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67章 協定反故

リリスは、数日、安静にして休んだが、まだ体が万全ではなかった。レジェンドや妖精族の仲間の介護のおかげで、順調に回復しつつあったが、立とうとすると軽い目眩めまいを起こしてしまっていた。

リタ叔母さんは、セルフィという人物を信じてはいけないと言っていたけれど、彼と話したリリスは、バルト・ピレリリが言っていたように、自分たちと似たようなものを感じた。完全に信じたわけではないけれど、今はセルフィに期待するしかない。


そろそろ、外に出て、体も動かそうと思い、リリスは扉を開けた。

レジェンドという村は、最近造られたばかりだと聞いたが、ボルフ王国よりも頑丈そうな高い壁をみて、驚いた。あの不可思議な形の壁は、どうやって作ったのだろうと思わされた。それに、うっすらと覚えているセルフィの鎧とウオウルフたちの装備だ。あれも、冒険者アドベンチャーでさえも持っていない優れた物のように記憶では、思えた。

ピーターたちが、言っていた不思議なことも本当のことなのかもしれない・・・。


「もう体は大丈夫なの?リリ」


と後ろから女性の声がした


「え?」と振り返ると、リリスの部屋の外の椅子に座ってくつろいでいた女性がいた。


リリスは、その顔をみて、さらに驚いた。

「ええ!!??ど・・・どうしてここにいるの!??」


それは、リタ・パームだった。なぜか、リタ叔母さんが、レジェンドの村の自分の部屋の外にいた。


意味が分からない・・・・


「驚くわよね・・・・わたしは、もっと驚いたのよ?リリ」と笑いながら、話しかけるがリリスは、目を疑って手で目をこする。


「本当にリタ叔母さん?」


「そうよ。昨日の夜、ここに着いたの」


「どういうこと?」


リリスがリタと話していた時に、セルフィがやってきた。リリスは、セルフィがリタ叔母さんを助けてくれたのだろうと思った。


だが、セルフィは、リリスに謝って来た。


「リリス。ごめん。君には謝らなければいけない」


リリスは、なぜセルフィがわたしに謝るのだろうと思った。


「リリスのお母さんは、無事に助けることが出来たけれど、僕は、君のフィアンセを狙った張本人だと思われるサムジを裁くことが出来なかった。もし、サムジに手を出したら、ボルフ王国との戦いは避けられなくなり、多くの人たちの命を奪わなければいけなくなるからだ・・・・本当にごめん」


リリスは、首を横に振った。

「今は、リタお母さんが無事だったことが嬉しい。わたしはピーターを狙った相手をゆるせないけど、だからといって他の人が犠牲になってもいいなんて思わないわ。だから謝らないでください」


源は言った。

「サムジは、いつか自分の蒔いた種から実を刈り取ることになる。あいつは悪の種を蒔きすぎている。その報いは訪れる」


リリスは、その言葉にうなずいた。

「でも、どうして、お母さんは、助かったの?」




―――源は、リリス・パームが毒から回復して目を覚ました時、面会したが、その後、すぐに、空を飛び立った。

向かった先は、ボルフ王国だ。源は、空を飛ぶ速度も100kmを超えて飛ぶことが出来るようになっていた。空を飛んで一気に、バルト・ピレリリとローグ・プレスを連れて、ボルフ王国へと向かったのだ。昨日の会議の後の夜のうちに作った10m四方の巨大な箱を持って移動した。


ふたりには、シンダラード森林で採掘した鉄の武具を用意し、装備させて連れて行った。


シンダラード森林とボルフ王国との間に、まだ残っていた盗賊がいたが、それらも蹴散らして、その集まりを崩壊させた。多くの盗賊は、逃げていてしまった。


そして、そのまま巨大な箱と一緒に、ボルフ王国の壁を超えて、城の敷地にまで乗り込んだ。


兵士たちは、驚いて、巨大な箱と共に飛んでいる3人を追いかけるが、空を飛ぶので、手だし出来ない。


城の屋上から貴族や王族が顔を出してきた。そして、その中に、サムジを発見して、最短距離で近づく。

「うおーー!」とサムジは、声を上げた。


「久しぶりです。ボルフ王国第三王子キグダム・ハラ・コンソニョール・サムジ殿」


「セ・・・セルフィ!?ど・・・どうしたんだ?」


「前に言っていた貿易の交渉に来た。話し合いは、出来るか?」


「お・・・おう・・・そ・・・それはいいが、その巨大な箱は何なんだ?」


とサムジが言うと、源は、サムジから離れ、巨大な箱を城の庭に、その箱を下ろして、箱の外側を殴った。


バガオ!!


