267章 試練
新大共和ケーシス女王として即位したリリス・ピューマ・モーゼスの姿は、いまだに現れてはいなかった。
ミカエルが、遺跡内部で待機し続けていたが、新大共和ケーシスの兵士たちは、モニターをチェックしながら、リリスの安全を祈るように待ち続けていた。
新大共和ケーシスの兵団長として女王の安全を確保しなければいけない立場のエリーゼ・プルは気が気ではなかった。
ただ救いは、遺跡にリリスたちの遺体が現れるということがなかったことだ。
遺跡内部で命を絶った生き物は、遺跡の生き物たちの食料となり遺跡に吸収されていく。
そういった状況が確認できないということは、リリスたちはまだ生きている確率が高い。
リリスとリタがいない間は、エリーゼ・プルと兵団副団長バーボン・パスタボ、バルト・ピレリリたちで、新大共和ケーシスを維持していく必要があった。
新大共和ケーシス領土内の120を超える村々は、聖書と新大共和ケーシスの規則を学んでいる領主たちや領主代行などが、大きな問題を起こすことなく、統治されていた。
リリスがいない間に、反乱を起こされては対処できないかもしれないので、リリス女王は、帝国に呼び出されているということにしてある。
リリスが遺跡から消息を絶っているということを知っているのは、クリスチャンの政治家やごく少数の者たちだけだった。
エリーゼ・プルのもとに新大共和ケーシスの兵士が報告をあげにきた。
「エリーゼ様。新大共和ケーシス南西部のコゼット村の遺跡から数百体のモンスターが出現しました
第3・5・7部隊
総勢500人の部隊に召集をかけて待機させております
すでにソロ様からの作戦が各兵士へと送られています」
「またか・・・」
遺跡からモンスターがあふれ出す海という現象を一度目は、セルフィ。そして、2度目は、新大共和ケーシスとレジェンド兵士との共同で抑え込んだが、それから小さい規模のモンスターの出現が、定期的に現れていた。
一回目の海の被害から新大共和ケーシスの遺跡には、ミカエルのソースが待機して、同じ被害を出さないように警戒していたが、こういった現象が、なぜか新大共和ケーシスとレジェンド付近の遺跡だけ出ていた。
他の国の遺跡にも同じ現象が現れているのかを帝国に問い合わせたが、他の国では、異常なモンスターの出現はないということだった。
ソロの作戦案をミカエルによる分かりやすい図式にして、エリーゼ・プルは確認した。
第3部隊とその付近にいた冒険者が、コゼット村を守り、5・7部隊の400人が、森の中にある遺跡から出てきたモンスターを囲い込むように制圧していくものだった。
エリーゼ・プルは、バーボン・パスタボと共に、5・7部隊を率いて、モンスターを輩出している遺跡へと向かった。
第3部隊を率いたのは、ルシル・ピアゴだった。
ルシルは、デッドショット改を装備し、胸と腰に、複数のマガジンを軽装の鎧に備え付けて、待機していた。
「ルシル隊長。コゼット村、南から数十体のモンスターが現れました!普通のモンスターとは違い3mはあるほど巨大です!」
「分かった。コゼット村は、冒険者と50人の兵士に守らせて、残りの50人は俺とそのモンスターを迎え撃つ!」
モンスターは、歩いていたが、巨体なので進む距離は早かった。斧などの武器を持ち、振り回しながら、コゼット村へと踏み込もうとしていた。
ズガズガズガッ
「サイクロプスか」
一つ目の巨大なモンスターは、20体を超える数で、攻め込んできた。
コゼット村で待機していた。50人のうち10人が、屋根の上に待機して、ロングショットを寝そべるように構えていた。
バレットM82セミオート式スナイパーライフルは、一つ目モンスター、サイクロプスの目を狙って狙撃された。
コゼット村に入ろうとする寸前に、サイクロプスの頭に大きな風穴があいた。
その衝撃を喰らって、サイクロプスは膝をつきはじめる。
一撃で死ぬサイクロプスもいて、前のべりとなって地面へと倒れた。
だが、さらに後ろから次々とサイクロプスが入り込んできた。
ルシルは、そのサイクロプスの足元をくぐり抜けるかのように、入り込んで、両手に持ったデッドショット改を弾いた。
ズゴン!ズゴン!という音をたてて、デッドショットが火を吹いた。
拳銃でありながら、アサルトライフルと同じほどの威力を持つデッドショットの弾を連発して、サイクロプスの頭に打ち込んでいく。
