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46章 謎の少年

無事生還したピーターは、みんなに、不思議な話をした。


10歳ほどの男の子が、ウオウルフを率いて戦っていたこと。

そして、コボルト4000匹と戦い、農民兵を助けたこと。

農民兵400人を一斉に空に飛ばして、安全なところに避難させてくれたおかげで、自分たちは助かったのだと話した。


それだけではなかった。その後、ピーターも含めて、大勢の農民兵は、行き場を失い森を彷徨うことになるが、命を救ってくれたその少年とウオウルフたちに、恩返しをしようと250人ほどが、ふたたび戦場へと戻った。

すると、その少年が、巨大な炎の玉を掌に作り出して、コボルトの大軍を倒していったという信じられない話までする。

農民兵は、その後、ウオウルフたちと共に、コボルトと戦った。4000匹いたコボルトも400匹になり、これで勝利だと思われたが、そこにサイクロプス2体が現れ、また信じられないことに、その一体をその少年が、素手で、殴りつけて、倒してしまったという。


それらの話をピーターが、興奮しながら、話すが、みんなは笑っていた。

ピーターが、戦場から帰ってきて、みんなに面白い話を聞かせようと盛った話だと思ったようだった。


リリスも、ピーターに言った。


「ピーターは、面白いわね」


「何が面白いんだい?」


「そんな不思議な話があるわけないじゃない」


「リリス信じてくれないの?俺は本当のことを言っているだけなんだよ?」


リリスは、サイクロプスがどのようなモンスターなのかを知っていた。それに400人ものひとたちを一斉に空に飛ばすなんてことは、どう考えてもおかしな話だった。

リリスの能力を最大限に利用したとして、どれだけの動物を使ったら400人もの人たちが空を一斉に飛ばせるのかを想像すると、ありえない状況になるからだ。

また、10m以上もの大きな炎の玉を作れるようなマナ力を持った話など聞いたこともなかった。

魔女でさえも1mもの大きさの炎をだせる程度だろうという認識があった。


でも、話の端々には、納得できる内容もあった。

リタ叔母さんが予想したように、400人生き残った農民兵のうち150人ほどは、ここへは戻ってこなかった。彼らはゆるされたという奇跡を知らなかったので、森にいるのか、どこにいるのか、分からない状態だった。許されたことを知った240人だけが、帰って来たのだ。


240人の中に家族がいないひとたちは、二重の悲しみを味わった。でも、まだ150人は生きていることを知って、望みは保たれている。


そして、ピーターの話を裏付けるのは、他の農民兵も似たような不思議なことを話していたことだった。


リタ叔母さんが言ったように、ピーターも国紙に書かれている内容は、ほとんど嘘だと言っていた。

恐ろしい狂暴なモンスターと表されているウオウルフは、実はとてもいいモンスターだということだった。

自分たちを助けてくれたのもそのモンスターで、そのモンスターを奇襲にかけたのは、むしろ自分たちボルフ王国やコボルトだったと言う。

リリスは、コボルトの狡猾なイメージがあっただけに、そのことは納得できた。


――――ピーターは、夜になって、なぜかコソコソと、リリスを呼び出した。

そして、人がいないことを確認してから、リリスに話をはじめた。


「リリス。このことは、誰にも言わないでね」


「何?どうしたの?」


ピーターは、服の中から赤い袋を取り出した。その袋は、農民が持っているとは思えないほど、綺麗でちゃんとした刺繍ししゅう入りの袋だった。その袋の中から、10枚の金貨が出てきた。


リリスは、驚いて聞いた。


「どうしたの!?その金貨?」


「シッ」とピーターは、静かにするようにジェスチャーする。


「昼間に少年の話しただろ」


「うん」


「その少年が、ウオウルフと共に命をかけて戦ってくれた報酬だと言って一枚の金貨をくれたんだよ」


「一枚?さっきみせてくれたのは、10枚だったよね?」


「うん。その少年がくれた金貨は、ただの金貨じゃなかったんだ。太古の昔の金貨を1枚くれたんだよ」


「太古の金貨?」


「その少年との約束で、その金貨をあげる代わりに、この金貨がシンダラード森林で手に入れたことは内緒にしてほしいと言われた。そうしないと、シンダラード森林に金貨を狙ってくる奴らが出てくるかもしれないからね。だから、今も内緒の話なんだ」


「そういうことね。でも、金貨10枚あるのはなぜ?」


「ぼくたちは、それぞれ金貨一枚手に入れて、ここに戻る前に、ボルフ王国とは違う場所の街に立ち寄ったんだ。その街の質屋で、その金貨を査定してもらったら、二言返事で、金貨10枚って言われたんだ」


