251章 王族の加護
闘技場での戦いを舐めていた・・・。
森では俺に勝てるような生き物はなく、遺跡でも苦戦はしたが、それでも生き残り、勝利を続けていた俺は、強いのだと思っていた。
俺が寄生して、ベシスターを守れば、ベシスターも生き残れると思っていた・・・。
しかし、巨躯のオーガや俺を助けた小柄なオーガ・・・ガ・キーン・ロドレスという名前らしいが、奴らに俺はなすすべもなかった。
ベシスターは、1回目の試合であっけなく死んでしまった・・・。
この強者二人に共通していたのは、体のまわりに色のついたオーラのようなものがハッキリとあったことだ。
首を落とされ死んだ巨躯のオーガの遺体は、そのオーラは消えていたが、ガ・キーン・ロドレスは、今も青いオーラを纏っていた。
俺の体にも、赤いオーラのようなものがあるが、同じものなのだろうか・・・?
今回、死んだのは、ベシスターだったが、次は俺かもしれない・・・。
「クーリナ。お前には素質がある。これからも俺と組まないか?」
ガ・キーン・ロドレスが、話しかける。
「組む・・・?同じ試合にまた一緒になるとは限らないだろ?」
「お前は、奴隷のようだから試合を選ぶことが出来ないようだが、俺は選ぶことができる。お前の主人と交渉して、お前が出る試合に俺が合わせればいいというわけだ」
「さーな・・・あの奴隷商人が許可するのかは、俺には分からない・・・」
「奴隷商人は、お前を使って金儲けがしたいのだろ?
なら、お前に力を貸す形になる俺を拒む必要もないだろ」
「確かに・・・な・・・」
「仲間が死んでショックを受けているようだが、俺が交渉を進めるだけだ
クーリナは、何もする必要はない」
「なぜ・・・俺にそんなに拘る?」
「お前には、素質があるといっただろ
俺はお前のその素質を利用させてもらうだけさ
お前も、俺を利用すればいい」
「・・・」
巨躯のオーガも、その他の兵士たちも、戦闘狂のような奴らだった。
それが、この国の兵士たちの特徴なのかもしれない。
だが、ガ・キーン・ロドレスは、そういった感じはしない。
何と言っていいのか分からないが、さらに高い位置から自分の個を持って生きている感じがする・・・。
一緒に戦う仲間となるのなら、頼もしさもあるが、こいつは多分、俺よりも強い・・・。
俺よりも強いコイツが、毎回、同じ試合に出てくるというのも、リスクじゃないのか・・・?
ガ・キーン・ロドレスは、クーリナの気持ちを察したのか笑みを浮かべる。
「クーリナは、強いが、それ以上の敵が、今後も闘技場で現れるかもしれないだろ?
その時に、同じレベルの俺が仲間として共に戦うのなら、利があるとは思えないか?」
確かにそうだ・・・。ガ・キーン・ロドレスだけじゃなかった。巨躯のオーガもオーラを持っていた。そして、攻撃がみえなかった。
そんな相手が出てきた時、ガ・キーン・ロドレスがいてくれるのは、生き残るための突破口となるだろう・・・。
「分かった・・・承諾する」
ガ・キーン・ロドレスは、ポンとクーリナの肩を叩いて、待合室から出て行った。
奴隷商人ボンガンが、少し慌てたような様子で、クーリナの元にやってきた。
「おい!クーリナ!お前に会いたいという御仁が現れたぞ!」
「ん?」
「お前の戦いをみて、気に入られたらしい」
「誰なんだ?」
「ペルマゼ獣王国の王子ゼブル・パテ・アガ様だ」
「王子?」
「何をぼやぼやしている!時期、王として名が挙がっておられる方なのだぞ!
失礼のないように対応しろ!
もし、王子が不機嫌になったら、クーテンがどうなるのか、分かっているな!」
「お前ッ!」
クーリナは、ボンガンを睨みつける。
「お・・・俺に何かあれば、その時も・・・」
「分かっているッ!会えばいいのだろ?どこに行けばいいんだ?」
「すぐに会いたいということで、こちらに来てくださるようだ
ここで待っていろ」
ボンガンは、また慌てて、待合室から出て行った。
数分して、複数人の兵士とともに現れたのは、ライカン系の獣人で、血のような真っ赤な豪華な鎧を着ていた。その身なりで、王族だと一目で分かる。
クーリナは、頭を下げる。
「お主の戦いを観させてもらった
この国では、強さこそ正義
お主は、10人の中に入り、生き残った
見事だったぞ」
「ありがとうございます。王子」
「時に、お主の体からいくつもの腕が生えたように見えたが、あのように手を増やすことができるのか?」
!!!
