269章 プライド
源は、新大共和ケーシスの統治の進行具合を確認した。
エリーゼ・プルが、現在いないリリスの代わりに、新大共和ケーシスの説明をはじめる。
「リリス様がいない間、とくにこれといった問題は上がってはいません。しかし、元ボルフ王国のなごりを未だに消せないでいる貴族たちは、自分達の領土であった土地に手をまわして、国やレジェンドにではなく、教会に問題を突きつけるなどしてきているのです。」
「教会に・・・?」
「はい。例えば教会に通う商人には、商会からつまはじきにされるように手をまわして、間接的に我々の邪魔をしようとしてくるのです。資金の流動を絶てば何も出来なくなるとでも思っているのでしよう」
「俺たちがどれだけの資産を持っているのか、まったく分かってないんだな」
「分かってないでしょうね」
「いっそうのこと、完全に金を新大共和ケーシスは、無くしてもいいかもな」
「そ・・そんなこと・・・したら・・・」
「したら?」
「お金をすでに持っている貴族たちがどう動き始めるのか、わかったものではありません」
「まったく・・・人の強欲とは邪魔なものだな・・・」
「ですが、それが普通なのではありませんか?」
「それが普通ね・・・」
「元あった地位や権力を放棄できる人は少ないですよ。手放すことなどできません。しがみついてでも、その地位を守り、それを害そうとするようなものは、排除しようとするのが普通ではないでしょうか」
「まー。そうかもしれないね。でも、人に害を及ぼそうとする者をほかっておくほど、俺は優しくはないよ。」
「もちろんですよ。わたしも、教会に行くようになって、聖書を基準にすることの大切さを身に染みて感じています。人に正義や愛がないことが事実であるのなら、正義を固定することの大切さは、尚一層必要になります。ですから、そういう輩を排除することに躊躇いはありません。」
エリーゼ・プルは、両の手を握りしめて、想いを募らせながら語った。
「彼らの地位を奪おうとか苦しめようとかしようとしているわけじゃない。彼らが人権を理解し、神の基で、人は皆、平等なんだということを理解して自分のように他を愛することを実行してくれれば、排除なんてすることもないんだ。
ミカエル。エリーゼ・プルが報告した彼らの動きを把握できているだけでいいから教えてくれ」
ミカエルは、源とエリーゼ・プルの前に、モニターを瞬間移動で出して、映像をみせて説明をはじめた。
「はい。セルフィ様。把握できている者たちは、4人です。
レート・バイアス・プリカ元公爵、テユクィート・ライ・プリカ男爵、サムス村の南西チーク地区に住む通称オルガとアンサイドというゴロツキのような兄弟です。」
レート・バイアス元公爵の領土だったエミルの中にあるサムス村の40kmほど離れた森の入り口付近で、4人が話している音が録音されていて、流される。
「教会を貶めろ。くれぐれも、お前たちが捕まったりして、わたしたちのことが外に出るようなことはするな。」
「一体誰が、わたしたちのような者と公爵様たちのような高貴な方が、関係していると思うでしょうか。それに、わたしたちも、お二人に殺されたくはありませんからね。任せてください。グヘヘヘ」
レート・バイアスは、男の口臭が気になったのか、手で口元を押さえながら、不快な顔をした。
ミカエルは、その後のやり取りを10分ほど見せた。
「セルフィ様。敷地内による録音、録画は禁止されていますので、これ以上の情報はありませんが、許可を頂ければ、彼らの屋敷に入り、それ以上の情報を獲ることも可能です。」
「いや、その必要はない。彼らも大共和ケーシスの民であるのだから、プライバシー侵害に当たるような行動をするべきではない。本来なら敷地外の場所であってもするべきじゃないと思うが、悪が現実に存在して、聖書の基準が行き渡っていないのだから、対策しなければいけないだけなんだ。ただ、今の情報だけでも、教会に何かしようとしていることはわかったから、その瞬間を逃さずに、情報も含めて、捕らえてしまえばいい。」
「分かりました。セルフィ様。」
エリーゼ・プルが、真剣なまなざしになる。
「このことは、わたしたちに任せてもらえないでしょうか。すべてセルフィ様が動かれては、お体がもちませんよ」
「そうかもね。じゃーやってみてくれ。頼むよ」