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43章 徴兵制度

ボルフ王国の貧民地に作業員たちが、現れ土地にいくつもの立て札を立てていった。そこに書かれていたのは、徴兵の募集だった。シンダラード森林にボルフ王国が侵攻を開始するという内容だった。


農民といえどもボルフ王国の民として、徴兵に逆らうことはできない。

今回、徴兵で選ばれる農民は1000人。すべて、ボルフ王国の指示のあった農民が選ばれる。ボルフ王国の白い紙が用意され、それぞれの農民に配られる。

徴兵をかける時、農民の中でも、兵士や騎士になりたいと願うものから取り入れていくのが常例だが、今回は、そういったこともなく、まるで無差別のように農民に白い紙が送られてきた。

そして、ピーターの元にも、白い紙が来てしまった。


ピーターは、どういった侵攻をするのか知りたくて、白紙が来た農民仲間と共に、説明を聞きに出かけた。すぐに追い返されると思っていたが、意外にその説明会を後日行うとして、丁寧に断られ、その時に来てくれるように促された。


説明会に出て、その内容は分かったものの農民のピーターは、望んでもいない戦いをさせられる可能性もあると思った。


リリスも、徴兵のことを耳にして、ピーターに聞いた。


「ピーター徴兵の話聞いた?」


「うん・・・僕のところに白紙が届いたよ」


「ピーターが選ばれたの!?」


「うん。今回は、誰が選ばれるのかまったく分からないまま徴兵が進んだんだ」


「1000人なんでしょ?行きたい人が行けばいいじゃない?」


「兵士になりたいという人が徴兵に優先されて参加するのがボルフ王国では普通だけど、今回は少し違うみたいなんだ」


「違うって何が違うの?」


「国が開いた説明会がめずらしく行われたから、徴兵に選ばれた仲間と一緒に行ってきたんだけど、今回は、森の中に住んでいる100匹ほどのモンスターを追い払うだけの侵攻だから、戦争をしないような普通の農民兵を連れて行くだけにしたってことなんだ」


「よく、意味が分からないんだけど?」


「うーん。国の兵力の底上げがしたいらしいんだ」


「底上げ?」


「うん。戦争に行かなくても、農民が一度は戦争を少し体験していれば、それだけでも、国の強さが増すということみたい」


「わたしもその徴兵に参加するわ」


それを聞いてピーターは驚いて反対した。


「ダメだよ。何言ってるんだ。君が参加する理由なんてないよ」


「それはピーターもでしょ。ピーターのほうが心配よ。わたしは冒険者アドベンチャーなんだから、戦力にもなる。それに相手はモンスターなんでしょ。ならわたしが行けば必ず役にたつわ」


「わざわざ二人いって危険を増やすことなんてないよ!」


「だから言ってるでしょ。わたしは慣れてるの。わたしが行けば、ピーターを守れるわ」


そう言って、ピーターの意見を聞くこともなく、リリスは、口笛を吹いた。

森から一匹の大きい白い犬が出てきた。リリスが移動するときによく連れて行く、タークという名前の大型犬モンスターだ。

リリスは、タークに乗って、徴兵の組合まで乗り込んでいった。


そこには、武具を装備した兵士が、受付をしていた。


リリスは、受け付けで、話をしてみた。


「すみません。わたしは、今回の徴兵に参加したいと思ってきたのですが、参加の許可を下さいませんか?」


兵士は、不思議そうな顔をして、聞いてきた。


「白紙は持ってるの?」


「いえ、わたしは持っていないので、参加させてもらいにここに来ました」


「今回は、国から選ばれた農民だけの参加になるんだよ。ごめんね。次の機会にまた来てね」


リリスは、険しい顔をして、話を通そうとする。

「どうしても今回の遠征に参加したいんです。お願いします」


「あのねー。遠征って言っても、侵攻作戦で戦争なんだよ?お嬢ちゃんみたいな女の子がどうして、そんな戦争に参加しようとするの?やめときな」


リリスは、自分の胸に手を強く押し当てて言った。

「わたしはこうみえても、冒険者アドベンチャーなんです。ですから、必ずお役に立てます」


「君が冒険者アドベンチャー?」


「はい」


「それは驚きだけど、だったら、猶更ダメだね」


「どうしてですか!??」


「今回の遠征は、とても簡単なんだ。シンダラード森林の100匹のモンスターを追い出すだけだからだ。

普段は、戦争に出たがらない農民をわざと選出して、連れて行くんだよ。農民でも腕に自信がある人も参加はできない。ましてや冒険者アドベンチャーのように能力があるのなら今回は、無理だね」


