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48章 コロス

リリスは、目を覚ました。でも、左半分がみえない。左の目がつぶれてしまったのだ。つぶれてしまった目は、白目になってしまい。また美しい顔だったリリスには、大きな傷が残された。そして、そのまま包帯がまかれた。

リタによる治療が行われたことで助かったこともあるが、普通なら死んでいる傷だと思われるほどだったので、これで済んだだけでも奇跡だった。


リリスが目を覚ましたのは、五日後のことだった。命はとりとめたが、顔の傷は完全には治らない。


リタ叔母さんが、少しずつリリスの口に水分や果物の果汁を与えて、リリスは体力を回復させていった。体の傷を治すために高熱があったが、それもリリスは乗り切った。だが、意識がまだ朦朧もうろうとしているのか、自分に何が起こったのか、分からないようだった。

動くとお腹の傷に障るので動かすことはできない。


リリスは、ピーターの名前を呼ぶ。


「ピーター。ピーター」


そして、また傷を治すようにすぐに眠りについた―――



―――次の日、リリスは、意識を昨日より、ハッキリと取り戻した。


リタ叔母さんは、静かに優しくリリスに話しかける。


「リリ。あなたに何が起こったのか、覚えてる?」


リリスは、小さく顔を縦に振る。まだ、体のだるさは抜けず、疲れていた。


「ピーターと・・・一緒にいて・・・草原で話をして・・・」


リリスは、少しずつ記憶を取り戻していく。


「5人・・・」と口に出す。


「5人?」


「馬に乗った5人組が・・・・襲って・・・」


リリスは、リタの顔をみて、見える目でにらみつける。


「ピーターは?ピーターは大丈夫なの?」


「よく聞いて、リリ。ピーターは、あなたを守るように覆いかぶさっていたらしいわ。その5人組があなたに危害を加えようとしたのを体全体で、守り抜いたの」


「ね・・・ピーターは大丈夫なの?」


「わたしのところに連れてこられた時には、ピーターは・・・もう施しようもなかったのよ」


「どういうこと?」


リタは、自分の口に手をやって、泣きながら話す。

「ピーターは・・・亡くなったのよ・・・」


リリスは、よく分からなくて、質問を繰り返す。


「ピーターは、どこ?ピーターは大丈夫なの?」


「リリ。ピーターは、亡くなったのよ。もういないの」


「ピーターに会わせて・・・」


リリスは、リタの特殊な技法によって体力を回復させていったが、リリスの心は、傷の回復とは逆に、痛さを増していった。


リリスが、昏睡状態の時に、ピーターの葬式は行われ、リリスは、参列することは出来なかった。

リタからピーターの家族に、リリスとピーターは、結婚することをふたりで考えていたということを伝えた。ピーターの家族はそれを聞くと、泣き崩れた。


リリスは、家の倉庫に入れられていた自分の赤色に染まったカバンを見つける。

カバンを開けると、中のピーターへのプレゼントを取り出す。

ピーターのために買った紺色の服にピーターの血がついているのをみて、思い出す。

あの時、渡すことが出来なくて、ピーターに見てもらうことさえできなかったプレゼント。

そのプレゼントに血が付いている・・・ピーターは死んだのだという証拠だ。もう視力のない目からも涙が流れる。


リリスは、ピーターがいつもいる畑に足を運ぶが、ピーターは、どこを探してもいなかった。いつまでも、そこに、リリスは、立ち尽くす。


ピーターの叔母さんが、畑にいたリリスを心配して、声をかける。


「リリちゃん。もう帰りなさい。夜になるわよ」


リリスは、何も答えない。


「あなたたちが結婚を考えていたことリタから聞いたわ。ありがとうね。ピーターも幸せだったはずよ。リリちゃん」


リリスは、結婚という言葉を聞いて、ピーターとの小さい頃からの思い出がよみがえる。

何でもない一緒にいた時間さえ、もう味わうことができない。自然とリリスの頬を涙が伝う。

多くの思い出があるほど、リリスの心を苦しめて、リリスは、胸が苦しくなり、その場でうずくまってしまった。


ピーターは、わたしが遠くに行くのが不安だと言っていた・・・あなた・・・わたしが遠くに行くように感じると言って不安がっていたに、あなたが遠くに行ってしまって、どうするのよ・・・残されたわたしが苦しいじゃない・・・


「リリちゃん!大丈夫?リリちゃん?」


ピーターの叔母さんが、心配する。


リリスは、どうしてこんなに苦しんだろうと思った。リリスは、呼吸が出来なくなるほど苦しくて、痛みを感じた。


どうして、こんなに胸が痛いんだろう・・・。痛み・・・キズ・・・そうだ・・・あいつらだ。あの5人組が、ピーターを殺したから、わたしはこんなに苦しいんだ・・・


リリスは、小さくつぶやいた。


「コロス・・・」


ピーターの叔母さんは、「え?」と聞き直すが、聞き取れなかった。リリスは、小さな声でぶつぶつと言い始めるだけで、放心状態のようになったリリスを誘導して、リタの家まで連れて行った。

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