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39章 希望 【第一部 完】

【39章 希望】



コボルト軍団4000匹とサイクロプス2体を倒し、そして、最後に、ウオガウがウオウルフの長として、コボルトリーダーに勝つと、みなが、歓声の声をあげた。


途中から参加した240人の農民兵も、国に帰ることもゆるされ、感激のあまり涙するものたちまでいた。


ウオウルフにとって、この戦いは苦いものになった。124匹いたウオウルフも、70匹にまで減ってしまったこの戦いは、本当に辛いものだった。


2回戦目では、被害も0になったが、完全に0とは言えなかった。


農民兵のうち14人は、コボルトとの戦いで命を失ってしまった。


大けがをした人もいたが、けが人は、ロー村の司祭様や村人のマナや薬草などの治癒によって何とか命はとりとめられた。


しかし、それでも勝利を喜ぶ声は、やむことはなかった。



―――ウオガウは、一晩中、ガーウのお墓の前から、妻と一緒に、離れることはなかった。


コボルトリーダーを打ったことをガーウに報告したのだろう。


源は、フォルを肩に乗せ、ガーウのお墓に行き、ガーウに声をかけた。


「ガーウ。君が、最初にコボルトを発見し、その報告が早かったことで、多くのウオウルフたちがいのちをとりとめたぞ。君は、ウオウルフを守り抜いたんだ」


フォルは、源の肩から飛び降りると、ガーウが眠っている土に顔をつけて、ほおずりをした。


フォルにとって、始めての友達は、ガーウだったからだ。


「あありがとうございます」


そのふたりの様子をみて、ウオガウが嬉しそうに礼を言った。


「本当のことだろ。ガーウは、命をかけて使命を全うしたウオウルフの英雄だ」


「ははい。がががーうもよよろこんでいるでしょう」


ウオガウに、妻はもたれかかって甘える。長の妻も強い信念を持っていると源は思わされた。




―――夜の間、火は灯され続け、祝いは行われた。


大勢の食事の食材を用意してくれたのは、ロー村だった。240人ものひとたちの分まで、村の人が私財を削って料理までしてくれたのだ。


ウオウルフたちの傷も治しながら、料理まで与えてくれた。

朝方まで、祝いは終わることなく、続いた。



―――昼になると、源は、寝ていたみんなを起こし始めた。


そして、農民兵たちに、一列になって並び、座っている源のところにひとりずつ来るように命じた。


農民兵たちは、一体なんだろう?と思いながらも、自分たちの命を救ってくれたセルフィの命令に従った。

農民兵たちが、並び終えたと判断すると、また源は、空を飛んで、みんなに聞こえるように言った。


「あなたたちは、ウオウルフのために、命をかけて戦ってくれました。わたしたちウオウルフは、命をかけてくれた人たちに何も出さずに帰すわけにはいきません。ですから、ひとりに金貨1枚を報酬として、さしあげます」


その話を聞いて、農民兵たちは、驚いた。


まさか、農民兵に報酬を与えようとするような酔狂な人物など存在するとは思っていなかったからだ。


農民兵の代表者ローグ・プレスは大きな声で言った。


「わたしたちは、あなたたちに命を救われたのです。それだけでもう十分納得しています!」


「それはそれ、これはこれです。では、この金貨を渡す条件をあなたたちに、言い伝えます」


「条件??」と言い始める。


「この金貨は、太古の金貨で、それだけでも価値があるということです。現在の金貨よりも価値があるはずです。ですが、この金貨をわたしたちが、あなたたちに与えたことは、絶対に口外しないでください。もし、それを口外したら、邪な人間が、ここにその金貨を狙ってやってくるかもしれないからです。恩を仇で返してはほしくありません。出どころは、シンダラード森林ではない別の場所ということにしておいてください」


「なるほど」


「ですから、条件とは、金貨の出どころは内緒にすること。そして、最後にウオウルフは、悪いモンスターではないということを広めてください。それが条件となります。わたしたちも、ボルフ王国とはうまくやっていきたいからです」


代表者は言った。


「分かりました。そのことは徹底させます!みんな分かったな!??」


その声に、一斉に納得したという返事で返した。


「最後に、亡くなった14人のかたたちのご家族には、金貨3枚を遺族に送ろうと思っています。ですから、この14人の人の知り合いというひとは、金貨を配っている時に教えてください。もちろん、あとで、その家族に報酬が届いたかは確認させてもらいます。では、順番にわたしのところに来てください。」


命を懸け死んだ者の報酬をくすねようとするような人間はいないと信じて、源はそのようにした。


農民兵代表者のローグ・プレスは願った。

「待ってください!あとひとつだけ聞いてもよろしいでしょうか?」


「何でしょうか?答えられることなら答えます。どうぞ」


「会ったこともない邪魔なだけのわたしたち農民兵を救い、400人を空に飛ばし避難させ、巨大な炎のマナを操り、4000匹のコボルトをすべて倒し、サイクロプスを素手で倒して、わたしたちに多額の報酬を与えるあなたは、わたしの知る伝説以上のことをなさいました。この話を誰かにしても、誰もそのことを信じないでしょう。一体、あなたは、何者なのですか!?」


