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57章 突入

ピーターを殺した計画に乗ったうちのひとり、冒険者アドベンチャー仲間だったマックル・セスドを殺害するしかなかったリリスは、夕方まで想い悩み落ち込んでいた。リタも、リリスを励ますが、乗り越えるのは、リリス本人にしかできない。


すると、夕日から夜に変わる頃、イール・ポゲルが、勢いよくリタ商店のドアを開けて慌てた様子で入って来たかと思うと、数秒遅れてバルト・ピレリリも、同じように慌ててお店に入って来た。


「大変だ!」


リタは、聞く。

「どうしたの?」


「今すぐ、みんなで、シンダラード森林へ向かうぞ!」


「どういうこと?」


「ボルフ王国に動きがあった。城から十数人の兵士がこっちに向かってきている。途中で、声をかけて聞いたら、リリスちゃんが、郊外連続殺人の犯人だとして、連行しにいくと言っていた!だから、早くここから出るんだ」


リリスは、なぜなのか理解できなかった。

マックル・セスドは、痕跡を全部消したと言っていたのに、こんなにも早く手が回るなんて、思いもしなかったからだ。

それは、リタも同じだった。

リタは、リリスに気合を入れるように、リリスの両腕を掴んで立たせると、しっかりした口調で話しかける。

「リリスいい?集中するのよ。これからあなたは、なるべく多くの農民兵を連れて、シンダラード森林に逃げ込みなさい。そして、安全に住める場所を確保するのよ」


リリスは、涙を拭いて、頷く。自分の行動によってどれだけの農民兵が生きてシンダラード森林に到着できるのかが決まる。

「分かったわ」


「リリス。最後に、あなたは、ケイトの意思を受け継ぐ子よ。絶対に死んではダメ。誰が犠牲になっても、何が起こっても、あなたは生き残りなさい!そして、森の少年には気を付けなさい。信用したらダメよ。人はいつ悪に落ちるのか分からない。自分でさえも完全に信じてはダメなのよ」


リリスは、何だか、リタが最後の言葉を言っているように聞こえて質問した。


「リタ叔母さんも、来るんでしょ?」


「わたしは、ここに残るわ」


それを聞いて、バルトもイールも、もちろんリリスも驚いた。


「どうしてよ!?」


「いい?誰も残らなかったら、そのシワ寄せは、農民兵の家族に向けられるのよ。でも、わたしが残っていれば、彼らの怒りはわたしに向かわせることが出来る」


それを聞いて、バルトは首を振りながら発言した。


「それはダメだ。リタさん!あなたたち親子は、自分を犠牲にしすぎる。これ以上、あなたたちを俺たちの犠牲になんてさせられない!」


それを聞いてリタは大きな声で反論した。


「バルト!聞きなさい。あなたたちが一斉に消えて、わたしも消えたら、あなたたち家族、数百人が何をされるのか分からなくなるのよ?1人の命と何十人の命を取るとしたら、あなたは、どっちを取るの!?答えなさい!」


