69章 新しい素材発見
源は、一度家族に説明したいという農民兵たちを募って、ボルフ王国に一斉に連れて行った。歩いたら5日以上かかってしまう道のりも、源となら2時間で行けてしまう。空から直線距離で向かうことが出来るからだ。
85人全員が、ボルフ王国に残してきた家族をレジェンドに連れて行きたいということになった。
農民兵85人の家族、総勢352人は、自分たちの家の家具を広場に集めはじめた。
予め、ボルフ王国に残ったバルト・ピレリリが190人のビックボアに乗って脱出を計った農民兵の家族に説明会を開いて、説明していたのだが、前回シンダラード森林に出兵し、農民兵として参加して死んでしまった600人の農民兵の家族もレジェンドに行きたいという話になってしまった。
なので、無理やり出兵させられた農民兵の家族、総勢3000人以上がレジェンドを望んだのだ。家族を殺すような国にはもう居られないということだった。
それに生き残った400人のうち150人は未だにどこにいったのか分からず、シンダラード森林の近くで暮らしているかもしれないと考えたからだ。家族はまだ生きているという望みを捨ててない人たちもいたのだ。
他の農民たちの中にも、噂が広がりレジェンドに行きたいという人たちまで現れてしまったが、さすがにそれは源は、断った。
レジェンドにとってはそれは人手が増えて良い事だが、ボルフ王国からすれば、農民の数を勝手に連れて行かれて、沢山の亡命者を出したとするのは、問題になるからだ。
あくまでシンダラード森林に進行出兵された1000人の農民兵の家族だけということにした。
第三王子サムジからすれば、農民兵を守るために、貧民地に護衛兵を置く必要もなくなるので、そのような農民たちはいなくなってもらいたかったので、ボルフ王国でもそれを許可する動きをみせた。
だが、3000人がそれぞれ荷物を持って、一斉に移動させることは出来るが、3000人もの人たちの住まう場所が問題になる。
時間さえもらえば、源は家を提供できるのだが、さすがに1000棟もの家を建てるのは、時間がかかってしまう。
レジェンドの場所もさらに広げなければいけないので、2重の壁をさらに作らなければいけなくなる。
なので、第一陣として、まずは、リリスと共にレジェンドまで命からがら辿り着いた85人の352人の家族を優先に連れて行き、ある程度受け入れられる準備が整い次第、また第二陣として連れて行くことにした。
前回、ボルア・ニールセンがレジェンド開拓計画を建ててくれたゆとりのある土地の限界人数は、700人だった。
ロー地区の人々が200人なので、352人とあわせて、550人程度で、丁度、今の広さに収まる人数になる。そして、残りの150人のゆとりの穴は、3000人の中から男性を選んで来てもらうことにした。男性に多く来てもらうことで、レジェンドの土地を開拓するために抜いた木々を使って、家を建てていってもらおうと考えたからだ。
源は、レジェンドを造る時に2つの計画書があったが、ゆとりのある広めの計画書を選んでおいてよかったと思った。
源は、150人の男性陣と第一陣の352人を家具ごと、一斉に移動させ、レジェンドに連れて行った。途中休憩もいれて3時間で着くことができた。家具といっても貧しい農民が持っているものはしれている。
レジェンドに待機していた生存した85人は、自分たちの家族と再会できて、喜んだ。
ボルア・ニールセンに頼んで、住まいが用意できるまでは、ロー地区のひとたちの家に、仮住まいさせてもらうことにした。それでも、足りない場合は、壁の中の安全なスペースを使って野営してもらうことにした。
そして、ロー地区の人々とともに農業をして、生産性の向上も図ってもらう。
予定通り、男性陣の150人は、木々を使って家を建てて行ってもらうことにした。その道具はもちろん、源が鉄や金剛石で造った。木を切ることが出来るノコギリや斧、ノコやさしがね、ハンマーなどは、もちろん、ネジやかすがいまで準備して、建てて行ってもらった。みんなは大工でもないが、貧民地でも、自分たちの家を建ててきたので、貧民地にあるような家は建てられる。
ロックの力がとても役立ち、次から次へと木を切って行ってくれた。
その間に、源は、レジェンドの場所の拡張をはじめる。
現在が700人規模の土地なので、5倍に広げていくことになる。ゆとりのある広さも考えれば、それだけの広さは必要になる。半円で考えれば、半径500mの長さの土地がさらに増し加われば、かなりのスペースになる。町の景観のための木々は残し、その他の木は、抜きとって数カ所に残して置いて、その木を使って、男性陣がさらに家を建てて行く。
レジェンドの場所は、安全に暮らすための場所なので、畑は別の場所に用意することにした。川の下流に畑用の場所5haを2つ測った。
グラファイロープで、抜き取るすべての木に結び付けつなげると、一斉にリトシスで木を抜きとってしまたのだ。一斉に抜き取った木も、レジェンドの場所にまで持っていった。
畑の場所には、動物だけを防ぐための薄い岩の壁を用意した。開閉は、知能がある生き物なら簡単に外からも内からもできるものだ。
1家族に4aもの広さの畑を確保してあげれば、どんなに不作であっても、ゆとりが出てくるはずだ。1aは、10m×10mの広さで、4aは、テニスコート2個分。
平地は準備が出来たので、2つ目のさらに巨大な壁を作って行かなければいけない。1回は前回の時に作ったので、その応用で5日間使って、作っていった。これでレジェンドでは、2重の壁で守られることになる。外枠の20mの高さの花のような黒い壁だ。表面は、グラファイトで補強してある。
前回作ったように、ここにも、滑車をつけて、武器を設置した。
