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51章 共通点

「知らねーよ!」


男は、大きな声で、リリスに反論する。


「怪我なんてどこにもないだろ?」


確かに、男の足には、怪我はなかった。でも、それはリタ叔母さんのポーションを使ったからだ。治るのが早いのはそのため。


「わたしは、あなたにポーションをあげたリタの娘よ。あなたにあげたことは、誤魔化せないわ」


そういうと、男は、困った顔をした。


「あなたには、迷惑はかけないわ。でも、その怪我は、どうして負ったのかだけ、わたしにだけ教えて、わたしは誰にも口外はしないわ」


農民の男性は、仕方ないといった顔で、イスに座って話はじめた。


「俺は畑仕事をして、家で使う薪を集めるために、郊外に出たんだ。そうしたら、突然、男がひとり現れて、俺に話しかけてきた」


「どんな話をしたの?」


「何でもない話さ。俺に何をしている?とか、聞いてきたり、冒険をしていたら、危ない目に合うだとかなんとか、勝手に話してきたんだ。そうしたら、突然、そいつが、剣を振り始めた。練習でもしようとしているかのようにな。そうしたら、その素振りをしていた剣が、俺の足に当たって、俺の足をあいつが、斬りやがった。俺は驚いて、倒れたら、後ろが、10mぐらいのなだらかな崖になっていて、そこで転げ落ちちまったんだ。そうしたら、あいつが崖の上から「俺のことを一言でも誰かに話したら、お前を殺しにいくからな!」って叫んできたから、おれは怖くなって、そのまま足をひきずって逃げかえったんだよ」


「だから、リタ叔母さんにも内緒にしていたのね」


「ああ。そうだ。脅されたからな。あんな怖い目にあったのは、遠征にいって以来だよ」


「遠征?」


「ああ。数か月前に、ウオウルフっていうモンスターと戦うために、シンダラード森林に遠征にいったんだ。あの時はもっと生きた心地がしなかったんだ」


「え!?あなたも、遠征に行ってたの?」


「ん?あなたも?」


「わたしの知り合いも、遠征に行っていたのよ。じゃーあなた、あれ持ってるってこと?」


「あれってなんだよ?」


「内緒のあれよ。例の10よ」


男は、そういうことかと気づいて、頷いた。


「おれも10を持ってる。確かにあんたの知り合いも行っていたみたいだな。ただ、これだけは命に代えても、内緒にすることだから、本当に口外はするなよ」


「分かってるわ。わたしの知り合いも、とてもそのことには、気を配っていたわ」


「そうかい。俺たちは、セルフィ様に心から感謝してるんだ。こうしてここに居られるのもセルフィ様のおかげ、家族と一緒に過ごせるのは、彼のおかげなんだよ」


なんだか、リリスは、心が温まった気がした。ピーターと同じことを言うひとが、ここにもいると感じたからだ。


それにしても、偶然なのだろうか・・・。突然あらわれた人物に、話しかけられて、命を狙われる・・・。ピーターとわたしの事件、そして、わたしが助けた事件、そして、この男性の事件は、似ている気がする・・・。


しかも、ピーターと同じ想いをつげるこの男性は、ピーターと同じ遠征にいった農民兵のひとりだった。


ちょっと待って・・・遠征!?


「あのもう1つ質問していいかしら?」


「ああ。いいよ。セルフィ様のことも知ってるあんたなら、何でも答えてやるぜ」


「あなたの知り合いで、一緒に遠征に行った人は、生きて戻って来れてるの?」


「ああ。生きて戻って来たよ。でも、そいつは、最近、運悪く、馬車にひかれて死んだんだ」


馬車の事故!?


