34章 異世界の仕組み2
源は、自分が今、手に入れたはじめてのマナがどんなものなのか、確認してみようと、右手を上にあげて、唱えた。
「炎弾」
源の右の掌に炎が集まりだした。
周りにいた人々は、どよめいた。
「な・・・なんと!!」
さすがの司祭も驚きの声をあげた。
村人の数人は、腰を抜かしたのか、後ろに尻もちをついてしまうほどだった。
「すげぇー」という声まで上がっている。
源がはじめて出した炎弾の大きさは、半端な大きさではなかった。
普通のファイアボールの20倍はあるかというほどの、10m規模の巨大な炎の玉が、作り上げられていたのだった。
源も、驚いて声をあげた。
「ええー!?こ・・・これ・・・大きすぎませんか?」
「こ・・・これは・・・キャスター(魔術師)の20倍もの規模のマナの量ですじゃ・・・」
「20倍?」
キャスターという存在も分からないが、20倍は凄いと思わされた。
たぶん、魔法を使う一般の20倍の威力がありそうな炎弾ということだろう。
しかも、今ふいに試しただけで、やろうと思えばそれ以上の大きさにもできそうだ。
もう辺りは、夜で暗くなっていたのに、源の炎弾が、まるで太陽のように、明るく照らした。村人たちは、巨大な炎弾が熱すぎて、その熱を遮るように手を顔の前にかざした。
「こんなもの・・・試し打ちすらできないですよ?」
と源は、司祭に助けを求めるように聞いた。
「マナを放つまでは、それはセルフィ様のマナエネルギーですじゃ。ですから、そのエネルギーをまた自分の中に吸収するイメージで、規模を小さくしていくことができるのです!」
老人とは思えないような早口で、司祭が教えたので、源は、何とか頑張って、その通りに、吸収するイメージで炎弾を小さくしようとした。
どんどんと炎は、小さくなっていき、そのまま源の手の中で消えていった。
「ふぅー・・・」
と息を吐いて、源は安堵感をみせる。
だが、まわりは、その以上な光景をみたので、まったく安堵していないようだった。
「これが幻の天使族か・・・」といった村人の声まで聴こえてきた。
静まり返ったかと思ったが、次の瞬間、大歓声が起こった
「わぁーーーー!!」
「す・・・素晴らしいですぞ。セルフィ様!」
司祭も興奮していた。
村人たちの興奮の仕方に、源は疑問を持った。
村人たちの反応にも驚いたが、一体何なんだ・・・この世界は普通じゃないが、この世界を俺よりは知っている村人さえも、俺のことを普通だとは思えないほどのこの力は・・・。何も知らない時は、こういった力が当たり前のように持っている存在がいると思っていた。自分たちを基準に考えるしかなかったからだ。でも、どうやらこの世界でも俺は特殊のようだ。
どうして、そんなものを持っているんだ・・・
源が、歓声とは裏腹に、険しい顔をしているのをみて、司祭は、話した。
「セルフィ様。マナは、その種族や属性によっても、力や反応は違ってくるのですじゃ」
「どういうことでしょうか?」
「例えば、同じ人間であっても、早く走れる者もいれば、早く走れない者がおりますように、同じ種族でも差がありますのじゃ」
「はい・・・」
「それが、また違う種族だと全く違ってくるのですじゃ」
「うーん・・・」
「例えば、人間と動物は、同じ生き物で、同じように脳もありますが、知能は圧倒的に、人間のほうが上ですじゃ」
確かに・・・現世でも、動物と人間は圧倒的に違う・・・
「ですから、その種族によってマナが得意となる種族。また、体力が高い種族とそれぞれ違うのですじゃ」
「わたしは、一体どんな種族なのでしょうか・・・」
「何度も言いますが、貴方様は、幻と言われ、存在さえも夢物語だとされていた天使族に間違いないことでしょう!」
本当に、俺は天使族なのか??偶然、とても珍しい種族に異世界で生まれたというのか・・・?
