65章 リリスの命
「重度の怪我人から並ばせろ!」と医療班が、叫ぶ。
生き残った農民兵は、87人だった。皆どこかしら怪我をして、体力も限界のようだった。
源は、ロー地区の人たちに頼んで、ロックハウスの前まで食料を持ってくるように頼んだ。
ロー地区の人たちは、自分たちが出来ることを手伝った。ウオウルフは、さらに森に侵入者が来るかもしれないので、森の中に散らばって、警戒網を張ってくれた。
盗賊たちの矢には、猛毒が塗られていて、さきほど助けた少女の腕にも、刺さっていた。レジェンドの医療班によって解毒を試みるが、毒を受けた人は、助かる見込みはないということだった。少女は、生きているのが不思議だというほどだった。相当毒に耐性がある体質だろうということだ。だが、いくら毒耐性があっても、これは助からないということだった。
農民たちの遺体でほとんど外傷もなく死んでいるのは、この猛毒のせいだということだ。
その他の怪我人たちは熱が上がっていった。熱が出るだけの体力は、何とか残っていてくれたようだ。少女も熱を今は出せていて戦っているが、熱が下がり始めたら助からないだろう。助からないと聞くとバルトという農民兵の男性が、悔しそうに泣いていた。みていてやりきれない。
食べるものは、細かく切り刻んで、口の中にすぐにいれて消化できるようにしてもらったが食べることもできない人もいた。少女も食べることは出来なかった。
その農民兵の中で、農民兵の代表者だったローグ・プレスを発見した。みんなが、彼を守てくれたので軽傷で済んだということだった。
「セルフィ様。わたしたちは、またあなたに問題を持って来てしまいました・・・本当にすみません」
「そんなことは、いいんです。ですが、よくここまで87人も無事でやってこれましたね・・・」
「リリス・パームという冒険者がわたしたちを守り続けてくれたのです。彼女は17歳の少女です」
さっき助けた女の子だろうと思った。農民兵から俺の名前を聞いていたのだろうと推測される。アドベンチャーというものにも、彼女のように味方がいるということだ。
源は、ローグ・プレスから、農民兵がボルフ王国に帰ってからの出来事を聞かされた。
生き残った農民兵が次々と謎の死を遂げはじめ、その謎を解いて、農民兵をボルフ王国から脱出させたのが、冒険者のリリス・パームだということだった。
手紙などで、農民兵たちに情報を流し、助けた。脱出するときに、はじめて、彼女だということをローグ・プレスも知ったという。
シンダラード森林での失態を知る農民兵は、ボルフ王国の不信感を広げていくだろうと疑惑を持たれ、ボルフ王国の郊外で闇討ちされ続けたので、シンダラード森林に逃げ込もうとした。だが、そのことも読まれていて、ボルフ王国とシンダラード森林の間に、100人以上の盗賊が、雇われ待機していたということだった。
その中をほとんど武器とも言えないような農具だけを持った農民兵190人が突破して、生き残ったものたちが、ここまで来たのだ。
その貢献者であるリリスは助からないということが農民兵の中に情報が広がると、大勢が泣き始めた。
ここまでこれたのは、リリス・パームのおかげで、リリスがいなければ、ひとりもたどり着けなかっただろうと嘆く。
「リリスちゃん。頑張るんだ」という声が広がる。
バルトという男は、医療班に、「どうにかして助けてくれ!!」と懇願する。
だが、リリスは、今にも息を引き取ってしまうほど、衰弱していた。
このリリス・パームという少女は、動物を操り、農民兵を守り続け、ここまで連れてきた。そして、この求心力。17歳の少女は、特別に恵まれた才能を持っているのだと思い何とか助けたいと源は思った。
『源。こちらに近づく生き物がいます』
『また、盗賊か?』
『解りませんが、人間は少ないようです。源』
今度は、モンスター系の盗賊かもしれないと源は思った。そうであれば、人間よりも身体能力は、上になるだろうと予想される。
「みなさん!また、謎の集団がこちらに向かってきています。ウオウルフを護衛に付けますが、もしもの時は、わたしたちの村に退避してください。ここでは守りきれないと思います。その時は、動けないものたちは、可哀そうですが、ここに残していきましょう」
少女が、命をかけて、ここまで助けた大勢の生き残りなのだから、ここでまた死ぬ者が出たら、悔やむことだろう。置いていくのは、可哀そうだが、彼女も本望だろうと考えた。
源は、ウオウルフ10匹を連れて、こちらに向かって来ている集団に近づいていく。
黒い影は、確かに動物のようだ。様々な生き物の集団で、動物に乗る3人の人間の姿を愛の仮想映像で確認する。近づくほどに、明瞭にその姿が現される。
サーベルタイガーに乗った人間と巨大な鳥に掴まって飛ぶ人間。そして、ユニコーンに乗った人間。その三人はみな小さめの体をしている。その他あらゆる動物を8体ほど連れている集団だ。
それらの動物たちは、装備をしてはいないので、ウオウルフでも戦えるとは思うが、こちらも無傷では済まないだろうと思えた。