というすごい音がして、サムジは、ビクッと体全体で驚く。一気に箱が砕け散り、中から大量の鉄の武具が出てきた。


源は、また、三人で、サムジのところに飛んでいく。


「約束の鉄の武具だ」


サムジは、驚いて聞いた。


「鉄で武具を作って持って来たというのか?」


「ああ。そうだ」


サムジは、鉄の塊の武具をシンダラード森林から飛んで、持って来たということが信じられなくて、兵士に言った。


「おい!下の者!それが本当に鉄の武具なのか、調べろ!」


そういうと、兵士が調べて答える。


「これは間違いなく鉄の武器でございます!」


サムジは、とんでもない重量になる大量の武具を軽々と空を飛んで持ってきたセルフィを改めて、人外の存在のように感じ、困惑しながら答える。


「わ・・・わかった。すぐに準備をするから、兵士の案内する部屋で待っていてくれ」


源は、頷き、兵士に着いていく。バルト・ピレリリとローグ・プレスは、平静を装っていたが、内心は、死ぬほど恐怖していた。自分たちを殺そうとしている奴らの城に堂々と入り込んで、話をしようとしているからだ。

自殺行為にしか思えないが、レジェンドの時から話し合って、納得していた。

それに盗賊を軽くなぎ倒し、信じられないほどの速度で一緒に飛んできたふたりは、セルフィの能力に驚愕していたので、黙ってセルフィに着いてきていた。


城の中の大広間で、三人は、待たされる。


その大広間に、40人ほどの重装備をした兵士たちが入って来た。


バルト・ピレリリとローグ・プレスは、もうお終いだと観念したが、兵士たちは、20人ずつ両側の壁に並んだまま規則正しく整列しただけだった。


遅れて、女性たちが、花びらを蒔きながら大広間に入って来た。その花びらをの道を歩くように、サムジが登場し、席に着く。


「君も、座ってくれ」


と言われたので、源も、椅子に座った。バルトたちは、源の後ろに護衛するかのように立つ。


サムジは、話はじめた。


「こちらからシンダラード森林に交渉役を派遣しようと思っていたが、まさかセルフィ直々に、頼んでおいた武具を持って来てくれるとは思わなかった」


「交渉を続けるのかは、迷っていたが、別口での急用ができたからな」


「ほう。急用とは何だ?」とサムジは聞いた。


「ボルフ王国第三王子キグダム・ハラ・コンソニョール・サムジ殿、あなたとは、シンダラード森林進行の際に、協定を組まさせてもらった」


「ああ。そうだな。俺たちは協定を結んだ」


「どうやら、そのうちの1つが、反故ほごされたようなんだ」


サムジは沈黙した。何のことだろうと思いだそうとしていたのだ。


源は、話を続ける。


「後ろにいるふたりが、装備をしているのは、ボルフ王国第三王子キグダム・ハラ・コンソニョール・サムジ殿がご所望された鉄の武具だ」


「おー。それも鉄の武具なのか!」とサムジは喜んだ顔で、その装備をみて、出来の良さに納得したように首をうなずく。


「そして、協定でお互いに約束しあったものが、このふたりには、2つある」


「ん?2つ?」


「1つは、鉄の武具だ」


「うん。それは確かに約束の1つだな」とサムジは言う。


「そして、2つは、彼らは農民兵だということだ」


サムジは、少し驚いた。見事な武具の装備を着こなしていたので、農民兵だとは思わなかったからだ。そして、農民兵が協定の約束だったか?と考える。

しかし、どうして、こいつらは・・・生きているんだ?とそれも疑問に思うと・・・そうかと思った。セルフィの言っている反故された約束とは、こいつらかと少し、顔を曇らせた。


