52章 引き継がれしもの
リリス・パームに危険が忍び寄る。相手は1国家、ボルフ王国だ。
事件を辿り真相を突き止めたが、それは危機を知ったということだけで何ら解決もしていなかった。奴らの影はすぐそこに迫り寄っているかもしれない。
リリスは、ピーターを殺した5人組への復讐を心に決めて、前に進むことを選び、新たな生活をはじめた。5人組の情報を得るために、調査をするが、情報は、なかなか手に入らない。
そんな中、リリスは、ピーターと自分と同じように、何の理由もなく、命を狙われていた農民の男性を助けることになった。自分たちとその状況の記憶が交差したからだった。
農民男性ふたりを襲った二人組の男は、あの5人組ではなかったが、その犯罪的な行動から、リリスは、ほとんど衝動的に、彼らのいのちを奪った。
リリスの体に、復讐を果たした達成感のようなものが沸き上がり、喜びのような気分さえも味わったのだった。
それから、犯罪というものに目を向けて、犯罪を目にしたら、自分の能力を持って、制裁するようにリリスは、変わっていった。
そんな中、自分が殺した二人組に関しての調査依頼が、冒険者組合からリリスに出て、冒険者仲間のマックル・セスドから聞いた、農民郊外多発事件を耳にして、リリスは、違う調査をはじめた。
二人組を殺したのは、自分だから、調査する必要はなく、むしろ調査妨害しなければいけない立場にあったので、その調査は、進めようとはしなかった。
マックル・セスドの情報が何なのか気になったので、次は、農民がなぜか郊外で死亡するという事件を調査をしはじめたら、共通点を発見した。その共通点とは、遠征にいった農民兵240人だった。
リタ叔母さんに相談をして、推測してもらうことで、今回の事件、ピーターのことも含めて、郊外農民多発事件を巻き起こしている者を考えてもらった。そして、本当の真相であり、犯人は状況証拠だけで考えれば、ボルフ王国だった!
このことからも、リリスは、事の大きさと危うさを感じて、自分が人間を殺害し制裁を加えたことも素直にリタに話した。
すると、リタが、リリスには、すべてを話さなければいけないという内容を口にしはじめたのだった。
リリスは、何のことかまた分からなくて聞いた。
「何?どういうこと?」
「リリス。これから話すことは、今起こっている問題よりもわたしたちにとっては、大きなことなの。だからしっかりと受け止めて聞いてちょうだい」
今起こっている問題よりも、大きなこと?リタ叔母さんは、何を隠しているというのだろうか。
「リタ叔母さん。教えて、なに?」
「あなたには、以前、わたしたちが人間ではなく、妖精族だという話をしたわね」
「うん」
「そして、それを必ず内緒にするようにわたしは言ったわ」
「うん。内緒にするようにって言った」
「それはどうして、内緒にしなければいけないのかということよ」
「それは、他の人間のひとたちと上手く暮らしていくためじゃないの?」
「それだけじゃないのよ。だって、ボルフ王国は、モンスターも住むことを許可されている国なのよ。別に妖精族だからって、普通は、暮らすことができると考えるでしょ」
そう・・・以前、話を聞いた時、少し違和感があったのは、それだったのかも・・・とリリスは思った。
「そうよ。ボルフ王国は、別にモンスターも住むことを許可しているから、隠す必要は、ないはずだわ」
「そうなの。モンスターも住めるから、隠す必要はないの。でも、妖精族だけは別なのよ」
「え?どういうこと?」
「あなたの名前は、リリス・パーム。そして、わたしの名前は、リタ・パーム」
「うん」
「でも、本当は、隠された名前がわたしたちには、与えられているのよ」
「隠された名前??」
「わたしたちの本当の名前は、リタ・ピューマ・モーゼス。そして、リリス・ピューマ・モーゼスなのよ」
「ピューマ・モーゼス・・・」
「約400年前。このボルフ王国の土地も含めて、ここの付近の土地は、大共和ケーシスというアニマル連合が存在していたの」
「大共和ケーシスって、伯母さんが教えてくれた昔ばなしのような国のことよね?」
「そうよ。今は歴史では、あまり言わないようにされているけれど、ボルフ王国の前の国の名前よ。その大共和ケーシスは、ドラゴネル帝国を建国した龍王ヒデキアの最強の10騎士のうちのひとり、ケイト・ピューマ・モーゼスが建国したの」
「ピューマ・モーゼス!」
「そう。わたしたちは、ケイト・ピューマ・モーゼスの意思を受け継いだ一族。モーゼス家の妖精族だと認定されているの」
「わたしたちは、王族ってこと?」
「ケイト・ピューマ・モーゼスは、上や下を作ららない方だったので、王というわけではなかったけれど、解かりやすく言えば、あなたの言う通り、わたしたちは、王族ということになるわね
だから、解かるでしょ。わたしたちが、妖精族であったのなら、ボルフ王国は、わたしたちモーゼス家の人間の命を狙ってくるようになるということよ」
「内緒にするのは、そういうこと・・・今も妖精族を狙ってるの?」
「命を狙われた妖精族たちは、いち早く身を隠したの。ケイト・ピューマ・モーゼスが、いなくなって、力も弱まり、隠れるしかなくなったのよ。
ボルフ王国は、ケイトがいなくなってすぐ密かに妖精族を狙ってきたからよ。
それから100年以上絶ち、ずっと大人しく妖精族であることを隠し続けてきたので、今はボルフ王国は、妖精族を狙うという意識は、薄れているのよ」
「もう妖精族は、存在していないと思って忘れかけているってこと?」
「たぶん、そうだと思う。それほど妖精族は、帝国領内では、表に100年以上も出てこなかったし、人間の姿のまま暮らし続けてきたの。
