257章 クーリナの誕生
エルフの剣が、まるで生き物のように形をグニャグニャと変えたかと思うと、もの凄いスピードで、クーリナの胸に突き刺ささった。
それは、まるで木の根のように、クーリナの体内部に、張り巡らせるように、浸食しはじめた。
その痛みに、クーリナは悶えた。
「ぐああああ!!」
それを胸から引き抜こうと両手で引っ張るが、自分の内蔵ごともぎ取れてしまうと思うほど、しっかりと体の奥深くに、根を張ってしまい、そのまま深くまで浸食されると、クーリナの体がいうことを利かなくなった。
さきほど動いたはずの腕も、その他、どこの体もピクリとも動かせなくなる。
大きな木の枝の上で、エルフとクーリナが、立ち止まって話ているのを他のエルフたちが、何をしているのか分からずに、不思議そうに下からみている。
離れているので、会話は聞こえない。
動けない・・・まったく・・・どういうことだ・・・
「今は、しゃべることだけ出来るようにしてやろう」
エルフがそう言うと、口元が動かせるようになった。
「何・・・なんだお前は・・・!」
「これからのお前のために説明してやろう
200年前、俺は遺跡で生まれた
そこは、真っ暗な闇の中で、まわりにいたのは、モンスターぐらいだった
体も動かすことができない状態だったが、唯一できたのは、何か生き物に寄生するということだった
俺は何とか、他の生き物の体にへばりついて、命をつなげた
何年も何年も、ただ寄生するだけしかできず時を過ごした
へばりつくことぐらいしか出来なかった俺は、ただ頭の中で思考することしか出来なかったが、それが俺たちの幸運だった
この世界には、丹と言われるオーラを操る力がある
体が動かなかったことが、そのオーラを操作するという方法を気づかせるきっかけとなっていたのだ
そして、俺は、小さかった体を他の生き物を吸収することで、徐々に大きくしていった」
「俺たちの幸運?」
「クーリナよ。お前は、自分の体を分裂させて、複数の自分を作り出すことができる
そして、以前、動物に、思考できないほど小さな自分の体の一部を寄生させただろ?
その寄生させた一部は、今、どうしていると思う?」
どうして、こいつは・・・そんなことまで知っているんだ・・・。
「お前という存在が、確立するには、いくつかの分岐点が必要となる
まずは、細胞の大きさだ
ある程度の大きさの体を持たなければ、自分という存在を認識できない
したがって、何かに寄生しながら、自分の体を大きくしていくわけだ
お前のほかにも何千という分裂体がいるが、ほとんどが小さなまま変化がなく一生を終える
分岐点のひとつが、大きさであったら、大きくなる経緯の間に、己の核を作り出すことがもうひとつの分岐点となる
核を持つことが出来た時から、先ほどいったオーラを操れるかが決まる。
核を持ったとしても、このオーラに気づけなければ、一生オーラを操ることは出来ないのだ
お前のオーラは、赤色だが、お前が動けるようになる前からお前は、そのオーラを感じ取ることが出来たはずだ
このオーラを操れるようになってはじめて、自分の体を変化させて動けるようになれる」
あまりにも、俺のことを知りすぎていることに、クーリナは、恐怖を感じる。
「そして、もう一つの分岐点は、寄生ではなく、吸収する能力に気づくことだ
これにより、寄生せずとも生きていけることに気づき、さらに自由に動けるようになる
そして、これはお前のことを話したように思うかもしれないが、これらは俺の実体験を話してたのだ
俺は今の分岐点を超えて、自由を手に入れたのが、約200年前だった
ありとあらゆる生き物を吸収して、力を蓄えて行った
そして、この過酷な世界を生き抜き、国を立ち上げた
それが、ペルマゼ獣王国だ」
「何だと!!」
ゼース・ブシ・ハマル隊長が言っていた話と酷似している・・・
「お前か!パテ家を裏で操り、この国を支配しているという奴は!」
「いかにも、獣人の中でも才能を宿していたパテ家に目を付け、奴らを国の王族として、利用し続けた
王が子を残した後、我が王を吸収して、実際に支配することを繰り返して来たのだ
お前が守ろうとしているゼブル・パテ・アガは、そのことに気づき、わたしを否定しようとしたので、そろそろ本格的に、排除しようと思っているところだ
そして、お前には、俺の駒として、動いてもらうことになる」
「俺がお前のいうことを聞くわけがないだろうがっ!」
「お前を生み出したのは、我だ
お前は、我の分身に過ぎない
そして、お前は、我なのだ」
クーリナは、激しく反論した。
「違う!俺はお前の分身体じゃない!俺の分身体は、俺の意思と共有していて、今のお前と俺のように、別の意見になることなどないからだ!
