250章 バトルロワイアル
ペルマゼ獣王国の闘技場では、あらゆる種族の生き物が命のやりとりを行わされていた。
奴隷とされて戦わされる場合もあるが、ペルマゼ獣王国では、戦いこそが正義という価値観があるらしく、自ら進んで闘技場で戦うこともする。
そして、その戦いの一戦一戦で賭け事が行われ、民も含めて大勢が闘技場に毎日のようにおしかけていた。
俺を奴隷にした奴隷商人ボンガンは、俺の強さをみて、賭け事に金を注ぎ込むつもりのようで、出場料と賭け事で得られた利益の5割が俺が払うべきものとなると説明された。
戦う前に、戦士たちが、お披露目される。そこで見た目だけで強さを観客たちが測るわけだが、弱そうにしていれば、自分のオッズが高くなる。
体を変化させることができるので、弱そうな姿になることもできるが、ボンガンたちには、戦闘態勢にはいった自分の姿しかみせていないので、そのままの姿にすることにした。
奴らは、俺の体に呪いがかけられた奴隷専用拘束具をいくつも付けていたが、体を小さくすれば、簡単にそれらを外すことができることを知らない。
首都デリスまで連れてこられる時、目隠しされていたが、目も体のどこにでも作り出すことができるので、関係ないのだが、奴らはそれも知らないので、見えないと思わせていたほうが都合がよかった。
体も大きく変化できるということも気づかせたくはない。
戦うであろう20人と一緒にお披露目を済ませて、1時間ほど待機させられた。
牢屋のように鉄格子に囲まれた地下にある待機室の壁には、あらゆる武器や防具が置かれていた。
どの武器を使ってもいいということだ。
あきらかに殺傷能力が高い武器が並べられている。
サブリナたちが買ってくれた銅の盾や銅の胸当ては、奪われてしまったので、壁に置かれた盾と胸当てを装着した。
武器は自分の体で作り出すことができるが、それをまたあいつらに教えたくはなかったので、剣と槍を右手と左手に持った。
階層ボスのような危機に陥るかもしれないことも考え、防具は持っていくことにした。
待機室にいる者たちは、それほど広くはない部屋に20人も待機していたが、貧相な恰好の奴隷やまだ駆け出しといった若い獣人兵士ばかりだった。
鉄格子を鍵で開けて、入って来たのは、目をつぶったネズミ系獣人で、甲高い声で説明をはじめた。
「これからお前ぇたちには戦ってもらう
お前ぇたちと戦う者は、お前ぇたちと同じ、闘技場ではじめて戦う者たちぃだ」
獣人は、両手を出して10本の指を広げた。
「10名ぇ。戦う者たちの中でぇ、生き残れるのは10メッ。この部屋にいる者も敵だ
反則というものはない
噛みつこうがぁ、どんな卑怯な手を使おうがぁ、生き残った10名がぁ勝利者となる」
この20人が敵・・・。やはり殺すことが条件だということか・・・。
兵士と思われる自分たちで装備を買い揃えている奴らは、自分の意思で戦うのだろうからそれでもいいかもしれないが、俺と同じように貧相な恰好で待機室にある防具しか持ち合わせがない奴隷たちを殺すことは気が引ける・・・。
兵士たちは、やる気をみなぎらせて、戦いがはじまるのを待っていた。
ある兵士は、薄っすらと笑みを浮かべるものまでいた。
しかし、奴隷たちは、脅えていた。巨躯の体を持っている獣人系の奴隷であっても、不安の顔を隠しきれていない。
奴隷たちのほとんどが、他国の者たちなのだろう。
俺はひとりでも遺跡に入って多くのモンスターを倒して来た。かなりの力を持っていると自覚している。そんな俺であっても、この異様な雰囲気は、気分がいいものではない。
自分の意思ではなく、生きるか死ぬかを強要されているのだから・・・。
「おい。お前。お前の名前は何だ?」
黒い鎧を着た大きな鎌を持ったオーガが低い声で話かけてきた。
「クーリナだ」
「そうか。クーリナ。俺がみたところ、お前はかなりの強さなのだろう?
