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54章 ボルフ王国の罠

大型犬モンスターのタークは、男の喉を噛み切った。男は暴れようとしたが、その腕は、ホワイトスネークによって噛まれた毒によって動かせなくなっていた。

仲間が死んだのに動揺しながらも、動物たちを操っていると思われる少女を狙って、ナイフを投げつけるが、フィーネルという大型怪鳥モンスターが、その羽で強風を吹かせて、ナイフを払いのける。

フィーネルは、2体いて自然とリリスを守るように近くに待機している。いくつかの傷は、リリスの代わりに、フィーネルが体を張って出来たものだった。


フィーネルは、その強風で、砂ほこりを巻き上げて、相手の視界をさえぎると、後ろからビックボアが突っ込み、また相手を即死させた。

動物たちの不思議なほどの連携は、リリスがいてこそ可能なことだった。リリスが脳であったら、動物たちが体であって、それぞれの役割をおぎなって戦うのだ。


遠征にいった農民を郊外でまた狙った相手をふたり、リリスは倒したのだ。

そういったことを何度も繰り返し、リリスは、貧民地を守り続けて、戦いの強さを自然と増していっていた。

確かに、リタと一緒に作った手紙によって、自殺や事故にみせかけた死人は、減ったが、武力に物をいわせて、無理やり襲ってくる犯罪者のような連中に、農民たちが勝てるわけもないので、あからさまな農民への殺意の数は、増えてきていた。農民の死因は、武器による殺傷ばかりになっていったのだ。その分、リリスが相手をしなければいけなくなっていた。


リリスは、ボルフ王国が雇っただろう犯罪者たちを倒すごとに、達成感を感じていた。

彼らを倒すことに躊躇ちゅうちょは、もうすでにない。ピーターが生きていた時のリリスなら、信じられない行動だったが、平和を踏みにじって来た相手には、ケイト・ピューマ・モーゼスの意思が働くのか、リリスは力強く行動を続ける。犯罪は絶対にゆるさないのだ。


助けられた農民兵たちは、心からリリスに感謝して、倒したのは、リリスの仕業だということは、リリスのためにも内緒にした。


リリスとリタの計画が、うまくいって、240人の農民兵たちの被害が減り始めた。今では生き残ったのは、190人程度だと思われる。


だが、農民たちの被害は、少しずつ減ってはいても、レジスタンスのほうは、あまりうまく行っていなかった。なぜなら、レジスタンスだと思われる人たちに、リタ商店だと分らせないために、内緒で、詳しい内容の手紙を送ったのだが、その人たちは、次々となぜか死んでいったからだった。


「どういうこと?どうして、手紙を送ったレジスタンスのひとたちが死んでいってるの?」


リタは、レジスタンスと直接かかわったことが無かったので、考えた。


「分からないけれど、このことから言えるのは、レジスタンスそのものが、ボルフ王国だという線が濃厚かもしれないわね」


「どういうこと?」


「どんな国でも、どんな時代でも、反対勢力は、出てくるものよ。大共和ケーシスだってそれで滅んだようなものだもの。だから、ボルフ王国は、どうせレジスタンスが、出てくるのなら、自分たちでレジスタンスを作り始めたのだと思うわ」


「ボルフ王国が、自分たちを批判する勢力の集団をわざわざ作るの?」


「そうよ。反対意見を語る人間がいれば、人は納得しやすいから、わざと反対意見をいう仲間を作って、おくのよ。それは政治などでは鉄則よ。何も知らない民たちは、それで騙せる。そして、それだけではなく、反対意見を持ったひとたちが、そこに集まって、色々な文句や反対意見を口に出し、それがそのまま筒抜けになって、ボルフ王国が知ることができるようになるわけね」


「ごめんなさい・・・難しくてよくわからない・・・」


「まず、レジスタンスのリーダーや幹部が、本当は、ボルフ王国の人間で、本当にボルフ王国にとって邪魔な情報を持った正義感を持った人間が出てきたら、告げ口をして、殺させるのよ。

だから、今回は、わたしたちが渡した手紙の内容を知った純粋なレジスタンスのメンバーが、レジスタンスの幹部たちを信用して、そのまま伝えたことで、幹部たちから告げ口されて、本当のレジスタンスの意思を持った子たちが、殺されてしまったということね」


「ひどい・・・じゃーレジスタンスは、正義感を持って、集まってるわけじゃないってこと?」


「そうね。正義感さえも利用して、本当の正義感を持ったひとたちをあぶりだして、裏で暗殺していることになるわね」


「じゃーどうするの?わたしたちだけでは、農民の人たちを助けることができない。ボルフ王国に直接訴えることもできない。レジスタンスも危険となったら、もう無理じゃない・・・」


そこに、ふたりの男性が、リタ商店にやってきた。それは、前にリリスが命を助けてあげた農民兵のふたりだった。ふたりは、リタたちが作った手紙を持って、店にやってきたのだった。手紙をみせて話はじめる。


