26章 ボルフ王国の事情
ボルフ王国、第三王子、キグダム・ハラ・コンソニョール・サムジは、民を人間だと認識していなかった。
そのため、シンダラード森林東部の遠征も、ほとんど戦いの訓練もしたこともない民ばかりをわざと連れてきて、彼らが、モンスターに食べられるところを見たがったのだ。
ボルフ王国は140年続いてきた王国で、人が支配をしていた。人はモンスターよりも上だとされているが、それは建前であって、民はモンスターと変わらない。変わらないどころか、モンスターの餌にさえする始末だ。
もちろん、民には、そのような真実は伝えない。国は、民を守ってくれているという情報を流しては、民から搾取を続ける。
もともと、ボルフ王国の地域の貴族だったキグダム家が帝国の政治家として、名をはせたことで、土地をもらい、王族にまでなりあがり、140年、国を作り上げてきたのだ。
策略にかけては、キグダム家は、知識を持っていた。だから、大義名分を掲げて、戦争に民を無理やり駆り出す方法も理解していた。
例えば、巨大な権力を有するドラゴネル帝国の1つの加盟国として、名を連ねているボルフ王国だが、民の中に、わざとレジスタンスを結成させて、ドラゴネル帝国がいかに悪いものなのかを地下情報として広げながら、自国のボルフ王国は、素晴らしい国だという情報を流す。
帝国の支配からボルフ王国は抜け出し、本当の自由を手に入れるといった裏側からの情報操作で、大義名分を作り上げるのだ。
今回も、ボルフ王国の国力をあげるために、シンダラード森林に眠っている鉄という資源を手に入れて、国を解放するという公にはできない大義名分を持って、民を兵として集めて、進軍させている。
民をわざと殺そうとするには理由がある。ボルフ王国は、本気で帝国を裏切るつもりはない。今の地位を維持して、民を奴隷として利用し続ければいいのだ。
ただ、チャンスがあれば別だ。帝国をボルフ王家が手に入れることができる隙があれば、いつでも喰いつこうと考えている。
そのような内情を賢い民が暴いて、本物のレジスタンスを造り出すことがあった。これらは、ボルフ王家さえも悪として情報を流すので、邪魔でしかない。
民は、制御できるだけの数がいればそれでよく、それ以上増えすぎれば、制御できなくなるので、民の数を減らしたいのだ。
民をどうやって大義名分のもとで、減らせるのか、そして、減らすのなら、できれば楽しみたいのだ。
ボルフ王国では、民の読み書きは禁止されている。文字を使うことは貴族の特権として、規制を強化している。民には、情報を獲られないように、することで、長年の権力を保持してきたのだ。
人間同士の殺し合いは、飽き飽きしていた。だから、普段みないモンスター同士の戦争を第三王子、キグダム・ハラ・コンソニョール・サムジは観たがった。
モンスター同士の戦いと、モンスターに食べられる自分たちの民をみたい。それが、彼の今回の楽しみだった。
文字を読み書きできない情報不足の民たちが、それを知るすべはない。
今回の遠征は、
1、鉄という資源を手に入れるため、ウオウルフを東部から追い出すこと
1、増えすぎた民をどのように遠征で数を減らすのか
1、モンスター同士の戦いをみて楽しむこと
1、西部のコボルトと協定を結んで、ボルフ王国は仲間だと思わせること
第三王子サムジは、5mにも及ぶ移動式高台の豪華なイスに座って、全体を把握しようと見下ろす。
その高台を持って支えているのは、200匹にも及ぶコボルトたちだった。コボルトたちは、高台を神輿のように担ぎながら、進軍していく。コボルト1mに高台5mの計6mの高さから戦況をみるのだ。
高台には、ボルフ王国の騎士が3名サムジ王子を守るために、待機し、その高台には、もう一つのイスが用意され、そこに座るのは、コボルトリーダーだった。
コボルトを治める主が、コボルトリーダーで、普通のコボルトの2倍もある体格をして、人間の大きさと変わらなかった。
今回ボルフ王国と遠征すれば、東部の森を支配する特権をもらえるという協定を結んでいた。
だが、森全体の資源を自由にできるという内容も組み込まれている協定で、どちらも納得済みだった。
コボルトからすれば、ウオウルフを人間とともに追い出せる。そして、森全体を縄張りにすることができるので協定に乗った。
サムジ王子は、コボルトリーダーに、笑顔で話かけながら、戦局をその高台で、ともに見る。コボルトリーダーとも握手をしたりすることで、信頼を獲ようとする。
しかし、そのサムジ王子は、替え玉だった。本当のサムジ王子は、さらに高い10mの高さに設置された高台のテントの中で、一部始終を隠れて楽しむ予定だった。
女たちをはべらせ、酒を飲みながら、民やコボルトたちが死んでいくのをよだれを垂らしながら、楽しみに待ち構えていた。
今回遠征につれてきた民は、全員殺す予定だ。