俺と組まないか?」
「組む?」
「ああ。生き残るための10人の中に入るのなら、パートナーを持っていたほうが有利だ
どうだ?この提案に乗らないか?」
確かにこのオーガの言う通りだろう。仲間だと思える者がひとりでもいれば、それだけ安全度は高まる。
だが、それは普通の奴らからしたらというだけで、俺には関係ない。
俺はひとりだが、ひとりではない。体全体の細胞が、仲間であり、死角はほとんどないからだ。
「すまないが、断らせてもらう」
「そうか・・・俺と組まなかったことを後悔しなければいいな」
クーリナは、部屋にいる者たちを見渡す。
そして、奴隷の中で一番強そうな者に目をつけ話しかけた。
「俺の名前は、クーリナだ
俺と一緒に、生き残る10人の中に入れるように力を合わせて戦わないか?」
巨躯の体をした熊系獣人は、何度も頷いた。少し挙動不審になっている。
「俺は、ベシスターだ・・・よろしく頼む・・・俺は祖国にいる家族のために、どうしても生き残りたいんだ」
「ああ。そうだな。俺も家族のために生き残りたい
一緒にこの戦いに勝利しようじゃないか」
俺なら、奴隷10人の味方になって、兵士10人を殺すことは可能だろう。
だが、今回、この奴隷10人を助けたとしても、この奴隷たちは、俺とは違う試合でまた命のやりとりをやらされることになるだろう。
この試合で彼らを助けたとしても、結局、その先で助からないのであれば、生き残れる素養がありそうなこの獣人奴隷に絞ったほうがいい。
それに奴隷10人を助けながら戦うというのは、目立つことになる。
30回の試合を生き残るまでは・・・、クーテンを助け出し、逃げるまでは・・・あまり目立つことはしたくはない。
先ほど声をかけてきた兵士は違ったが、多くの兵士たちは、初めての闘技場での戦いをする若者たちなのだろう。
奴隷を殺すよりは気兼ねなく倒せるとは思うが、若者だという点では、出来れば殺したくはないかもしれない。
だが、この国の兵士たちがそうなのか、こいつらは若いみたいだが、他人を殺すことに何のためらいもないといった雰囲気で試合を待っている。
やはり、倒すというのなら、兵士のほうだろうな。
一緒に戦うことになったベシスターは、巨躯の体の割に、動揺が表に出すぎていた。かなり緊張しているようだ。
「ベシスター
あまり緊張しすぎると動きが鈍る
お前は体が大きいから他の奴らも簡単にはお前とは戦おうとはしないはずだ
だから、まずはお前と戦う数少ない敵に集中して、戦えばいい
戦うことに慣れてきたら、自分から攻めるようにすればいいだろう」
ふぅーふぅーと息づかいを荒くしながら、クーリナの言葉にベシスターは頷く。
ベシスターは、武器のようなものは持っていなかった。体を簡単な防具で守らせて、自分のパワーを乗せた爪攻撃が彼の戦い方なのだろう。
「お前の攻撃は、鎧を割くことができるのか?」
「鎧か・・・その鎧の素材によるな・・・分からない・・・」
「なら、1つぐらいは、何か武器を持っていたほうがいいんじゃないか?
もし、お前の爪攻撃が効かなかった時、慌てられても困るからな」
「分かった・・・」
ベシスターは、壁に掛けられていた斧を1つ手に持って、振り回した。
大きな斧を苦も無く振り回し、ボっという空気を斬る音がして、まわりの兵士たちの視線が集まる。
熊系モンスターが強いのか分からないが、ベシスターは、やはり戦いの素質があるのだろう。
ゴゴゴゴゴという音と共に、壁のような大きな扉が、上に持ちあがり、坂のような通路がその先に現れた。
待機していた者たちが、その通路をぞろぞろと歩いていく。
ベシスターの顔が強張る。
「行くぞ。ベシスター
俺たちが勝つんだ」
「お・・・おう・・・」
通路を抜けると外の光りが差して、眩しさを感じる。
闘技場は、広く丸くなっていて、まわりを囲むように観客席が高い位置に設置されていた。
闘技場の外に出て、クーリナは、驚いた。
「なんだと・・・」
自分たちが出てきた通路の入り口と同じ入り口が、闘技場の壁に4つあり、その4つから、自分たちと同じように20名が各場所から現れた。
1時間も待たせたのはそういうことか・・・。
