません

これからもセルフィという名前を使っていきますので、ご理解ください

そして、わたしもこの世のことを分かっていないということもご理解ください

みなさんと助け合ってレジェンドで生きていきましょう」


歓声がまた起こり、みんなの顔をみると、疑問が解けたという雰囲気だった。


何だかんだ言って、ロー村とウオウルフの源の情報とレジェンドに来たばかりの農民兵の家族との温度差の謎が解けたことは、良かったと思わされた。

ロー地区の人たちやウオウルフたちは、源が、伝説の天使族だということを知っていたが、レジェンドに来たばかりの農民の人たちは、知らなかったからだ。


そして、レジェンド全体で、秘密を共有したような感覚にもなって、絆のようなものが生まれたようにも思えた。


何も知らなかった農民兵の家族からすれば、俺の存在は、謎過ぎて、今その謎が解けた反動で、大きな歓声になっているのだろう。


―――セルフィに対する謎を説明する集まりが終わると、司祭様が、源のところにやってきて、会ってほしい者がいるという話をしてきた。


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