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29章 限界

人間は、本当に恐ろしい。動物は、仲間を裏切ったり、食べるということをしない。

例外が数例はあっても、人間ほど、裏切りや不自然なことをする生き物は、いないのだ。

弱肉強食が成り立つのは、いかれた知能を持った存在だけだ。


人間は、自分たちが作り出した決め事、意味のないルールなどを意味があると思い込み、利益を確保するためになら、仲間も裏切り、恐ろしいことをその頭脳を持って行うのだ。

家族のためなら、善良な人にも嘘を付くというのもその1つだろう。


動物は、そのような複雑なことは考えられないので、不自然なことや意味不明なことは、しないのだ。人間は、肉食動物よりも大量の肉を食べているのが現世での現実だった。


人間は、天使にもなれば、悪魔にもなってしまう。


何の理由かは、分からないが、自国民をわざと皆殺しにするような作戦をたてて、それをボルフ王国の指揮官は、実行したのだ。


それに気づいた農民兵たちは、次々と、源たちを逃げ道として、くだって行った。

農民兵が国を捨て裏切ったのか、それとも民を王族が裏切ったのか・・・。

農民兵たちは、源たちの仲間に寝返ったということではない。ただ、生き残るために、国を捨てたような行動を取るしかなかったのだ。


400人の農民兵が、ウオウルフ側と戦うことを拒否し、自国の異常な指揮官の手から逃れてきた。



源は、考えた。

400人への虐殺を食い止めただけではなく、ウオウルフの体力も残せた。でも、どうすれば、この400人のひとたちの命を救えるのだろうか。

このままここにいたら、コボルト4000匹とウオウルフ100匹の戦いに巻き込まれ、殺されてしまうだろう。源たちにしても、敵か味方か分からないような存在を後ろには置いておきたくなかった。



『源。リトシスで、一斉に、退避させてはどうでしょうか?』


『そうか。その手があったか』


でも・・・彼らを退避させるにしても、5分はかかってしまう。その5分の間、ウオウルフとロックだけで、4000匹のコボルトの攻撃を防がなければいけなくなる。


でも、やるなら、早くやるしかない!


農民兵が、ウオウルフ側に逃げていったので、コボルトの大軍がまた、前線へと移動をはじめ攻撃態勢を整えていく。その時間だけでも、惜しい。


空を飛んで、大声で、叫んだ。


「生き残りたいのなら、みんなで、手を繋いでください。今すぐ、手を繋いでください。そして、手を放さないで!」


空を飛ぶこどもの言っている意味が分からなかったが、手を繋ぎ始めた。


「ウオガウ。5分で戻るから、それまで粘っていてくれ」


そう源はウオガウに言うと、ひとりの農民兵の体に触った。


手で繋がった人々が、一斉に、宙に浮き始める。手を繋いでいなかった人たち以外は、飛び始めた。それをみて、手を繋がなかった人は、近くの人の足にしがみつき、同じように、空を飛び始めた。



「いいですか!手を放したら、落ちてしまいますよ。後ろの人に伝わるように、伝言していってください」


そう言って、一斉に、400人もの人々が無重力状態になって空を飛び、時速50kmほどの速さで、移動をはじめた。


「手を放すと落ちるぞ。それをみんなに伝言で流せ」という言葉が次々と伝染していく。


大勢の人々が一斉に、空を飛ぶ光景をみて、コボルトも、ボルフ王国の人間たちも、驚きを隠し切れないで、人々を目で追った。

「な・・・何だあれは・・・!?」


戦争中なのに、みなの時間が止まったようだった。400人もの人が宙に浮かぶなど、見たことも無い。


ボルフ王国王子サムジも、口をあけて、その光景を見上げる。


「大量の人間が一斉に空を飛んでる!?」


農民兵の人々は、自分たちがなぜ空を飛んでいるのか、分からずに、混乱していた。

ある人は、手を放してしまい、下へと落ちていった。

源は、それを助けることができずに、無視するしかない。

移動させているこの間にも、仲間のウオウルフたちが死んでいるかもしれないからだ。止まってられない。


手を放した人は、次々と落ちるのをみて、本当に手を放すと落ちると理解したようで、落ちるひとたちは、少なくなっていった。



ある程度の距離に来たと考え、一斉に、人々を地に降ろした。


そして、近くにいた農民兵に大きな声でいった。


「ここからは、自分たちの力で、逃げなさい!これも伝言で伝えて」


そう一言だけいうと、源は、また空を飛んで、戦場へと戻っていった。



400人もの人間が空を飛ぶという現象をみて、コボルトもボルフ王国もみな、呆然と時間を止めて、3分ほど、時間が流れた。しかし、コボルトたちは、ウオウルフへの憎悪で驚きをかき消し、動き始めた。そして、ウオウルフへの攻撃を開始した。


