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35章 ウオウルフの逆襲

コボルトリーダーは、顔に赤色の血をつけて、恐ろしい形相で、怒りを表した。


部下のコボルトたちは、その怒りが自分へと向かないように、首をひっこめて気をそらそうとする。


コボルトリーダーは、ひとりのコボルトの首を鷲掴みにすると、そのままその首を握りつぶした。


「ぐげぇッ」


「奴らはどこに行ったんだ!!」


大勢のコボルトが、ウオウルフの縄張りシンダラード森林の東側全体に、捜索網を広げて探すが、一向に、姿が見当たらない。


コボルト軍団が、ウオウルフを虐殺しようと前回の場所に到着したのは、昼前だった。しかし、夕方になっても、ウオウルフたちは現れない。


もしや逃げたのかと思われるほどだった。前回、大勢のコボルトを殺され、ボルフ王国にまで赤っ恥をかかされたコボルトリーダーは、その忍耐を発揮できずに、次々と仲間のコボルトを腹いせに殺し続ける。




―――ボルフ王国第三王子キグダム・ハラ・コンソニョール・サムジも、この戦いに興味を持って、10mの高い場所のテントからまた、観察する予定だった。あの不思議な少年が、またその能力で、コボルトを大量に殺していく様を見たいと思っていたのだ。だが、ウオウルフの姿はいくら待っても現れなかった。


サムジ王子もまた、イライラしながら、ワインの入った金のコップを床に投げた。


ガシャン!!


「一体あいつらは、どこに消えたんだ!?」


すぐに半分裸の女性たちが、そのコップと床を片付ける


騎士はいらだっている王子をなだめようと声をかける。

「王子。わたしどもも、森の中を捜索しましたが、どこにも、彼らの姿はありません。もしかすると・・・」


「もしかすると、何だ!」


と、サムジ王子を守る騎士にストレスをぶちまける。


「おれはなー。良い事が1つと悪い事、複数、前回味わったんだ!」


「は・・・はい・・・」


「ウオウルフを虐殺しようとするが、失敗・・・。農民兵をすべて殺そうとしたが失敗・・・。資源は手に入りそうだが、あれはこちらの負けだろ!?」


「コボルトは負けたかもしれませんが、ボルフ王国は、決して負けてはおりませぬ!」


「フッ。そんな負け惜しみは聞きたくもない。だが、良い事って何だと思う?」


王子からの質問に騎士は少し考えて、答える。

「資源確保の成功でしょうか?」


「そんなことは、どうでもいい。もっと素晴らしいものを見つけたんだ」


サムジ王子は、騎士の顔をみて、気持ち悪く笑った。


「あいつだよ。あの謎の少年。セルフィとか言ったか。あいつは異常だ。あれは夢だったのかと思えるほど、異常な奴だった。またみたいんだ。あいつの強さが本物なのか、本当にあいつはあれをして、勝利したのか。あれは夢ではなかったところをまたみたいんだよ!だから、おれも用意させてもらった」


サムジ王子は、右手を握りしめながら、噛みしめるように言う。


「何も知らない農民兵を虐殺していくのも快感だが、そんな小さなことに目を向けていたら男じゃないだろ。人が手にできないものに手を届かせるチャンスがあったら、それを物にするのが、キグダム家の男児だ!」



―――コボルトリーダーは、鉄で出来た剣を部下のコボルトの腹に突き刺して、苦しんでいるのをみながら、ストレスを発散させていく。


約束の日の夕方も、過ぎてしまうと思われたその時、コボルト軍団の前に、突如、現れたのは、ウオウルフ率いる源とロックだった。


その後ろには、ローの村の数人が立っていたが、すぐに移動して消えた。

源たちを長い間、半幻滅マインドレスローで敵から見えなくさせて、相手の戦力を観察することに成功した。


すべてのウオウルフたちは、黒く染められた鎧をまとい、灰色の毛も墨で黒く塗られ、顔も真っ黒にされており、その風格を増していた。コボルトにも認識できるほど、綺麗に整列していたウオウルフの集合体は、夕方の暗くなりかけたところに、不気味に映る。その黒い鎧が異様さを醸し出しているのだろう。ぼんやりとみえる黒い鎧の姿に、ハッキリとみえる、ウオウルフの黄色に光る瞳が、逆に強調してみえてしまう。