「天使族は、夢幻とされている種族ゆえに、まったくどのような能力や賜物を持っているのか、分からないのですじゃ」
「ギフト?」
「賜物とは、天から与えられた贈り物。特殊能力のことですじゃ。龍王もまた、夢幻といわれている龍人族でした」
龍人族?
「龍王以外に、龍人族は、おらずそれまで、龍人族は、幻の存在だと思われいたのですじゃ」
龍王も、今の俺と同じで、困惑したんだろうな・・・と源は思わされた。
「その龍王の体は、鉄のように硬い鱗に包まれ、武では、この世に並ぶものが無かったほどの武力を持っていたといわれておりますのじゃ。そして、高判断力という種族能力があったとされています。戦うことに関しての高判断力という種族能力が作用して、圧倒的な力を持っていたといいます。さらに、セルフィ様は、その龍王が待ち望んださらなる希望、天使族であられる。今どのような種族なのかが、今の膨大なマナ量からも証明されたようなものなのですじゃ」
「そ・・・そういうことになるのでしょうか・・・」
「今のをみれば、天使族とは、生まれ持って、巨大なマナを保有する種族だと思われるのですじゃ。それか、セルフィ様が、生まれ持って特別な天からの賜物でそのような特殊能力を持っておられるのかもしれないですじゃ。同じ人間であっても、個々に天から与えられる高い能力は違います。それが賜物なのですじゃ」
どちらにしても、普通ではないっぽい・・・
「よいですか。同じマナ使いであっても、その保有するマナの量や質によって、その効果は違ってきまする。セルフィ様は、今はミステリアスバースで生まれたばかりですじゃ。基本レベルが、一桁代のはずなのですが、そのマナの保有量をみれば、はかりしれないという証拠ですじゃ」
どういうことだ・・・?基本レベル??
「えっと・・・今は基本レベルが低いということは、そのうちその基本レベルというものが高くなれば、もっとマナの保有量が増えるということですか?」
「その通りですじゃ!今でもわたしたちが驚いているほどなのに、さらに経験や熟練、基本レベルがあがれば、どうなるのか、想像もつきませぬ!」
司祭様は、鍔を口から飛ばすほど、興奮して話している。興奮しすぎて、今倒れないでほしいと願うばかりだ。
でも、なんとなく分かって来た。
俺は生まれたばかりで、基本レベルは高くない。知識や知恵も乏しい。
その中で、天使族という幻の種族だったことで、ありえないほどの能力を持っているのかもしれないということだ。
これまで生きてこれたのは、そのおかげも大きいだろう。もちろん、AIの愛の存在も大きいが、ギフトだか、種族能力だかが、あったから生き抜いてこれたんだ。
リトシスのことは、ロックにしか話ていないが、これが司祭様のいう天使族特有の種族能力なのかもしれない。そして、リトシスは、他の人間も持っているスキルというわけではないと源は思った。
ものすごーくありえない確率の宝くじを引いてしまったというところなのかもしれない。
今まで異世界の歴史で誰ひとりとして、引いたことがない宝くじを俺がたまたま突然、引いたのか?
