256章 森の守り人
ペルマゼ獣王国は、1年の間、小さなものも含めれば、戦争をしていないという時期が無かった。
戦争が出来る理由を探し出し、作り出しては、正当化しながらも、略奪や強奪を続ける。
他の国からすれば、攻めても何の得にもならない国であっても、人を食べ物とみなしているペルマゼ獣王国では、それが戦争をする利点となる。
戦争ばかりしている国なので、武具などが発達していて、他の国にはないあらゆる武器や防具が武器屋に並べられ、飛ぶように売れて行く。
武器は、使用すればするほど劣化するので戦争を続ける国では需要が高まる。
他国の新しく発明された武器が入って来ると、その日のうちに売り切れになるということもざらだった。
なので、武具を売る店の割合が、非常に高い。
ペルマゼ獣王国は、戦争が好きすぎて、相手が滅びそうになるとわざとその戦場から退却することもある。
小国サームのように滅ぼしてしまえば、もうその国とは戦争が出来なくなるので、わざと残しておいて、その国が戦争の準備が再度、整うとまた、戦争をふっかけるということを繰り返す。
ラガール部隊は、ペルマゼ獣王国の南西に隣接するシャウア森林に住んでいるエルフ族と戦いを始めていた。
エルフは、人数こそあまりいないが、ひとりひとりが扱う魔力が人間などと比べると高く、物理攻撃主体が多いペルマゼ獣王国の兵士は、魔力が人間よりも低い場合が多い。
しかし、身体的な能力は、エルフや人間よりもペルマゼ獣王国のほうが若干、優っている。
接近戦に持ち込めば、ペルマゼ獣王国が優位となるが、距離をあけられてしまえば、遠距離攻撃ができるエルフのほうが有利になる。
弓矢と魔法を駆使し、バランスよく戦ってくるエルフは、ペルマゼ獣王国にとっては、不利に働く相手だった。
その相手に対して、ラガール部隊は、1000名。そして、エルフ戦士もまた1000名だったので、実際は、王子直属部隊としては、危険極まりない作戦だった。
とはいえ、あからさまに、不利といえるわけでもないので、一般的には、王が、王子を排除しようとしているとは、映らなかった。
ラガール部隊は、何とかエルフ軍のふところに入り込み、接近戦を挑もうとするが、エルフは、森の中をランダムに広がって、軍の懐部分さえも把握できないでいた。
エルフは、距離をあけながら、魔法を放っては、ラガール部隊を攻撃し続ける。
エルフの庭ともいえる森なので、土地勘もエルフが優っている。
主なエルフの攻撃は、弓矢に魔力を込めた攻撃で、近づこうとすると地面に矢を放ち、凍らせたり、土魔法で進軍を妨害しながら、隙があれば、命を狙ってくる。
エルフ軍は、無理をせずに、バランスよく攻防を繰り返して、ラガール部隊の体力を削っている。
土魔法によって沼地のような地面に足をとられて、ラガール部隊の兵士は、素早く動くことができない。
「クソ!あいつら、追っては逃げて、矢を放ってきやがる!」
兵士たちがじり貧になっている状況に苛立ちを表に出し始める。
クーリナだけは、分身体を出して、森の状況を把握していた。
虫や鳥に変化させながら、監視をしているが、分身体を出せるということは、ゼース・ブシ・ハマル隊長にも教えていないので、情報を伝えることはしない。
エルフは、遠距離攻撃と超遠距離攻撃が出来る者とに分けて攻撃してきていた。
遠距離攻撃をするエルフの姿を兵士たちは、把握はできても、超遠距離攻撃のエルフは、まったく把握できていない。
嗅覚などに頼った兵士であっても、把握できていなかった。
まるで、空から突然、降って来るように、もの凄く離れた位置からの攻撃が放たれ、矢が命中する。
どのようにエルフたちが、こちらを把握しているのか分からないが、遠距離からの矢よりも精度がいいほどだった。
クーリナは、出来うる限り、鳥の分身体を兵士たちの上に待機させて、超遠距離攻撃の矢を防いだ。
エルフ側も防がれていることに気づいたのか、鳥がいない場所に矢を放つが、それでも、クーリナは、細くて長い触手を伸ばして、防いだ。
どうやらその攻撃ができるエルフは限られているようだった。
「ぐはッ!」
獣人兵士の目に矢が刺ささり、悶え苦しむ。
遠距離攻撃の矢の精度がどれも高く、ピンポイントで攻撃してきていた。
ペルマゼ獣王国の兵士たちは、防ぐという行為をあまり好まない。盾などを持って、敵の攻撃を防ぐことは、臆病者のように思えるようだった。
矢を防ぐのは、盾ではなく、攻撃しているかのように剣ではじくだけだった。
エルフの矢が兵士の体に命中していく。