そして、源は、家づくりも手伝うことにした。源なら木を加工することは簡単だ。なので、ツーバイフォー工法の家を建てることにした。
ツーバイフォー工法とは、柱で家を支えるのではなく、壁で家を支える工法だ。
同じような大き目の壁を大量に源が、木から作っていき、その壁を家の土台の上にはめていけば、それで完成する。それなりに安定した柱に打ち付けて行けば、壁が家を安定させる。屋根もまたその板を必要な形で切って、建てて行けばいい。この工法だと簡単に作れるだけではなく、柱の線で出来た強度ではなく、面で出来た強度で、家を補強できるので、建物も頑丈になる。
150人の男性がいるので、一日で10棟のペースで作って行くことができた。現世で生きていた源からみれば、いい家とはお世辞にも言えない、まるで仮設住宅だが、貧民地で住んでいた農民たちからすれば、豪邸だろう。
一度作ってしまえば、やることは単調で組み立てていくだけなので数をこなすごとにその建てるスピードは上がっていく。
10日で100棟、3か月で、約1000棟だ。
ただ、敵が来た時には、簡単に入り込まれない避難所がなければいけない。なので、5000人が入れる巨大な建物を建てた。また、そこは、毎週教会として使えるようにして、普段からも使用できるものにした。建物は、岩をベースにした頑丈なもので、外側はもちろん、グラファイトだ。
岩とグラファイトで造られているので、火にも強い建物になる。かなりの衝撃を加えられても、大丈夫だ。
その教会からは、地下に通じるロー地区の脱出経路が伸びて続いていて、レジェンドの外、壁の外にも、逃げていけるようにした。避難所を囲まれても、退避できるわけだ。
グラファイトを多く作っていると、愛が、あることに気づいた。
『源。グラファイトの生成の時に、いくつか発見したものがあります。』
『ん?発見?』
『はい。グラファイトの中に、カーボンナノチューブ製のグラファイトがありました。源』
『カーボンナノチューブって、ナノ単位で組み合わせて行く技術だろ。確か強度も高かったよな?』
『はい。そうです。源。カーボンナノチューブは、グラファイトと同じ炭素でありながら、隙間をありながらも、強度が増した素材です』
『密度が薄いから軽くなりながらも、しっかりと規則正しく組み合わせるから、強度も増すということだな?』
『その通りです。源。グラファイトをただ集めて加工したものは、密度が濃く鉄よりも比重が高くて重いものでしたが、カーボンナノチューブは、鉄の約8分の1の比重の重さで、鉄の20倍の強度があり、ダイヤモンド級の硬さです』
源はそれを聞いて驚いた。
『鉄の8分の1の軽さで、20倍の強度だって!?』
『はい。源。アルミは、鉄の約半分の比重で、そのアルミのさらに半分の比重が、カーボンナノチューブです。ただダイヤモンドはもとより、グラファイトよりは若干強度は劣ります』
すごい・・・アルミは軽いのは知っているが、それよりも数段軽くて、さらに鉄の20倍も強度があるダイヤモンド級の素材を発見してしまった・・・しかも、何よりも凄いのは、木さえあれば、手に入る炭素で作ることが出来るという点だ。これこそ、夢の素材だろ・・・と源は、思えた。
だが、実際作ろうと思うと、そんなに甘いものではなかった。
グラファイトは、炭素を抽出して適当に粘土のようにこねて鎧を作ればよかったが、カーボンナノチューブは、ナノ単位で、炭素を編み物のように編んでいかなければいけないので、非常に時間がかかった。
トランプで巨大な城を建てて行くようなもので、適当に何千枚ものトランプを重ねて、建物を建てるのは簡単だが、一枚一枚倒れないようにしっかりと三角形に固定させて建てて行くのは、時間がかかる。でも、極端に軽く、安定した建物を建てられる。
リトシスを使っても、カーボンナノチューブは、もの凄くゆっくりしか編んでいけなかったのだ。
以前、グラファイトで、鎖帷子を簡単に作ったが、あんなものは、リトシスにかかれば、女性の髪の毛を三つ編みするよりも簡単なものだったから、すぐに作れた。
今回は、単位が極端に違う。ナノとは、人間が手出しできる最小単位ともいわれる極小の単位で、地球と比べれば、ナノ単位は、ビー玉といったほど小さいものなのだ。
微生物がミクロという世界なら、それよりもさらに小さい世界がナノだ。ミクロは顕微鏡でみることはできるが、ナノは、顕微鏡ではみることはできない。そのナノ単位で、カーボンナノチューブを編んで行かなければいけない。
グラファイトのほうが、その点は、もの凄く簡単に作れるのだが、適当にこねているだけなので、強度はあっても、どうにも重い。源はリトシスで装備などの重さは関係ないし、ロックもパワーがあるからグラファイトでいい。そして、ウオウルフも、若干装備を軽装化させて、武器は、体を保護する鎧に付けていて、振り回すわけではないので四足歩行の安定したバランスで使えていた。スピードは落ちるが、ヘタをすると若干重いほうが、威力は増すかもしれない。グラファイトの武器は、脳筋といわれる武器だということだ。
人がグラファイトを使うと重いので、かなり軽装にしなければ使えなかったのだ。でも、このカーボンナノチューブで鎧を作れれば、かなりの安全で、使いやすい武具をレジェンドの人たちに、準備することができる。
ただ、頑張っても6時間もかかってしまい、一日ひとつしか鎧が作れないというほど、ゆっくりしかナノ単位で編んでいけない。
150人の男性が、三か月で1000個の家を建てようとしているのだから、源も、その間に、一日一個をノルマにして、鎧と剣の装備を作ることにした。
戦士が何人になるかは、まだ分からないが、レジェンドで募った戦う人100人のためのカーボンナノチューブの武具が用意できるようになったのだ。