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68章 恐ろしいほどの善の岩

リリスは、リタから話を聞いて、驚いた。あれほど、大きな問題を、セルフィは、たった数日で、解決の糸口を見出し、そして、リタ叔母さんを見事、無罪放免で解放させたからだ。リリス・パームの容疑も正当化され、すべて問題なしとされた。ボルフ王国に侵入し、民を襲った盗賊を郊外で冒険者アドベンチャーのリリス・パームが倒したということになったのだ。冒険者アドベンチャーとしてまた復帰できる。


こんなことが、本当にあるのかと思ってしまう。


でも、それらをあのリタ叔母さんから聞いたので、信用するしかない。

それらのことは、ローグ・プレスから、農民兵に伝えられ、またセルフィのおかげで、農民兵は、自由にボルフ王国を行き来できるようになり、ボルフ王国は、少しでも農民兵に不幸が起これば、その責任を取らされることとなったということを知ると、大勢が喜びの歓声をあげた。


家族もレジェンドに呼ぶこともできれば、自分も帰ることができる。ほとんどの農民兵は、レジェンドに家族を呼ぶことにしたということだ。もうボルフ王国は、信用できないからだった。


そんな中、ボルフ王国の冒険者組合アドベンシエーションからふたりの冒険者アドベンチャーがリリスに会いにやってきた。


ひとりは女性。そして、もうひとりは男性だった。ふたりの姿をみるとリリスは、走り寄って女性の冒険者アドベンチャーに抱き付いた。


「エリーゼ!どうして、レジェンドにいるの?バーボンも」


エリーゼ・プルは、リリスの歳の近い冒険者アドベンチャー仲間だった。リリスと一緒に多くの任務をこなしてきた。リリスにとっては先輩であり、仕事仲間だった。すらりとしたスタイルのショートヘアーの美しい戦士だった。

そして、そのエリーゼ・プルと一緒に来たバーボン・パスタポもリリスとは冒険者アドベンチャー仲間で、いくつかの任務もこなした。


「リリス。あなたが心配だったのよ。突然あなたが指名手配者になったと聞かされたと思ったら、ボルフ王国から消えたと聞いて、心配で・・・心配で・・・」


「バーボンもわたしのために来てくれたの!?」


バーボン・パスタポは、少し恥ずかしそうな顔をしながら、言う。


「いや・・・俺は・・・任務としてな・・」


「任務?」


エリーゼ・プルは説明した。


「依頼主の名前は言えないけど、ボルフ王国の冒険者組合からの仕事依頼で、あなたの護衛を頼まれたのよ。しかも、もの凄い報酬が提示されてるのよ」


「報酬はいくらなの?」


エリーゼ・プルは、リリスの耳元に口を持っていって小声で話す。


「ここだけの話よ。金貨ひとり20枚よ」


リリスは驚いた。ボルフ王国内に、自分たちを守ろうとする人がいることにだ。

金貨20枚なんてものは、貧民地の人たちでは出せない。以前ピーターたちと徴兵出兵した農民兵の中には、金貨10枚を持っているからその中の誰かとも考えられたが、それでも貴重な金貨を使ってまで、リリスを守るとは思えなかった。冒険者組合アドベンシエーションも、リリスたちの敵かとも思っていたので、なおさら疑問がわいた。


「依頼主は誰なの?」


「だから、依頼主は今回は伏せておくのも任務のうちなのよ」


「そう・・・そんな報酬を出せる人だと貴族の誰かだろうけど・・・」


エリーゼ・プルは、笑顔で話す。


「心配していた友達を守りながら、多額の報酬までもらえるなんて、ラッキーだと思わない?」


「わたしは、一時、ボルフ王国全土で指名手配されたほどなのよ?危険だとは思わないの?」


「もうあなたの指名手配は解除されてるわ。あなたは指名手配どころか、民を救った英雄扱いよ。それに友達を守るのは当然でしょ」


「ありがとう。わたしも嬉しいわ」


「リリスもそうだけど、マックル・セスドも今、行方不明なの。リリス。あなた何か知らない?」


エリーゼ・プルは、小さい頃からマックル・セスドと関わりがあり、戦うすべをマックルから教わっていたのをリリスは知っていた。マックル・セスドに何が起きたのかは、口が裂けてもエリーゼ・プルには、言えなかった。


「ごめんなさい・・・」


と言ってリリスは顔を振った。


「そう・・・今回のあなたの事件と何か関わりがあるのかと思ったけど、あなたは知らないのね。あの人のことだから、突然現れて、また冗談を言い始めるかもしれないけど、行方不明になる前に、基本レベルを上げるために、森に行くと言っていたみたいなのよ。まだ、森にでもいるのかしら・・・。」