リリスは、それでも何とか参加できる方法がないか聞いたが、追い返されてしまった。

これで自分が冒険者アドベンチャーであることも徴兵組合にもバレてしまって、さらに参加できない状況にしてしまった。


リリスは、タークと一緒にピーターのところに帰って来た。


「やっぱり・・・ダメだったわ・・・」


ピーターは、ほっとした表情で話す。


「よかったよ。君まで、参加するなんて、危険な確率をあげるだけになるからね」


リリスは、納得できないという面持ちで、黙ってるので、ピーターは、この遠征の意味を話し始めた。


「リリスは、ボルフ王国が、帝国の支配下にあることは知ってるでしょ?」


「知ってるけど、それがどうしたの?」


「今回の徴兵の意味だよ。ボルフ王国の王様は、本当は、農民たちや平民に、重い税を与えたくないらしいんだけど、どうしても、帝国に要求されている条件が高くて、税をあげざる負えないらしい」


「そうなんだ・・・」


「それでね。これは秘密裏に、兵士が説明会で教えてくれたことなんだけど、今回のシンダラード森林の場所には、鉄が埋まってるんだってさ」


「鉄?」


「うん。鎧や武器を作るための素材なんだ。その鉄をボルフ王国が手に入れることが出来たら、武具を大量に手に入れることができる」


「うん」


「そうしたら、いつかは、帝国から自由になるための準備が整うわけさ」


「そのための侵攻ってこと?」


「そうなんだ。こんなこと普通は農民に話さないらしいけど、少しでも理解してほしいという王様の願いで、少しだけ説明してもいい許可が下りたらしいんだ。帝国には、知られたくないから、一応内密にと口止めされている」


「そうなのね・・・今回の侵攻は、農民のためでもあるってことね」


「そうなんだ。しかも、その森にいるモンスター100匹を追い出すだけで、簡単だし、安全だから、今回の遠征には、ほとんど騎士も連れて行かないんだってさ」


「本当に安全なの?」


「コボルトと協定を結んで、コボルト4000匹が、ほとんど戦うことになるらしい。だから、リリ。大丈夫だよ。安心して」


リリスは、考えた。コボルト4000匹が味方なのはいいけれど、コボルトのリリスのイメージは、狡猾で卑劣というものだった。それが人間と手を組んで、そのモンスターを倒そうとしているようだけど、追い払って何をしようとしてるのだろうと思った。しかも、4000匹・・・


「シンダラード森林は、遠い森だから、わたしもどんなモンスターがいるのか分からないけど、本当に大丈夫なのかしら・・・それに武器はどうするの?」


「今回は、コボルトとそのモンスターの戦いになるから見学みたいなものだという話だから、自分たちで武具は、用意するようにって言われたね。それに今回の遠征が上手くいけば、次からは農民にも武具を出してもらえるようになるかもしれない」


リリスは、ピーターの話を聞いても、不安を抱かずにはおれなかった。

畑に出没するモンスターにも苦戦する農民のひとたちが、武器も与えられずに、遠い森にまで侵攻に参加するからだ。

その100匹のモンスターだけじゃない。森の中には、多くのモンスターが出るのだから、森の深くに行けば行くほど危険は増す。


思い悩むリリスをみて、ピーターは、さらに付け加える。


「今回の遠征には、第三王子様も参加されるんだよ。説明会にも少しだけ顔を出して、前席にいた農民たちに手を出して、握手までしてくださっていたんだ。そんな王子が、危険になるような作戦を王国はたてないだろ」


「そうなんだ。貧民地には、壁も建てないひどい王様と思っていたけど、王子様は、良い人なんだね」


「いい人かは分からないけど、農民ばかりが来る説明会にも足を運ばれるぐらいはしてくれる方だね」


少しは、安心したのか、リリスは、頷く。


「ピーター。絶対に無事に戻ってきてね。危なくなったらすぐに逃げるのよ。絶対よ」


ピーターは、笑顔で、リリスの頭を撫でる。


「分かった。絶対に無事に戻って来るよ」

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