ロングショットやデッドショットによって膝をついたサイクロプスを50人の新大共和ケーシスの兵士たちが、剣で斬り裂いてとどめをさしていく。
サイクロプスも持っている武器を大きく横に振り回し、敵へと攻撃をしかけるが、どの兵士にもその攻撃は当たることはなかった。
兵士たちは、ミカエルの補助機能を使い攻撃の起動を読み取り、サイクロプスの攻撃を躱していた。
20体の巨体のモンスターたちは、じわじわと数を減らしていった。
遺跡へと向かった400人の兵士たちも、さらに遺跡の外側へと移動するモンスターをソースの情報を元にして、追撃をはじめていた。
モンスターたちは森の中にいたが、ミカエルによって位置が把握され、ロングショット部隊が、離れた位置からモンスターへと狙撃を繰り返し、その中を兵士たちが、進んでいく。
ロングショット部隊の中には、空からの狙撃を可能とした兵士たちがいた。
ドラゴネットに乗って、背中に固定したように構え、撃ち続けていた。
動くものに乗っての狙撃は、精度が極端に落ちるが、ミカエルの補助を使って、頭は無理でも体のどこかに当てるぐらいは出来ていた。
ロングショットの威力はすさまじく、攻撃されたモンスターは例外なく大きなダメージを負っていった。
エリーゼ・プルとバーボン・パスタボを中心にして、兵士たちが、出現したモンスターと戦闘になる。
セルフィによって強化されたエリーゼ・プルの剣は、モンスターを頭から真っ二つに斬り裂いた。
兵士たちの武器もカーボンナノチューブによって作られた剣なので、硬い皮膚を持つモンスターであっても、その防御を上回る攻撃力で、モンスターの数を減らしていった。
モンスターたちの雄たけびや叫び声が森に響いたからか、森に広がっていったモンスターたちが、エリーゼ・プルたちの元へと集まりはじめていた。
「エリーゼ隊長。モンスターの中には、サイクロプスもいます!」
「分かった。サイクロプスは、わたしとバーボン・パスタボ副団長が相手をしょう。兵士たちはサイクロプスを攻撃するのなら、無理せず、多人数で確実に倒せる状況にして挑むように」
サイクロプスの攻撃がバーボン・パスタボに振り込まれたが、バーボン・パスタボは、その攻撃を片手で受け止めた。
丹をまとったバーボン・パスタボは、剣に宿る丹に集中して、さらに攻撃力をまして、大きなサイクロプスの体を斬り落としていった。
ただ斬るだけではなく、腕や足がバーボン・パスタボによって吹き飛ばされていった。
サイクロプスのまわりには、様々なモンスターがいたが、それらのモンスターは、他の兵士たちがひきつけて、連携して排除にかかった。
数も質も上回っていた新大共和ケーシス軍は、遺跡から出た大量のモンスターを制圧することに成功しつつあった。
その様子をワグワナ法国からミカエルを通してみていた源は、疑問を抱いた。
どうしてだ?また、俺たちの場所に小規模な海が発生した。
これほど頻繁に海が発生することはないと聞いていたのに・・・
ただ、新大共和ケーシス軍は、かなり強くなったな
レジェンド兵に近づくほどの実力を持ち始めてるな
『源。村雨有紀様にその疑問の答えを聞いてみてはどうでしょうか』
『そうだな
ミカエル。繋げてくれ』
『分かりました。セルフィ様』
『教授。今いいですか?』
『はい!大丈夫です!』
『また、新大共和ケーシス。元ボルフ王国領土内の遺跡から大量のモンスターが出現したのですが、その他の国ではそのようなことがないのに、なぜわたしたちの領土ばかりに海が起こるのでしょうか?』
『うーん。そうですねぇー
海の発生原因は分かっていません
何十年、何百年の間隔で、突如として現れるのですが、わたしの見解では、セルフィ様が原因ではないかと思うのですぅ』
『え!?俺?』
『いやですねぇーーー。セルフィ様が何かをしたとかそういうことではなく、セルフィ様の存在自体が、海のような現象を引き起こしている可能性があるのではと思うのです』
『俺の存在?』
『海がよく現れた時代は、なぜかそれを制圧できる強き者がその近くに存在しているようなのです
龍王の時代には、海は何度も何度も起こっていたのです』
もしかして・・・スナイパーライフルとか現世のものを作り出して利用していることで、この世界の管理するAIが俺を排除しようとしているのか?