しかも、基本レベルというものが、あがっていけば、さらに強くなっていける可能性もあるということだ。
司祭は、さらに話を進めた。
「この世界では、敵を倒すとその敵のエネルギーのようなものが、体に宿りますのじゃ」
そういえば!モンスターなどを倒すと、何か高揚感のようなエネルギーのようなものを感じたが、あれがそうなのかもしれないと思った。
「敵を倒すごとに、体にエネルギーを宿し、基本生命数値を上げていけるのですじゃ」
「その基本レベルは最高でいくつまであるのですか?」
「それは種族やその人の持って生まれた天性によってまた違うのですじゃ」
「レベルの上限がバラバラということですか?」
「その通りですじゃ。基本生命数値の限界が違うのですじゃ。それだけではありませぬ。同じ1レベルであっても、その種族によってまた、個々によって能力値の上昇は、違うと考えられております」
「ってことは、基本レベルは、あまり基準にさえならないということですか?」
「目安の1つとしてみるだけですじゃ。マナが優秀な種族もおれば、武力に長けた種族もおりまする。知能に長けた者もおれば、まったく知能はないが、体力がある者もおりまする。
マナが優秀な種族は、基本レベルがあがると、マナの上昇が、格段高くなる傾向があると考えられておりますのじゃ」
「マナ。種族。スキル。賜物。種族能力。基本生命数値。熟練度。知能。体力など、あらゆる総体的な面からみなければ、強さは測れないということなんですね?」
「そういうことですじゃ。また、個それぞれに属性というものがありますのじゃ」
「属性?」
「その種族によって、属性の割合が高くなりますのじゃ。サラマンダーというモンスターの多くは、属性が火であるようにですじゃ」
「その属性というのは、強さと関係あるのですか?」
「大いに関係しておりますのじゃ。例えば、セルフィ様の属性がファイアであったら、ファイア系のマナの威力は、高くなるのですじゃ。属性が水なら、ウォーターのマナが強まり、また、それらの防御も長けているのですじゃ」
「ファイア属性の人にファイアで攻撃しても、あまりダメージを受けないということでしょうか?」
「その通りですじゃ。現にセルフィ様は、ファイアボールを一番近くで持っていたのに、平気でした。高いファイア系のマナを持っているということは、高いファイアの抵抗力を持ち、その手や腕は特に抵抗力が強まっているはずですじゃ」
そうか。ロケットを打ち上げる時、多くの水の量を使うため、火と水という両者の衝突によって水蒸気が物凄く舞うが、それは大量の炎を中和させるためだ。そのように大量に炎を出す=その炎に耐えられる体がなければ、使えないというわけだ。
ミサイルや爆弾などは、消すことが目的だからその点は欠落し軽量化できるが、本体を残そうとするものには、反発する力が必要なんだ。
そして、今さっきの炎弾の威力と抵抗力をみると、どうやら俺はファイア属性のようだと源は思った。
「どうすれば、相手や自分の属性が分かるのでしょうか?」
「先ほども申した「鑑定」というスキルや鑑定魔法があり、それで相手を見るまたは、自分をみて、属性を判断するのですじゃ。そうすれば、属性や基本レベルもみることができるのですじゃ。そのスキルは、鑑定士が持っておるので、普通は、鑑定士に自分の属性などをお金を払ってみてもらうのですじゃ」
「村に鑑定士はいらっしゃるのですか?」
「残念ながら、村には、鑑定士の称号を持つ者はおりませぬ。大きな町にいって鑑定士を見つけなければいけませぬ。ですが、偽鑑定士というものもおりますゆえ、その際は、お気をつけください。鑑定のスキルやマナにも難易度がありますから、見えるところと見えないところがあり、見えていないのに、嘘の情報を伝えて、金儲けしようとする鑑定士もおりますゆえ」
どこの世界にも詐欺師はいるってことだな・・・
「分かりました。まったくこの世界の知識が0だったので、毎日が恐怖の連続で・・・精神的にも疲れていました・・・。どうして、わたしには、こんな能力があるのかも、まったく意味がわからず・・・。ですが、こうやって多くの知識を教えてくださることで、1つ1つ謎が解けていき、本当に助かります・・・ありがとうございます。司祭様。心から感謝しています」
「わたしの知っておることは、すべてセルフィ様に教えますゆえ、遠慮なく、聞いてください」
「まずは、明日コボルトとの戦いで勝利してから、是非、わたしに色々伝授してください。そこでですが、明日の作戦を一緒に練りましょう」
「セルフィ様が、わたしどもを認めてくださり、嬉しい限りですじゃ」
そう言って、司祭は、笑顔を源にみせて、仲間としての今後を一緒に考える喜びを感じているかのようだった。見た目は老人だが、今の司祭様は、なんだか、生き生きしているようにみて、源は、この決断でいいのだろうと思えた。