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263章 広がる人権

立食パーティには、伝説の天使に会いたいと思う王族・貴族がわざわざ首都ドラゴまで足を運んで来ていた。

各国の王族が、好きで帝国に来ることはまずない。

世界を巨大な権力で支配している帝国に、印象を良くしようと外交的な思惑が常に裏では行われているからだ。

数国の王族だけだったが、他の国、他の勢力の褒章式に参加するというのは、やはり珍しかった。


今回のパーティに参加している帝国以外の王族・貴族は、セルフィに興味があって来ているということで、皇帝ヨハネ・ルシーマデル・ウル・サイリュー・スピリカは、どこかしら嬉しそうな様子を浮かべていた。


「セルフィ。今いる王族たちとは、接触していたほうがいいと思うぞ」


大げさなことがあまり好きではない源は、自分が目立つことが好きではない。

立場的に仕方なく参加しているだけだった源には、皇帝の言っている意味が分からなかった。


「どういうことでしょうか?陛下」


「お前は、自分の褒章式にしか参加したことがないから分からないかもしれないが、1つの戦争の武勲を称える褒章式に、数国とはいえ、王族が参加するなどないんだよ

普通は、自分達が関わった戦争の式に参加するぐらいだ

レジェンドは、ボルフ王国とワグワナ法国の2つに勝利を納め、制圧したが、その間に、大小合わせて120個ほどの戦争が他の場所で行われた

裏では必ずそれらの国が関わっているが、普通はボルフ王国とワグワナ法国のように国事体が、反乱を起こすというものは、それほど多くはない

レジェンドの戦いは、大きな戦争の部類に入るというわけだな

とはいっても、それは1つの戦争だ

なのに、これだけの他国から参加してきているということは、セルフィお前が目的だということだ」


ここ2年ほどで、100を超える戦争を帝国が行っていたことを聞いて、源は驚いたが、それを表に出すことはしない。


「帝国ほどになるとそれだけ多くの問題を抱えてしまうのは、致し方無いでしょうね

その中の1つの戦争の褒章式にわざわざ参加してくれていたのですね・・・」


「そうだ。これはチャンスの1つだと思わないか?」


「チャンスですか・・・」


「ボルフ王国やワグワナ法国は、敵としてお前の前に立ちはだかったのだから、お前の主張する人権を世界に広げるという思想に反発するのは当然だ

ボルフ王国の民はお前に好意を持っていたが、ワグワナ法国の民のように反発するほうが当然だと言えるだろう」


「わたしもそう思います」


「だが、今回は、争うことなどしなくても、各国の王族は、お前を知ろうとやってきているのだ

お前の目的をスムーズに実行できるチャンスだと言えるだろう?」


「確かに・・・そうですね」


「この後、お前の思想を伝えるための場を用意しよう

そこに参加する王族を説得してみろ」


「耳があることを願って、話してみたいと思います

さすがは、皇帝陛下

大きな戦略的な視点からの助言と場を下さり、ありがとうございます」


「うむ。皇帝という立場からもそうだが、俺は嬉しいんだ」


「嬉しい?」


「ああ。帝国に媚びを売るための参加ではないのを見るのは久しいからな」


「そういうものなのですね」


「ああ。そういうものだ

皇帝になると普通では手に入らないものが多く手にすることが出来るが、逆に普通に手に入るものが、手に入らなくなることもある

お前に連れて行ってもらったように、自由に外に出ることもできないんだからな」


前回の命をかけた移動を思い出し、源は少し青ざめた。


「お察しします・・・ですが・・・もうあれは頼まないでくださいね・・・」


「はははは。分かった無理はいうまい」


本当に分かっているのか?と思いながら、源は皇帝をみつめた。


ヨハネ・ルシーマデル・ウル・サイリュー・スピリカ皇帝陛下は、両腕を広げて、大きめの声で会場の皆に提案を持ち出した。


「今日、参加している諸君らに、提案だが、この後、説明会を執り行うこととする

龍王は予言を残された

その予言を知らぬ王族はいないことだろう

その予言通りに、こうして、現れた天使が、帝国や世界に対して、何もしないわけがない

セルフィの話を聞き、わたしもそれに同意しているひとりである

伝説の天使が今後、どのような痕跡を世界に残すのかを知りたいのであれば、参加してくれると嬉しい

では、ゆくぞ。セルフィ」


皇帝は、マントを翻して、セルフィを連れて、別の部屋へと移動した。


各国の王族たちは、すぐに移動をはじめた。皇帝の言ったようにセルフィ目当てに参加していたということだ。