20人中、10名が生き残るということじゃなかったのかよ・・・。
80人中・・・10人なのか・・・。
同じ入り口から出てきた獣人兵士が笑いながら言う。
「これは戦争になるぞ。クククク」
「ベシスター
危険だと思ったら、俺をすぐに呼べ
俺が助けにはいる
あっちへ行くぞ。少し移動する」
少し戸惑いながら、クーリナは、ベシスターを連れて、一緒に出てきた20名からも離れた。
戦いがはじまって、すぐに近くの者たちとランダムに殺しあいを始めるのは、リスクが大きいからだ。
クーリナたちが離れるのをみて、他のものたちも、闘技場内に広がって距離を測りはじめる。
自然と闘技場内にいる者たちは、壁を後ろに円になるように並びはじめた。
闘技場の中心部は、数名の奴隷たちだけがいるだけで、がら空きになる。
「中のほうが人がいない
俺たちも今度は、中心にいったほうがいいんじゃないか?」
「ベシスター。結局、俺たちは、いつかは戦わなければいけないんだ
80人中、生き残れるのは、10人までだからな
逃げてばかりいるより、戦いに慣れるためにも、これぐらいの乱戦は参加したほうがいい
中心部で逃げているだけのほうが目立って、後からターゲットにされるぞ」
「そうか・・・」
「敵が左右から来ると想定できる形になっただけでも、いいとしよう
俺たちは、お互いの背を守れりきれば、生き残れる」
さきほど説明をはじめたネズミ系獣人が、壁の上に設置された台の上に乗る。
その台は、闘技場の9つの場所にあり、ネズミとは違う獣人が、その台に乗って、壁にぶら下げられた赤い垂れ布が落ちると同時に、同じタイミングで大きな声を出す。
「「「「これから行われるのは、80名によるバトルロワイアル
バトルロワイアルとは、古代語で、意味は、大乱闘
勝利者は、この中の10名
80名のうち10の確率
生き残った者たちを見事的中させれば、掛け金は2倍
奴隷にいたっては、3倍
合図はラッパの音」」」」
説明が終わると数分後に、闘技場のまわりにいたラッパを持った獣人たちがラッパを吹き鳴らした。
パラー!パラー!パラー!
その音が鳴りやむ前に、悲鳴が闘技場内で起こる。
「うぎゃー!!」
兵士たちが、慣れた武器で奴隷たちに攻撃を加え始めた。
奴隷たちは、必死でその攻撃を躱したり、盾で防ごうとするが、恐怖のあまり体が硬直したようにぎこちなくなっていた。足がもつれて、後ろに倒れ込む者までいた。
右側から巨大矛を振り回し、クーリナへと攻撃をしかけてきたのは、ビックオークの兵士だった。
3mはあるのではないかというほどの巨大さだ。ベシスターと同等だ。
しかし、クーリナは、身構えることもなく、ただ左腕をあげて、その攻撃を盾で防ぐと振り回された矛は、その盾に簡単に弾かれ、逆にビックオーグは、バランスを崩した。
ふんッ!こんな程度か・・・。
これならいけるッ!
敵へ攻撃を食らわそうとしたビックオークは、予想外の衝撃にたじろいだ。
俺の体は、お前たちに比べれば、それほど大きくはないが、その見た目に反して、100匹の獣がこの体にいるようなものなのだ。
サブリナを守るために、さらに100匹分は、遠い場所に分けてはいるが、それだけあれば、十分だと今の攻撃の衝撃からして分かった。
クーリナに対して、さらに矛を振り回してきたが、クーリナは、左手の剣でその矛を防ぐと同時に、誰にも分からないような細い髪のような自分の体を矛にまきつけて、固定させた。
なぜか敵の剣から矛が外れないのか分からず、オークは、焦りながら矛を引き戻そうとするが、ビクともしない。
クーリナは、掴んだまま矛を滑らせて、前進し、左手の槍でオークの首を突き刺した。
オークは、その槍を手で防ごうとしたようだが、その手ごと、槍が貫き、自分がやられたことへの驚く表情のまま、その場にゆっくりと倒れた。
ベシスターには、二人の敵が襲い掛かっていた。
どうやらその二人は、組んでいるようで、同時にベシスターに攻撃をするので、防ぎきれず、ベシスターの体に二人の剣が入る。
しかし、ベシスターの体には、クーリナは、分身体を忍ばせていた。
ビシスターにも気づかれないように、敵の攻撃を硬質化した体で防いだ。
