59章 レジェンド
大猪ビックボア200匹に乗った脱出劇が繰り広げられる数カ月前のシンダラード森林に遡る。
何かの生き物の赤い血を顔面に塗りたくり、怒りの表情で、ウオウルフの殲滅を行おうとしたコボルトリーダーは、ウオウルフのリーダーウオガウとの一騎打ちで、敗れ去った。
森に静寂が戻り、コボルトとウオウルフの長年の因縁もこれで終止符を迎えた。
コボルトたちにとってこの襲撃の時期に、源という存在がいたことは、不運としかいいようがない。
能力がないだけ数でものを言わせようとしたコボルトの作戦は、源によって打ち砕かれたのだ。
農民兵もボルフ王国に無事に帰って行った。
源は、しなければいけないことが、山積みだった。コボルト4000匹の奇襲のような襲撃で、多大な被害を被ってしまったのも、準備不足だったからだ。
源ならリトシスや愛を使えば、短期間で、効果のある準備が出来たという事実があったので、今出来る準備を考えて実行しようとしていた。
農民兵もいなくなると、源は一日中、ロックハウスに閉じこもるように、愛と計画を建て始めた。ハウスの中には、ロックもフォルも入るのを躊躇した。
源だけに考える時間をあげたいという思いやりがあっがからだ。
まずやるべきことは、安全の確保だ。そして、それに問題なのは、守るべき場所が、3つもあることだった。
1、ロックハウス
2、ウオウルフの住処
3、ローの村
それぞれの位置関係は、悪くはない。
丁度、二等辺三角形のような形で、それほど距離も離れていなかったからだ。だからと言って、離れていることには、違いない。
そして、問題の2つは、装備の準備だった。
まず、源たちの全体のバランスは、悪くは無かった。
1、源とロック 単独であれば、森では、ほとんど負けない安定さがある
2、ウオウルフ 単独であれば、負けることもあるが、集団になり、装備をすれば、攻撃力がシンダラード森林の中でもトップクラス
3、ローの村人 マナやスキル、知識や道具を使った知恵のある戦いができ、回復まで出来る。
1、だけで生きて行くのなら、何とでもなる。
だが、3のロー村の場合は、攻撃力が足りず、不安なところがある。
そして、2のウオウルフにも、弱点があった。それは、四足歩行をする生き物という不利で、せっかく素晴らしい装備があっても、それを装着できる手段がないのだ。
前回は、源とロックが、ウオウルフの鎧が出来る度に、そのウオウルフに鎧を着させていた。
そして、灰色の毛を黒く墨で塗ってくれたのは、ロー村の人たちだった。
このように手を使った作業などはウオウルフは苦手なのだ
守るべき場所が3つあること、そして、それぞれの弱点のことについては、リーダーたちで集まって話し合う必要があった。もちろん、考えることは、まだまだあるが、まずはこの問題を話し合おうと考える。
そこで、ロー村の代表二人、ウオウルフ代表二匹、源とロックで、ウオウルフの住処で話し合うことにした。前長が動けないからだ。
ロー村からは、司祭様と若いロー村の代表者ボルア・ニールセンが出席。
ウオウルフからは、ウオガウと前長が出席することになった。
司祭様とボルアは、少し緊張ぎみで、参加をはじめた。それも当然で、シンダラード森林の強いモンスターであるウオウルフの住処に来ているのだから、慣れるわけもない。
司祭様は、はじめて前長と再会をはたし、深々と頭を下げて礼儀を示した。
龍王と狼王の話のやり取りがなされて、司祭様も、前長も機嫌よく、とても平和的な会話をすることが出来ていた。
そして、会議をはじめることになった。
この集会を促した源が、進行して、3つの守る場所とそれぞれの弱点をテーブルの上に置いた簡単に造られた模型を使って提示した。
それを聞いた司祭は、頷きながら、話をする。
「なるほどですじゃ。確かに3つの場所を守ることは大変でしょう。前回も、セルフィ様が、ロー村に居た時に襲撃をされたので、その間も被害が増えました。また、3つのうち1つを突然攻撃されても、そこに救援にいくまでに、被害が出てしまうと思われるのは、ごもっともですじゃ」
源も意見を言う。
「だからといって3つを1つにすることも難しいです。ロックハウスは、簡単に移動できるのでいいのですが、ロー村は、龍王の意思を守り続けなければいけません。そして、ウオウルフもまたこの洞窟を守り続けなければいけないからです。ロー村も動かすことが、出来なければ、ウオウルフの洞窟も動かすことはできません。ですから、いい案がないのかみなさんに聞きたいのです」
すると、司祭様が話し始める。
「セルフィ様は、ロー村は、移動できないと思われていますが、そうではありませんのじゃ。ロー村は、もともとシンダラード森林にもなく、移動しては良い場所を確保して来た村なのです。神殿にしても、木材で造られ、移動可能なのですじゃ」
「そうなのですか!?」
「ウオウルフの洞窟は移動は出来ないでしょうが、ロー村は、移動できますのじゃ。ただ立地的に、暮らしていけるのかが問題ですじゃ」
「立地に必要なものは、何でしょうか?」