―――レジェンドでは、主だったメンバーを集めて、今後のことについての会議が開かれることとなった。


源とロック。そして、ウオガウと前長。司祭様とボルア・ニールセン。そして、農民兵の代表者、ローグ・プレス。そして、大脱出計画で大勢を救った。リリス・パームとリタ・パームの9人が勢揃せいぞろいした。


源とローグ・プレス、バルト・ピレリリの3人がボルフ王国に出向き、そこで起こったことをまず、みんなに報告した。


ボルフ王国は、鉄資源をほしがり、鉄の武具もほしいと願っていたので、それらを提供した。だが、農民兵をぞんざいに扱ったことは、協定を反故したことと見なして、サムジの命をもらうという約束を果たすという脅しをかけ、サムジは、恐怖して、源に屈した。


だが、兵の前での話なので、建前が必要で、実際は、ボルフ王国は、大量の鉄の武具の贈り物をされて、さらには、鉄の資源をも手に入れることが出来たという話になる。


これ以上、農民兵やそれにかかわる民たちに何かが起これば、その時は、容赦はしないという話だが、結果的には、シンダラード森林はボルフ王国に侵略され、一方的にボルフ王国が得していることになる。

第三王子サムジは、結果だけをみれば、大手柄というわけだ。

源は、あれだけサムジを脅した行為を行ったが、誘拐犯が人質を取ってお金を要求してきたものを犯人に脅しをかけながら、お金はきっちりと払って、人質のいのちを確保して、犯人の元々の狙いを与えて、その罪も罰しないという内容なのだ。それでもまだ人質のいのちを狙うのなら、容赦はできない。


ローグ・プレスが話す。


「ここまでしても、ボルフ王国が私たちに何かをしようとするのなら、その時は、セルフィ様にすべてをおまかせします。ボルフ王国がどうなろうと、致し方がないことでしょう」


集まったみなも、その言葉に賛同した。


農民兵の代表者ローグ・プレスは、続ける。


「わたしたちは、レジェンドのみなさんに、何も返すことができません・・・そして、ぶしつけかもしれませんが・・・出来ることなら・・・わたしたち農民兵とその家族は、レジェンドで共に生きて行く道を与えてはもらえないでしょうか?」


司祭様が答える。


「人手が増えることは、村の発展に大きく役立ちますのじゃ。わたしは、大いに結構なことだと思いますが、セルフィ様は、どうお考えでしょうか?」


「僕も農民兵のみなさんが、一緒に住んでくれることは、嬉しいことだと思います。ですが、いくつか条件があります」


ローグ・プレスは、聞く。

「是非、その条件をお聞かせください」


「レジェンドという言葉の意味は、『伝説』という意味です。これは、龍王と狼王の意思を受け継ぐ人々が集まった村ということなのです」


リリスが、驚いて聞く。


「龍王ってあの龍王!?」


リタがリリスに、静かにしなさいという仕草で注意をすると、笑いが広がった。


司祭様が答える。


「そうですじゃ。ドラゴネル帝国をお作りになった龍王と4000年前に存在した狼王の意思を受け継いだ村。それがレジェンドですじゃ」


源は、話を続ける。


「そして、レジェンドでは、毎週1回は、礼拝を行います。龍王と狼王が信じた一神教の教えを村人全員が、集まって、司祭様のメッセージを聞いて、研鑽を広げています。もし、農民兵がレジェンドで生活を共にしてくれるのなら、その礼拝には参加してほしいのです。そして、その教えに添った生き方で、平和に暮らしてほしいのです」


ローグ・プレスは、納得したように肯く。

「分かりました。レジェンドに住むのなら礼拝に参加をすることは、必須であるということ、そして、レジェンドの法に基づいて生活するということを承諾した者だけは、一緒に暮らせるということですね?」


源は逆に質問した。

「そうですね。賛同してもらうのは、難しいでしょうか?」


「いえ。難しいこととは思えません。むしろそれだけで許可してくれるのであれば、みんなも納得するのではないでしょうか。細かいことを言えば、暮らしていくうちにもっと出てくるでしょうし、こちらとしては、何とか、みなさんのご迷惑にならないようにあわせていくだけです」


リタ・パームは、手を挙げた。

「1つご質問させてもらてもよろしいでしょうか?」


「どうぞ」源は、許可を出す。


「ドラゴネル帝国と言えば、今は多神教です。ですが、レジェンドでは、一神教のとおっしゃっていましたよね?それは、今のドラゴネル帝国を指示しているのではなく、あくまで、龍王の考え方に添った教えをレジェンドは目指すということでしょうか?」


源は、司祭様に答えてもらうことにした。


「龍王も、狼王も、一神教の神を信じておられました。なのに、ドラゴネル帝国では、多神教に変わってしまているのですじゃ。それは、龍王の意思に反することで、平和を乱すことだとわたしたちは、考えているのですじゃ

