246章 三人の生活
「ああ。それはたぶん、ラタトクスだね
前歯が、長くて、普通は緑色の狐系モンスターだよ」
「ラタトクスか・・・
緑色ではなかったけど、なるほどな」
「クーテンは、モンスターにも詳しいんだな」
「そんなには詳しくないよ
たまたま、知っていただけだよ
前に、一度だけみたことがあったんだ」
「クーテンのおかげで、俺のエネルギー問題は、解決できたよ
途中、アドベンチャーがどうたらといっていた奴らにもあった」
「モンスターなどを退治する人たちのことを冒険者っていうんだ
冒険者組合で依頼を受けて、報酬で暮らしたり、モンスターの一部分やアイテムなどの核とかを冒険者組合やお店で売ったりして生きているひとたちだよ」
狼旦那が、俺の変化した熊の首を持っていったところがそうなのだろう。
あそこにいた兵士たちのようなものたちが、冒険者というやつだな。
「そういえば、核というのは、何なんだ?」
「核は、魔石とも呼ばれるもので、生き物の体の中には、この核があるんだ
この核があるから魔法やスキルが使えるらしいよ
モンスターとかの核は売れるから取っておくといいね
ラタトクスの前歯も冒険者組合やお店に持っていけば売れるよ」
「魔法は、前にサブリナから聞いたけど、スキルなんてものもあるんだな」
「うん。嗅覚や視力がよくなるスキルとかもあるみたい」
身体強化みたいなスキルか・・・。
「核があれば魔法やスキルを俺も使えるということか」
「封印の珠という丸いものが遺跡にあるから、手に入れて息を吹きかけると使えるようになるみたいだね」
「おお。遺跡にあるのか!」
「うん」
「食料のためにも遺跡に行くから手に入れられるかもしれないな
でも、冒険者のあいつらがもう手に入れてしまったかもしれないな・・・」
「大丈夫だよ。モンスターや生き物が遺跡から生まれるように、封印の珠も、誰かが手に入れても、また遺跡から生まれるんだ」
「おー。」
サブリナが、なんだか浮かない顔をしていた。
「どうした?サブリナ。何かあったのか?」
「クーテンは、物知りだから役にたってるけど、わたし何もできないから・・・」
「そんなことないだろ?お前は、洞窟の掃除もしてくれたし、料理だって作れるじゃないか」
「料理って・・・お肉を焼くぐらいしかしてないよ・・・」
「サブリナは、可愛いんだから、それでいいんだよ
いてくれるだけで、クーテンも俺も幸せになれる」
「ホント?」
「ほんとさ
俺とクーテンだけだったら寂しいだろ?」
クーテンも、頷く。
「だから、サブリナは、いつも笑顔でいてくれれば、それでいいんだよ
大人になれば、出来ることも増えてくる
慌てなくていい」
「ありがと。お父さん」
「でも、ふたりの服とかも、今着ているものだけだと不便だから買わないといけない
モンスターのその核だかアイテムだかを集めておいたほうがよさそうだな」
「わたしはこの服、気に入ってるよ?」
「洗ったりするときは、裸になっちゃうからなー。他の服もあったほうがいい
盗むっていう方法もあるけどな。はははは」
「盗みはダメよ。お父さん」
「うん・・・。そうだな・・・。買うことにしよう」
前は非常時だったからゆるしてもらうことにしよう。
「今日は、いつも肉ばかりだから、サブリナのために、魚を獲りに行こうと思うんだけど、どうかな?」
「魚好きぃ!!」
「そうか。まーでも、獲ったことないから、獲れなかったら申し訳ないけどな
一緒に来るか?」
「うん。いく!」
「クーもいく!」
―――魚ってどうやって獲ればいいんだ?
森の中のゴブリン洞窟の近くにあった川は、濁流のごとし流れがすさまじかったが、大きな川なだけに、魚が水面の上まで飛び跳ねるほど大漁にいるようだ。
「お前たちは、危険だから川には入らないようにな」
「はい」
見た目からしても、川の流れが速いことは分るので、こどもふたりも素直に従った。
早い流れの川に片腕だけ水につけると、クーリナの腕は、水中を蛇が泳ぐように伸ばした。
その腕に目をいくつも作り出して、なんとか見ようとするが、川の流れが速すぎて、視界が確保できない。
そこで、無数の虫を作り出して、川の上を飛ばして、ある程度の魚のいる場所を把握して、水中の腕を伸ばしていった。
いた!