だとしたら、もっと自重したほうがいいということなのか・・・
『ですが、それらは悪いことだとは思えません』
『ん?どういうことですか?』
『モンスターが多く出現して村などを襲いはじめるような危機ではあるのですが、なぜか制圧できないという規模でもないのです
制圧できるということは、それだけモンスターを倒して、それが恩恵として強さへと戻ってくるわけです』
『モンスターを倒せば、レベルも上がりますけど・・・何が言いたいのですか?』
『つまり、遺跡はその強き者やそれに従う者たちの犠牲となるために遺跡が生み出したかもしれないということです』
俺を排除するための海じゃなく、俺や俺の仲間たちの成長を促すための海ってことか?
『だから、一概に海の現象は、悪いことではないということですか?』
『一般的には、海は神による怒りにより、引き起こされるなどと毛嫌いされるのですが、わたしの見解では、むしろ強めるための試練にもみえるのです』
『確かに、遺跡に入ってモンスターを倒すよりも、海という現象が起こって大量に相手すれば、それだけ兵士たちの強さは早く増しますね』
『歴代の強者たちは、自分の強さはもちろんですが、さらにグローリー効果を秘めているのではないかと言われます』
『グローリー?』
『その強者のまわりの者たちの成長の促進を早めるということです』
『へー。そんなことがあるんですね』
確かに現世でもそうだったが、何か一流に極めようとする人のまわりには、同じようにその仲間なども高い能力を持つことがある。
一流の音楽家には、全員ではないが、幼馴染の友達もまたプロになったりすることがある。
努力する環境を作り出す雰囲気みたいなものがある。
そして、この世界では、さらに管理がそれを促すということなのか?
ロックやウオガウもそうだけど、ニーナも凄い成長しているのはその為なのか?
『セルフィ様のまわりには、優れた能力者たちが多いですが、聞くには、もともとはそれほどの能力を持たない人たちだったはずです
セルフィ様に関わって彼らも成長しているということです』
『教授ありがとうございます
なんとなく納得できた気がします
今回の小規模な海も、兵士たちの強化に役立っているのは確かです
一回目の海はわたしが制圧しましたが、それ以外の海は、兵士たちが制圧して、急激に力をつけたのは確かです
あ!でも・・・遺跡のモンスターの出現を操作できるような者もいるんじゃないですか?』
『断定はできませんが、それはないと思います
遺跡は謎に包まれています
遺跡の在り方を操作したというようなことは、聞いたことがありません
セルフィ様、レジェンドや新大共和ケーシスの敵はいても、その敵が遺跡さえも自由にできるとは思えませんね』
『だから、今回のことも、問題ではなく、むしろ兵士の強化のための良い試練だということですね』
『あくまで、わたしの見解ですが・・・』
ミカエルによって小規模の海は、エリーゼ・プルたちが新大共和ケーシスの兵士とともに、無理なく制圧できていた。
また力をアップさせたことだろう。
『教授ありがとうございました』