他の農民兵たちが、もの凄く納得して頭を振って頷いている。


農民兵たちのすべての疑問につながるだろう物凄く的確な質問をされてしまった・・・。ここで俺が「龍王の意思を受け継ぐ天使族のハジメスエナガだ」何てことを答えたら、一体どうなってしまうのか恐ろしく感じる。


何て答えるべきなのか・・・。命をかけてくれたひとたちにまで、嘘のような内容は言いたくもない・・・・。本当に困った。


「わたしの名はセルフィ。今はそれだけしか言えません!」


源がそういうと、農民兵たちが、なぜか拍手をしはじめ、「セルフィ様ー!!」と大喝采をはじめた。


そうすると、ローの村人たちが、源のことを思いやったのか、誘導をはじめてくれた。


「みなさん、一列になって並んでください!セルフィ様がひとりひとりに報酬を与えてくださいます!ゆっくり並んでお待ちください!」


源は、240人の農民兵ひとりひとりに、1枚の金貨を与えていった。


ほとんどの人が、こんなにもらってもいいのか?と驚きの声を返しながら、感謝を表した。ほとんどの人が源に握手を望んで来るほどだった。こんなことは想定してはいなかったが、よくよく考えればこうなってしまうかとあきらめた。

そして、亡くなった14人の知り合いも見つけることが出来た。そのひとたちは、家族に届けると約束してくれた。自分たちの名前と署名もきちんと自分たちから進んで提示し証明しょうと誠意ある行動を示してくれた。


この人たちに報酬を少しでも与えることが出来て良かったと思えた。


源は、夜のうちに、ウオウルフの遺跡から金貨を大量に箱にいれて持って来ていたのだ。ウオガウにそのことを相談して、許可をもらい農民兵に配ることにした。

ウオガウはその財宝は、源のものだからといって、反対することはなかった。


その報酬は、金貨10枚にしようと思っていたが、そのことをロー村の司祭様に相談したところ、それは多すぎるということだった。正規兵であっても、金貨が出ることはなく、金貨3枚も出すのは、貴族の兵士相手か、かなりの武功をあげた騎士ぐらいだということだった。


ほとんどは銀貨で支払われる。農民兵には、一切報酬は出ない場合もあ。だが、サムジ王子などにあのように扱われていたことを考えると源は、彼らに今後のためにも、1枚の金貨を与えることにした。


1枚といっても、今の金貨とは違う。古代の金貨なので、その値打ちは、数倍にもなるのだ。へたをすると、今の金貨の数倍になる可能性さえあるという。

神話級の狼王の時代の金貨だからだ。

そんな金貨が次々と見つかってしまうのも、問題だが、うまく誤魔化してくれるだろうと信じた。何も与えずに帰すよりはいい。


ロー村の中で戦いに参加してくれたひとたちにも1枚ずつの報酬を与えた。

そして、昨日の祝宴の食料代とその準備費などを含め、いのちをかけてくれた同じ森に住むロー村には、50枚の金貨をウオウルフから贈呈された。


ウオウルフというコミュニティに、ロー村というコミュニティが同盟として参加してくれたのだから、ウオウルフ側からすれば、当然の報酬だろう。祝宴を手伝ってくれた女性たちなどの人件費もそこから出してくれるように言っておいた。


あまりの多さに司祭様は、気を失いかけ、天国にいかれるところだったが、持ちこたえた。


すべての関わってくれた人間が、納得してこの戦いは終わりを迎えた。

それも、狼王が残してくれた財宝のおかげだろう。



その狼王のことは、司祭様にだけは、伝えた。

ウオウルフの前長にいつか会って、金貨のお礼と龍王と狼王の話を共にしたいと言われた。


若い頃から謎を解き明かすために旅を続けた司祭様だからこそ、前長との話はしたいことだろう。


それは、のちのち出来るだろうと思った。


源は、この世界に来て、立て続けに危機を味わい、すべて手さぐりでやってきたが、何とか生き残っている。それだけではなく、仲間も増えてきたことも嬉しいことだった。


ロックとフォルとの3人だけの仲間から、ウオウルフやロー村の人々、また240人のボルフ王国の農民兵のひとたちとの関わりが出来たことは、大きな収穫だろうと思えた。


だが、これからやることは多い。ウオウルフとロー村を守れる状態にすることが、次にすることだと源は考えていた。


準備さえ万端なら被害も少なくて済むことは、今回で痛いほど味わったからだ。


やることは沢山あるが、1つ1つを着実に行っていこうと源は思った。



【第一部 完】


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