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5章 俺の手

そこは、真っ暗で暗闇だった。


ポツンとその暗闇の中に、脳だけがあった。暗闇なのに、その脳だけは、はっきりとみることができる。


闇の奥からテクテクと変なものが歩いて近づいてきた。


それは、機械のチップだったが、そのチップに白い細い腕と細い脚が、ついていた。小学生でも描かないような風変りなキャラクターだ。それが脳に近づいていくのだから、またまた変な光景になっている。


チップは、自分の腕を出来るだけ大きく広げて、脳に抱き付いた。


暗闇の中、脳とチップは、しばらくの間、抱きしめ合い。その雰囲気が愛おしさであるということも、なぜだか、分かった。


静かに、時は流れた。


脳とチップは、涙を流しながら、お互いを近づけあい、キスをしあった。


そこには、愛があった―――――――






――――――『源・・・・―――』


『源。朝です。時間です。起きてください。源』


「ん・・・。ん?愛?」


愛の声が聞こえて、源は目を開けた。


でも、目の前が真っ暗で、目を閉じている状態と変わらない。


「愛?愛か?」


『源。わたしはミニです。時間です。起きてください。』


「ああ。ミニか。今何時だ?」


『7:05です。源』


「腹が減ったなー。何があったかな。ベーコン焼でもして、食べようか」


源は、いつものように、ベッドの横のカーテンをあけようと、右手を伸ばすが、カーテンには届かない。


「あれ。届かない」


源は顔を振って、上半身だけ起き上がり、顔を振った。

「すっごい寝た気分だけど、どれぐらい寝てたの?」


『42年ほどです。源』


「42年って、どれだけ寝てんだ。はは。ミニお前壊れちゃったのか?」


『42年と4か月11日経ちました。源』


そういえば、おれはいつ寝たんだ?教会に久しぶりにいって、研究所で・・・侵入者がいて・・・

源は、目を大きく開いて、まわりを見渡したが、まっくらでまったく見えない


「ミニ。ここは何処だ?」


『ここは東京都新宿区新宿3丁目38の地下200m地点になります。源』


「東京?・・・地下200mだって?!」


『はい。源』


ん?何だか声が変だ・・・高い気がする


ごほんごほんっ


「ん・ん・んー。あーあー」


やっぱり違和感がある。ヘリウムでも充満しているのか・・・?

それにしても、暗い・・・


『ミニ。この暗いのも地下だからか』


『わたしには、視覚の認識機能がありませんので、解かりかねます。源』


『おれは、あの異常な拷問から脱出しようと試みたが、男たちに殴られて意識がなくなった。


その後、ここに連れてこられたというわけか・・・。

死んでいなかったのは、ありがたいが、暗すぎてまったく見動きがとれないぞ』


四つん這いになって、まわりを手探りで、確かめようとするが、ごつごつとした地面や岩のようなものしか手の感触では伝わってこない


「誰かいるのか?」


数メートル離れたようなところから、太い男の声が聴こえた。

でも、あいつらの可能性が高い、自分の存在に気づかれてはまた、同じ目にあわされると思い息をひそめた。


「誰かいるのなら、助けてくれ。頼む。助けてくれ」


助けを呼んでる?


源は、なるべくその存在がバレないように、様子をうかがうようにした。


真っ暗であっても、時間が経てば少しは目も慣れてくるかもしれないと考え、それからでも遅くないと思ったが、一向に暗闇はみえる気配がない。相当な暗闇で、光が一筋もない場所にいると把握した。

嫌、もしかすると、光がという以前の問題で、やつらに視力を奪われた可能性もある。まぶたこそ開けても、視力が失われたのなら、みえるはずもない。


何者かもわからない人間に、今の状態で近づくのはとても危険だ。


ガンッガン。ガンッガン。と、岩を岩でぶつけているような音が響く、おれの存在は気のせいだと判断したのだろう。


「誰かー助けてくれー」


悲しく細い声で、独り言をいう相手に、音と雰囲気とその行動だけだが、騙そうとしているようには思えなかった。俺と同じ拉致被害者か?