「そうだ。ボルフ王国第三王子キグダム・ハラ・コンソニョール・サムジ殿、あなたは、わたしとの協定を反故され、彼らを殺そうとした」


と言いながら、源は、右手を差し出すと、バルト・ピレリリが、50cmほどの箱を源に手渡した。


源は、その箱から、生首を取り出して、テーブルに置いた。


待機していた兵士たちが、騒めく。


サムジは言う。


「な・・・何だそれは!?」


「農民兵を殺そうとした、あなたに雇われた盗賊団のかしらだ」


「お・・・俺はそ・・・そんなことは知らん!」


源は、話を進める。


「俺はどっちでもいいんだ。あなたが知らぬ存ぜずを言い張って、彼らを襲い続けるのなら、俺は仲間を守るだけだ。そして、あの時、約束したことを俺は守る。何を言っているのか分かるよな?」


「や・・・約束??」


「思い出させてやろう」


というと、源は、立ち上がった。すると、重装備の兵士たちが、一斉に、武器を源に向けようと動きはじめる。


それをサムジが、静止させる。


「待て!勝手に動くな!」

セルフィの能力の高さを知っているサムジは、この人数だけでは、セルフィを倒せないことを知っているので、掛け声で、止めたのだ。


「何をしようというんだ?」


「ボルフ王国第三王子キグダム・ハラ・コンソニョール・サムジ殿、少しバルコニーに出てもらえるかな?」


そういうと、サムジは、源と一緒に、大広間のバルコニーに出た。


そして、源は、そのバルコニーからスーっとゆっくりとまるで幽霊のように空を飛び、途中から、もの凄いスピードで、空高くあがっていた。それをサムジは、首をあげて、見続ける。


突然空に、巨大な白い球体が、現れた。それは、もの凄い巨大だった。


半径、800mにもなろうかというほどの、巨大な白い丸いものが、城の遥か上空に数秒で現れたのだ。


それをみていた外にいたボルフ王国の兵士も、ボルフ王国の外に出ていた民たちも、みな、空に巨大な白い丸い物体が現れたのをみて、驚いた。突然、現れた山のような巨大な白い物体は、人々を動揺させた。


そして、その白い物体は、落下してきた。


ボルフ王国の人々は、それをみて、大勢が叫んだ。


「キャー」


サムジは、あの時の大岩が兵士に落ちていって、重装備をしていた者たちが簡単に蟻のように、潰された光景を思い出して、「うわー!」と声をあげた。その時の巨大な岩のさらに何十倍もあるかのような巨大な白い物体が、落ちてきたので、逃げられるわけもない。


サムジは、潰される!と思ったが落ちてこない。キョロキョロして、上を確認するとセルフィが城にぶつかる直前で、静止させていたのだ。


「思い出していただいたでしょうか?ボルフ王国第三王子キグダム・ハラ・コンソニョール・サムジ殿!!」


セルフィがそう叫んだので、サムジは、あらんかぎりの首のふり幅で、頷く。


「思い出した!思い出したぞ!セルフィ殿。解った。もう十分解った。」



それを聞いた源は、また、空高く、巨大な氷守アイスドームをすごいスピードで持っていくと、空高くから、これまた巨大な炎の玉を作り出すと、その炎の熱で、巨大な氷守アイスドームは、数秒でけたはじめた。源は、その融けた頃合いを見計らって、炎弾ファイアボールをマナに変換して、戻すと、一気にボルフ王国全土に、大量の水が、ズドドドと降り注いだ。

サムジは、また「うわー!」といって、すぐに城の内部に飛び込み、水が大量に城に降り注ぐ音を両手で塞ぎながら、声をあげてしまう。

その多くの水が、城に集中して落ちたので、岩で造られた城全体が、揺れたようにも感じるほどだった。


外にいたボルフ王国の兵士たちは、その水の量に押されて、地面に倒れてしまった。


源は、また大広間に戻り、サムジをまた座らせて、話を進める。


「ボルフ王国第三王子キグダム・ハラ・コンソニョール・サムジ殿が、約束を反故されれば、結果は、反故され望まれた結果になるでしょう。ですが、丁寧に、約束を守り、自分の大切な民を守るように行動すれば、協定はそのまま平和裏に進み、ボルフ王国の利益にもなり、鉄の武具は手に入るわけです」