源とロックが着ている金剛グラファイドの鎧は、鉄よりは濃い色だが、ほとんど変わらない銀色だ。闇の中にいる敵の中でロックと源は見やすくみえた。



そのウオウルフの集合体が、現れて、次々と捜索に出ていたコボルトたちも戻ってきた。そして、コボルト軍団の数は膨れ上がった。


「ガーーー!!」という大きな威嚇の声がコボルト軍団から聞こえてくる。


ウオウルフたちは、不気味に静かにまったく反応せず、動かない。



―――高い位置から覗き込んでみていたボルフ王国第三王子サムジは、踊り、はしゃぎだした。


「みろー!!来たぞー!!ちゃんと来たじゃないか!!あいつだ。あいつが現れた!あはははは」


「殺せ!殺せ!コボルトなんか、殺してしまえ!その強さをみせてくれー!セルフィー!」


まるで、源の熱狂的なファンになったかのように、サムジ王子は、叫んで喜んだ。




―――源は、ゆっくりと右前に歩き出した。源の鎧は黒ではないので、ウオウルフたちよりも、はっきりとみえる。

その源とは、対照の位置に動きだした目が2つ。ウオウルフの一匹が、夕方を過ぎたため暗くなっていく中で、目を光らせながら、左前へとゆっくりと進んで行った。

源と一匹のウオウルフだけがお互い離れた位置で、さらに離れていくように斜め前に進んでいくという何をしようとしているのか分からない動きをみせる。



コボルトリーダーは、叫んだ。


「串刺しにしろーー!!」


その叫びと共に、コボルト軍団が一斉に、ウオウルフたちへと走り出した。



その動きに合わせたように、源も、次は宙を飛びながら右前へ進んだ。そこは、すでに湖の上になる。一匹のウオウルフも、左前の森の中に入るかと思うほどギリギリで左前へと進みながら、コボルト側へと向かって走り出した。


そのウオウルフは、ウオガウだった。


源とウオガウだけで、外にそれるかのように、コボルト軍団の方向へと斜めに移動していくのをみると、ロックと残ったウオウルフたちも、次は、コボルト軍団の中央に向かって、固まって走り出した。

そして、集団のウオウルフたちに注目させるようとしているのか、ウオウルフたちが、大きな声で吠え始めた。


「ウォオオオンン!!」


多くの黄色い目の光が、こちらへと走りだしたのをコボルトたちが、目にして、さらに叫びながら、先に動き出した源や一匹のウオウルフを無視するかのように、中央からくるウオウルフやロックに大軍が迫りくる。


「グガァアアア!!」


しかし、なぜか、コボルト軍団の中央に向かって、走り込んでいったはずのコボルトの大軍は、ロックとウオウルフたちに、接触する前に、次々とお腹あたりから、一刀両断され、大量に死んでいく。


一体、何が起こっているのか、コボルトリーダーも、サムジ王子も分からない。夕方から夜に変わる薄暗い中を目を凝らしてみようとする。


何もしていないのに、大量のコボルト軍団が、次々とお腹から、足側の体と頭側の体が、真っ二つに切断されて、敵もいないある地点から大量に死んでいく。


―――王子は、騎士に聞いた。


「なぜ、コボルトたちは、死んでいってるんだ?」


騎士も、その光景を目の当たりにしても、何が起こっているのか分からなかった。


「わたしにも暗闇で解りません。鎌鼬エアーカッターなどのマナなどを使っているのかもしれませんが、それにしても、広範囲すぎます」



―――真相は、先頭で、広がるように走っていった源とウオガウとの連携による攻撃だった。


二人の鎧は、黒く塗られた金剛針金グラファイロープで、繋がっていたのだ。


リトシスで強化された金剛針金グラファイロープは、貧弱な防具をまとったコボルトたちを次々と切断していったのだ。


何も知らずに、中央のロックやウオウルフたちに向かって攻撃をしかけようと、誘いにのったコボルトたちは、見えない黒い針金ワイヤーで大量に斬られていった。


リトシスで強化はしているものの、コボルトたちまで強化しないように配慮された攻撃は、金剛針金グラファイロープに負担をかけていた。


あまりにも多くのコボルトたちが集まったことで、ロープは切れた。


何が起こっていたのか、コボルトリーダーたちには、解らないままだったが、コボルトたちが、切断されなくなったのをみて、叫んだ。


「今だ!数で押し込め!!」



中央に固まって走っていたウオウルフたちは、ロープが切れたであろうと分って、想定済みのように、次は、中央に固まっていた配列から一転して、横一列になって、突進しはじめた。


