表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/269

3章 黒い影

源は、久しぶりに日曜礼拝に出席することができた。

土曜日の安息日は休みを取って、守ることはできていたが、日曜日は仕事漬けで、なかなか教会には足を運べないでいた。

礼拝のメッセージの内容は、愛から教えてもらうことでカバーしていた。


久しぶりに、教会にいくと、見慣れない人がいることにも気づく、家族連れの貧弱そうなおじさん夫婦や大柄なスーツ姿の男性ふたりが後ろの方の席に座っていた。


賛美歌を歌い、神様に感謝の想いを向けると、胸に熱いものが込み上げる。

久しぶりなのもあり、やはりひとりよりも大勢で神様に感謝をささげるのは、いいものだと思い知らされる。


メッセージは、1年前からこの教会の牧師として転任してきた方で、アメリカに長く住んで神学を学んだ人だった。

前任者の牧師は、シンプルで分かり易いメッセージが多かったが、今の牧師は、知識を口にする話し方で、結局何がいいたいのか、要点がつかめないようなメッセージをする人だった。

まだ1年経っていないせいなのか、少し緊張気味に、話しているようにも感じたが、それでも源は、久しぶりなのもあって新たに新鮮さを味わうことができた。


今回のメッセージは、黙示録や創世記に関する内容だったことで、源も色々な考えがよぎる。


世の終わりは、2000年前も、さらにいえば、もっと前から懸念されて、いつの時代の人々も世の終わりに恐怖してきた。

結局、2000年も経った今でも、黙示録のような終末思想は存在し、いつ世の終わりが来るのか解らない。

ものすごく、世の終わりを大げさに宣伝するカルトのような宗教組織もあるが、源の教会は、そのようなところではなかった。

こだわりというものも、それほどなく、ギターやドラムなど、あらゆる楽器を使って賛美する手法も、幅広い考え方が容認されているわけだ。

だけど、反面、伝えなくてはならない大切なことまで軽薄になっているようにも、感じる。

幸せな日々を送り、安定して、安心している時に、世の終わりというものは、来るのではないかと思わされる。


愛と僕が付き合っていることは、教会では周知の事実だ。

だから、隣同士で座っても、変なことではないが、なぜか、教会では距離を置いてしまうことが多い。

夫婦であっても、隣同士で座っていない人もいるような自由な雰囲気があるせいかもしれない。

ただ、同じ価値観を共有できている点において、僕は、安心できるし、愛も同じ想いなのではないだろうか。


宗教などを知らずにいる無神論者では、共通点や価値観が深いところで統一されることはまずない。

自分たちが、無であり、偶然自分たちは存在していると考えるので、自分には価値がないのではないかとどこかで考えてしまう。だからこそ、価値観が一致することは、難しいのだ。

偶然の産物であるのなら、善悪もそこには無くなってしまい結局、好き嫌いで判断していることになるからだ。


その点、宗教では、毎週のように教えがふたりに与えられることで、共有することができる。

恋人同士が、同じ曲を聴いて、それを語りあって価値観を少しずつ一致させていく人もいるが、それよりももっと深いところで、愛との関係は、幼い頃から、教会に通い続けたことで、嫌でも一致した部分を作り出していくのだ。