水中でも魚を発見できた。
魚は、川の流れに逆らうかのように、上流に顔を向けて、その位置を保って止まっていた。
クーリナの槍の攻撃は、まるで針や銛のようなものなので、数mをまっすぐに進むだけなら水の抵抗もそれほど関係なく、素早い攻撃を繰り出すことができた。
その方法で、一匹を仕留めて、水上へと投げて、魚をキャッチした。
こどもたちが驚く。
「魚が飛んできた!」
一匹目がうまくいったので、二匹、三匹と同じ要領で獲っていく。
「お前たちも魚を捕まえてみるか?」
「わたしたちも手伝えるの?」
クーリナは、体から釣り竿を作り出して、サブリナとクーテンに渡した。
釣り竿から長く伸びていたのは、クーリナの体で作った糸のような体の細胞で、その釣り竿には、枝のような細い脚があり、こどもたちが、川に落ちないように地面にしっかりと固定できるようになっていた。
「この釣り竿を使って、手伝ってくるか?」
二人は、嬉しそうに、にこやかに返事をする。
「「うん」」
実際は、クーリナが、魚を捕まえているが、こどもたちも釣りをしている気分になるのならいいと竿を渡した。
こどもたちの釣り竿は、次々と魚を捕えて、川岸に魚を飛ばす。
こどもたちも、釣り竿を必死で、引いているので、そのタイミングにあわせて、魚を飛ばしてあげる。
「15匹か。ちょっと獲りすぎたかもしれないな。サブリナが食べられなかったら、俺ももらおう」
「うん。昼と夜の分にすれば丁度いいよ」
体で入れ物をつくり、そこに水を入れて、その中に捕まえた魚をつけておく。そして、熊型の分身体に運ばせる。
こどもたちも一匹ずつ両手に持って洞窟へと戻って来た。
火は消さないように、洞窟内で燃やし続けているので、あとは、枝に魚を刺して、焼くだけだ。焚火の煙は、洞窟内で分散して、外には、それほど目立つことがなかったので、誰かに見つかる心配もないだろう。
なんとなく、内臓は取ったほうがいいと考え、生きた魚を手で掴んで、体で作った針を頭と胴体に刺して、固定した後、体で作ったナイフでお腹を縦に切り込みをいれる。
「お父さん。わたしもそれしていい?」
「いいけど、ナイフだから手を切らないように気を付けるんだぞ」
「うん」
サブリナが、次の魚を捕まえようとするが、暴れて、地面に落とした。
「わ!まだこんなに動くんだ!」
落ちた魚をサブリナと一緒に持って、水で洗い、料理台として使っている岩の上に乗せる。
サブリナには、さらに小さい小型のナイフを渡した。
思ったよりも上手に魚をさばいていく。
その様子をみながら、こんな生活もいいなと思えた。
肉も魚も手に入る。俺の栄養は、遺跡にいけばいい。三人だけなら、特に問題もなくやっていけそうだ。
ただ、問題は、ここで食事をすることが多いので、その匂いにつられて、森の動物やモンスターがやってきてしまうことだった。
だから、常に洞窟には、一体の分身体をおいておいて、こどもたちにも、常に分身体で警護するようにしていた。
どうやら、分身体は、1kmぐらいだとお互いを把握しあえるが、それ以上の距離を離れると、連絡が取れなくなってしまうようで、離れた場合は、分身体の判断にゆだねることとなる。
遺跡に行く時には、こどもたちの様子が分からなくなってしまうのが難点だ。
ただ、俺に倒せない森の生き物は、たぶんいないから大丈夫だと考えている。
1km範囲で、小さな分身体を出して、見張りもしている。
もし、ペルマゼ獣王国から俺たちを狙う捜索隊などが来た時のために、監視は怠ることができない。
分身体は、監視と休憩を交代しながら行うので、一日中、監視の目は確保できている。
サブリナは、美味しそうに焼けた魚をほおばった。
「美味しい」
「そうか。よかった
クーテンも、魚なら食べられるんじゃないか?」
「うーん・・・どうかなー・・・」
焼けた魚の枝をぬきとって、クーテンにも渡した。
クーテンは、息を吹きかけて、魚を冷ましてパクリと食べた。
「美味しいよ!これなら僕も食べられそうだ」
「おー。そうか。いつも草ばかりだったから、たまには魚もいいかもしれないな」