攻撃されたのに、なぜか痛みがなかったことと、興奮した状態からか、大きな咆哮をあげて、敵に攻撃した。
敵は、剣で防ぐが、3mもの巨躯の熊系モンスターの威力のため、後ろへと吹き飛ばされた。
「グオオオオ!」
もう一人の敵にも両手で何度も何度も鋭い爪を光らせながら、打ち込み、敵はダメージを負っていく。
ベシスターの背中から別の兵士が攻撃をしかけてきたので、クーリナが、走り寄り、体を変形させてその敵の鎧の隙間を突き刺し倒そうとした。
だが、鎧の中の何かに防がれて、敵の攻撃を止めることしかできなかった。
鎧の中にさらに鎖帷子が装備されていた。
そこで次は、その敵の両目を狙って突き刺した。
「ぎゃーー!」
クーリナは、ベシスターを助けるため、目を手で押さえて、苦しむその兵士の後ろから思いっきり剣を振り回し、首を斬り飛ばした。
ベシスターは、持って来た斧をすでに地面に落としていた。
興奮のあまり慣れていない武器を捨てて、自分の爪による攻撃をしていたからだ。
その力のある両手でのラッシュ攻撃は、強烈で、他の兵士たちを吹き飛ばしていく。
奴隷の中で兵士たちと互角以上にやりあっていたのは、クーリナとクーリナの補助を受けていたベシスターぐらいだった。
他の奴隷たちは、まずは兵士たちの標的とされて、そのまま斬り殺されていた。
その殺し方は、躊躇することがなく、逃げ惑うだけの奴隷であっても後ろから、楽しむかのように斬り捨てる者もいた。
ほとんどの奴隷たちは殺され、そのあとは、兵士たちの殺し合いがはじまった。
クーリナの周りを獣人兵士たちが、5人も囲む。
数少ない弱い対象である奴隷だと考え標的とされたのだろう。
兵士たちは、当たり前のように、何の言葉も発することなく、クーリナを一斉に攻撃しはじめる。
なんとか、3人の攻撃を防ぐことは出来たが、背中に兵士の剣が突き刺さる。
「ぐうっ!!」
痛みを我慢しながら、剣を振り回すが、兵士たちは、その剣を簡単に躱した。
しかし、本命の攻撃は剣ではなく、剣から伸ばした自分の触手による見えないほど速い突きが兵士たちの防御されていない顔や首に刺さる。
前にいた兵士たちは、早すぎるその攻撃に、反応できないで、思わぬダメージにたじろぐ。
離れた場所からみている観客には、クーリナの体を変化させた攻撃方法は分からなかっただろう。
5人の兵士のうちひとりが、クーリナにではなく、なぜか後ろから兵士たちを剣で突き刺し始める。
奴隷に気が向いている兵士たちを後ろから攻撃することで、後の戦いを効果的に進めようと考えたのだろう。
「き・・・貴様ぁ!」
後ろから攻撃されて恨むかのように声をあげて、口から血を吐きながら兵士が倒れる。
兵士同士で戦う者たちは、後回しにして、クーリナは、自分の後ろから剣を刺した兵士に体を振り向かせた。
背中に刺した剣も体にまきとらせて、抜けないようにし、敵の鎧の隙間、両手首を触手で斬り取ったので、兵士は後ろにたじろいだ。
自分の両手が抜けなかった剣についたまま切り取られたことに驚いている。
クーリナは、背中を刺された痛みに歪んだ顔のまま、兵士の首を剣を横に振りぬいて、斬り落とした。
そして、背中に刺さった両手がついた剣を抜き取り、地面に捨てる。
兵士を後ろから攻撃するという卑怯な方法で戦っていた兵士とクーリナが対峙する。
顔はオーガだが、その兵士は、他の獣人兵士と比べても、人間ほどしかない小柄な体躯をしていた。
オーガは、5人の兵士に囲まれても、まだ生きているクーリナをただの奴隷だとは思っていないようだった。
まったく油断していない。
両手に持った自分の剣を下段に降ろした構えで、ジリジリとクーリナとの距離を縮めていく。
オーガの体の周りには、青いオーラのようなものが漂っていた。
クーリナは、試しに剣を振ってみたが、その剣を凄い速さで弾き飛ばした。
後ろから攻撃するという戦法を取っていた割に、その実力はあるようだな・・・。
本気で攻撃しようと動いたが、次の瞬間、クーリナの体を小柄なオーガの剣が斬り裂いた。
「ぐああ!」
いくつもの個所を斬られて、クーリナは声をあげる。
強いぞ・・・コイツ・・・。
