63章 心と体
どうやら、俺の属性は、火ではない可能性が出てきた。水系マナだと思われた青い封印の珠は、氷系マナの氷守だった。炎弾も大きかったが、今回のマナの巨大さは、それ以上だった。本当の自分の属性は、何なのかは分からないが、保有している俺のマナの量は、半端ではないらしい。
氷守は、知られているマナで、使用できる者も多いそうだが、その規模が違うので、まったく違うマナのようにも思われてしまうほどだ。
使いようによっては、攻撃に使えなくもないと思える。
ただ、問題は、造り出した後に、炎弾のようにマナにまた戻すことが出来ないことだ。源のアイスドームは、距離が離れすぎていて、マナを放出してしまっている状態になるようだ。近場で、氷守を作ろうとするが、どんなに小さく作ろうとしても、遥か上空から、氷が出来始めてしまう。
熟練度によってこういった誤差は、解消できるのかもしれないが、今は使えるマナだとは思えない。
あんなに上からわざわざ攻撃してくれる敵などいないからだ。
何度か試して練習し、熟練度をあげていかないといけないと思われる。
この氷守もそうだが、司祭様がやたらと優しい笑顔ばかりで接してくるのが、とても怖い。ゴジラを作り出したこどもでも、わたしは受け入れてあげますよといったような精神的に、超越した存在のように源には、司祭様がみえる。
そんなものまで受け入れられても、こちらが困る。
どうも、手をかざした位置の遥か向こうから、氷守が作られていくみたいだ。内包しているマナを基準に位置が決められているのか、それともただ、自分の熟練度の無さなのか、分からない。普通、氷は空中に留まることはないが、素早く空気が冷やされ空気中の水が凍り付いていくその速度も半端ではないようだ。ほとんど一瞬で氷は生成されるということだ。
源は、その一瞬のさらに一瞬で、マナ力を止め5m四方の巨大な氷をマナで作り出しては、落としての繰り返し、練習をする。マナを制御しょうとしても、どうしても、その大きさになってしまう。氷守の特長でもあるのかもしれない。
生き物が巨大な氷の下にいたら危険なので、何度も試すこともできない。
氷守は、どう利用するかは、追々考えることにした。
何にしても、遺跡に数日籠って、いくつもマナを手に入れるということを繰り返してもいいかもしれないと源は思っていたが、早計だったかもしれないと考えた。
もし、どんなマナであっても、自分のマナの保有量によって効果が違うのであれば、マナをいくつ保持しているのかで、自分の力はまったく変わって来る。
司祭様から聞くと、アイスドームは、難易度2というマナだという。炎弾は難易度1だ。1と2であっても、これだけの効果があるのなら、やはり、封印の珠を集めて行くことを優先しても、いいかもしれないと思ってしまうが、怖いのは、効果がありすぎることなのだ。さらにマナの熟練度がまったく伴っていないので、初心者マークの人がF-1や戦闘機のマシンに乗るようなものになってしまっているのだ。マナの種類を沢山手に入れたはいいが、ふいに寝ている時にでも発動して、自ら仲間を傷つけてしまったなんて話は、シャレにもならない。
今持っているマナで、練習を繰り返し、熟練度をあげてから、マナを集めたほうが安全かもしれないのだ。
熟練度は、そのマナの使い方の上手さのようなものだから、違うマナを手に入れたら、また、そのマナの熟練度をあげていなければいけないと司祭様が言われるが、他のマナとの共通点もあるはずだと源は思った。
火のマナをマスターすれば、氷のマナにも少しは、応用ができるということだ。
それぐらい慎重に歩んでいかなければ危険だというほど、自分のマナの保有量が半端じゃない。もしかすると、こんな悩みを抱えたこの仮想世界のプレイヤーは、自分だけじゃないのか?とさえ思える。
マナの種類を集めたいが、当面はやめておこう。
優先順位は低いので、あまり考えてはいないのだが、源は、本当は、科学の実験に挑みたいと思っていた。もともと、科学者という仕事をしていたので、こちらの世界でも、その法則が適応されるのかも知りたかった。
ただ、趣味趣向をしている場合ではない状況なので、後回しにするしかなかった。熟練度を挙げること、基礎レベルを上げること、この世界の情報を集めること、レジェンドの守りの強化などの影に埋もれてしまう。
また、源は、みんなの生活に役立つ手助けもしなければと考えていたので、レジェンドの村を回って、村のみんなの様子みていた。
すると、遠くからこそこそ隠れて、源を見る視線を感じた。
あれは、サムだった。サムとエマが、隠れながら、源をみていた。源は、その視線に気づかないふりをしながら、建物で視線をさえぎると、すぐに空を飛んで、サムとエマの後ろに上からまわって、「わ!」と驚かした。
