38章 完全決着
―――巨大モンスターサイクロプス2体は、ゆっくりと湖から化け物の風格をかもし出して、這い上がって来た。その巨人に対峙したのは、二人。
源とロックだった。
ウオウルフ連合とコボルト400匹が後ろで戦っている中、それぞれが2体の前に立ちふさがる。
最後のコボルトの因縁対決は、ウオウルフたちにまかせた。
こどもの体の源の前に、サイクロプスAが立ちはだかるが、それがまた、大きさのギャップがありすぎて、大きく見えすぎ、また、小さく見えすぎた。
「かっかっかっか」と知能の低いサイクロプスAも笑うばかりだ。
そして、サイクロプスAは、源に鉄のハンマーを振りかざした。
源は、なぜか剣を右手に持ってダラーと下げながら、避けることもなく、前に歩いていく。
サイクロプスAの攻撃は、左から右へと斜め横に流れてきている。
そして、サイクロプスAは、振り切った。
しかし、源が小さすぎて、当たった衝撃が無さすぎた。
サイクロプスAは、小さなこどもが、どこに飛ばされたのか遠くを探すが見当たらない。探すのをやめて、前に向くと、そのこどもは、目の前に立っていた。
攻撃は当たっていなかった。
―――サイクロプスBは、自分の半分ほどの大きさの岩のモンスターを目にして、大きく吠えた。
「ぐおおおお!!」
ロックは、右手に金剛斧。そして、左に金剛の盾を装備し、その両手をこれから戦う準備をするかのように、腕を広げて、軽く背伸びして、ストレッチをする。
サイクロプスBは、両手でロックの脳天めがけて、鉄のハンマーを振り下ろした。
ロックは、金剛の盾を頭に持っていき両手でそれを受け止める。
グワンッ!
というすごい音が鳴り響く。サイクロプスBは、笑い出すが、ロックは、その力を防ぎきっていた。
―――サイクロプスAは、一撃目で遠くに飛ばされたはずのこどもが、眼の前に普通に立っているのをみて、不思議そうに眺めるとまた笑い出した。
そして、次は、上から下へと鉄の巨大なハンマーを振り下ろした。
しかし、源は、サイクロプスAの攻撃を紙一重でかわす。源からすれば、まるで止まっているかのような遅い攻撃だが、遅いからといって威力がないわけではないことは、解かる。
それでもギリギリで避けるのは、かなりの精確さで、敵の動きを把握している証拠だ。
サイクロプスAは、二撃目を打ち込んで、次こそは、鉄の槌の下でペシャンコだと思い覗き込むが、またこどもは、普通に立っていて不思議そうな顔した。
3度目の攻撃をするが当たらない。
すると、当たらないことに、イライラしはじめたのか、怒りの顔になり、連続攻撃で、地面の上にいる小さなこどもに鉄のハンマーを振りかざす。
まるで、もぐら叩きをしているような状況だ。
だが、一回も、源には当たらない。少年は、武器を下げたまま、ゆっくりとサイクロプスAに向かって歩き続ける。
―――サイクロプスBは、まともに真上に攻撃をしたのに、岩のモンスターが無事なのをみると、次は横から攻撃をしかけた。
ロックは、それをかいくぐると、セカンドアックスをサイクロプスBの胴体へと叩き込む。サイクロプスBの腹は、裂かれ、同時に、サイクロプスは、大きく吠えた。
ロックの攻撃は、止まらない。一撃を入れたと思えば、次は、背中へとおもいっきり、セカンドアックスを叩き込む。
サイクロプスBは、背中をのけぞらせ、苦しむ。
しかし、持っていた右手のハンマーを手放し落として、背中に刺さった敵の武器を敵の手ごと握り込む。そして、背中から武器を抜くと、痛みで叫びながら、岩のモンスターに、振り返り、頭突きを繰り出す。
ロックは、避けずに、グラファイトの兜のまま、頭突きを返す。
頭突きをしても、岩のモンスターは無事なのをみて、サイクロプスBは、両手で、その敵の腕を持って、振り回しはじめた。1回、2回、3回と振り回し、そして、地面へと叩きつけた。
その衝撃に、さすがのロックも無事ではなく、左腕をもぎとられた。
「ぐはっ」と声を出す。しかし、その腕はもぎとられたのに、岩の手が、生えはじめる。それをみて、サイクロプスBは、また掴みかかろうとするが、ロックは、両手で、セカンドアックスを振り抜いた。
サイクロプスBが顔を近づけてきたところを首を狙って反撃したのだ。
巨大なサイクロプスBの顔は、飛んでいき、池の中へと沈んでいった。その後、ロックの体に力が入り込んでいく。
それをサムジ王子がみていたので、また驚いた。
セルフィ以外にも、サイクロプスを倒すものがあちら側にいることを知ったからだ。
