37章 切り札
【37章 切り札】
約束の日の夕方まで姿を暗ましていた源、ロック、ウオウルフ、ローの人々は、三日のうちにあらゆる準備を整え、暗みに乗じて、コボルトを400匹まで減らすことに成功した。
あらゆる工夫の前に、単純な攻撃を繰り返すコボルトは、まったく対応できなかった。三日前とまったく立場が逆転してしまっていた。
そんな想定は、コボルトリーダーには無かったのだ。たった三日という時間で、これほど変わるなど誰も予想など出来ない。少年が提示したこの短期間にウオウルフたちがこれほど強くなるなど誰も考えない。コボルトは、壊滅的な被害を被っていた。
しかし、源たちの背後から200以上という大勢の気配を愛が捉える。コボルトの援軍なのか、ボルフ王国の騎士なのか、それとも黒い謎の軍団なのか、解らなかった。
そこに現れたのは、逃げたはずの農民兵たちだった。400人のうち250人にも及ぶ農民兵が、源たちの後ろに、集まりはじめたのだ。
『一体なんだ・・・俺たちを攻撃しようとしてるのか?』
『分かりません。源』
―――サムジ王子も、一体何が起こったのか分からない様子だった。
「なんであいつら、ここに戻って来たんだ?」
その王子の質問に、騎士も困惑しながら答える。
「もしかすると、前回逃げたことを帳消しにしようと、ウオウルフに立ち向かおうとしているのかもしれませんね」
それを聞いて、サムジ王子は、大笑いした。
「本当にそうなら、面白いぞ。あのコボルトを大量に瞬殺したウオウルフたちに、農民兵が殺されるところがみれる。もっと火を灯して見やすくしろ!」
―――農民兵のうちのひとりが、源に話しかけてきた。
「わたしは、ローグ・プレスと言います。あなたに命を助けられた農民兵の代表です。命を助けられたわたしたちは、あなたたちのために、命を使って恩を返すことにした」
「ウオウルフを攻撃しに来たんじゃないのか?」
「違う。もう何をしても、俺たちは、国に帰ることができない。国に帰ろうとすれば、捕まり裁かれる。なら、命だけでも助けてくれたあなたたちに、恩を返そうとやってきた!」
「ふぅー」っと源は息を吐いて、少し安心した。
農民兵とまた戦わなければいけないかと思っていたからだ。
前回でも一方的な戦いだっただけに、今回は、それ以上の惨劇になるところだと思っていた。
「ありがたいが、もういいよ。コボルトの数もかなり減ってきている。ウオウルフだけで、あとは処理することができる」
「いや、どうか、俺たちにも戦わせてくれ!頼む!」
源は悩んだ。このままウオウルフだけで戦えばこちらの損害は0で終わるからだ。
でも、自分たちの存在意義を見つけたいと命をかけて、ここまで来ただろう、農民兵たちの想いを考えると、それがこの世界なんだろうと思い、断りきれなかった。
彼らはもう、家には帰れない。どこで生きていくのかもわからず、死ぬだけのものもいるかもしれない。意義を持って死ぬ戦いに挑もうとしているのだろう。恩を返すため、生きている意味を見つけるため、今の源と重なるところがあった。
「分かった。でも、これから何が起こっても驚くなよ。あと、あまりむちゃをしない程度に参加してくれればいい。一番は、ウオウルフには近づいたらダメだ。彼らの鎧には、刃物がつけられているからウオウルフは、君たちを斬りたくなくても、斬ってしまう恐れがある」
それを聞いて、農民兵の代表者が頷く。そして、そのことを250人に伝言して伝えていった。
源は、空を飛び大きな声で、叫んだ。
「コボルトォ!お前たちは、もう御終いだ。俺たちウオウルフの被害は0!お前たちは、もうすでに400匹も残っていない!そして、ボルフ王国の兵たちが、さらにコボルトに戦いを臨もうとしている!それでも、まだ戦うのか!?」
コボルトリーダーは、一際大きな槍を持ち、顔に血で恐怖を与えようとするようなペイント姿で、叫んだ。
「お前たちを殺す!」
源は言った。
「湖に隠してある。そいつらを使うのか?」
「そうだ。お前らはここで死ぬ!いでよ。サイクロプス!!」
とコボルトリーダーが叫ぶと、湖からふたつの巨大な者がゆっくりと壮大な音をたてて出てきた。
サイクロプス:それは、一つ目の巨人族。知能こそ低いが、そのパワーと巨大さは世に知れ渡り、見たらモンスターでも逃げ出すという恐怖の象徴だ。
ボルフ王国第三王子キグダム・ハラ・コンソニョール・サムジは、セルフィという少年をほしがりながらも、その力が本物かを確かめるために、コボルト側に与えたモンスター。それが、一目鬼だった。
ロックは2mを超える大きさだが、このサイクロプスは、5mにも及ぶ大きさで、二階建ての家を超える。そんなモンスターが手には、鋼鉄のハンマーを持って、しかも、2体も現れた。
それをみると、農民兵たちは、騒ぎ始めた。暗闇の湖から出てきた巨大なモンスターが、突如現れ、これからそれと戦わなければいけないことになるからだ。
コボルトリーダーは、叫んだ。
「行けーーー!!」
その掛け声とともに、残った400匹のコボルトもサイクロプスよりも先に突撃してきた。
ダメだ・・・。コボルトは、最後までやめないつもりのようだ。生き残ったコボルトたちもやめる気はない。
ウオウルフと農民兵、そして、ローの村の援護マナという連合が、残り400匹のコボルトと正面衝突した。
ウオウルフは40匹。一匹10体のコボルトを倒せば、コボルトはほとんど全滅だ。
そこに、農民兵250人が入って来る。
―――サムジ王子は、笑った。
「何なんだ。あいつらは、コボルトと戦うつもりだったのか。俺のサイクロプスに蹴散らされるかもしれないのにな」
―――巨大モンスターサイクロプス2体は、ゆっくりと湖から化け物の風格をかもし出して、這い上がって来た。その巨人に対峙したのは、二人。源とロックだった。
ウオウルフ連合とコボルト400匹が後ろで戦っている中、それぞれが2体の前に立ちふさがる。