そう考えていると、クーリナの右腕が斬り落とされた。
ドサ
「ぐっ!」
見えない・・・。コイツの攻撃がいつ来るのか・・・まったく分からない・・・。
クーリナは、斬り落とされた腕を拾いながら、距離をあけた。
そして、腕を繋げる。
斬り落としたはずの腕をすぐに元に戻されたことにオーガは少し考える。
小柄なオーガが、話しかけた。
「お前強いな。ここまで生き残っているだけある
ここでお前と戦い勝つことはできるとは思うが、その時間がもったいない
どうだ?俺と組まないか?」
「組んだ後に、後ろから攻撃してくるんじゃないのか?」
「組むというよりも、お互い攻撃しあわないというだけの決め事を作ろうということだ
10人の中に、俺たちが入ればいいということだ
その為にも、他の奴らを攻撃したほうが効率がいいだろ?」
クーリナは、警戒しながらも頷く。
「そういうことなら、承諾するが、もし、お前が俺に近づいてきたら、遠慮なく攻撃させてもらうからな
後ろから攻撃するような奴を信用なんて出来ないからな」
小柄なオーガは、薄っすらと笑みを浮かべる。
「それでいいさ」
オーガは、ゆっくりと後ろへ距離を置いて、違う相手の元へと移動していった。
それを確認して、ベシスターの元へとクーリナは、加勢にいく。
ベシスターは、自分とタメをはるほどの巨躯のオークと戦っていた。
パワーとパワーで押し合い戦っていたが、もし、クーリナの分身体が、オークの攻撃を防いでいなければ、今頃、ベシスターは傷つき殺されていただろう。
クーリナは、足を鹿のように変形させ、早いスピードで、ベシスターと戦っているオークの後ろから攻撃をしかけた。
オークの背中をクーリナの剣が斬り裂く。
さっきのオーガとは違うぞ。お前は仲間じゃない。これは乱戦なんだ。どこから攻撃されたとしても文句は言わせない。
オークが背中を斬られてたじろいでいるところを前からベシスターの爪が顔面を直撃して、オークは膝を地面についた。
ベシスターは、それを見逃さず、さらに攻撃を加え続ける。
興奮しすぎているのか、オークが地面に倒れて動かくなっても、ベシスターの攻撃は止まらなかった。
「おい!もうそいつは死んでる
ベシスター!やめるんだ!」
ベシスターは、クーリナを睨みつけるように目線を向けるとやっと攻撃をやめた。
「家族のために生き残るんだろう?落ち着くんだ!
ここからは冷静に戦う必要がある
もう生き残っているのは、20人程度だ
もうすぐ決着がつく
だが、生き残った敵は、強敵だと思ったほうがいい
やれるか?」
「ふーふー・・・・。ああ・・・やれる!」
ベシスターは、荒れた息づかいだったが、まだ動けるようだった。だが、興奮して攻撃していたからだろう。その腕は、痙攣したように小刻みに震えている。
「少し休んだら、ふたりで、残りの敵を倒すぞ」
クーリナは、指を差す。
「あそこで戦っている小柄なオーガは、俺と組むという約束をした
あいつが、近づかない限り、攻撃しなくていい」
「ふー・・・わ・・・わかった・・・」
クーリナは、丸く背中を曲げて、休んでいるベシスターの上をジャンプして、剣を振った。
ベシスターを後ろから攻撃してきた敵の剣をはじく。
ガキンッ
それでも、ベシスターは、動かず休み続ける。相当な疲労があるようだ。
三又の槍を武器にしたリザードマンとクーリナが、そのまま戦う。
リザードマンは、上手に、クーリナの剣を槍で絡めとって、クーリナの剣を地面に落とさせた。
クーリナは、標的を自分に向けさせるように、大きく両手を上げながら、休んでいるベシスターがいる場所から離れようとする。
剣は取られたが、武器はまだ左手に槍を持っている。その左手を太く変形させて、力をため込み、身体強化の魔法をかけ、力いっぱいリザードマンに槍を投げつけた。
槍は、もの凄い速さでリザードマンに突き刺さり、そのままリザードマンの体を貫通して、地面に斜めに突き刺ささった。リザードマンは、槍に磔にされたように、立ったまま即死した。
すぐにクーリナは、前方方向に身をかがめるように、後ろから攻撃してきた敵の攻撃を躱した。
剣も槍も手にしていないクーリナを狙ったのは、試合がはじまる前に声をかけてきた黒い鎧を着た巨躯のオーガだった。