―――サイクロプスAは、どれだけ鉄のハンマーを振り回しても、あたらないことに、怒りを表し、青い顔を赤くしていく。
しょうがないという顔をして、源は言う。
「受けてやるよ」
サイクロプスAの攻撃は、次は、源の上にまともに当たった。
ガーン!というすごい音がした。サイクロプスAは笑った。
だが、源は、片手で金剛剣を上にあげて、簡単に受け止めていた。
サイクロプスAは、首をかしげて、その後も何度も振り下ろすが、それを源は、片手の剣で、簡単に受け止め続ける。
サムジ王子は、その様子をみて、ありえないと言いながら大笑いしている。
サイクロプスAは、両手であらん限りの力を溜めて、斜めから振り下ろしてきたので、源は、それを避けながら、その攻撃の方向に、自分の力を加えて、鉄のハンマーを打ち流した。
サイクロプスAは、2回もグルグルと回転して、すごい音をたてて、地面に倒れた。
サイクロプスAを投げたのだ。
サイクロプスAは、座ったまま、体を半分起き上がった。座ったままでも、源の何倍もの大きさがある。そのまま、また鉄のハンマーを振り下ろす。
それをみて、源は、グラファイソードで、その鉄のハンマーの先に、あわせて、打ち抜いた。すると、鉄のハンマーは斬れて、先だけが、飛ばされていった。
サイクロプスAは、先がなくなったハンマーを捨てて、源を殴りにかかるが、源は、グラファイソードを鞘に納め、座ったままのサイクロプスAの体をかけあがり、肩から一発殴ると、すごい衝撃でサイクロプスは、後ろに倒れた。
源は、首のところに座り、顔だけでも自分よりも大きそうなサイクロプスAの巨大な顔を何度も殴る。
ズガン!ズガン!と凄い音が鳴り響き、サイクロプスの大きな顔が殴られる方向に傾き、口から血が出始める。
その一発一発の衝撃にたまらなくなったのか、サイクロプスAは、両手を挙げた。
たぶん、降参という合図だろう。
源は、それをみて、首から飛び降りた。
サイクロプスAは、両手で何か言い訳をいいたそうな素振りをみせたと思うと、首を振りながら、森の中に逃げていった。
そのありえない出来事をサムジ王子とコボルトリーダーは、呆然とみていた。
殺すだけでもすごいのに、サイクロプスをこどもが殴って、追い返したからだ。
一寸法師が、鬼と殴り合って喧嘩にかったような光景だ。
―――コボルト一匹は、人間よりも弱い。なので、数でも、ウオウルフ側が近づいてしまえば、もうコボルトには勝ち目はなかった。ウオウルフ40匹と農民兵250人に、コボルトたちは追い詰めれていく。
それでも、コボルトは、最後の一匹まで、執念を持って戦いを挑んできた。だが、コボルトたちは、その執念も虚しく倒れていった。
最後は、コボルトリーダーだけになると、その前にウオガウが立ちはだかる。ウオガウの鎧は、コボルトの青い返り血が大量に付着している。
さすがのウオガウも、大量のコボルトとの戦いで息をきらしている。
「ぜぇぜぇ・・・おおおお前がわっわ我が息子をこここ殺した。」
ウオガウは、睨みつけた。
ウオウルフのリーダーとして、またガーウの無念を抱いて、ウオガウがコボルトリーダーと戦う。
これは、作戦の中でも、すでに決められていたことだった。
最後、コボルトリーダーと決着をつけるのは、ウオウルフの長であるウオガウだと。
しかし、コボルトリーダーも最後の言葉で応酬した。
「お前も我が同胞を殺した!」
どちらの意見もかみ合うはずがない。まわりは静まり返っていた。
その両者の戦いは一瞬だった。
コボルトリーダーが、叫んで、ウオガウの顔をめがけて、槍を突き刺そうと動いたと同時に、ウオガウは、俊敏な動きで、コボルトリーダー槍をかわしながら横に飛び込み、コボルトリーダーの首をウィングソードで斬った。
コボルトリーダーは、槍攻撃をしたまま動かなくなったと思うと、ボトッとコボルトリーダーの頭が落ち、その後、体も静かに倒れた。
ウオウルフたちに森の中に誘い込まれたコボルトがどれほど生きているのかは、分からないが、ウオガウとコボルトリーダーの一騎打ちによってコボルトとウオウルフの戦いは、完全決着をつけた。
これで、ウオウルフは、シンダラード森林西部を含めた全域の主となった。
「俺たちの勝利だー!」
と源が剣をあげて、叫ぶと、一斉に、ウオウルフも、ロックも、農民兵もローの村人も叫んだ。
全員が、4000匹もいた軍団を倒したことに興奮を覚えて、喜んだ。
多くの者たちの基礎レベルも向上したようだ。
