61章 狼王の遺跡
レジェンドの村を作り始めて数カ月が経過し、着々とレジェンドは形になってきていた。
ウオウルフのコミュニティは、法律や規律といったものは、ほとんどなかった。言葉ではない文化としての営みが主体だったからだ。
なので、レジェンドの村長の役目は、司祭様に頼んだ。
村を長く運営し、規律を求めるのは人間なので、ロー村の司祭様にまかせることが、一番適しているだろうと考えたからだ。そして、ロー地区の地区長はボルア・ニールセンになった。
源は、そのアイディアや自由な発想。また大切な場面での決断を任された。結局、全体的なレジェンドの責任は、源にのしかかるのだ。
平和であれば、源は自由であって、普段の生活は、司祭様や村人にその運営をまかせればいいわけだ。
ただ、源が強く願ったのは、1つ。教会の設立だ。毎週教会で、司祭様によるメッセージを行ってもらい。人々の価値観の一致を促すことを提案した。これは、どれだけ強くなる手段よりも大切で、法律や学問よりも優先するものであることを現世で生きていた源は理解していたのだ。
龍王の意思である伝道者の書を中心に、その内容や意味、世界のことなども司祭様から毎週学ぶという習慣を作るのだ。
そして、伝道者の書の複製を作り、配った。ウオウルフには、読めないが、書は配られた。誰でもいつでも、伝道者の書を読めるようにしたのだ。
習慣を身に着けることは、一瞬ではできない。毎日水をやるように時間をかけて植物のように育てていくしかない。
また、教会は、学校の役目をするようにさせた。あらゆる知識を教会が開示して、情報を村人に与えて行く。道徳を固定させながら、発展にも貢献していくことが理想だ。ウオウルフたちも、こどもたち同様に、文字の読み書きを勉強させるようにした。
ウオウルフは、知的モンスターなので、知識を増やしていくことは可能だからだ。文字を書く方法は、口に筆を咥えることになるので、なかなか難しかったが、読むことや話すことは、徐々にウオウルフたちも出来るようになるだろう。ウオガウや前長がいい例だ。
そして、しなければいけないと思っていることは、源やロック、そして、ウオウルフやロー村で戦いに参加するものたちの能力の向上だ。
いち早く、能力の向上を目指すのなら、遺跡探検だろう。
遺跡のモンスターを倒して、基礎レベルをあげながら、マナやスキルをも手に入れることができる。そうやってレベルをあげて、村の能力をあげていくことは、安全の確保と未来につながる。
レジェンドを襲おうとしてくる森のモンスターなども、もちろん、出てくるとは思うが、それを排除しているだけでは、向上のスピードが違ってくる。
シンダラード森林には、5つの遺跡があるという。
森の四隅を囲んだようにある4つの遺跡と森の中央にある大きな遺跡だった。普通の森には、遺跡は1つあるか、ないかという割合で、存在しているらしいが、シンダラード森林はそれが5つもあるので、モンスターの出現率が高く、ボルフ王国であっても、入り込もうとはしてこなかった。その遺跡の1つ1つから生き物が生まれて行くのだ。モンスターが生まれ出ることもあるし、人間も生まれることもある。ロー村の村人が、マナを持っているのも、遺跡を利用していたからだというわけだ。レジェンドでも遺跡を利用すれば、能力の向上につながるはずだ。
そして、またしなければいけないことは、情報を得ることだ。司祭様や前長だけではなく、世界の街々をまわったり、龍王の意思を集めるなどをして、情報を集めなければ、この間のように、突如、国レベルで攻めこまれても、対処ができない。ボルフ王国だけではなく、他の国の情報、世界情勢を知って、どの国が危険で警戒するべきなのかを知ることが大切だろう。
やることが、無数にありすぎて、困ってしまうが、1つ1つ解決していくしかない。
そして、今すぐその1つが出来ることがある。それは、狼王が残した封印の珠だ。
あの封印の珠は、青色系の色だったので、水系のマナが入っていると思われる。このマナをレジェンドのだれかが持てば、また戦力の強化になるからだ。
源は、ロックとウオガウ、そして、ボルア・ニールセンを呼んだ。
「ロック。そして、ウオガウ。ボルア。」
「何だ?はじ・・・じゃなくて、セルフィ」
ウオガウとボルアも源の場所にやってきた。
「セルフィというのもそのうち慣れるさ。ロックとボルアには、まだ話していなかったが、実は、このレジェンドに、もう1つの封印の珠があるんだ」
ロックが驚く。
「そうなのか!?」
「うん。ウオウルフが守り続けてきた遺跡の中の壁に、はめ込まれているんだ」
それを聞いてロックは、少し険しい顔をした。
「それって、例のトラップじゃないのか?」
「そうなんだ。俺も最初の遺跡のような封印の珠を手に入れるためのトラップが仕込まれている可能性があると思って、今、ロックとウオガウ。そして、ボルアを呼んだんだよ。前回取らなかったのも、ロックがいなかったからだ」
「なるほど、今度はしっかり取りに行くってわけだな?」
「そう思うんだが、ロックとウオガウ。そして、回復マナが出来るひとがいてくれれば、大丈夫だろう」
ウオガウは言った。
「わわわたしたち・・・ウオウルフはわ。しゅ集団のほうがつつよくなります・・・ほかのものもも呼んでもよよよろしいでしょうか?」
「ああ。そこは、ウオガウに任せるよ」
ボルア・ニールセンが伝える。
「回復マナならわたしも1つ使えますので、わたしが行きましょう」
源は少し悩んだ。
「うーん。君はリーダー格になる重要人物だからあまり危険に関わってほしくないんだよね・・・」
「わたしは、これでも司祭様の後任を期待されている身なので、将来は、研鑽を積むために外に出ることにもなります。ですからマナはいくつか持っているのです。それだけの経験も積んでいます。ですから、お役に立てるはずです。」
司祭様も、若い時は、世界を回ったと言っていた。後継者のボルア・ニールセンも旅の間は、ロー地区を誰かに任して、その道を歩むのだろうと思った。考えを改めることにした。
「そうなんだ。それは期待できるね。ウオガウ。ウオウルフを一匹、ボルアの警護として、つけてくれ。だから、ウオウルフは、君を入れて4匹かな」
「わわわ・・・わかりました」
「ちなみに、ボルアが持っているマナは、どんなマナなのか教えてもらえるかな?」
ボルアは、答える。
「わたしが持っているマナは、先ほど言った回復マナの回復と相手に眠気を与える睡眠。そして、相手の視力を低下させる視力減少 ローです」
「回復。眠気。視力低下か。支援系のマナを多く持っているんだね」
「はい」
「よし、じゃーまかせたよ。でも、あまり無理しないで、戦いは、俺たちにまかせてくれていい。戦いが終わった後で、傷ついた者がでたら、回復するぐらいでもいい。戦いの最中に回復して注意散漫になられても守りきれるか分からない」
「分かりました。無理は致しません」
「それじゃー各自、それぞれ10分で準備を済ませて、ウオウルフの洞窟前に集合だ」