クーリナは、驚いた。
感情的になり、後先考えずに、自分が戦っていたことに今、気づいた。
「は・・・はい・・・そういった戦い方もできます・・・」
「お主は、まるで、カーリー神教のカーリー様のようだな」
「カーリー・・・様・・・?」
「知らぬのか?街の銅像や壁画にもいくつかあるであろう。カーリー様の背中には、いくつもの手が生やされておるのだ
そして、その手には、いくつもの武器と人間の首があり、人を食べるほど力を増していく神なのだ」
「そ・・・そうですか・・・」
「お主は、奴隷だと聞いたが、なぜ奴隷に落とされた?」
「家族を人質に捕られているいるからです・・・」
「よくある話よな」
「・・・」
「お主が、この先の試合でも、その強さを表し勝ち続けたのなら、わたしが、お主を買い取ってやろう
そして、その強さのゆえに、お主の家族の安泰も補償してやる」
「真ですか!?」
「もちろんだ
お主には、興味をそそられた
お主は、この国の者ではないようだが、この国では、強さが正義となる
強さを証明し続ければ、自由をも手に入るのだ
励めよ」
「ありがとうございます!王子」
王子は、奴隷商人をみた。
「この者の名は?」
ボンガンは慌てながら答える。
「ク・・・クーリナでございます!王子様ぁ!」
「クーリナの家族を人質にとっておるそうだが、クーリナが、強さを見せ続ける限り、その家族の安全を保障せよ!」
奴隷商人ボンガンは、頭を深々と下げた。
「ハハーーーッ!!かしこまりました!」
王子は、マントを翻し、屈強な兵士たちと共に、去っていった。
一体、何だったのか分からないが・・・クーテンの安全を王子が望まれた・・・?
勝ち進んでいけば、クーテンの安全とその後の生活も確保できるかもしれない・・・。
ボンガンも、ヘタに俺との約束を反故には出来なくなったのではないのか?
クーリナは、ボンガンの嬉しそうな顔を見る。
「でかしたぞ!王子に目をかけられるとはな・・・
クーリナ。わしを失望させるんじゃないぞ!
今日は、クーテンに美味しいものを与えようではないか
だから、お前も結果を出し続けろ」
「ああ・・・」
思わぬ人物に目を付けられ、クーテンの安全を少しは確保できたことに、クーリナは、少しだけほっとした。
この国のことは嫌いだが、強さこそ正義だという共通認識が、俺たちを助けることに繋がるとは・・・。これも、まんざらでもないな・・・。
―――クーリナは、試合を勝ち進めていった。
最初の試合に出会った強烈なオーラを持つ敵は、現れなかった。
最初の試合からそのような強者がふたりもいたことで、かなり警戒していたが、その最初の試合が参加人数が多かったためなのか、それとも、たまたま強者がいただけなのか、あの試合が例外だったのかもしれない。
ガ・キーン・ロドレスは、約束通り俺の出る試合に出ては、一緒に勝ち進んでいった。
こいつに気を許すことなく注意を払っているが、向こうから俺を攻撃してくるようなことは今のところない。
闘技場では、大げさな戦いをしようとする者たちが多かった。
目立つ戦いをすればするほど、観客にその顔を覚えられて、次からは賭け事の対象となるからだ。
それは人気があるとみなされて、出場料も人気があるだけ上がっていくからだった。
クーリナやガ・キーン・ロドレスは、あまり大げさな戦いかたをすることは無かったが、着実に生き残り、その実力が認められ始めたのか、少しずつ人気が出始め、出場料も増えはじめていた。
このままの調子で勝ち進むことが出来れば、もしかすると30回を待たずに、契約金を超えることが出来るかもしれないな・・・。
そう考えていると離れていた分身体から連絡が入った。
《大変だ!サブリナが姿を消して、近衛兵に捕まった》
《はぁ!?何をしてるんだ!安全を確保しろと・・・》
クーテンがさらわれた時のようなミスをしないように、外からの侵入者のチェックは厳重にしていた。
だが、そこから姿を消したということは、サブリナ本人の意思によるものだと思われる。
サブリナの安全のために、まるで監禁するかのように、同じ場所にいさせ続けたのが、まずかったのか・・・?
我慢できずに、内緒で外を出歩いた?
