253章 自由
「ねー。あいつら・・・このままほっておいてくれると思う?」
クーテンが、不安そうにクーリナに質問した。
「分からないが、あきらめずまた捕まえに来ると思っておいたほうがいいだろうな
本当は、正規の方法で解放されたかったが、あいつがサブリナに手を出しはじめたからそうもいかなくなった
あいつは、闘技場の待合室でもひとりで俺に会いに来たこともあったが、その時もやろうと思えば人質にできたが、そうやって逃げ出しても、また追いかけてくると思って我慢していたんだ」
「あと1試合だけだったんでしょ?」
「そうだな。あと少しだったんだが・・・」
サブリナも二人の会話を聞きながら考える。
「あいつが言っていたけど、お父さんを気に入っている王族がいるって本当?」
「ああ。ペルマゼ獣王国の王子がわざわざ俺に会いに来たんだ
あと1試合を終えたら、後ろ盾になって俺たちを解放してくれていたかもしれないな」
「その王子に何とかしてもらえないかな・・・?」
「頼みに行くってことか?」
「うん・・・無理かな・・・?」
「どうだろうか・・・。逆に捕まえられる可能性さえあるからな・・・」
「お父さんは、約束のお金よりも多くをきちんと渡したんでしょ?
なら、解放してもらってもいいはずじゃないの?」
「あいつらが絶対に来ない遠くに逃げるというのも考えていたが、きちんと解放してもらえるのなら、逃げる必要もなくなるしな・・・
分った
王子のところに行ってみることにする
それでも無理なら三人で、遠くに逃げよう」
「「うん」」
サブリナとクーテンは、少し笑顔をみせた。
―――クーリナは、体の半分の分身体を置いて、また首都デリスへと密かに戻って来た。
夜の間に、城の作りや護衛兵の巡回パターンなどを確認して、逃げるルートなども想定しておいた。
さすがに王族の部屋に、夜に忍び込むことは出来ないので、昼になって、堂々と大門の前に闘技場で戦った時の姿のまま出向いた。
「そこで止まれ。
何だ?お前は」
「わたしは、闘技場で戦い強さを示したことで、ゼブル・パテ・アガ様に気に入られた剣闘士クーリナです
いつでも会いに来いと言われました
ですから、是非、ゼブル・パテ・アガ様にお会いしたいとこうしてやってきました」
「では、謁見表を出せ」
いつでも会いに来いなど言われていないので、そのようなものはない・・・。
「いつでもとおっしゃられていたので、そのようなものは、いただいてはいません」
門衛は、前方方向を指さした。
「あそこに小屋があるだろう
謁見したい場合は、あそこで、予約を取るんだ
予約をして、ゆるしが出れば、謁見表がもらえる」
「今、伝えてもらえれば、許可が下りるはずです」
「ならん!お主は、王族や貴族でもないのに、何故、そこまでする必要があるのだ!」
「分かりました・・・」
クーリナは、言われた小屋へと向かい予約をいれた。
受付は、文字も書けないという相手に、予約をすることを拒もうとしたが、何とか、代わりに書いてもらい予約してもらえた。
「明日のこの時間帯には、許可が下りるかどうかが分かるので、またここに来るように」
予約するだけでも拒まれそうだったのに、許可が下りるとは思えなかったが、また1日、待って、受付へと向かった。
「昨日、予約をしたクーリナというものですが、許可は下りたでしょうか?」
受付は、少し困惑したような顔で答えた。
「え・・・ええ・・・許可が下りましたよ」
「え!?本当ですか?」
「あ・・・はい・・・」
クーリナは、人の気配に気づて、後ろを振り向いた。
20人ほどの兵士がクーリナを取り囲もうとしていた。
それらの兵士の後ろには、ボンガンと王子ゼブル・パテ・アガがいた。
「クーリナよ。わしに会いたかったらしいな」
「はい・・・王子・・・」
「だが、なぜ、わしが、脱走奴隷に合わねばならんのだ?お前が脱走して、いち早く、ボンガンは、お前が脱走したことをわしに知らせに来た」
「お聞きください!わたしは、約束通り、契約金を払いました
いえ、それだけではなりません。契約金以上のお金をボンガンに払ったのです」
「ほう。では、なぜ逃げだす必要があったんだ?」
「覚えておられるかは、分かりませんが、王子は、以前お会いした時、わたしの家族に危害を加えないようにとボンガンのおっしゃられました」
「そうだったかもしれないな」
「約束を破ったのは、わたしではありません!そこにいるボンガンです!
