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255章 感謝祭

ペルマゼ獣王国は、2年をかけて小国サームを滅ぼした。

小国サームは、ペルマゼ獣王国から隣接しているわけでもない国で、貿易にしても、武力にしても特に目立つことのない国だったゆえに、長らく他の国も相手にしてこなかった国だった。


兵を起こしてサームを滅ぼすほうが割りにあわなかったからだ。


国としては存在していたが、まるで空気のように相手にされてこなかった国だった。

ペルマゼ獣王国とも2000kmも離れた小国家だったので、今まで戦うことがなかったが、一方的にペルマゼ獣王国が、小国サームに襲い掛かった。


小国サームがペルマゼ獣王国の民に手を出したという嘘なのかどうかわからないような大義名分をドラゴネル帝国に報告し、そのまま攻め入り滅ぼしてしまった。


ペルマゼ獣王国は、帝国に連盟しているので、戦争をする際は、報告の義務があったからだ。


小国サームが滅んだところで、ペルマゼ獣王国の首都デリスでは、祭りが執り行われることとなった。


祭りがはじまる朝方から街は、祭りの準備で騒がしかった。


「お父さん。何だか外が騒がしいね」


「敵国を滅ぼしたお祝いの祭りが今日だからな」


サブリナは、家の窓をあけて、外の様子をみて大きな声をあげた。


「きゃーーッ!!」


クーリナは、サブリナの叫び声に驚いて、すぐに駆け寄る。


「どうした!?サブリナ!」


「お父さん・・・」


サブリナは、窓の外を指さして、震えていた。


その報告に目をやると叫んだ理由が分かった。


ペルマゼ獣王国は、森の中に形成された街で、街の中にも数多くの木々があったが、それらの木々の枝に、大量の人間の生首や斬り落とされたような腕や胴体、足などが、ぶらさげられ、そこから血がしたたり落ちちていた。


街の木々の地面は、赤く染まっていた。


ほとんどが人間で、若干、獣人などの死体も吊り下げられていた。

枝は、その重みで曲がっていた。

兵士たちの死体ではなく、女、こども、老人、戦いとは関係していない者たちばかりなので、小国サームの民なのだろうと予想される。


「ふたりは、今日は外に出るな」


サブリナとクーテンは、震えながら、頷いた。


祭りがはじまるとペルマゼ獣王国の民たちは、大騒ぎをはじめた。

街中に、焚火が用意されている。

木にぶらさげられた死体を果実でも、もぎとるように取っては、無造作に食べはじめたり、肉から滴り落ちる血を下から口を開けて飲んでいる者もいた。

こどもたちも笑顔で、木によじのぼって肉を取って、枝に刺した肉を火で炙って嬉しそうに食べた。


「今日は、食べ放題だ!」


昼時になると、首に縄をつなげられた裸の人間たちが、街の道路に大量に並んで歩かされた。

その数は、数千人を超えている。

縛られた裸の人間たちが、道に埋め尽くされている。


道路の隅に待機している大量の街の獣人たちは、よだれをたらしながら、嬉しそうにそれを眺めていた。


裸の人間たちは、何も出来ずに、震えているだけだった。


昼になり、裸の人間たちの前に市長が台の上に登り、話をはじめた。


「我らがペルマゼ獣王国の民を残虐にも殺した小国サームは、滅んだ

我らを傷つけた者には、77倍の報復

全能なる神カーリーは、はじめに獣人の男と女を造られ、園に置かれた

その園の中央には、神の実がついた聖なる木が植えられており、その木の実は、人間の生首だった

それを食べれば食べるほど、力を増していったのだ!

今日は、勝利の祭り、感謝祭だ

皆様、存分に、楽しんでくれ」


闘技場で鳴らされた同じラッパの音がパラーパラーパラーと鳴り響くと、一斉に、街の住民たちが、人間に襲い掛かった。


「「「ぎゃーーーー!!」」」」


成すすべもなく、生きたまま、食べられはじめる。獣人たちは、その血で顔を赤く染め上げていた。

内蔵を食べられているが、自分に起こっていることではないかのように、人形のようにボケーっとしている者も多かった。完全にあきらめた状態になっている。


食べちぎられた死体の一部をペルマゼ獣王国の民は、楽しそうに、投げ飛ばすので、街中の建物の壁が、真っ赤に染まっていった。


大量の人間の死体が、街の道を広がり、足の踏み場もなく、食べている獣人たちも、皆、体は真っ赤になっていた。


獣人たちは、大量の地面に広がる死骸を踏みながら、数人が一列になって、左右に手を伸ばして、踊り始めた。

ムカデのように手が何本もあるように、気味悪く踊り続けた。


街の人々は、誰かと出会うと、胸の前に、腕を×印のように交差させて、挨拶を繰り返した。


まるで、牛肉か豚肉の祭りを行っているかのように、街中の獣人たちが、こどもであっても喜んで騒いでいた。


まさか・・・ここまでとはな・・・


サブリナとクーテンは、外から聞こえる人間たちの叫び声や唸り声を聞かないように、布団にくるまって、耳を塞いだ。


クーリナも、まさかこのような祭りだとは知らなかったので、こどもたちを外に連れ出すこともしなかったことに後悔した。


俺は森で沢山の生き物を手あたり次第、殺した。

殺して吸収するたびに、強さが増す喜びを感じて、暴れまわった。

その時の俺は敵国の者は、もう人間ではないというこの国の価値観となんら変わらないことをしていたのだろう。

だが、それにしても、この国は、異常だ。

異常だと思うほうが間違っているのか?とここで暮らすと分からなくなってきてしまうほどだ。


ゼブル・パテ・アガ王子が、正式に王になれば、このバカげた祭りのようなものも中止にしてくれるだろう。


王子がいなければ、こんな国、留まることなど絶対にしなかった。

ただ、この異常性からか、他国の国は、ペルマゼ獣王国を攻めるなどしてこない。


つまり、この国の民は、他国からの侵略はされず、安全だとも言える・・・。

他国に行ったとしても、ペルマゼ獣王国の民だと知れば、手だしする者などいない。盗賊だろうと何だろうとペルマゼ獣王国の民に手を出せば、攻撃の大義名分を与えてしまい殺されてしまう。


1やられたら何倍にも復讐してくるこんな国を攻めようとするような国などいないのだ。


いつかは、こどもたちと、ここを出よう・・・。だが、いつだ・・・?


王子をこのままの状況にしたまま、出ていくわけにはいかない。

この2年間、やってきたことが意味がなくなってしまう。


王子が、王になったら出て行こう。それで恩は返したことになるだろう。


何をしたって、この国が変われるとは思えないが、王子はそれをあきらめてはおられない。

王族でありながら、命をかけて、国を変えようとされているのだ。


サブリナやクーテンは、この国が嫌いだが、この国の者たちは、ふたりに手を出す者は、こどもだろうといない。

この国では、力こそ正義だという考え方があり、その力を示し続けている俺のこどもに、少しでも何かすれば、それを口実に殺されても文句が言えないからだ。


そういった点では、俺たちは、安全だとは言えるが、一転して、こちらが力を失えば、サームの民たちのような目にあわされるかもしれない。


王子が王になるまでだ・・・。


王子が、王になるのは、それほど遠い未来ではない。多くの者が、王子を推薦しているので、現国王も、無視することが出来なくなっているからだ。

だからこそ、国王は、暗殺の手を強めている。


この波を超えれば、王子にも光がみえてくるはずだ。


そして、何の憂いもなく、この国を後にしよう。


クーリナは、その決意を固めた。


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