帝国の王族・貴族も、時間を置いて参加しはじめた。


8つの国の王族がセルフィの話を聞きに集まった。

そのうちの2つは、トリアティ師団国とワグワナ法国だったので、源の関わっていない国は、6つということになる。


その後ろに、帝国側の王族・貴族・大商人・宗教人たちなどがぞろぞろと集まっている。


人が集まったのをみて、ヨハネ・ルシーマデル・ウル・サイリュー・スピリカが促す。


「では、はじめてくれ。セルフィ」


効果を発揮するために、源は、部屋の中にソースを広げ、スピーカーを用意した。


「皆様、わざわざ集まってくださり感謝します」


セルフィの声が、部屋のいくつもの場所から聞こえてきたことに、人々は驚いて、まわりを見渡す。


「わたしは、龍王の意思である聖書を世界の基準として、復古させようと願っています

ミステリアスバースとして生まれて数年しか経っていないわたしは、この世界の世界情勢は疎いですが、皆様が、生まれてすぐに、使われている共通言語を話しているように、わたしは、生まれてすぐに、聖書の知識を持っていました」


その話を聞いて、少しざわつく者もいた。


「生まれてすぐは、龍王の名前すら知らなかったわたしですが、聖書の知識は保有していたのです

龍王は、帝国だけではなく、世界各地に、龍王の意思として、聖書を伝承するようにと村々を用意していました

それらの龍王の意思は、今も尚、続いており、わたしもそのいくつかの村との関わりを持ったことで、今のような現状に立っているのです

皆様に知っていただきたいのは、聖書は龍王の意思として作られたものではないのです

龍王が聖書の意思を受け継いでいた存在だったのです」


そのことを聞いて、次は大勢がざわついた。


「竜王は偉大でしたが、それを成した根幹。龍王が龍王であり、世界の混沌から大幅に安定をもたらし帝国を打ち立てた思想は、聖書の中にあるということです

皆様が、内心、心から帝国をどれほど敬っているのかは正直分かりません

ですが、龍王がいた時代は、多くの国々が帝国を支持していました

わたしは、心から帝国に連盟する国々を望んでいます

そのためには、帝国もまた変わらなければいけません

龍王の意思を復古させる必要があるのです


そして、龍王は、予言の他に、いくつもの思想を聖書から見出し、世界に残してきました

その思想の1つが、【人権】です」


聞いたことのない権利について皆がまた反応をみせていたが、その中に質問を上げた者がいた。


「ジンケンとは、何でしょうか?」


「人権とは、人、つまり、知的レベルC以上の者、言葉を使い、思考して動くものたちに対しての神から与えられた権利のことです

聖書の教えを理解し、それを実行していける者たちに、人権を与えるというものです

聖書は教えています


【殺してはならない】


この教えは、この世界では、通用しない国もあります

帝国が中心となり、管理しているので、自由勝手にはできないとしても、それでも各国の思想や文化、価値観が優先されている今は、【殺すことが正義】だと考える国もあります

そこに【殺してはならない】という共通認識を世界中に広め、それを当然のように受け入れさせていくのです」


「1つ1つの国の問題や状況は一緒ではありません

殺してはならないという共通した教えを広げることなど出来るのですか?

それが不利益だと思った国は、反発しようとするだけです」


「ここにみえている各国の王、女王様たちなら分かっていただけるとは思いますが、国を治め守るということは、決して外だけに守りを固めるということではありません

むしろ、外からの障害よりも、自分達の国、民による反乱や反発から国が亡ぶほうが多いほどです

つまり、支配する立場として、立たされている方々からすれば、民こそ安心させてもらえない障害でもあるのです」


民を大切にしろとでも、いうのかと思われていたが、逆に民が敵であるかのような発言を聞いて、皆黙った。

そういった裏事情を帝国皇帝陛下の前で堂々としていること自体、驚きであった。


「裏切り、略奪、詐欺、強奪などは、すぐに資産を増やすことができる手段です

ですから、それを正義として実行し、信じている価値観もあります

それが民にまで及んでいたとしたら、簡単に、それらの価値観を持った民たちは、正しいことをしようとした王族たちをも裏切り、反乱を起こし、国を滅ぼそうとするでしょう

勝利すれば、勝利したものが正義を作り出すと信じているからです

これらの思想は、確かに資産をすぐに手に入れることができますが、また同じ価値観も者が現れ、得たものは、すぐに奪われ、悪循環のサイクルが生み出され続け、抜け出せなくなるのです