「グハハハハハ
お前も生き残っていたようだな」
「お前もな・・・」
「グハハハハハ
当たり前だろ。俺がやられるわけがない」
黄色いオーラのようなものを体に纏う、そのオーガは、豪快に笑った。
どんな者にもオーラのようなものがあるが、このオーガや小柄のオーガの体を纏うオーラの量は多かった。
強者だということだろうか?と考えながら、対峙するが、次は、オーガを後ろからベシスターが、鋭い爪を光らせて、攻撃しようとした。
オーガは、すぐに後ろを振り向き、巨大な斧を上から斜め下へと振りぬくと、ベシスターの体が、斜めに真っ二つにされた。
「ベシスタぁぁぁ!!」
ベシスターの体は、ズルリと斜めに崩れ、地面にボトボトと倒れた。
「おっといけねー
お前の仲間だったのか?グハハハハ」
「お前ぇぇぇええ!!」
クーリナは、怒りのあまり、自分の体を硬質化させて剣を作り出し、オーガに向かって攻撃をしかけた。
「そいつには、家族がいるんだぞ!」
生き残る理由が家族のためというベシスターの境遇が、自分と少し似ていることで共感していたのだろう。クーリナは、感情が爆発した。
オーガは、斧を振り下ろし、クーリナの攻撃した武器と衝突させた。
クーリナは、後ろに吹き飛ばされる。
「ごおおおおお!!」
クーリナは、叫びながら、さらに攻撃を続ける。体から触手を出して、本気モードで、オーガを攻撃する。
オーガは、少し驚いたようだが、軽快に斧でその攻撃をはじいたり、躱したりして、我を忘れたクーリナをあしらう。
「よくも!ベシスターを殺してくれたな!」
「そういう試合なんだ
しょうがないだろ?
お前の仲間から俺を攻撃してきたんだ」
クーリナは、何度も攻撃をオーガに繰り出すが、悉くオーガに、その攻撃は防がれた。
それどころか、逆に斧に攻撃されて、吹き飛ばされる。
「俺は数年、他国に行っていてな
久しぶりの闘技場での戦いなんだ
復帰戦というところだな
この闘技場で生き残ろうと思うのなら、あんな雑魚と仲間になろうとするな」
オーガは、鎧の胸部分に装備されたナイフを死んで地面に倒れたベシスターの体に投げつけ、突き刺した。
クーリナの視線が、そのナイフに向くと、オーガは、右手でクーリナの顔面を殴りつけた。
「ぐはっ!」
クーリナの顔面が吹き飛ぶ。
しかし、クーリナには、頭というものは存在しない。体全体が、クーリナそのものだからだ。すぐに、また顔を作り出す。
「顔をつぶしてもすぐに修復できるようだな」
オーガは冷静に状況を把握しているようだった。
クソ!コイツの攻撃もみえなかった・・・。なんなんだ・・・。
「お前・・・ベシスターの体にナイフを刺したな!そんなことをして何の意味がある!?」
「敵の仲間を痛めつけるのは、面白いだろ?」
自分の攻撃が通じなかったが、クーリナは、頭にきていて、突進を試みる。魔法の身体強化をほどこして、全身全霊で、オーガを倒す勢いだ。
例え躱されたとしても、何度でも向かって行ってやる!!ベシスターの仇だ!
思いっきり、オーガへと突進した攻撃は、まともに、オーガの体にぶつかり、オーガの体は、後方へと吹き飛び、地面に転がっていった。
そして、オーガは、まったく動かなくなった。
当たった!!??
「危なかったな」
声のする方をクーリナが、見ると、先ほどの小柄なオーガが、ベシスターを殺したオーガの顔を右手に持って立っていた。
吹き飛んだオーガを確認すると、オーガの首から上が無くなっていた。
「お前と組むと言ったろ」
パラー!パラー!パラー!
闘技場内に、開始の合図と同じラッパの音が鳴り響いた。
闘技場には、9人の者たちが、立っていた。小柄なオーガ以外は、みな疲弊していた。
体中が血だらけになっている者もいた。
クーリナも興奮した状態のままだ。
「お前のおかげで、大物をやることができた
お前。本当に強いよ」
俺は、こいつに助けられたのか??
ベシスターを殺したオーガの遺体にクーリナは、睨みつけるように目を向けた。
その遺体をみて、何だか違和感を感じたが、感情的になっていたので、遺体にツバを吐きかけ、その場を後にした。