「それは、水そして、土地の広さですじゃ。水は生きて行くことや生活に必要不可欠です。そして、土地は、農業をするためにも、必要になってきますじゃ」
ウオウルフの前長が話す。
「水であれば、ロー村の横を流れる川が、ここにも繋がっています。土地については、洞窟の後ろは、岩だらけですが、全面は、森になっています。ウオウルフからすれば、これらの木は洞窟を隠すものですが、セルフィ様やロー村の方たちが一緒に守ってくれるのであれば、隠す必要もなくなるでしょう」
源が言う
「木は伐採して、根から掘り出せば、土地になり、畑を作ることが出来るようになるでしょう。それではダメですか?」
司祭は答えた。
「やってみなければ分かりませぬが、今のロー村の場所も、もともとは森の中を伐採して、建てられた村ですじゃ。セルフィ様たちもおれば、出来るはずですじゃ」
それを聞いて安心して、源も話を進める。
「ロックハウスは、移動式で、簡単に持ってこられるので、問題はありません。なら、この場所、ウオウルフが住んでいる場所を開拓改築して、共同の村を作っていきませんか?」
ウオウルフ前長の許可も得て、集まった全員が、賛成してくれた。
源は続ける。
「そうすれば、2つ目の問題もほとんど解決です」
ロー村の代表者、ボルア・ニールセンが聞く。
「2つの目の問題というとそれぞれの弱点ですね?」
「そうです。わたしとロックは何とでもなりますが、ロー村には、攻撃力がなく、そして、ウオウルフには、優れた装備はあっても、その装備をすぐに着ることができないという弱点です。これが、ウオウルフとロー村が一緒に住むことになれば、一気に解決できます。
ウオウルフは、装備をすれば、この森は当然ですが、森の外でも、ほとんど負けない力を持つのではないかと予想されます。ですが、鎧を着るための手段がありませんから、準備ができないのです。一生、鎧を装着し続けるわけにもいきませんからね。それをロー村の方たちが、ウオウルフたちに装備をする手伝いをしてくだされば、解決です」
ロックが言った。
「ウオウルフが兵隊ならロー村が生活を支援する市民といったところですか」
ウオウルフ前長も話す。
「ウオウルフは、狩りの名手でもあります。戦うだけではなく、日ごろからも、狩りをして、ロー村の方たちにも提供できるでしょう」
司祭様は喜ぶ。
「おー。それは助かりますじゃ。ロー村もウオウルフの方たちの服を用意したり、体を洗うなどの手伝いをしたりも出来るはずですじゃ」
みながそれぞれ出来ることと提供できることを言い合い、前向きな姿勢を見せ始めたのを源はみて、安心した。もっと反対意見なども出るだろうと思っていたが、それぞれ妥協点を持って冷静に話し合いが出来ていると思えた。
源は、やることを話す。
「では、はじめにやることは、まずは、ロー村とロックハウスの引っ越しになりますが、そのための広場づくり、森林の伐採開拓ですね。ロー村の家を壊さずに、わたしなら、一斉に、家を移動できます。今ある家やロー村の生活が、この土地でも可能になる計画を作れる人。そんな人をロー村側からひとり派遣してもらえるでしょうか?」
司祭様は、言う。
「では、その役目は、ボルア。お主がしておくれ」
「はい。司祭様。この土地を調べて、どれほどの広さが必要で、川との位置関係も計算した計画書を速やかに作成します」
源は、ウオウルフに頼む。
「ウオウルフは、引っ越す必要はなく、特に変わることはないと思うから、ロー村が引っ越しで大変になるので、その間の食料の確保などをしてもらえるでしょうか?」
ウオガウは、頷く。
「はははい。せせセルフィさま・・・おおま かせくださささい・・・」
源は話を続ける。
「では、わたしは、ボルアさんの計画書を待ちながら、この土地の防衛の強化のアイディアを練ろうと思います」
ボルアが、意見をいった。
「最後に、セルフィ様たちセーフティエリアとウオウルフとロー村の3つが、合わさったこのコミュニティの名前を決めませんか?」
司祭様をはじめ皆が、確かにといった雰囲気で、その意見に賛成した。そして、その名前の決定権があるのは、といったように源に視線が注がれる。
また、俺かよ・・・と源は思った。
「うーん・・・新しいコミュニティ・・・ウオウルフとロー村に共通して納得してもらえる名前・・・・じゃー『レジェンド』というのは、どうでしょうか?伝説という意味です」
「おー」っと声が上がった。
「伝説ですか。龍王の意思と狼王の意思も加わった村の名前には、ふさわしい名前ですね」とボルアは、言った。
源は、付け足して言う。
「ローという名前も消さずに、レジェンドの中のロー地区という意味で使ってはどうでしょうか。うちもロックハウスという名前は残したいですしね」
「そこまで考えてくださって、セルフィ様はお優しいですじゃ」
と司祭様は、目に涙を溜める。
源は、泣くほどのことではないと思うけど・・・とその信仰心的な態度に困るのだった。とにかく、新しいコミュニティ、『レジェンド』の歴史がここから生まれるのだと源は思った。