わたしは、後、1試合で自由になれる身でした
ですから、逃げ出す必要などなかったのです
むしろ、問題など起こしたくはなかった
ですが、そこにいるボンガンが、わたしの家族に手をあげ、拷問しはじめたのです
ですから、わたしは仕方なく、家族を守ったまでです
今もこうして、危険を顧みずに、姿を現したのも、正当性があるからです」
「正当性?」
「はい」
「正当性か・・・あはははははは」
王子は、馬に乗ったまま大きな声で笑った。
「そんな言葉、久しく聞いたことなどなかったぞ
お前は、奴隷だ。奴隷の身であるお前は、正当性などあるはずもないだろ?
お前は、奴隷であるその時点で、ゴミなんだ
いいか、この国では、国の民には、正当性を掲げ、騙してはならないという法律がある
それを破れば、問答無用で、死罪にもなりかねん
しかし、我らが国の民ではないものは、ゴミだ
何の権利もない
脅せ、騙せ、奪え、そして、我らが国に利益をもたらせとなる
奴隷もまたゴミなんだ」
「クッ・・・」
ボンガンも、それを聞いて、横で笑う。
「ククククク」
「正当性か・・・あはははは」
王子は、また大声で笑った。
「わしは、お前を気に入っておる
その正当性、わしが買い取ろう」
「なッ!!」
ボンガンが驚きながら、王子の顔を見る。
「ボンガン、お主と奴の契約書を渡せ」
「お・・・王子・・・」
王子は、ボンガンをみることなく、右手を出して、催促する。
「早く、出せと言っておるだろうが!!」
「は・・・はい・・・今すぐ・・・」
ボンガンは、慌てながら、胸倉から契約書を出して渡した。
「ふむ・・・確かに、あと1試合でお前は、解放されるところだったようだな」
「その1試合とさらに多くの金をボンガンに渡しました
ですから、すべて終わっているのです」
「ボンガン、左様か?」
王子は、ボンガンを嘘偽りは、ゆるさないぞといった目で、睨みつける。
「は・・・はい・・・金は受け取っております・・・」
「では、奴は、もう奴隷ではない
奴隷から解放された我らの国の民ということだな
指を出せ、ボンガン」
ボンガンは、恐る恐る人差し指を出した。
王子は、剣を引き抜き、ボンガンの指を斬り落とした。
「がッ!!」
「ほれ。契約解除の印を押せ」
ボンガンは、指を拾って、その指で、震えながら契約書に指紋を押し付けた。
「次は、お前だ。クーリナ」
クーリナは、自分の指を斬り、同じように、契約書に指を押し当てた。
「お前は、これで自由だ」
クーリナは、深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。王子!」
「クーリナよ。わしは、お前の強さを見込んでおる
お前が良ければ、わしの部下にならぬか?
わしの部下ということは、騎士としての地位が与えられるということで、この国でも堂々と暮らしていけることになる
わしへの恩もそれで返えそうとは思わんか?」
「家族への保証はしてもらえるのですか?」
「保証・・・?次は、保証ときたか。あははははは
お前は、本当に面白いな
お前にとっての保証とは何なのか分らぬが、さっきもいったであろう
民であれば、その民を裏切る行為は、死罪に値すると
わしの騎士になるということは、その権利を得ることになるんだ」
クーリナは、少し考えて、答えた。というより、そう答えるしかないと思った。
「分かりました。是非、王子の騎士にさせてくださいませ」
「よくぞ、申した
お前はもう、奴隷でもなければ、剣闘士でもない
わしの敵を思う存分、倒せよ」
「ハッ!」
王子が、首を振ると、ひとりの兵士が、クーリナに言う。
「こっちだ。俺についてこい
騎士になるということを1から教えてやろう」
王子は、馬に乗ったまま、城へと戻っていった。
ボンガンは、指を斬られて、苦痛の顔を浮かべながら、帰っていった。
やっとか・・・やっと、あいつから解放された・・・。しかも、クーテンも、サブリナも、ふたり揃って、一緒に生きていける・・・。
早く、二人に教えてやりたい・・・。