妖精族は、自然界とのコンタクトが出来ることも、忘れ去られてしまっているわ。あなたの動物とのコンタクトの性質は種族スキルなの。
でも、忘れ去られているから今は、マナなのか、スキルなのか分からないとされている。だから、あなたは冒険者をしても妖精族だとは思われていないのよ」
「じゃー問題は、ないんじゃないの?」
「そうかもしれない。わたしたちが妖精族だと言っても、もしかしたら、ボルフ王家の人間でさえも、気に留めていない可能性もあるわ。大共和ケーシスの王族で脅威だということも忘れているということね。でも、覚えている可能性もある。だから、内緒にして、暮らす必要があったの」
「でも・・・ちょっと待って、妖精族って、妖精族同士でこどもを作るの?」
「妖精族は、前にも言ったように、特殊な花から子孫を残していくの」
「それは人間との合いの子だけじゃなくてってことよね?」
「そうよ。わたしも、あなたも、特殊な花『ピラチ』という花から産まれたの」
「ピラチ・・・それはどうやって作るの?」
「そうね。妖精族が生まれる方法は2つあって、1つはピラチから、そしてもう1つは、他のモンスターや人間と同じように、遺跡から生まれるの」
「妖精族は遺跡からも生まれるのね」
「そして、妖精族が生まれやすい遺跡が存在し、そこでわたしたちは、生まれたのよ」
「わたしは、遺跡?それともピラチ?どっちで生まれたの?」
「どちらもピラチから生まれるの。遺跡から生まれる妖精族は、自然ピラチ。そして、妖精族同士が結びついて生まれるのが人工ピラチなの。あなたは、自然ピラチよ」
「わたしは、遺跡から生まれた、ミステリアスボーンだったのね」
「そうよ。でも、あなたの場合は特別だったの」
「特別?」
「そう。あなたの自然ピラチは、光り輝いていたの。普通のピラチは、赤や青、黄色や白など色は違えども光ることはないわ。でも、あなたのピラチは、光り輝いていたの」
「それは良い事なの?」
「正直いって、分からない。でも、そのように特殊に生まれた子たちは、みなその妖精の里から抜け出して、ボルフ王国で、営みを形成することを義務づけられるの」
「どういうこと?」
「特殊な色で生まれた子たちは、なぜかケイト・ピューマ・モーゼスの意思を受け継いだ子孫として、生まれて来るということよ。その傾向に気づいた妖精族たちは、わたしも、あなたも、妖精の里での決議から、選ばれ、ボルフ王国で、人間という仮の生活を送りながら、大共和ケーシス復活への糸口を見出す使命を代々、帯びるの」
「だから、ピューマ・モーゼスの名前がわたしたちには、与えられているのね。でも、ケイト・ピューマ・モーゼスの意思って何?」
「それは、悪を倒す強い意志を不思議と持って生まれて来るというものなの。だから、ケイトも、リリス、あなたも、そしてわたしも、大切な何かを奪われ、その意思、正義感に目覚めてしまうの」
「血がつながっているというわけではないけれど、何かで繋がっているということ?」
「そうね。でも、あなたほど、意思や正義感だけではなく、ケイトと似ている境遇はないかもしれないわ」
「そうなのね」
「わたしも、ピーターとあなたと同じように、愛する人がいたわ。でも、その人は、自ら裁判にかけられるように正義を貫き、亡くなったの。わたしはそれからは、農民の人たちを支えられるようにサポートしながら、あなたを育てたのよ」
リタ叔母さんもそういう人がいたのだとはじめて知った。そして、色々な想いを抱えて、わたしを育ててくれたのだということも知った。
「叔母さんは、わたしの両親は、病死したって話してくれたよね?」
「ごめんなさい。それは、人間として安全に暮らしていくためにそうやって育てるしかなかったの。こどもは誤魔化すなどはできないから・・・」
「わたしには親はいないってことね」
「そうね。でも、わたしは本当の娘と思ってるわ」
リリスは、納得したような顔で頷く。
「うん。わたしも、お母さんだと思ってる。理由があってそうやって育てなければいけなかったのなら、しょうがないよね。わたしも、伯母さんも同じケイト・ピューマ・モーゼスの意思を受け継いだ不思議な繋がりで、親子なのよ」
その言葉を聞いて、嬉しそうにリタは微笑む。
「わたしもリリ。あなたと同じように育てられたのよ。わたしの場合は、金色のピラチから生まれたということで、選ばれたと聞かされたわ。
でも、あなたはそれ以上よ。今まで、光るピラチなど誰もみたことがなかったの。ケイトでさえも、金色だったという話だわ。
現に、あなたは小さい頃から、その特殊な能力を持って、わたしたちを驚かしたわ。あなたは妖精族の中でも、選ばれた存在かもしれないの」
「実感はないけど、そうなのね」
「わたしも同じように、選ばれた存在として、育てられ、その意味は、まだ分からないわ。いつか、その意味を知るようになるとわたしは信じてる。ピーターのことがあって、あなたが心に傷を負ったことは、母親としても、心が痛むけれど、負けないでほしい」
リリスは、その言葉を聞いて、リタ叔母さんに抱き付いた。
「ありがとう。お母さん」
リタとリリスは、見た目からまったく似ていなかった。だから、伯母さんということになっていたが、妖精族でいうところの繋がった親子で、リタは、母親であった。リリスには、両親は、死んだと聞かされていたけれど、妖精族からすれば、リタは自分のお母さんだと知って、嬉しさを感じた。
「そして、ケイト・ピューマ・モーゼスの話をしなければいけない」
「ケイトの?」
「うん。ケイト・ピューマ・モーゼスは、どのような人で、どのような人生を送り、なぜ国を亡国にしたのか、それをあなたに、伝えておくわ」