源やロックはもちろん、ウオウルフたちもかなりの底上げを果たした。相当な数相手のモンスターを倒したからだ。
特に農民たちの興奮の声は大きかった。
一度は死ぬのを覚悟してこの戦いに挑んだのだが、すぐにサイクロプス2体という化け物が湖から現れて、死ぬ運命にあると思っていたからだった。
ウオウルフやロー村の人々、源やロックは、半日隠れて待機していたので、はじめからサイクロプスがいることを把握していた。途中から参加した農民兵からすれば、信じられない大大勝利だった。
「うおぉぉぉ!」という歓声が止まらない。
そこに、ニヤニヤした顔で、お神輿のような台に乗って近づいてきたのは、ボルフ王国第三王子キグダム・ハラ・コンソニョール・サムジだ。暗闇の中、何をエネルギーにして光らせているのか分からないが、豪華な光を灯して、場違いにも、登場してきた。みんなの喜びの歓声もしだいに静かになっていった。
サムジは、台から降りてきて、しかも親しげに源に声をかけた。
「立派だったぞ。セルフィ。よくやった」
ニタニタ気持ち悪く笑うサムジを源は、無表情で、無言のままみただけだ。
「・・・」
「セルフィ。お前の力は見せてもらった。お前たちウオウルフとボルフ王国は、約束通り協定を結ぶ。俺たちはお前たちには手を出さない」
「あぁ。お前たちがそれを守るのなら、この森の鉄を掘り出す許可を出そう」
「うんうん。セルフィ。俺はお前が気に入った。何かおれに出来ることはあるか?」
この王子の豹変ぶりに、気持ち悪い気がしたが、戦いをこれ以上増やしたくはない源は、相手をするしかない。それに、農民兵たちは、ボルフ王国の指示に従わず、逃亡した兵として認識され、国には変えれない可能性があるのを源は危惧していた。
「じゃー1つ頼みがある」
「お。何だ言ってみろ」
「農民兵たちを家族の元に返してやってくれ」
それを聞くと、農民兵たちが、騒めいた。
そして、サムジ王子も、顔を曇らせた。
「おいおい。国を裏切った奴らをゆるせっていうのか??」
そう聞くと、源は、サムジ王子を睨みつけた。
少しまた寒気がしたサムジは、すぐに返事を言い換えた。
「わかった。お前の頼みだ。その頼みを聞いてやる」
それを聞いた農民兵たちは、「おおおお!」大きな声で喜び始めた。これで、家族の元へと無事に帰還することができるからだ。泣いて喜ぶ者たちもいた。
「なーそれよりも、お前のその鎧やウオウルフたちの鎧は、どうやって手配したんだ?それは、鉄なのか?」
この質問にまともに答えるはずもない。金剛だということなど口が裂けても言えない。言えるとしたら鉄を強化した鋼ぐらいだ。
「これは、ここで手に入れた鉄から作ったものだ」
「そうか!その武具があったから、あのコボルトを倒せたのか?」
「さあな」
「セルフィ。ボルフ王国にその鎧を用意できないか?値段は、そちらの良い値でいい。いい話だと思うぞ?」
このサムジ王子とは、本心では関わりたくはないと思っていた。どう考えても怪しい人物だからだ。だが、ボルフ王国の出入りが許可されれば、それだけ情報も増え、人間とのやり取りが出来るようになる。それを考えれば、無下にはできなかった。もちろん、グラファイト製の武具など与えない。与えるとしたら、鉄かまたは、サービスしても鋼だ。
「考えてもいい。だが、俺たちは戦争を終わらせたばかりなんだ。そういったことは、落ち着いてからしてくれ。今日は、みんなも疲れた。ただ勝利した喜びを味わいたいだけなんだ」
「分かった。お前には、また会いに来る。その時に、俺たちで未来の話をしよう」
サムジ王子は、馴れ馴れしく源の肩を叩いて、本人はいい笑顔だと思っているかもしれないが、嫌みな笑みを浮かべたまま去って行った。
農民兵たちが、源に頭をさげはじめた。泣いている農民兵たちもいる。
「セルフィ様。ありがとうございます!」
源は、苦笑いをしながら、戦ったみんな、ウオウルフやロー村の人々たちに感謝してくださいと話した。
そして、生き残った人々で、勝利を祝った。
―――ボルフ王国の王子サムジに、騎士が聞いた。
「王子。あの農民兵たちを本当に本国に戻してもいいのですか?あいつら、戻ったら、何を言いふらすか、わかりませんよ?」
「かまわん」
その言葉を聞いて騎士は少し驚いた。それほどまで、あのセルフィという少年を優遇されているのかと思ったが
「全員殺せ」
とサムジ王子が言って聞き返した。
「今なんと?」
「全員殺せと言ったんだ。あと、あのテントの中にいた女たちも全員殺せ」