コボルトの大軍2000以上に対して、40匹ほどのウオウルフが、なぜか横一列になって、コボルト軍団と衝突しようとしているのだ。大軍相手には、槍のように固まって軍団をつらぬくように戦うのが普通だが、横一線に突撃しようとしている。


そのウオウルフの中央には、ロックがいる。


コボルト軍団が、おかまいなしに、槍を突き刺そうと走り込むが、ウオウルフ40匹は、まるでそこをすり抜けるかのように、ただ走り抜けた。


しかし、コボルトたちは、大量に切り刻まれていった。


源が用意した金剛石グラファイドで造ったウィングソードが、鎧の横にまるで飛行機のようにつけられていて、ただウオウルフは、コボルトの横を走り抜けるだけで、勝手に、相手を斬って行くのだ。


体を斬られるコボルト、足を斬られるコボルト、武器ごと斬られるコボルトなど、次から次へと倒れていく。


また、異様な光景が、全体をみていたコボルトリーダーとボルフ王国王子の目に現れる。


コボルト側は、何が起こっているのか、まったく解らないで困惑する。

コボルトたちは、まるで千切り機に入って行く野菜のように、次々と体を切断されて、簡単に死んでいくからだ。


暗さが、黒い鎧の形を隠し、鎧に付けられている剣まで見通せなかった。



それでも、コボルトは、数で押し込もうと戦略を変えることなく戦いを続ける。


そうすると、ウオウルフたちから、声が聴こえた。


「逃げろ!」

「逃げろ!」


そういいながら、ウオウルフたちは、森の中へと逃げていく。


その様子を遠くからみていたコボルトリーダーは、実はこちらが優勢だったのかと思い、指示を出す。


「奴らを一匹も逃がすな!!追いかけろ!」


森の中へと拡散していったウオウルフたちを大量のコボルトたちが、追いかけていった―――



―――コボルトは、決して暗闇が苦手というわけではない。知能は低いが、モンスターのはしくれとしての能力があり、本能で暗闇でも相手を察知するのだ。


しかし、ウオウルフは、暗闇が得意だ。ウオウルフは夜行性のモンスター。闇に乗じて、狩りをする。暗闇の中でも安定した四本足歩行で素早く森の中を駆け巡る。


ウオウルフ40匹は、それぞれ5匹ずつに分かれて、8つのチームを作り上げた。


その5匹は、一匹一匹が命を預けあう仲間であり要だ。


そして、今戦っているその場所は、ウオウルフの縄張りだ。ウオウルフなら、目をつぶってでも移動できる慣れた暗闇の森の中を大量のコボルトたちが、バラバラに捜索して、攻撃をしかけようと追跡してくる。そこをなるべく、それぞれの与えられた位置関係で、1チームごとで戦いを挑むのだ。


暗闇で追いかけてくるコボルトたちは、前にいるコボルトを追いかけるしかなくなるので、ウオウルフの1チームへと集中して多くのコボルトが集まってしまう。そのことも考えて、森の中で長く連なった大軍をチームごとでサポートする形で、横から攻めていくのだ。どのチームが先頭になるかは運次第だ。


ウオウルフたちの灰色の毛は黒色に塗られ、ウオウルフの黄色の目をつぶられてしまえば、闇の中に消えてしまう。


5匹のうち一匹が、わざと吠えて、自分の位置を教えると、その声をたよりに、誘われ、列となっていたコボルトたちは、離れて、その鳴き声の方に殺到しはじめる。集団である程度、固まったのをみはからうと、5匹のウオウルフが、まるで円を描くように、その集団の周りを走りだした。


闇の中をかなりの速さで走り抜ける黒い姿をコボルトが、捕らえられるわけもなく、走り抜けられれば、斬られを繰り返し、徐々に、円の広さを縮めていく。


工場の旋盤。色々な材料を機械でぐるぐるまわし、硬い刃を固定して、その材料を削って行く。すると、材料は丸くどんどん削られていき、それを最後まですれば、削りカスが大量に出る。


的確に訓練されたかのように、暗闇で、5つのウィングソードが、コボルトたちを囲んで、その距離を縮めていき、コボルトを次々と斬り倒していった。


吠えておびき寄せ。削る。吠えておびき寄せ。削る。それを何度も繰り返しては、森の中に追いかけてきたコボルトを効率よく倒していく。


ウオウルフは、走り抜けるだけだ。

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