少しずつ、近づいてみることにした。


ガンガンという音が源の近づく音と気配を消しているのだろう、助けを求める者は、まったく気づくことがないようだ。

自分はひとりだという認識が当然のようにあるようだ。おれがミニと会話した独り言のような声も、幻聴かなにかだと思ったのかもしれない。


5mは離れているぐらいで、声をかけることにした。


「あなたも拉致されたんですか?」


「うわ!誰かいるのか?」


「今、意識を取り戻して、起きたばかりなんです」


「いつからいたんだ?」


「いつからって、だからさっきそこで意識を失っていて、今しがた起きたばかりなんです」


「そんなわけはない。そんなわけはないぞ」


源は、この人が気が狂ってしまったのかと思った。この状況だから仕方がない。おれも同じぐらい相手が脅威なのだから。


「岩をぶつけてるんですか?」


「これか・・・この洞穴から出れず、何年経ったか分からない。ずっとこうして岩と岩をぶつけ続けて、外に出ようとしている」


何年も食料もなしで、岩をぶつけ続けられるわけがない。やはり、気が狂っているんだろうと源は思った。


「あなたが、そうしているということは、ここにはまったく抜け道がないということですね」


「ああ。そうなんだ。どこにもない。岩で覆われているだけで、抜け道など存在しないんだ」


「近づいても大丈夫ですか?」


少し相手は、考えたようだったが、すぐに返事をした。

「構わないよ。あんたがおれを殺そうとしているのなら、それはそれでもういい。殺してほしいぐらいだ。」


源は、それを聞いてやはりと思った。

「あなたも拉致されたんですね」


「拉致?おれは拉致されたのか・・・。まったく記憶がないんだ。気づいたらここにいて、数年経ってしまったと思う」


「記憶がなく、数年ですか・・・」


「おれは、数日経って、この暗い場所でこのまま餓死して死んでいくものだと恐怖した。でも、死ななかったんだ。何も飲むものもなく、食べるものもないのに、おれは死なずに、なぜかまだ生きている。もう時間の感覚がなくて、どれだけ経ったのか判らない。最初は、1分を自分のテンポで数えて、一日を過ごしたこともある。それで一日の時間を把握したけれど、それもやめた。」


源は、気が狂った人のように、考えていたが、そうでもないようだと考えた。こんな極限の状態だから、数日が数年に感じてしまっているのだろう。そして、自分の視力が無くなっているわけではなく、この人も暗闇でみえないことも把握した。


「近づきますね」


「嫌、もうそれぐらいの距離でいてくれ」


「解りました。でも、おれも少し岩でぶつける手伝いさせてもらっていいですか?」


「ああ。いいよ。」と両手で持てるぐらいの岩を渡してくれた。軽石か?と思うほど軽い岩だった。


源は、その岩を持って、手探りで位置を確かめた壁に片手でぶつけると、ガコガコガコとすごい音がして、持っていた石が粉々になったようだった。


「あんた今何したんだ?」


「あなたからもらった石を岩にぶつけただけです」


その相手は、ぶつけた岩のところを探ってみた。すると、かなり大きく岩が崩れた。


「あんたすごいな。どうやったんだ?」


「どうって、本当にぶつけただけですよ。たぶん、ここだけ、もろかったんでしょう」


源は、周りを手探りして、岩らしいものを見つけると持とうとした。


「違うそれは、おれの手だ」


「あ。すみません。岩だと思って・・・」


お互いに同じ岩を持ったのかと思ったが、相手は話はじめた。


「おれはなぜ死なないんだろうと思ったんだ」


「はい?」


「まわりを手探りしても、岩だらけで、何もないのに、どうして死なないんだってね。」


「はい」


「そうしたら、調べるじゃないか?」


「調べる?」


「自分の体をさ」


「あー。そういうことですね。暗いからどこがケガしたのかも分からないですしね」


「体を触ったら、岩だったんだ」


「ん?岩?」


「岩だったんだ」


「何が岩だったんです?」


「おれの体が全部岩だった」


「!」


何を言ってるんだと源は思った。やはり、気が狂ってしまってるな・・・この人・・・


相手は、泣きはじめた。


「俺には記憶がない。でも、人間だと思うじゃないか。まさか、人間でもないなんて・・・おれが死なないのも、そのせいだろう」


「大丈夫。気をしっかり持ってください。ひとりでは無理だったものが、ふたりなら、乗り越えられるかもしれません。ですが、気がふれてしまえば、助け合うこともできませんから、大丈夫ですよ。あなたは岩じゃありません。」


「そうか・・・おれは岩じゃない。気が変になっているんだ。そうだよな。岩なわけがないよな。」


「そうですよ。だって岩はしゃべりませんからね」


源は、相手をはげまそうと、手を伸ばしたが、手を伸ばして触ったのは、また岩だった。


「あなたの手を握っても良いですか?さっきから手を伸ばしても岩だらけで」


「それだよ。」


「それ?」


「さっきから君が触っているのが、俺の手だ」

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