50章 疑惑
リリスは、農民の男性ふたりを襲う犯罪者ふたりを自分の持っている能力を使って裁いた時に、解かったことがあった。
それは、犯罪者には、情けはいらないということだった。
それから、街でも、万引きなどをするような人間を懲らしめたり、犯罪を目にした時には、リリスは、自分の能力を発揮させて、バレないように制裁を繰り返すようになった。
悪を懲らしめた時、リリスの心は、何か軽くなったような気分にさせられた。
リリスは、人に対しても、能力を使えるようになっていた。
もし、あの時、すぐにその能力が使えていたら、ピーターは、死ななかったかもしれないという想いは、心を今でも苦しめる。
平和で優しいひとたちを荒んだ心で踏みにじるような相手には、リリスは、容赦をせず、制裁を加えると、誓った。
犯罪者狩りという冒険者もいると聞いたことがあったが、それに近いのかもしれないとリリスは思った。
未来を奪われたリリスにとって、今はそれが生きる目的のように感じた。
そして、何よりも、あの5人組を見つけ、制裁を加えることが、最優先事項になった。
そんなリリスにも、冒険者の仕事が舞い込んできた。
郊外で殺された男ふたりを殺した死因を調査しろという内容だった。
仲間で冒険者のマックル・セスド。魔法剣闘士と共に、調査をする。
マックルは、リリスを冒険者に誘ってくれた人だった。
マックル・セスドは、ふたりの男の傷をみて、リリスに話しかける。
「どう思う?」
自分がやったとは言えないので、話を逸らすような言い方をする。
「襲われたということでしょ」
「そうだな。事故ではないな。郊外で死んでいたことと、この傷をみたら、どうみてもモンスターに襲われたものだろう。ひとりは、何かに衝突されて死んでいると思われる。もうひとりは、複数のモンスターの攻撃だろうな」
「そうね」
「どういうモンスターか検討はつくか?リリス」
「どうして、わたしがそんなこと分かるのよ」
「君は、モンスターのことには他のアドベンチャーよりも詳しい。だからこの依頼も舞い込んできたんだろう。傷をみるだけでは分からないか?」
「ええ・・・わたしの場合は、なるべく相手を傷つけないように仕事をしてきたから、傷口までは、詳しくないのよ」
「それは、優しいこった」
マックル・セスドは、笑いながら言う。
リリスは、まさか自分が起こした事件の調査を自身が担当するとは思いもよらなかったので、内心、驚いていた。マックルのいうように、確かにモンスターに詳しいからということで選ばれたのだろうとは思うが・・・。
「でも、知ってるか?リリス」
「何?」
「最近、郊外での事件が増えているんだよ」
「そうなの?」
「あぁ。今回は、この見かけない謎の男ふたりだが、ボルフ王国の農民の被害が立て続けに出てるんだ」
初耳で、リリスは、少し驚いた。
「どういう被害の内容なの?」
「今回は、どうみても、モンスターだが、農民の被害は、あきらかに武器による殺傷があるのものだったり、事故のようであったりする。郊外で何か起こっているのかもしれないな」
どういうことなんだろうと、リリスは思った。わたしとピーターもそうだったけど、郊外で農民の被害が出ている?
何を目的にしているのか分からなかった。
その話を聞いたリリスは、仕事を終えてから、貧民地で、その郊外で最近起こっている出来事の内容を被害者遺族やいろいろな人たちから証言を聞いてみた。
すると、農民が、崖から落ちて死んでいたというものから、剣かなにかで、刺されて死んでいた農民、首を郊外で吊って死んでいた農民など、死因は、バラバラだが、共通していたのは、郊外で起こっているということだった。
首を吊った農民の遺族の話を聞くと、絶対に彼は自殺などしないという話だった。その日の朝も楽しそうに会話をしていたという証言まである。
バラバラな事件だったけれど、何かひっかかる気がリリスはした。
自分とピーターを襲った5人組。そして、わたしが助けた農民の男性ふたりを襲った身元不明の謎の薄汚れた装備の男ふたり。首吊り・殺傷事件・転落事故、何かがひっかかった。
男ふたりを殺したことは、話さなかったが、リリスは、リタ叔母さんにも相談してみた。
そして、リタは、リリスの話を繰り返す。
「最近、郊外で、事件が多発しているということ?」
「そうなの。郊外で、貴族を襲った事件もあるんだけど、農民の被害が一番多いの。もちろん、外に住んでいるのは、農民だから被害にあうのは当然だけど、なにかひっかかるのよ」
リタは、リリスの話を聞くと、同じように変だと思ってくれたみたいだった。
「あなたたちのこともそうだけど、確かにおかしいわね。ここまで、立て続けに、事件が起こっていたなんて、知らなかったけれど、確かに、最近、わたしのところに、ポーションを買いに来たり、もらいに来るひとが若干多い気がする」
「本当?」
「うん・・・。お金は払えないという人もいたけど、怪我をしているひとに、ポーションをあげないなんて、出来ないから、そのままあげたのだけれど、どうして怪我したのかを聞いても、聞かないでくれって、必死で黙り込むのよ」
「リタ叔母さんにも理由を話さないの?」
「もしかしたら、脅されてるのかもしれないわね」
「その人、誰なのか教えてくれない?」
「いいわよ。でも、あなた何か危ないことをしていないわよね?」
リリスは、何とか誤魔化そうとする。
「そんなことしないわよ。あんな目にあわされて、もうこりごりよ」
「いい?リリ。何か行動に起こす時は、冷静に判断しなければいけないのよ。
あなたには、特別な力が備わってるのだから、特に慎重になるべきよ。
あなたが、また冒険者の仕事をはじめてから、精力的になったのもわたしは解ってる。でも、ピーターのためにも、むちゃはしたらダメ。あなたのいのちは、ピーターに守ってもらったものだということを忘れないで」
リリスは、リタには、誤魔化しが効かないと思った。ほとんど、自分の考えが読まれている。それでいて、冒険者の仕事に復帰することも認めてくれているのだと思うと申し訳ない気持ちにもなった。でも、どうしても、あの5人組は見つけたい。今のわたしには、それが前に勧める原動力だから。
「リタ叔母さん。ありがとう。色々心配してくれて」
リタは、いつものように優しく微笑んでくれた。
リリスは、リタに怪我をして、不審な行動をしたという農民の男性を教えてもらい会いに行った。