バルトは、リタの強い想いを聞いて、歯を食いしばって、とても険しい顔をした。反論できない。


バルトが、イールに言った。

「行くぞ!イール!」


バルトとイールは、リリスの腕を掴んで、連れて行こうとする。


「待って!お母さん!お願い。一緒に来て!お母さん!!」


すがるような目をうるわし、泣きながらリリスは、叫ぶ。体は感情を制御できなくて、小刻みに震えている。


「わたしお母さんがいなくなったら、生きていけない!!」


すると、リタは、リリスに近寄り、顔をおもいっきりひっぱたいた。


「しっかりしなさい!あなたは、ケイトの意思を受け継ぐ子だと言ったでしょ!あなたなら、乗り越えれる!」

リリスは、はじめてリタに叩かれ、その怒鳴り声を聞いて、リリスは、叫ぶのをやめた。


リタは、バルトをみて言った。

「バルト。この子だけは、絶対に死なせないで、何があってもこの子だけは、死なしたらダメなの!」


バルトは、しっかりと頷く。


「俺たちの命に代えても、絶対にリリスを守ります!」


イールも頷く。


「ありがとう。バルト。イール。お願いね」


そして、リタは、リリスに言う。


「愛してるわ。リリス。あなたはみんなの希望なのよ」


そうリタが言うと、バルトとイールは、無理やり、リリスを家から連れ出していく。


「お母さん!お母さん!」


「わたしに何があっても、絶対に姿をみせたらダメよ。リリス!」


そのリタの言葉が、最後になり、バルトは、家のドアを閉めた。バルトとイールは、泣きじゃくるリリスの腕をそれぞれ横について、持ち上げぎみに、まるでリリスを連行するように連れて行く。


そして、バルトは、持っていた笛を吹いた。


すると、貧民地のあっちこっちで、同じ笛の音が次々と連鎖するようにあがっていく。


これが、シンダラード森林に突入する合図だった。次々と農民兵たちが、家から身軽な荷物を持って、飛び出し、集合地点の場所に急いで走って行く。


バルトは、水筒の水を泣いているリリスの顔にかけて、言う。


「しっかりするんだ!リリス。君がここで捕まれば、リタさんが残った意味がなくなるんだぞ?そして、農民兵190人も、途中で死ぬだけだ。君の力が必要なんだ!頼む!」


リリスは、水をかけられて、顔を振って水をきり、緑の帽子を少し上げて、片手で、ぐちゃぐちゃに頭をかき乱し、つぶれた白い目とまだ見える目を同時に強くつぶって、気持ちを入れ替え、帽子を深く被る。


「ごめんなさい!分かったわ。バルト」


リリスは、指を唇に持っていって、独特な音の笛を鳴らす。


その後、自分の足でしっかりと走って、バルトたちと、集合地点の場所まで向かっていった。


集合地点は、素早く集まった190人全員が集まっていた。そして、そのまわりには、大量の大猪ビックボアがいた。


リリスは言った。

「みなさん!このビックボアが、シンダラード森林まで、あなたたちを連れて行ってくれます。絶対に落ちないように、乗ってください!」


それを農民兵が聞くと

「おおー!!」

と歓声があがる。みんなは、自分の足で向かうと思っていたからだ。


そして、みなが、それぞれ大猪ビックボアに乗っると、リリスは、大型怪鳥フィーネルの垂らした布に乗って、笛を吹く。


一斉に、ビックボアが、農民たちを乗せて走り出した。ビックボアの巨体は、馬と変わらないほどの速さで、進み始める。


暗闇の中、ビックボア200匹が、一斉に、走って行くのは、圧巻だった。

農民たちは、必死でビックボアの長い毛にしがみついて、落とされないようにする。大型犬タークも、後ろからついて走って行く。


走り抜ける。ビックボア。そして、その先頭の上空高く、大型怪鳥フィーネルに乗ったリリスが、その先を見据える。


リリスは、次は、両手を包み込み、鳴らす。


「フオホフオ」


大勢のフクロウたちが、森から横一列になって、大型怪鳥フィーネルの前を飛んでいく。夜の目を担ってくれるのは、このフクロウたちだ。


そして、リリスは集中する。200匹のビックボアとフクロウたちを目をつぶって、コントロールしていくのは、リリスの役目だからだ。前に進んでも危険。ボルフ王国に残ればさらに危険。目指す場所は、ピーターが言っていたボルフ王国とは何の関係もない少年のところ。助けてくれるかも分からない、か細い希望の光りに向かって暗闇の夜の中を進む。


このような大集団の大移動が夜中に行われるなど、ボルフ王国のだれも予想にもしなかった。リタ商店に兵士たちが、付いた時には、すでに、リリスの姿も、農民兵190人の姿もなく、貧民地は、恐ろしく静かだった。


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