「ちょっとリリスちゃんに話があって来たんだけど、いいかな?」


そういうと、リタは、察したのか、話はじめる。


「リリスだけに話さなくてもいいわよ。わたしも関わってるから」


それを聞いて男は話はじめる。


「そうか・・・リタさんも知ってたのか。俺は、遠征から帰って来た農民兵のバルト・ピレリリというんだ。この手紙をわざわざ書いて教えてくれているのは、リリスちゃんだろうと思いお礼を言いたくて来たのと、そんなことまでして、俺たちを守ろうとしているリリスちゃんを手伝いたいと思って来たんだ」


リタは言った。


「やっぱりそういうことね。丁度、リリスと二人で話をしていて、助けがほしいと思ってたところだったのよ」


「そうかい。それはよかった。それで、こいつが、同じ農民兵だったイール・ポゲルで、俺と一緒に、リリスちゃんに救われた男さ」


リリスとリタは挨拶をする。


「よろしく。イールそして、バルト」


「ああ。よろしくな」


リリスとリタは、これまでの経緯を詳しくふたりに教えた。ふたりは、リリスに命を助けられたので、スパイとは考えられない数少ない信用できる人間だと判断できたからだった。


「なるほどな・・・レジスタンスさえも、あいつらの手の内ってわけか・・・」


全員、言葉を失う。


イールは聞いた。


「でも、その状況で、リリスちゃんは、今でも農民を助けるために、戦い続けているのかい?」


「わたしは、貧民地で育ったからみなさんのことを家族だと思ってるの。それを守るのは、当たり前でしょ」


「でもな・・・こんな少女だけに、戦いを押し付け続けるのは・・・」

バルトは、とても悲しそうな顔で心配してくれた。


「その気持ちだけでも、ありがとう」

とリリスはお礼をいう。こういう優しい人たちだからこそ、守りたいと思えるのだ。


バルトは、口を開いた。


「俺は・・・一度助けられた身だから、本当は、話せる筋合いはないんだけど・・・」


「わたしに助けられたってこと?」


「あ。いや、リリスちゃんにも助けられたんだが・・・遠征の時に、俺たちを助けてくれた人がいるんだよ」


イールは、それを聞いて話を止めようとする。

「おい!お前!」


だが、バルトは言う。


「もうしょうがない状況だろ?俺たちのために、リリスちゃんが、ひとりで危険なことを繰り返すなんて、それこそ俺は我慢できない」


イールも、その言葉を聞くと何も言えなくなった。


「俺たちは、遠征の時に、助けてくれた人に恩義を感じて彼らの不利になるようなことは、口が裂けても言えないし、彼らに助けを求めるなんてことも、筋違いもいいところだ。でも、彼なら俺たちを助けてくれるかもしれない・・・」


リリスは、ピーターから聞いた話から連想して、答えた。

「もしかして、例の少年のこと?」


「ああ。リリスちゃんも知ってたのか。彼は、信じられない力を持ってるんだ。

コボルト4000匹を倒し、サイクロプスを素手で殴り倒すほどの力だ。そして、その仲間のウオウルフや岩のモンスターも信じられないほど強いんだ。

ボルフ王国の王子さえも恐怖して、ボルフ王国の兵士を引かせて、敵から和睦という道を作ってしまい。俺たちがこうして国に帰ることも許可されたのは、彼が王子にそうするように頼んでくれたからなんだ。そんな彼にこの事態を説明すれば、もしかしたら、助けてくれるかもしれない・・・でも、助ける義理なんて、向こうには何もないだけどな・・・」


リタは、その少年の話を他の農民からも聞いたことがあったが、妖精族としてみても、信じられない内容の数々で、あまり信用していなかった。

でも、リリスに助けられたバルトが悩みながら話す内容から、それらは本当の話なのかもしれないと考え、リタは、話はじめた。


「以前にも、そのような内容を別の人から聞いたけれど、もし、その話が本当で、マインド系の魔法で惑わされていないのなら、その少年は、たぶん、悪魔族クラスの存在よ」


「悪魔族か・・・確かにそれぐらいの種族であってもおかしくはない。でも、本当に見た目は、ただの人間の少年なんだ」


リタは、話を続ける。

「その子が悪魔族なのかどうかは分からないけど、それに近い存在の種族のはずよ。もしそうなら、ヘタをするとボルフ王国よりもタチが悪い状況に成りかねないわ」


リリスは、疑問を投げかける。


「どうして、そうなるの?バルトさんだけじゃない。わたしピーターからも、その子は良い子だって聞いたのよ?」


「そういうことじゃないのよ。リリス・・・。力というものは、良い事に向ければ、素晴らしくもなる。でも、いつその子が、悪の道に走るのかなんて、誰にも分からないのよ。

ボルフ王国は、これでも、国という形を保とうとしているだけ、マシだとも言えるわ。

それは、わたしたち貧民地の人間も奴隷として利用価値があるから、ある程度の正義や大義名分で、運営しなければいけないの。

でも、その子は、国を持っているわけでもないのに、ボルフ王国を黙らせるだけの力を持っているのなら、なぜ、その子が、悪の道に突然走らないと言えるの?」


リリスは、何も言い返せなかった。ピーターが信じた少年を信じたいというだけの想いだけだったからだ。会ってもいない少年が、悪に走って、ボルフ王国以上の悪をしはじめたら、さすがに自分などが、手だし出来るとは思えなかった。