クーリナは、ゼース・ブシ・ハマル隊長に許可を得た後、鳥の分身体を残して、残りをエルフの最後尾へと集結させ、裏側からエルフを攻撃しはじめた。
エルフたちは、ランダムな位置の離れた間隔の木の上から攻撃をしていたが、それらの位置を把握しているクーリナは、背後から静かにエルフを倒していった。
特に狙ったのは、超遠距離攻撃をしてくるエルフたちだった。
だが、それらのエルフには、護衛をするかのように他のエルフが、一緒に待機していた。
クーリナは、バレないように、蛇の姿になって、木を登っていったが、超遠距離攻撃をするエルフには、すぐに気づかれた。
「蛇が木を登って来る排除してくれ」
護衛のエルフ兵士が、剣で蛇に変化したクーリナを追い払うように剣を振って来たが、その剣をはじいて、倒す。
ただの蛇だと思って油断していたので、簡単に倒すことができた。
護衛がやられたことに驚き、エルフは、すぐに木から飛び降りたが、クーリナは、それを逃さず、空中にいる間に、触手を伸ばして、エルフの急所を狙い倒した。
ゼース・ブシ・ハマル隊長は、把握できない矢の本数が減ったのを認識して、クーリナがやってくれていると思い、部隊を前進させず、逆に、後退するかのように、兵士たちを集めて、エルフたちをひきつけた。
エルフたちは、敵が後退していくのをみて、勝っていると思ったのか、次第に、前へと集まりはじめた。
その後方では、クーリナが、着実にエルフの数を減らし続けていたが、その連絡は滞っていた。
このままいけば、エルフたちが気づいた頃には、形成は逆転すると思われたが、想定外のことが起こる。
突如、ラガール部隊の上を守っていた鳥の分身体が、消し飛んでいった。
後方にいた本体のクーリナは、木をつたいながら、移動していたが、さらに上から気配を感じて、上をみあげた。
緑色のオーラを纏ったエルフが、上から飛び降りてきたかのように、剣を振り込んできた。
何とか、その剣に反応して、硬質化させた腕で防ぐが、足場にしていた太い枝が、ボギッと折れて、そのまま下へと落とされた。
前方にいた鳥の分身体を排除していたのも、まったく同じ姿の緑のオーラを纏ったエルフだった。
双子・・・!?
硬質化させて作った剣も先ほどのエルフの攻撃でヒビが入っている。
すぐに欠損した部分を治すが、相手の攻撃力がこちらの防御を上回っているのは変わらない。
エルフは、木から落としたクーリナにさらに連続して、剣を打ち込む。
その攻撃を何とか防ぐが、剣がぶつかる度に、ダメージが残っていく。
スピードも威力も、クーリナを上回っていた。
本体に対してこれなら、分身体が簡単に吹き飛ばされるのも仕方がないと思える。
クーリナは、手足を何本も出した。その手足は、まるで猿のような形で、地では分が悪いと思い木の上へと場所を移動させた。
数本の手足がしっかりと木に体を固定させて、エルフと戦う。
エルフは、木の上では、安定さを失い。クーリナは、互角以上の状況に持ち込んだ。
だが、他のエルフたちが、その戦いに気づいて、クーリナに矢を放ちはじめ、戦いをまた不利に引き戻す。
それらの矢も何とか防ぐが、何本かの矢を体に受けてしまう。
その隙に、エルフの剣攻撃が体を直撃した。
ドゴンッ
「ぐはっ」
喰らった体の部分もなんとか硬質化して防いだが、体全体に衝撃が走る。
「やるじゃないか。クーリナ」
「何・・・!?」
自分の名前を口にしたエルフに、驚く。
「ゼブル・パテ・アガから信用を得られたようだな」
戦いながら話しかけてくるエルフは、なぜか自分のことを知っている口ぶりだった。
「なぜ俺のことを知っている?」
クーリナは、謎のエルフに戸惑っていたが、それはクーリナだけではなかった。まわりでクーリナに対して、弓矢攻撃をしていたエルフたちもなにやら騒ぎ立てていた。
「あれはアシュラードか?」
「ああ。アシュラードだな」
「どうしてあいつ、あんなに接近戦が強いんだ!?」
クーリナの質問に対して、エルフが口を開く。
「お前が自分を認識する前から俺はお前のことを観察していたんだ」
「ん?」
こいつは、一体何を言ってるんだ・・・?
「お前の育ての親。ゴブリンが死んだ時も、独立して生きて行こうとしはじめた時も、俺はお前をみていた」
「なっ!なぜ、それを知っている!?」
「そろそろお前を手に入れようと思ってな。回収しに来たんだ」
何を言っているのか、さっぱり分らず、動揺するが、こいつはヤバイ奴だということは、戦ってみて分かる。
「回収する前に、お前には、すべて教えておいてやろう
わが子よ」
「わが子・・・?」