「みんな気を付けろ。色々な種類のモンスターを従える3人との戦いになるぞ」
「ウオウオゥン」
とウオウルフ10匹は吠える。
すると、その集団が、突然止まった。
自分たちが近づいてきているのに気付いたのだろう。
源たちも、スピードを落として、警戒をしながら、さらに近づく。
だが、動物たちを操っている3人は、両手を挙げているようだ。
「みんな、勝手に攻撃はするなよ。もしかしたら、盗賊じゃないかもしれない」
ゆっくりと近づき、視認できた。
大きな声で叫んできた。
「リリス・パームの家族。リタ・パームに依頼され、リリスを助けに来ました。この森にリリス・パームはいるのか知りたい!」
あの少女の家族と名乗っているが、それが本当のことなのか分からない。でも、少女は動物を操ると言っていた。この人たちも動物を操っているようにみえる・・・。そうであれば、リリスの家族の知り合いの可能性はあると考えた。
どうにかして、確かめる方法を考える。
「あなたたちが、リリス・パームの敵ではないことは証明できますか?」
「僕たちは、リリスと同じように動物を操ることができます。これは、特殊な能力で、これは世にもそれほど広まっていない能力です。仲間だという証拠になるでしょう」
だめだ。俺にそれを精査する知識がない。動物を操ることが特殊なのかが解らない。今、信用できない相手を治療で忙しい状況のあそこに連れて行きたくもない・・・どうすればいい・・・見た目や話し方からすると悪い人間にはみえないが・・・それが罠かもしれない・・・
『源。あの方の仕草や表情、目の動きなどでは、嘘を言っていないと判断できます』
そうか。愛なら嘘かどうかを見抜くことができる。
『心拍音なども含めたら、嘘ではない確率もあがるか?』
『はい。測定しながら、発言してもらえば、限りなく100%の判断ができるでしょう。』
源は、大きな声で聞いた。
「あなたたちのうちひとり、武器を持たず、両手を挙げて、こちらに来てもらえますか?」
先ほど、話した男性が、武器を見えるように下に置いて、何も持たずに手をあげて近づいてきた。
「すみません。あなたが嘘をついているのかどうかを確かめたいので、胸に手を当てさせてもらって質問してもいいでしょうか?」
「それで解るのならそうしてください」
男性の胸に手を当てて、心拍を感じた。
「これから私が質問しますから、出来るだけその質問を詳しく長めの言葉で、回答してください」
「分かりました」
「あなたは、本当にリリスの仲間ですか?」
「リリスとは会ったことはありません。だが、リリスの育ての親であるリタ・パームは、わたしの知り合いです。そのリタ・パームが、今回、リリスの危機を我々に教えてきたので、急いで助けにきました」
『どうだ?』
『嘘はついていません。源』
「すみません。解りました。あなたは、嘘をついていません。わたしたちに付いてきてください。ただ、残念ながら、リリスは、毒の矢を腕に受けて、わたしたちでは、助けることができないかもしれません。その毒は、猛毒です」
「毒?早く連れていってください!」
「わかりました」
源は、森の中を先導して、連れて行った。
先ほどの男が、人々の中からリリスを探しだし、近づいていく。念のために、源もそれに着いていく。
男は、医療班に、リリスの知り合いだと言って、リリスの傷を診始める。
腕の傷をみると、匂いを嗅いで、何か確認している。
「ライム、巨樹系毒消し草を持ってきて」
ライムと呼ばれた青年が、動物に乗せていたカバンの中から箱を持ってくると、先ほどの男が、箱から緑色の粉を手に取り、その粉をリリスの口に入れ、傷口にも刷り込む。リリスは苦しそうな顔をしたが、少し時間が絶つと、呼吸が安定し、心拍の速さも落ち着いてきた。
その後、男は、色々調べながら、ポーションのようなものもリリスに飲ませた。そして、両手を広げて、目をつぶったかのように思うと、彼の体がうっすら光りはじめ、その光りをリリスの体へと渡していくような措置をした。
「リリスは助かるのか?」とバルトが聞く。
「リリスなら大丈夫でしょう。助かります」
「本当かー!!ありがとう。」バルトは涙を流す。
他の農民兵もほっとした雰囲気になった。
農民兵をここまで守り抜いてきた不思議な少女リリスとその知り合いという3人の男たちは、どういう存在なのだろうと思わされる。医療班でも無理だと言った治療まで出来るのは、すごいことだ。彼らが来なければ、リリスという少女は助からなかっただろうと思った。
源は、治療が落ち着いたので、リトシスで、一斉に人々を飛ばし、レジェンドまで連れて行った。そして、建物でゆっくりと人々が休めるように手配した。食べ物も、外に立食パーティのように並べて、農民兵たちだけが、体力回復のために、いつでも、飲み食いできるようにした。食べることもできない人たちは、医療班が、付きっ切りでついて、お湯を飲ませたりして、回復をはかる。
レジェンドにまで来たら、守りは万全なので、もう無事だということを教えて、精神的にも、安心させた。
夜は、ウオウルフに、いつもの倍の警備を敷かせた。