「金貨1枚が10枚になったの!?」


「うん。他の街にいった人たちは何枚になったのかは知らないけれど、とても歴史的に貴重な金貨だったらしく、高く変えてもらったんだ。少年が言うには、数倍になると聞いていたけど、まさか10倍になるとは思わなかった」


「わたし、冒険者アドベンチャーの仕事をいくつかしたけど、金貨なんて一枚ももらったことないわ。報酬は、全部銀貨だったのよ。」


「リリのようにみんな驚いていたよ。農民兵に金貨の報酬を与えるなんて聞いたこともないからね」


「うん・・・。でも、それって・・・本当はもっと高値がつくってことよね?」


「どういうこと?」


「だって、質屋はすぐに提示した金額が10枚だったんでしょ?」


「うん」


「その質屋が儲けを考えないわけないんですもん。もしかしたら金貨15枚ぐらいの価値があったのかもしれないわね」


「え!?そうなるの?」


「わたしには、分からないわ。リタ叔母さんならわかるかもしれないけど」


「いや、ダメだよ。ぼくたちは、命を救われた恩義があるから、セルフィ様を裏切れない。リリだけにと思って話したんだ」


セルフィ様というほど、その少年を尊敬しているのかと疑問に思ったが、リリスは、内緒の話だということは、分かっているというふうに頷く。


「それにしても、ピーターの言っていた話って本当のことだったってこと?」


「だから言ったでしょ。全部本当だって・・・俺は嘘はつかないよ」


「サイクロプスを素手で倒したの?」


ピーターは、深く頷く


「でも、やっぱり、信じられないわ・・・想像すればするほど、変なイメージになってしまうもの・・・」


「この目でみた僕も信じられないぐらいの光景だったからね・・・たぶん、そのイメージ通りの光景だよ」


リリスは、少し深呼吸をした後、ピーターに真剣な面持ちで、話はじめた。


「ごめんなさい。あと、わたしピーターに話さなければいけないことがあるの・・・」


ピーターは、何だろうと思う。

「何だい?」


「わたしも内緒の話なの・・・黙っててくれる?」


ピーターは、リリスにも、秘密の話があるとは予想しなかったので、少し険しい顔になりながら答える。


「うん・・・リリにも、内緒の話があるとは思わなかったよ」


「リタ叔母さんに、ピーターと結婚したいという話をしたの」


ピーターは、それを聞いてドキドキしはじめた。自分は認められるのだろうかと心配にもなるからだ。

「うん・・・そ・・・それで?」


「そうしたら、わたしに重大な話をはじめたの」


「重大な話?」


リリスは、ピーターには、リタ叔母さんとの話を隠さずにすべて話した。

自分が人間ではなく、妖精族だということ。そして、ピーターと結婚しても、人間と妖精族の人間との間には、こどもは生まれないこと。完全な妖精になると見た目も大きく変わってしまうだろうということ。完全な妖精になれば、こどもを作ることができるかもしれないことなどだ。

そして、それらはリタ叔母さんから、ピーター以外には、誰にも絶対に話してはいけないと言われたことを伝えた。


リリスは、話す前から最悪の状態を想定して、受け入れようとしていた。

ピーターに話したことで、ピーターからは嫌われ、結婚も破棄になり、友達でもなくなってしまうといった最悪の想定だった。人間ではない自分はフラれてしまうと思った。


でも、ピーターは、笑顔で答えた。


「リリは、リリでしょ。例え人間じゃなくても、僕の気持ちは変わらないよ。それにリリは、小さい頃から普通とは違っていたから、僕としてはあまり驚かないかな」


「本当?本当にいいの?」


「当たり前だよ。こどもは、生まれないのならしょうがない。僕たちだけで生きていこう。誰か知り合いの子を育てるのもいいかもしれないしね」


ピーターは、まったく気にしていないという笑顔をみせてくれた。リリスは、その態度をみて、ほっとした。ピーターに嫌われることも想定していたからだ。


「ピーター。わたし本当にあなたと出会えて、幸せよ」


「まだ、結婚もしていないのにかい?」


「うん。本当に幸せ。あなたとずっと一緒に生きていくだけで、未来が明るくみえるわ」


「それは僕のほうだよ。僕は何も持っていない。戦うこともできない。リリは、色々な能力を持って国からも認められはじめている。そんな君と結婚できる僕は幸せ者さ」


「そんなことないわ。あなたは勇敢に戦って戻ってきて、今はわたしよりもずっとお金持ちよ。金貨10枚なんて持ってる農民なんて、聞いたことないですもの・・・。でも、最近、わたし泣いてばかりいるわ・・・」


そういうと、リリスは、涙を手で拭き取って、ピーターに抱き付いた。

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