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259章 壊れた心

二人を奴隷から解放し、助けたと思っていた。

俺は・・・何ということをしてしまったんだ・・・

もう・・・殺してくれ・・・

頼む・・・この体は、お前にやる・・・だから・・・殺してくれ・・・


俺と出会わなければ、二人はまだ生きていたかもしれない・・・。

俺なんて、ものが生まれたのが間違いだったんだ。

たかが、分身体の俺は、本体のコマにすぎなかった。


ゴブリンが死んだ時、俺も一緒に死ねばよかったんだ・・・。


ガ・キーン・ロドレスだった者は、クーリナの体を動かして、話しかけた。


「お前の残りの分裂体を回収することもできた

やはり、お前は、あのガキどもを狙えば、俺を止めようとすべてを自分から集めた

お前は、本当に扱いやすい

次は、ゼブル・パテ・アガを計画通り、食べることとしよう・・・・」


その言葉を聞いても、クーリナは、上の空になっていた。

あまりのショックに、すべてのことを投げだし、考えないように心をシャットダウンした。



―――王子直属部隊ラガールの隊長ゼース・ブシ・ハマルは、遠征を終えて、帰路に向かっている間に、クーリナがいるのかを確認した。


しかし、部隊の中には、クーリナの姿はなかった。


ゼース・ブシ・ハマルは、ゼブル・パテ・アガ王子の馬車に馬を走らせ、近づいた。

馬車の周りを囲む護衛官たちが、隊長に目を向ける中、外から声をかける。


「王子。ゼース・ブシ・ハマルです

よろしいでしょうか?」


馬車の中から声が返って来る。

「許す」


まだ動いている馬車にゼース・ブシ・ハマルは、しがみついて馬車のドアを開けて、中へと入っていく。


それをみて、護衛たちが、驚きの目でみる。


そんなことには、おかまいなしに、ゼース・ブシ・ハマルは、馬車のドアを閉め、ゼブル・パテ・アガ王子に顔を近づけ、小声になって報告する。


「王子。この遠征で活躍をみせた、クーリナのことですが、少し不審な点がありました」


「クーリナが、どうしたんだ?」


「クーリナは、大量のエルフの首を持って、強敵であるエルフ隊を壊滅させたのです」


「クーリナなら、それぐらい出来るポテンシャルはあると思うが?」


「はい。そうかもしれませんが、気になったのは、エルフの首を大量に斬り落として、持って来たことです

ペルマゼ獣王国では、人間やエルフ、ドワーフなどの場合は、倒した敵の数を示すために、首を集めることは当たり前だと認識されていますが、クーリナは、そのようなことをする者とは思わなかったのです」


「ん?何が言いたい?」


「何の確証も、証拠もないのですが、あれはクーリナではないのかもしれません」


「何だと!?」


「王子は、大王様が、別人になったと言われましたが、わたしも、クーリナにそれを感じたのです

親子でもなんでもないので、ただの勘でしかないのですが・・・」


「それは・・・まずいな・・・」


「はい・・・。もし、本当にクーリナが、敵の手に落ちていたとしたら・・・一刻の猶予もありません」


切り札として、期待していたクーリナが、もしかすると敵に殺された、あるいは敵の手に落ちたとしたら、相当な力の差があるということになると王子は、感じた。


「仕方がない・・・最後の手段を発動させよ」


「ハッ」


ゼース・ブシ・ハマルは、すぐに、馬車から馬に飛び乗り、スピードをあげて、走り出した。



―――数日後、ペルマゼ獣王国全土に、ある情報が流れた。

残酷さを日ごろから行っている民たちが、その情報を聞いて、不安を抱く。


魔王と言われる存在であり、すべてを滅ぼしつくし破壊尽くす大死霊だいしりょうハデスの王、ディア・ガル・ア・ダリウスヘルが、万の大軍を連れて、ペルマゼ獣王国へと進行をはじめたというものだった。


これまで、何度かペルマゼ獣王国と大死霊ハデスは、小競り合いを続けてきたが、小規模な戦争ばかりだった。

それが、万を超す軍隊を連れて動いたというので、慌ただしくなる。


魔王ディア・ガル・ア・ダリウスヘルが、恐れられるのは、サンバルカン王国という国を跡形もなく、すべてを滅ぼしつくした過去があったからだ。


ペルマゼ獣王国の街も1つ消滅させられていた。


人道的だと名高いサンバルカン王国をすべて消滅させたというディア・ガル・ア・ダリウスヘルの価値観は、ペルマゼ獣王国の価値観とかぶり、理解できるだけに、それが自分達の身に降りかかる可能性があると恐れた。



ペルマゼ獣王国、国王マゼラン・パテ・アガの前に、影が現れた。


「モーリス様。ディア・ガル・ア・ダリウスヘルが、ペルマゼ獣王国西500km地点にまで迫ってきているのは、確かです」


マゼラン・パテ・アガは、顔を歪ませた。


「何故、奴が動く?そんなこと我は、聞いておらぬぞ!」


「わたしどもとしても、予想外の動きでした

こちらが何か示したわけでもなく、大死霊が動いたのです」


「いい加減にしろよ

我の国が、どれほど軍事資金をつぎ込んでいると思っているんだ

お前らが、あいつを止めろ!

そうでなければ、こちらは、東のシンと契約を結ぶぞ!」


「・・・・わたしどもに、お任せください」


影は、暗闇に潜むように、その姿を消した。


マゼラン・パテ・アガは、小さく呟いた。


「今はまだ、早い・・・だが、利用もできるか・・・?魔王の強さも垣間見えるかもしれぬしな」




―――マゼラン・パテ・アガは、遠征から帰って来た王子に早々と命令を下した。


「今回は、万を超える死兵団である

これを迎え撃つ先行軍2万を王子であるゼブル・パテ・アガに任せる

もし、見事にディア・ガル・ア・ダリウスヘルを退けたのなら、お主に国王の座を継承させようではないか」


ゼブル・パテ・アガ王子は、深々と頭を下げ、答える。


「お任せください。大王様

悪魔族の一角として名高いディア・ガル・ア・ダリウスヘルを見事、わたしが打ち取ってご覧にいれましょう」


「2万では少ないというのなら、好きなだけ兵力を増強してもかまわん

お主が、必要だと考える兵力を連れて行くがいい」


そう言いながらも、マゼラン・パテ・アガは、王子を睨め付ける。

もし、王子が、この2万で行くというのなら、何かしらの裏があると考えられたからだ。


「有難きことでございます

では、3万増強し、5万で向かわせてもらいます」


マゼラン・パテ・アガは、大声で笑う。


「がはははは。頼もしい限りだ

お主があ奴を追い返してくれると、信じて止まぬぞ」


ゼブル・パテ・アガ王子は、父に扮したその態度に、心の奥で苛立ちを覚えながら、静かに頭を下げる。


「この命に代えても!」



ペルマゼ獣王国には、兵士が多い。

幼き頃から戦いの中で生きていく環境が、強者を生んでいた。

ただの農民という獣人のほうが少ないほどだった。


ゼース・ブシ・ハマルが中心となり、その農民やその他の民から徴兵がされ、2万の精鋭とさらに3万の兵士が増し加わり、5万の軍が編制された。


農民兵と言えども、そこそこの武具を纏って集まった兵士たちは、ラガール部隊を先頭に出陣をはじめた。


クーリナの体も、ラガール部隊に参加していたが、クーリナの意思は、そこにはない。操られていたとはいえ、こどもたちにしてしまったあの出来事に、心が壊れ、何も考えないようになっていた。


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