ウオウルフたちも、本格的な戦いになると感じ、一斉に、コボルト軍団に襲い掛かった。



コボルトを噛み砕き、角で刺しては、ウオウルフは暴れた。


そこに、源も到着した。


激しい戦闘が、すでに再開されていたのをみて、そのまっただ中に飛び込んでいった。



源が、戦いに参加すると流れがまた変わった。

ウオウルフたちを守りながらも、攻撃を続け、かなりの連携をみせて、コボルトの数を減らしていく。


コボルトが列になって大勢いるところにわざわざ移動して、また一振りで大勢のコボルトを倒していく。周囲の敵の動きを予測して、まったく源の鎧にさえ敵の攻撃は当たらない。

これだけいるコボルトたちの動きを把握する計算力は、現世の地球すべてのスーパーコンピューターを愛が直結しているから出来る。


しかし、源は、味方の様子も感知していたので、このままでは、まずいと考えていた。

源にしても、無限に動き続けられるわけではない。

例え、一振りで7匹を同時に、無傷で攻撃し続けられても、大軍の中の一部しか源は相手をすることができない。蚊が人間に針を刺しているようなものだ。


ウオウルフたちは、時間が経つにつれて、動けないものたちが出始め、矢を体中に浴び、血を吐きながらも戦いつづけていた。


ウオウルフたちを信じて、彼らにもグラファイド装備の武具を用意していたら、彼らは死ななかったかもしれない・・・金剛グラファイトならコボルトの武器程度では貫けないからだ。

そして、ガーウもまだ生き残っていたかもしれない・・・自分の認識の甘さが、今の状況を悪化させていると源は考えた。

だからこそ、胸の奥から、わなわなと、煮え切らない想いが込み上げてくる。

仲間が次々と死んでいく不安なのか、責任感なのか、怒りなのか、処理しきれない想いが溜まって行く。


めすのウオウルフもおかまいなしに攻撃してくるコボルトは、ウオウルフを排除するためだけに、一丸となって挑んでくる。


コボルト兵だけでも、どうしようもないのに、ここに来て、ボルフ王国の騎士たちが、参戦しはじめた。全身フルアーマーを着た騎士たちが、森側から遠回りをして、ウオウルフの側面から攻撃しようと隊列を組む。

そして、角笛とともに、攻め込み始め、ウオウルフへと刃を向ける。

彼らの参入によって、さらに追い込まれ始める。コボルトよりも個々の能力は確実に上だ。


農民兵たちとは雲泥の差の武具を着たボルフ王国騎士たちの攻撃は、着実に、ウオウルフたちのいのちを削っていった。


次々と倒れていくウオウルフたちを感知してしまう源の心は、耐えられなくなってきた。あらゆるストレスと鬼気迫る時間が源を追い込んでいく。


俺たちが一体何をしたというのだ・・・。あいつらは、資源がほしいだけなんだろ・・・。

しかも、自分たちの民まで、虐殺しようとするその精神の腐敗ぶりに、人間への失望と怒りを感じる。自分への怒りも増し加わる。


そんな極限にまで、追い込まれ、心が揺さぶられた時、感知した光景が、源を変えた。


動けなくなったウオウルフの首をもて遊ぶように、騎士が斬った。

傷だらけになった虫の息のこどものウオウルフをコボルトが槍を突き刺し続けるのを感知して、源は、ガーウにもそうしたのかと考えると、目の前の光景が消えて、キレた。


頭が真っ白になった。


そして、源は、理性で何とか保っていた怒りを地面に思いっきり、拳で叩き込むと、地面は、まるで隕石が落ちてきたかのように、丸いクレーターの穴が開き、もの凄い振動が、湖全体を揺らした。

まわりにいたコボルトは、吹き飛ばされ、湖の水は、波のような波紋が広がって行く。


その地域にいるすべてのものが、「ドゴーンッ」という音の後で、小さな地震のような揺れを感じて、動きを止めた。



キレて何も考えられなくなっていた源は、後ろにあったロックハウスを持ち上げ、5mほどの高さから、大軍勢のコボルトに投げつけ始めた。巨大な岩を空に持ち上げ、それを投げつけたのだ。


ボゴォ!!