「わー!!」といって、サムは両手をふにゃふにゃとバタつかせる。
その変な動きに、源は笑った。
「驚きすぎだろ?サム。元気だったか?」
「前にいたのに、急に後ろから現れるから・・・ぼくは元気です。セルフィ様!!」
と大きくて高い声で返事をしてくれた。
「サムとは友達なんだ、敬語じゃなくいい」
少し困った顔で言う。
「そんなわけには・・・お姉ちゃんに怒られちゃうし・・・」
「ニーナは、どうしてるんだい?」
「お姉ちゃんは、勉強してます。セルフィ様のお役に立ちたいからって頑張ってますよ」
「そうなんだー。嬉しいなー。ニーナは、しっかりしているからこれからも村に貢献していってほしいよ」
「セルフィ様は、お姉ちゃんが好きなんですか?」
「ああ。好きだよ。はじめての人間の友達だからね」
「じゃーいつ結婚するんですか?」
「ぶッ」と噴き出してしまった。
「いやいや、そういう好きじゃないよ。友達として、サムやエマと同じで、好きってことだよ」
源は、久しぶりに、楽しく話が出来た気がした。ここに来てから、必死すぎて、何が何やら分からない状態が続いて、ユーモアが失われかけてると思っていた。
ユーモアを失うと頭が硬くなって、悲観的になってしまうのが、いけないからだ。
サムとエマは、源の手を繋ぎながら、村を歩く。
「セルフィ様は、すごいですよね。あんなに大きな壁もすぐに作ってしまわれるんですから」
「まー普通じゃありえないよね・・・神様からそういう賜物を頂いたのさ」
と適当に、源は答える。
サムやエマでさえ、自分を凄いと思うほどなので、源は、出会う人出会う人が、特別な目で自分をみてくるようになっていた。源はそれが、少し嫌だった。やっていることが異常なので、そんな目で見るなというほうが無理なのも十分わかているが、最近は、ロックさえも、俺を特別にみはじめていたのが、嫌だった。
ふたりは、村人の人たちに挨拶しながら、歩く。
「ウィル叔父さん、こんにちわ」
「おう。こんにちわ。セルフィ君、今日は、散歩かい?」と言ってきた。
なんだか、源は、『君』で呼んでくれたことが、新鮮で嬉しかった。
「はい。そうです。ウィルさん」
「セルフィ君も大変だねー。まわりは色々言ってくるだろ?」
「そうですね・・・まーしょうがないですよね。俺が変なことばかりするからですよ」
「そんなことはないさ。君ぐらいの子が、ここまで頑張らさせられるなんて、おかしい。救世主とか言われて、プレッシャーも多いだろ?」
源は、ズバリ言われて、無言で、微笑むだけになる。
源のその態度を見たためか、ウィル叔父さんは、源に近づいたと思うと、源の頭を撫でながら、抱きしめてくれた。
「いいんだよ。君みたいなこどもが、頑張りすぎることはない。君がいる。そのことに意味があるんだ」
と優しく声をかけてくれた。なんだろ・・・何だか懐かしい気がした。こんなふうに抱きしめられて、励まされるなんて、小さい頃のお父さんやお母さんに甘えていた時以来じゃないか?と思わされた。不思議と懐かしい気持ちで包まれる。
源は、何だか分からないが、張り詰めていた気持ちを受け止めてくれたように感じた。不思議だった。今の姿は、こどもだから、ウィルさんは、こどものように接してくれているんだと思うけど、何だか、俺までこどもに戻った気分にさせられた。
愛と離れ離れにされて、未来の道を閉ざされ、こんなところで、意味があるのか、無いのか分からないまま、急かされるように頑張って来たが、俺はただの人間で、言われるような救世主みたいな大げさなものじゃないという気持ちを分かってくれた気がした。源の目から涙がこぼれた。
「あり・・・がとう・・ございます」と源は、小さく言った。
サムは、なぜセルフィが泣いているのか分からなくて、ポカンとしていた。
「ウィルさん・・・何だか、張り詰めていた気持ちをゆるめることが出来た気がします。ありがとうございます」
「そうか。俺たちには、能力がなくて、君に頼ってしまうけど、君がすべて責任を負う必要はないんだ。心も体も無理はするなよ」
源は、嬉しさで心から笑顔で頷いた。
すると、突然、警戒音が、鳴った。
源は、顔を振って、涙を指で拭き、思考を集中させる。
『源。あの警戒音の音は、北からの侵入者です』
『北か。ボルフ王国方面から来た何者かだな』
レジェンドから北は、以前の源たちがいたロックハウスの場所になる。そのさらに北側の森にも、警戒ロープをしかけた。それにひっかかり、あの付近に、何かが入り込んだと思われる。
源は、空を飛んで、高い位置に設置させた鉄の板を木のハンマーで、鳴らす。
この音が聴こえたら、レジェンドの生き物は、警戒態勢の準備を整える。一斉にウオウルフが、洞窟から目覚め、ボックスの前に並び、村人たちが、ウオウルフたちの装備を装着させた。