つまり、俺は、お前ではないということだ!」
「いくつかの分岐点のすべてを兼ね備えたお主は、独自の核を持つことに成功している
これはわたしの意思とは、切り離された存在になっているということだ
だから、我は、わが子と言ったのだ
我が、お前を生み、自分の自我を持つように促した」
エルフは、姿を変化させはじめた。
その姿をみて、クーリナは、驚いた。
小柄なオーガの姿となったエルフは、クーリナの知っている者だった。
「お前は!ガ・キーン・ロドレス!!」
「そうだ。そして、これも覚えているか?」
また、変化をはじめた。次は、大柄なオーガの姿となった。
「バトルロワイアルで、ガ・キーン・ロドレスが、殺したはずのあのオーガか!」
エルフだと思って下からみていた他のエルフたちは、オーガの姿になったのをみて、騒ぎだし、ふたりに攻撃をはじめた。
ガ・キーン・ロドレスだと思われる者は、真上に腕を伸ばすと、大量の枝分かれした触手をアーチ状に下へと降り注ぐと、一斉に、囲んでいたエルフ10人の体を貫き殺した。
「お前に核があると分かった時から、お前を観察し続け、お前を導いてきたのだ」
クッ・・・そういうことだったのか・・・
どうして、俺は遺跡ではなく、ゴブリン洞窟で目覚めたのか
自分が本体だと思っていた・・・
「まさかゼブル・パテ・アガの部下になるとは、思わなかったがな
だが、それも好都合だと思い直し、お前が、奴から信頼を得るまでの2年間、自由にさせておいたのだ
そして、今では、お前は、ラガール部隊の中心人物となっている
何も知らないからこそ利用できることもある」
「お・・・俺は!絶対に、王子を裏切らないぞッ!」
「お前は、昔の俺に似ている
しかし、今や俺は生き物を超越した存在となった
世には、知れ渡ってはいないが、我は、悪魔族のひとりだ
お前など、我に比べれば、無いに等しい存在なのだ
その立場からみて、正しさを把握できているのだ
お前の意思は、もうどうでもいい
お前に攻撃したあの瞬間から、お前の核を中心にして、体のコントロールを俺のものにさせてもらった
お前は、もう指一本、自分の意思で動かすことはできない
そして、お前の体を自由にできるということは、お前の核から生まれる恩恵もまた、我のものとなったということだ
お前は、我の駒となり、我の代わりに表で戦ってもらう
ゼブル・パテ・アガは、もう必要ないだろう
信用していたお前に、奴は殺されることとなる
そして、お前が奴を食べるのだ
奴を食べれば、お前は、奴に変化することが出来るようになる
すぐに、死んだとしてもいいのだが、しばらくは、お前が、奴として、動いてもらおう」
「貴様ぁぁぁぁ!!」
ガ・キーン・ロドレスは、クーリナの口元に人差し指を持っていくと、クーリナは、しゃべることも出来なくなった。
そして、ガ・キーン・ロドレスは、王子たちが認識しているクーリナの姿に変化したと思うと、森の中に潜んでいたエルフたちを大量の長い触手を出して、一網打尽にした。
大量のエルフたちの首を持って、ゼース・ブシ・ハマル隊長の元へと現れたガ・キーン・ロドレスは、クーリナを装って、エルフを壊滅したと報告した。
「まさか!お前ひとりで、あのエルフどもをすべて倒したというのか!?」
ガ・キーン・ロドレスは、クーリナの声で答える。
「はい。隊長。約1000名のエルフ兵士は、すべて倒しました」