好き嫌いではなく、自分の意思の上に神の教えを置くからだ。

離婚率が圧倒的に少ないのもその要因もあると思われる。

自分の意思の上に高い基準を置いて従うことは、キリスト教だけではなく、神道や仏教でも共通することだろう。


牧師は、自殺問題を取り上げ始めた。こういった自殺には、周期があるといった内容だった。


確かに12年前も、学生がいじめ問題などで自殺が流行ったりしたことがある。

それ以前にも、自殺が大人の中で流行ったことがあると牧師は語った。自殺も連鎖するものなのだろうと、考えさせれた。

クリスチャンにとって自殺は論外の話だ。

自殺をすることは、神様の形と似せて造られた人間がしてはいけないことだと教えられ、神様への冒涜になるからだ。

人の善悪で自殺の是非を問うのではなく、人には善悪を判別することは難しく資格もないからだ。


犯罪者には、犯罪者のご都合主義的な正義があり、それも正義だと信じ込めるから、今でも犯罪や悪を人間は選択することもできる。

悪を選択できる人間が、なぜ善悪の是非を決定できるのか、できるはずもないのだ。

だから、天皇も大統領も神様を中心に宣言して、世をまわそうとする。

人には愛や正義がないから、神様に基準をあわせて、愛や正義が正しいという基準を設定し、それに合わせようと努力していくしかない。

神を中心にしない民主主義など、空論にしかすぎないのは、明白なのだ。


太陽の是非を人間が決められないように、もらったこの命の価値さえも、人間は、勝手に是非を決められるわけもないから、自殺は否定されるし、もちろん、殺人も否定される。

いくらストーカーが駄々をこねて、アイドルに詰め寄っても、度が過ぎれば犯罪だと決定できるのも、そのおかげなのだ。


1つの題材に思考を持っていくと、メッセージが飛んでしまう。


いつの間にか、昼時になり、話は終わっていた。結局、何のメッセージだったのかと思ってしまうが、1つ1つ考えていくことこそが、神様の求めることなので、気にすることはないと源は思うことにしていた。


本当は教会に来なくても、愛からその題材を聞かせてもらうだけで、十分なのだが、賛美などはそうもいかないので、教会に行きたくなる。


昼からは自由時間になり、日本の教会は、教会で時間を過ごすことが多い、僕や愛などは、楽器で演奏をして楽しんだりするが、ある人は勉強会をしたり、祈りの部屋でいのったり、映画を観たりするひとたちもいる。

親戚のおじさんやおばさんたちと話すように会話をしたり、トランプゲームをして楽しむこともある。

教会全体で、海外からきたゲームをして楽しむこともある。

今でこそ、人狼ゲームというものがあるが、それもエンジェルと悪魔といったものが前々からあって、遊んだこともあった。

良くも悪くも、家族という感じで、楽しむ。

海外の教会だとメッセージが終わったら、教会では時間を過ごさずに、すぐに解散になるが、日本人なのか、アジア人の特色なのか、集団で時を過ごしていくのだ。


夕方になるとそれぞれの家に帰っていくが、愛とも別れて源はその足で、研究所に行った。

日曜日の夜にもかかわらず、高村は、プログラミングを書いては、マインドチップの活用を考え続けていた。


「あ。先輩」


「お前、日曜日の夜もすぐに帰らないんだな」


「はは。これが趣味でもありますしね。」

高村は、おどけて笑っているが、モニターなどをみすぎてか、目が充血していた。


「なー。AIも、未来では自殺とかする個体も出てくると思うか?」


「自殺ですか?」

高村は、腕組をして、考える。


「保護プログラミングされているので、AIは人間を傷つけることも、自分を傷つけることもできなくされていますからね。

自分を治すということも規制しようとしている人もいるっていいますから、未来ほど、そういうのは出てこなくなるかもしれませんよね」


「ふむ。自己プログラミングできるように設計されているミニだからこそ、その可能性は、否定できないが、それも規制されるだろうということだな」


「だと思うんですけどね。今でもニミは、ネット接続できないようにされているわけですから、圧倒的に情報量が規制されています。それを解放したとしたら、もしかすると、ミニは、数日で、かなりの新しいプログラムを作り出して、自殺?という概念もプログラミングするかもしれませんよね」


「理解しているわけではないけどな」


「ですね」


すると、突然、施設の警報が鳴り出した。

ピピーピピーという警戒音が激しくなることで、ふたりとも、少し頭を下げてしまった。


「火災?」


「解らないな。夜だから、俺たちの使っているフロア以外のセキュリティが反応しているものじゃないか。」


「不審者ってことですか。こんな研究所に侵入ってこどもか、何かですかね」


源は、首をかしげて、一応、外の様子をうかがおうと、窓に両手を輪にして、双眼鏡のように外を確認した。外は暗いので、そうしないとすぐに見えないからだ。


すると、外に見かけない黒いワゴンが無造作に停車されているのに気付いた。


「変なワゴンがあるぞ」


ふたりは、その部屋の電気を切って、外をみると、次はハッキリと見かけないワゴンを確認すると、黒い覆面の黒い手袋をした数人が、声も立てずに、手の指示だけで、動いているのがみえた。


「なんだ・・・あいつら・・・」


「先輩。これ本気でやばいやつじゃないですか。警察に連絡しましょう」


電話の受話器をすぐに取るが、電話が通じていなかった。

「止められている?」


すぐに、スマホを取り出すが、なぜか、圏外になっている。

それをみて、ふたりは、さらに焦り出した。


「裏口からこっそり出て、電波が届くところまで離れましょう」


「そうだな」


ふたりは、なるべく暗いところに潜むように隠れながら移動して、こっそりと外に出ようとするが、次の瞬間、後ろから口を布で覆われたと思うと、意識が無くなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