バルトは、言った。


「そんなことはない!彼は、そういう人間じゃないんだ。俺にはうまく説明できないが・・・なんていうか・・・正義というか、愛というか・・・そういった基準がしっかりしてるんだよ。彼は・・・彼が力を発揮した時は、誰かを守るためだった。自分勝手な理由で、力を遊び半分で使うような人じゃないんだ・・・クソ!俺はうまく説明できない・・・」


一緒に体験したイールも、バルトの意見を聞いて、頷いていた。


「ただ、あいつらボルフ王国の人間と彼を一緒にしてほしくはない。俺はリリスちゃんが、俺たちを助けてくれた時、正直衝撃を受けた。少女が装備した大人を倒したからさ。その時も壮絶だった。でも、リリスちゃんは、あいつらとは違う。悪をゆるせないという根本的な何かがあると感じるからだ。そして、セルフィ様にもそれを感じた」


バルトやイールの様子からみると、確かに今はそういう人物なのかもしれないとリタは、思わされた。

でも、ケイトやリリスもそうだったが、人は、何かの出来事で、急激に変わってしまう場合があることをリタは知っていた。横にそれたらすぐに落ちてしまう綱渡りをしているようなものなのだ。リリスだって、人を殺めることなど出来ない子だった。自分の娘でさえも、どう変わるのか予想もできないのに、簡単に見たこともない人を信用するわけにもいかない。そんな人間に力があるということは、恐ろしいことなのだ。


「分かったわ。あなたの言うように、その少年は、今は正義感がある人だと思える。でも、あなたの言ったように、これはボルフ王国の問題で、その子には、関係のないことよ。出来ることなら、わたしたちで、解決できる道を探したほうがいいわ。でも、1つ農民兵が助かる方法の選択枠としてあげることは出来るかもしれないわね」


バルトは、聞いた。


「どういうことだ?」


「このまま、わたしたちだけで、あなたたち農民兵を無事に助けられるとは正直、思えない。必ず被害者は出るわ。だから、その子のところにいって、そこで住むということを頼むことはできるんじゃないのかしら?亡命するのだから、それならもう、ボルフ王国の外のことになるはずよ」


「なるほどな。確かに、あそこには人間が住む村もあった。あそこに受け入れてもらえれば、生きていけるかもしれない」


「でも、やっぱり難しいかしら・・・」


「ん?」


「もし、わたしがボルフ王国側の人間だったら、あなたたち農民兵をこの国に閉じ込めておくわ。シンダラード森林には、帰させないために、多くの盗賊などを配置して、封鎖しようと考えるわ」


「何だって・・・・!?ということは、俺たちは、ここでじわじわと殺されていくか、それとも、逃げていった先に待ち構えているやつらに殺されるかのどっちかってことなのか?」


「分からないわ・・・調べてもいないから・・・でも、わたしならそうするということよ」


イールもバルトもリリスも、さらに言葉を失った。


リリスは言った。


「わたし、調べてみるわ・・・・シンダラード森林への道がどうなってるのか」


「危険よ。リリ。待ち構えている者たちだって、解かりやすく道にいるとは思えないわ。どこかで隠れて潜んでるはずよ」


「でも、調べてみないと分からないじゃない。もし、まだ配置されていなくて、シンダラード森林に帰ることができるのなら、それに気づいていない今がチャンスだとも言える」


バルトは言った。


「申し訳ない・・・君たちを助けに来たはずが・・・結局また君たちに助けてもらいに来たようなものになってしまった・・・」


リリスは微笑みながら言った。

「そんなことはないわ。そう思ってくれて、実際にここまで足を運んでくれただけで、本当にわたしは嬉しいの・・・わたしがしていることが間違いじゃないって思えるから・・・」


イールは、少し大きな声でいった。


「間違いなわけないじゃないか!君は、何も間違っちゃいない・・・間違ってるのは、この国の上の人間たちだ。あいつらは腐ってる・・・」


リリスはちょっと驚いたが、自分を励まそうとしてくれていると分ってお礼をいった。

「ありがとう・・・。わたし早速、今日の夕方から、シンダラード森林への道がどうなってるのか、みてくるわ」


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