それでも、街まで足を運んだということは、どういうことだ・・・。サブリナだってそれが危険だということぐらい判断できるはずだ・・・。
近衛兵に捕まってから、クーリナの分身は、サブリナの様子をみていたが、そこから逃げる様子は見受けられなかった。
まるで自分からわざと捕まったかのようだった。
サブリナは、近衛兵に連れられて、ペルマゼ獣王国の首都デリスに、護送されていた。
このままでは、クーテンだけではなく、サブリナまでボンガンに捕まり人質にされてしまう・・・。
クーテンの時と比べれば、サブリナへの監視は厳しくはないが、問題は、サブリナ本人がわざと捕まった可能性があるということだ。
クーリナは、虫になって、サブリナに近づき、耳元でサブリナにしか聞こえないように話しかけた。
「サブリナ。何があったんだ?」
サブリナは、少し驚いたが、クーリナだと理解したようで、すぐに答えた。
「お父さん・・・ごめんなさい・・・わたしは、あの奴隷商人が何をするのか分かってるの。わたしが行かなければ、クーテンにどんなことをするのか・・・
わたしは奴隷にされていた時、ひどいことをされ続けたもの・・・」
「違うんだ。サブリナ・・・俺がお前たちの分まで、闘技場で戦い続けているから、あいつは、クーテンに酷いことなどしていない
クーテンのこともずっと近くでみているから大丈夫なんだよ」
「お父さんは、わたしを心配してそう言っているだけじゃないの?あの人は、クーテンに酷いことをしているはずよ」
「俺を信じてくれ」
「お父さん・・・わたしひとりだけ・・・安全な場所で待っていることなんて出来ない・・・クーテンは、わたしの弟よ
クーテンにだけ辛い想いをさせるなんて、わたしには耐えられない」
「人質がクーテンひとりなら、何とか無事に助け出すことは出来るかもしれないが、お前まで捕まったら、そうはいかない」
「わたしはいいの!クーテンを無事にたすけてあげて」
ダメだ・・・感情的になりすぎて、冷静に判断できなくなっている・・・。
「もし、これが逆だったらどう思うんだ?」
「逆?」
「今はクーテンが奴らに捕まっているが、もし、サブリナが捕まっていて、サブリナを助けるために、クーテンがわざと自分から捕まるようにしたとしたら、お前は、クーテンになんて言う?
どうして、わざわざ捕まるようなことをしたんだと言うんじゃないのか?」
「・・・」
サブリナは、少し聞く耳を持ったのか、目をつぶって考え込んだ。
「それでも・・・それでも、わたしはクーテンとお父さんだけ苦しませたくない
捕まっているのは、弟で、わたしはサブリナだから・・・」
「うーん・・・言っていることがよく分からないが、それだけ決意が固いということか?」
「うん!」
「分かった・・・バレるかもしれないが、サブリナの体に俺の体の一部を寄生させておこう
そうすれば、サブリナが本当に危険になった時に助けることができるからな」
「うん」
「なぜなのかは分からないが、奴らが、わざわざ森までお前たちを捜索していたのは、どうやらサブリナが目的だったようなんだ」
「あ・・・それは多分・・・わたしがいた施設の施設長がお金を隠している場所をわたしが知っているからよ・・・」
「そうなのか?」
「うん・・・うる覚えで、実際にその場所に行ってみないと説明できないと誤魔化していたの
その場所をあの人に教えたら、わたしは用済みになってしまうと思ってたから・・・
お父さんに助けられる少し前も、わたしの国に連れて行かされそうだったの」
「そういうことか・・・でも、今回は、素直にその場所を教えたほうがいいと思うぞ」
「そう?」
「その場所を教えたとしても、お前には、人質としての価値があるからな
用済みになるということはないだろう
その施設長のお金というのも、お前のように、こどもを奴隷として売って手に入れたものなんだろ?
かばう必要はない」
「かばっている訳じゃないわ
でも、言わないほうがもっと価値があると思われるんじゃないの?」
「確かに・・・そう・・・かもしれないな・・・
サブリナ。お前はなるべく、俺の分身体を連れて、クーテンに近い場所に行けるように心がけてくれ
クーテンと同じ牢の中なら尚いい
近いところなら、俺の分身体もクーテンにもっと近づくことが出来て、脱出の糸口がつかめるかもしれないからな」
「うん!わかった」
そして、クーリナは、今の状況をサブリナに説明した。
自分が闘技場で戦い契約金を貯めていること、ペルマゼ獣王国の王子が目をかけてくれ、順調に勝ち進み強さを示せば、堂々とクーテンとサブリナを開放することができるかもしれないことなどを。
「お父さん。闘技場の戦いなんて・・・本当に大丈夫なの?」
「俺は強いんだぞ。遺跡にひとりで進むよりかは、安全だとは思っている
闘技場は遺跡のように暗闇というわけではないしな」
奴隷商人ボンガンは、近衛兵に連行されてきたサブリナの姿をみて、ニヤリと笑った。
「これで分かったか。俺から逃れられることなど出来ないのだ!
お前たちはどこにいっても、捕まえられることになる
これに懲りたら、もう逃げだすことなど考えないことだな
次に逃げたら命はないものと思え」
「わたしは、わざと捕まったのよ
弟が心配だったから!」
「ふんッ。そんなことより、お前はわたしに伝えなければいけないことがあるだろ?」
サブリナは、首を振った。
「弟が無事なのか分かるまでは、何も話さない
弟が毎日、無事で過ごせているのか分かる場所にわたしを連れて行って」
「まー。それぐらいなら別にいいだろう
だが、お宝を手に入れることは忘れるなよ」
ボンガンは、嬉しそうに笑った。