「うん!」
「そういえば、サブリナには、寝床を作ってあげないといけないな」
「え?寝床?」
「俺とクーテンは、別に地面でも問題なく休めるけど、人間のサブリナには、地面は、ゆっくりと休めないだろう?」
「地面は硬いけど・・・体を大きく広げて寝れば、寝られないこともないよ」
「体毛がないと地面はやっぱり辛いだろう。昼からは、サブリナのベッドを作ろう」
夕食の分の魚は、入れ物の水につけておいて、食事後に、木を切り倒して、その木を板のように切り分けていった。
かなり大雑把すぎるが、トゲなどが無い程度には、表面を滑らかにして、板などを作っていく。
こどもたちも、俺の体で作った道具を使って、板や木材を綺麗にしていった。
さすがに、組み立てるとまではいかないが、木材を四角く地面に敷き詰め、その上に板を置いていき、即席のベッドを作った。
「サブリナ。ちょっと、寝転がってみてくれ」
「はい」
サブリナは、板の上に乗ると、板はギシギシ、カコンカコンと音をたてる。
ほとんど据え置き状態なので、固定もされていない。
「凄く寝やすいわ!!地面と違って、楽よ」
「よかった。ベッドともいえないが、地面よりはマシだということだな」
「体が痛くないわ」
「柔らかい草とかがあればもっといいんだけどな。何かないかなー」
「お父さん。コカトリスの羽とかじゃダメ?」
クーテンが、提案した。
「鳥の羽か!そうだな。羽は良いと思うぞ」
「鳥の羽の中でも、コカトリスの羽は、大きくて、柔らかいと言われてるからね
冒険者も、コカトリスの羽を売る人もいるよ」
「そうなんだ。前に一度、鳥のモンスターを数羽倒したことがある。あれがたぶん、コカトリスだな
居場所は大体わかってるから、俺はこれから取りに行ってくるよ
お前たちは、ここで待っててくれ」
「はーい」
クーリナは、背中に虫の羽を伸ばして、空高く飛び、そこから、ハヤブサの羽にして、降下する。
下に降りれば降りるほど、速度が増していく。
コカトリスを前にみた辺りになって、自分の分身体を散らせて、コカトリスを探し出す。
2mにもなる大きさのコカトリスの集団を見つけた。
数は、2匹分の羽があれば十分だろう。
コカトリスは、こちらに気づいて、興奮して、逃げるものもいれば、反撃してくるものもいたが、反撃してきたコカトリスのうちの白色の2匹にターゲットを絞って、眉間に槍をさし、そのまま頭の中の脳を粉砕した。
他の色のコカトリスなどが、さらに攻撃してきたが、3匹の巨大熊に変化させて、大きな声で咆哮をあげると、コカトリスは、動きを止めて、森へと逃げて行った。
そのまま、熊たちに、コカトリスを洞窟内部にまで運ばせた。
サブリナが声をかける。
「もう手に入れてきたの!?」
「クーテンのアイディアをすぐに試したいからな。急いで見つけて、手に入れたよ
羽だけじゃなく、肉も食べられそうだ」
クーリナは、体から数百ともいえるほどの腕を出して、コカトリスの羽をむしりとる。
そして、ベッドのまわりに板を立たせて固定し、赤ちゃんのベッドのように囲いにすると、その囲いの中に、大量の白い羽を入れた。
コカトリスの羽は、軽くて空中に舞った羽がゆっくりと地面へと落ちていく。
「サブリナ。中にはいってみてくれないか?」
「うん」
サブリナが、中に入って、寝そべる。
「やわらかーい。きもちいいー!」
クーテンもベッドの中にはいって、サブリナの上にのっかる。
「ほんとだ!きもちいい!」
「もうクーテン!これはわたしのベッドよ!」
「少しぐらいいいでしょ!サブリナ」
「クーテンも、同じベッドがほしいなら、つくってやるぞ?」
「ううん。お父さんいいよ。このベッドは柔らかくて、気持ちいいけど、体毛がある僕には、少し暑すぎるかな」
「それもそうか」
「だったら、はやく、どきなさいよ」
「今はいいの!」
ふたりが、ベッドの中で少し暴れるので、壁にしていた板が倒れて、羽が少し散乱する。
また、ふたりは、板をたてて、羽を地面から集めて、ベッドの中にいれる。
次は、そーっと寝転がりはじめた。
それだけこのベッドを気にいったのだろう。