ドラゴネル帝国の中にも龍王の意思を受け継いだ政治家や民がおりますが、それは少数人数になってしまい、それらの意見は採用されなくなっておりまする。多くの間違った意見が、少ない正しい意見をないがしろにしておるから、今のような戦争ばかりの世界へと追い込まれ、わたしたちは、苦しめられておるのですじゃ

ですから、ドラゴネル帝国ではなく、龍王の意思、そして、狼王の意思を受け継ぐものたちを育てる。それがレジェンドという村ですじゃ」


源もウオウルフ前長も、深々と頷いて賛同する。


源は言う。


「農民兵をここまで守って命をかけて、連れてきたリリス・パームは、わたしがボルフ王国と戦争になるかもしれない危険性があっても、農民兵とその家族を助けようとするのを不思議がっていました

それも、龍王の意思の教え、古くから伝えられてきた書物の教えなのです

これを『聖書』と呼ぶことにしました。聖書の教えに基づいて、正しいことを実践していく、出来ることをしていく、それが、聖書の世界を作るために必要だから助けるのです」


リタは、思い出した。

ケイト・ピューマ・モーゼスが、龍王と共に歩もうとしたのも、ある書物に感化されてのことだという言い伝えがあった

バルト・ピレリリは、セルフィには、愛や正義がしっかりしているということを言っていたが、1つに根付いたものを毎週のように伝え続けるその力のことをバルト・ピレリリは感じたのかもしれないと思った


リタは、人や自分は信じないが、教えは信じる。そういった指標がなければ、人は、すぐに右や左へ行ってしまうからだ。

逆に指標がある人間は、悪をみて体験しても、また指標に向かって修正することができる。

セルフィは信用できなくても、正しい教えは信用できると思った。


リタは、話した。


「ボルフ王国になる前は、あの土地も、ここも、昔は、大共和ケーシスという国の領土でした。セルフィ様や司祭様、ウオウルフのかたたちのおっしゃる教えの指標そういったものを自然と大共和ケーシスの生き物たちは、私利私欲を捨てて、持っていたといいます

その指標、正しいことを正しいと定める教えを毎週教え続けてくれるということですね?

わざわざ民に、情報を与えるという信じられない、待遇さえも与えてくれるのが、レジェンドだということなのですね?」


源は、そう言われて驚いた。現世では、無神論者などは、教えを定めることを毎週のように聞くことは、苦痛かのように思われがちだったからだ。

でも、生きるか死ぬか、善悪もないこの世界では、定めることを情報として、与える機関を提供するということは、待遇になってしまうということだと分った。


源は、リタやみんなに言う。

「神様は、人や生き物をその御業みわざでお創りになりました。破壊するために、作るはずはありません

神様は、すべての者たちのたちのために、世界を創られ、神様の基で平等に、分かち合うことをこの世に定められているのです

ですから、わたしたちも、その定めに逆らうことは出来ないので、与えて行くわけです。権力を増していくと、その権力は、情報を規制させていきます

それは人間の力で、コントロールしようとするから、民に恐怖するのです

ですが、レジェンドは違います。神様がコントロールしている定めに乗るだけなのです

ですから、多くの情報を開示して、提供していこうと考えています。悪は規制しても、善まで規制していくようなことはしないということです」


リタは、ひとこと言った。

「大いに納得させてもらいましたわ」


ローグ・プレスとリリスは、話に着いていけずにいた。


「今のことは、リタさんから農民兵に伝えてもらえますか?どうも、わたしには説明できそうのないので・・・」とローグ・プレスは言った。


リタは言う。

「その説明を毎週、司祭様が、レジェンドに住んだ人には、おしみなく提供してくださり、与えてくださるとういことですよ。ローグ・プレス」


「あーそういうことですか。え!?ということは、条件というよりも、また与えられてしまうということですか?それは困ったなー」


というと、集まったみんなは、また笑った。


「前もセルフィ様は、わたしたちに条件を出すと言いながら、10枚の金貨になる価値の太古の金貨を与えられましたからね」


リリスは、ピーターが、セルフィを絶賛していた意味が何となく分かった気がした。

セルフィは、何だか、普通の基準ではなく、まったく違う世界の基準のようなものをなぜか、自然に備えているのかもしれないと思わされた。

それは、硬いもので、セルフィからすれば当然のことなのかもしれないと思うと、犯罪者とは逆の怖さを感じる。揺るぎない善の岩のようだと感じた。


彼からすれば助けることが、当たり前だという価値観が備わっているのだと思えた。

一体セルフィは、誰に育てられたのだろうか・・・・。いや、ミステリアスバースとして生まれたセルフィは、育てる人はいなかったかもしれないのに、なぜそのような硬い価値観を備えているのだろうかとリリスは、不思議に思った。リリスは、謎の少年セルフィに興味を抱き始めた。


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