サムジは、大きく首を縦に振る。


「うんうん。その通りだ。セルフィ殿の言っている通りだ。反故はいかん。反故は」


「ここにいるローグ・プレスは、農民兵の代表者です。彼があなたが協定を反故するのか、随時、調査を行い、少しでも、あなたが反故している疑いがあるのなら、わたしも協定を守ろうとは思いません。あなたが、関わっていようが、関わっていなかろうが、協定は、反故され、それがあなたの望まれる結果だとわたしはみなします。この意味わかりますか?ボルフ王国、第三王子、キグダム・ハラ・コンソニョール・サムジ殿」


「わたしが知らないところで、農民兵に何かが起これば、それもわたしたちの責任だと受け取られるということか?」


「そういうことです。協定ですから、繊細な心配こころくばりで、細心の注意を持つべきだとわたしは思うからです」


「そうだな!わたしもそう思う」


「この農民兵を助けようとしたアドベンチャーのリリス・パームのご家族、そして、農民兵のご家族も苦しめられているとわたしの調査では聞きました。リタ・パームというものが、城に幽閉されているのも知っています。これについては、どうお考えでしょうか?」


「わ・・・わしはそのことは、知らなかったが、すぐに調べて、もし、そのような正しき者が、幽閉されているのなら、速やかに解放することを約束しよう」


源は、小さく頷く。


「では、ボルフ王国第三王子キグダム・ハラ・コンソニョール・サムジ殿は、約束を守ってくださる素晴らしい人物ですから、今回持って来た鉄の武具は、すべて、貴方様に、贈呈させていただきます。お受け取りください。」


サムジは、受け取っていい物なのか混乱しながら考えるが、兵士たちの目もあるので、納得して受け取ることにした。


「そ・・・そうか。何の見返りもなく、あのような見事な鉄の武具をわたしに贈呈してボルフ王国に貢献してくれるとおっしゃるのですな?」


「そういうことです。ボルフ王国第三王子キグダム・ハラ・コンソニョール・サムジ殿。突然、押しかけた失礼も考え、どうかお受け取りください」


サムジは、手を挙げて、兵士を呼んだ。


「はやく!調べろ!リ・・・リ・・」


源は答える。


「リタ・パームです」


「そ・・そうだ。そのリタ・パームなる者が、城にいるのなら、すみやかに解放させろ」


「ハッ。解りました」


源は、言う。

「ここにいるバルト・ピレリリは、リタ・パームの知り合いですから、彼も連れて行って安心させてあげてください」


バルト・ピレリリは、兵士とともに、リタを探しに行った。

兵士は、すぐに、リタ・パームを連れてきて、解放させた。そして、バルト・ピレリリが、リタにすべて説明して、大広間にリタを連れて行った。リタも窓から巨大な白い物体をみていたということだったので、理解した。


リタがちゃんと無事に解放されたことをバルト・ピレリリの確認で把握すると源は、サムジに言う。

「ボルフ王国第三王子キグダム・ハラ・コンソニョール・サムジ殿。協定がしっかりと反故されずに守られている確認をするために、農民兵のシンダラード森林への出入りを自由にするようにお願い申し上げたいのですが、よろしいでしょうか?」


「ボルフ王国では、民は、自由に外に出入りできるようにされておるので、何の問題もない。自由にしてくれて構わない。前回、命をかけて働いてくれた農民兵、及び、農民兵の家族は、シンダラード森林の自由を許可する。そして、ボルフ王国は、細心の注意で、彼らを保護する」


源は、バルト・ピレリリを貧民地に送り届け、今までの内容を農民兵の家族に、説明するために、残された。


源は、リタ・パームとローグ・プレスを連れて、レジェンドに帰還した。


ボルフ王国では、これらの出来事は、大事になり、騒ぎ立てられた。多くの人間が招集され、どのように対処するのか検討がはじまったのだった。

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