という凄まじい音が鳴ったと思うと、巨大岩に、大量のコボルトが、下敷きになる。


こどもが、ストレスで物を壊しはじめるように、物凄く巨大な岩が、宙に浮いては、落とされ、また宙に浮いては落とされる異様な光景が、現れる。


ボルフ王国の騎士たちは、口を少し開けてしまうほど驚いた。


源は、そんなこともおかまいなしに、次から次へと巨大岩をなげつけ、コボルトに大ダメージを与えていく。



「ややや 矢だー!!矢を放てー!!」


そう騎士から指令がでて、源に大量の矢が放たれるが、源の体には、一切刺さらない。

「どうして矢が刺さらないんだ!?」


何をしても止められない空に浮かぶ怒り狂ったこどもは、騎士たちの上にも、巨大な岩が、隕石が落下してくる直前ように、かざした。

岩の影が、自分の上に来たと思うと、そのまま自分の真上に落ちてきて騎士たちは「ギャーッ!!」叫ぶが、何もできないまま、岩の下敷きになる。

また、岩が持ち上げられると、人間とは思えない悲惨な形の亡骸になっているのをみて、まだ生きている騎士たちは恐怖する。


投げ捨てた岩をまた上にあげるために地面に、近づいたところを狙うが、何をしても、攻撃は届かない。


ボルフ王国王子サムジは、驚く声をあげた。

「な・・・なんだ・・・あれは・・・??」



こどものような人間が、巨大な岩を何度も投げて、大量のコボルトを倒しはじめ、しかも、攻撃が一切通じないのだ。

気が狂ったように攻撃しているのは、遠目でも分かった。

まるで、暴れ回るゾウに踏みつけられているだけの、蟻のようだ。手も足もでない。

しかも、その蟻は、ボルフ王国の精鋭の中から割いて連れてきたものたちで、最初の農民兵とは質が違うのに、まったく歯がたたない。


戦場のすべてのものが、源の圧倒的な攻撃に動きを止めてしまった。

すべての騎士たちは、顔をひきつらせている。

コボルトもボルフ王国騎士もウオウルフどころではない。疲れきっているのもあるせいか、ウオウルフやロックでさえも、その状況をみて動いていない。


『源。この戦いの指揮官は、最後尾にいる高台の上にいるようです』


それを聞いた源は、巨大な岩を持ったまま、空から、最後尾まで、移動していった。


この惨劇の元凶だと思われる者の場所を知って、源は動いた。


巨大な岩は、大勢の軍団の上を通っていき、巨大な影が、移動していく。


巨大な岩を持った敵が自分たちの場所まで、簡単に空から近づいてくるのをみて、サムジ王子は、テントの中の布団の中に隠れた。

「まずい・・・まずいぞ・・・これは!!なんだ・・・あの怒り狂った化け物は・・・人を400人も空に飛ばしたのはあいつなのか・・・?」


突然、予想もしなかった出来事が立て続けに起こったことで、王子も焦りを募らせた。

そして、これから自分のところに来ると思ったのだ。


源は、神輿みこしのようにコボルトに運ばれている高台の場所に巨大岩を持ったまま、静止し、ひとりだけ身なりが違う男に視線をおくる。



「お前が、指揮官か??」


サムジ王子の影武者は、顔をヒクヒクひきつらせるだけで、何も答えない。

ここで違うといっても、後でサムジ王子に殺されるだけだ。


サムジ王子の影武者を護衛する騎士が、王子の前に立った。


「フフフ。王子!わたくしめが、あの者を退治してごらんにいれましょう。わたしは3つの遺跡を制覇した数少ない魔法騎士マジックナイトのひとりです。あのような力を見せつけたモンスターもわたしのアローの餌食にしてきたのです」



普通の騎士とは違うとあきらかに分かる隊長クラスの騎士が、光り輝く黄金の弓矢を手に取り、指揮官らしき者を守るように、源に立ちはだかる。

騎士の顔つきは、自信に満ちた笑みを浮かべている。

自分の能力が王国でも指折りだという裏打ちされた自信があるのだろう。

その騎士が、弓を引くと、弓だけではなく、矢まで、青く光はじめた。普通の矢の攻撃ではないようだ。

源に向かって、鋭い攻撃矢を放った。

その矢は青い光を保ったまま、普通の矢よりも早いスピードで、源を的にして的確に襲い掛かる。


しかし、源は、片手で、簡単にその矢を受け止めた。


それをみて、騎士は、驚いた顔で、口をあけた。


「あ゛?」


そして、その矢を逆に投げ返すと、矢を放ったはずの騎士の胸の鎧を貫いて、さらに、高台の床を突き抜け、矢は地面へと刺さり、騎士は後ろに大の字になって簡単に絶命した。


影武者は、後ろに尻もちをついて倒れ、漏らした。


『源。どうやら、この高台ではなく、もう一つ奥の高台のテントの中に、本物の指揮官がいるようです』


『こいつは偽物か』


『怯えた声で、来るなと震えているものが、テントの中にいます』



それを聞いて、源は、そのテントに向かおうとするが、その前に、伝えた。


「これからお前たちは、一切動くな!動いたら、テントの中にいる指揮官の命はない。コボルトも一切攻撃するな。お前たちが動いても、ボルフ王国の指揮官を殺す」


そういって、源は、巨大な岩を放り投げて、高台のテントへと飛んでいく。


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