すぐに手に入っても、それがすぐに奪われるのであれば、いつまでたっても王族は、安心できるはずもありません

ですが、【殺してはならない】という価値観をすべての民が共通の価値観として持ち合わせたとしましょう

【盗んではならない】という聖書の価値観を持ったとしましょう


するとどういうことが起こるのか


それらの教えが当たり前のように享受されるようになると、殺すことや盗み、裏切りなどをすると、心を痛めるようになりはじめるのです

目先の利益のために、悪の正義を容認すれば、常に争いや裏切りに怯えた生活を送らなければいけなくなるが、安定した立場を目指すのであれば、善の正義をすべての人の脳に植え付ける必要があるのです


その価値観の固定は、ひとりのひと、限られた権力者であってはなりません


龍王でもなく、どこかの王などではなく、わたしたちを造り、わたしたちの命を常に奇跡で守られ続けている偉大な神によって固定されるべきなのです


そして、神は、聖書という手紙をわたしたちに与えられたのです」


「善の正義なるものをすべての民に植え付けるなど出来るのですか?」


「ここに集まった方々の多くは、支配する立場にある方々ですから分かると思いますが、自分達の都合のいい価値観を情報統制して、民をコントロールしているではありませんか

それが定着するために、何年かかったことでしょう

一瞬で、すべての民の価値観を固定することはできません

こどもを育てるように、また花を育てるように、毎日毎日、ゆっくりと育てていくのです

悪の正義でさえ、植え付けられるのであれば、自分達の生活を守ってくれる善の正義を脳に植え付けられないわけがないのです

レジェンドや新大共和ケーシスでは、教会を設置して、聖書の価値観を常に、脳に植え付けて、それらを皆が理解して動いています

現在、ワグワナ法国でも、それがはじまっています

そして、あらゆる情報を開示しているのです

なぜ聖書の教えが大切なのかを自ら精査できるように、聖書以外の価値観の情報も規制はしていないのです

精査した結果、それでも聖書の価値観を選びとった人のことをクリスチャンと言います

自分の好き嫌いや感情ではなく、自分の上に神の教えを持つ存在、価値観の固定を果たした者たちが、クリスチャンです


皆様の民がすべてクリスチャンにならなかたとしても、人権という価値観を固定するだけで、どれほどの反乱が自然と鎮圧できるのか、考えてみてください

徹底的に人権を植え付けられると、人は裏切りや詐欺を簡単には出来なくなるのです


わたしが言ったことが不可能だと思うのであれば、いつでもレジェンドや新大共和ケーシスに来てください

それらが現実に固定されて存続していることが見て理解できることでしょう

信頼できる関係が築けたのなら、あらゆる権利を彼らに与えていくことができます

そうすれば、新しい発展が急激に起こりはじめます

悪の価値観を広げれば、自由は当然なくなります

ですが、善の価値観を広げれば、自由が広がっていくのです

それは、民だけではなく、もちろん、支配する側も同じで、脅える状況が減少していくのですね


龍王の意思の復古、聖書の価値観を広げるための手法は、教えていきますので、今の話を聞いて、興味を持った方は、わたしに話しかけてください


感謝なことに、トリアティ師団国や帝国では、そのような動きが出始めています

皆様が、帝国に心から信頼を寄せる時代も夢ではないのかもしれないのです」


8つの国の王族たちは、その後も、残り、前向きにセルフィの話を聞いた。

逆に帝国側の著名人たちのほうが、数は多いが、積極的だとは言えなかった。


だが、驚きなのは、皇帝を前にして、こういった話をすること自体が異例であったので、色々な討論が繰り広げられていることが、不思議な場となった。


それらの討論の最中も、皇帝ヨハネ・ルシーマデル・ウル・サイリュー・スピリカが、笑みを浮かべて、頷いていることにもまた、8つの国の王や女王は内心、驚いていたのだった。


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