それを聞くと、リリスは、慌てたように、お礼を言って、出ていった。


「お話ありがとうございました!」


男性は不思議そうな顔をして、手をあげて、見送った。


リリスは、今まで調査した郊外で死んだ遺族にまた会いに行って、1つの質問をした。


それは、「被害者は、この前の遠征に行っていましたか?」という質問だ。


遺族の返答で解ったのは、首を吊った農民の男性も、崖から落ちた農民の男性も、刺されて死んでいた男性も、みなあの遠征から帰って来た240人のうちのひとりだったということだ。もちろん、ピーターもだ。そして、リリスが助けた農民男性ふたりもまた、遠征組だった。


これは偶然じゃない。そして、遠征で共通しているのは、金貨10枚を持っているということ。このことを盗賊らしき人間たちが知って、狙っているのかもしれないと思った。


このことをリタ叔母さんに報告して、どういうことなのか一緒に考えてもらおうと思った。


すると、リリスの話を聞き終えたリタ叔母さんは、怒りに震えたように下を向いた。


「どうしたの?リタ叔母さん?」


「リリ。落ち着いてお聞き」


「うん・・・」


「240人がいのちを狙われているのなら、そのいのちを狙っているのは、間違いなく、ボルフ王国よ」


「どうして、そうなるの?」


「ボルフ王国は、国紙で書いていたように、遠征に選ばれた1000人の農民兵を殺すつもりで選んだのよ」


「そう言ってたわね。でも、それはゆるされたじゃない」


「ゆるされたという話だけれど、国紙の内容が実際とは違っていたこと、そして、あの遠征で殺されそうになった農民兵が戻って、ボルフ王国の文句を言い始めることを国は、ゆるさなかったのよ。だから、口封じを影で行った。国紙がフライングしていなければ、もしかしたら、狙わなかったかもしれないけれど、国紙は国中に流れてしまっていたから、狙う決断を下したのよ」


「それって・・・ピーターやわたしも、ボルフ王国に狙われたってこと?」


「そういうことになるわね。あなたというよりも、ピーターを狙ったのよ」


「でも、農民の中の240人をどうやって遠征にいったひとだと分るというの?ひとりひとり、遠征にいったのか貧民地で聞くってこと?」


「今回の遠征は、国が使命して、白紙を送ったと聞いたわ。ということは、はじめから国は、誰が遠征にいったのか、名前まで把握していたってことよ」


そうだ・・・ピーターが遠征に行く前、わたしも遠征に参加しようと思ったけれど、その白紙を提示するように言われた。国は、ひとりひとりを把握してたんだわ・・・


「リリ。あなた、このことを冒険者組合アドベンシエーションに報告なんてしたら絶対にダメよ!」


「それは、冒険者組合アドベンシエーションも信用できないってこと?」


「当たり前じゃない。国紙もそうだけど、国の機関に、そんなことを報告したら、自分を狙ってくださいというようなものよ」


そういえば、冒険者組合アドベンシエーションは、農民の被害は、一切触れていなかった。

マックル・セスドは、個人的にも仲間だからその情報をわたしに話したけれど、冒険者組合アドベンシエーションは、むしろ、農民を襲った犯罪者たち、ボルフ王国が雇った犯罪者たちを殺した人間を調査して、探そうとした依頼を出したんだ・・・。それがたまたま、わたしに依頼がまわってきたから誤魔化せたけれど、もし、違う人が、調査をしていたとしたら・・・わたしが疑われていたかもしれない・・・とても運がよかった・・・。


わたしが調査内容を突然変えて、農民側の立場の調査に偶然に切り替えてしまっただけで、冒険者組合アドベーションが、探したいのは、その計画を邪魔するわたしなんだ・・・


リリスは、事の大きさを知って、リタ叔母さんには、すべてを話そうと決意した。


そして、自分が農民男性ふたりを助け、人間の犯罪者をふたり手にかけたこと、仕事の依頼でその事件の担当になったことなどを、すべてリタ叔母さんに正直に話した。


リタ叔母さんが、何か深く頷いて、リリスの頭を撫でた。


「あなたには、全部話をしなければいけないわね」


「何?どういうこと?」

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