244章 洞窟掃除
俺の名前は、クーリナだ。
人間の女の子サブリナとヤギ系獣人モンスターの男の子のクーテン、ふたりの名前を組み合わせて、ふたりが考えてくれた。
そう・・・俺には名前がなかった。
名前さえもないまま生きていたという最悪の状況だった。
そんな俺に、いきなりこどもが、二人も出来た。
何故かは分からない。サブリナが酷い扱いをされているのをほっとくことが出来なかった。
どうしても、助けたいと心から思ったんだ。
ヤギのクーテンも助けてよかったと思ってる。
だが、奴隷商人たちが、この子たちを探すために、人を雇うかもしれない。
俺は、この子たちを守らなければいけないんだ。
ゴブリンたちが使っていた洞窟の内部は、酷い状態だった。
腐った肉の腐敗臭もそうだが、光もなくまっくらだ。
入り口から入り込む光で、うっすらと内部が見えるという感じだ。
「これからお父さんは、お前たちが洞窟で住めるように、洞窟を掃除する
だから、待っててくれ」
サブリナが、ハリキリはじめた。
「わたしも頑張る!お父さん」
「いや・・・中は酷いことになってる。お前たちは入らないほうがいい」
「僕も手伝う!」
「クーテンもか・・・辛かったらすぐに外に出るんだぞ」
「「はいっ」」
3人で一緒に、ゴブリン洞窟の中に入った。
入ってすぐに、クーテンが、苦しみだした。
「うわうわうわうわ!!くさ・・・くさ・・・くさい!」
サブリナも凄い顔をして、鼻をつまむが、クーテンは、逃げるように、外に出て行った。
ヤギ系モンスターのクーテンは、鼻が効きすぎるのだろう。
「ふっ。だから言っただろう。サブリナも無理しなくいい、外で待ってなさい」
サブリナは、左手で鼻をつまんだまま、外に出ようとはしなかった。
「ふさいへど、わたしは、はんばる」
「そうか?無理するなよ」
「ふん」
分身体を複数だして、死骸などを外に出していく。
クーテンは、それをみて、洞窟の入り口からも離れて、遠くから覗いていた。
サブリナも木の枝を右手でもって、なんとか、枝で持てるものは、外に出していく。
ほとんど役にはたっていないが、一緒に作業をしてくれることに、クーリナは、嬉しく感じていた。
まったく・・・ゴブリンは、最悪だよな・・・こんな環境でも平気で暮らしてるんだから・・・
動物の腐った毛や死骸をどんどん外へと出していく、すべて出し終えても、中は臭かった。
たぶん、土も臭いのだと思い、洞窟内部の地面の土なども掘りおこして、外に積み上げていく。
そして、外の綺麗な土を逆に洞窟内部に、敷き詰めて行った。
だいぶ匂いが取れたようだ。
それだけやるだけで、一日かかった。
分身を20体も出しても、これだけ時間がかかったのだから、大仕事だ。
「クーテン。なんとか、内部を綺麗にしたつもりだけど、まだダメかな?」
クーテンが、入り口の死骸を遠回りして、避け、両手で鼻をつまみながら、おそるおそる洞窟内部に入って来た。
中に入って、ゆっくりと鼻から手を放す。
「うぅ・・・僕ダメだ・・・ここ臭い・・・」
「そうか・・・やっぱり、ダメか・・・」
「でも、さっきと比べたら、全然違うよ。鼻を摘まんでれば、僕、大丈夫かも」
「うーん・・・」
サブリナが、提案する。
「たぶん、数日したら匂いも消えるんじゃない?そうしたら、クーテンも中で暮らせるわ」
「だといいんだけどな・・・クーテンには、申し訳ないな・・・よし!数日は、外で野宿しようか」
クーテンは、大きく顔を動かして頷く。
グールグルグル
サブリナのお腹が鳴った。
「そうか。お腹減ったのか?」
「少しだけね。でも我慢できる」
サブリナは笑顔で平気だという顔をみせる。
「我慢しなくてもいいんだぞ。俺がお前たちの食べるものを獲って来てやるからな。えと・・・お前たちは、どんなものを食べるんだ?」
「わたしは、何でも食べるよ。好き嫌いないもの」
「肉でもいいのか?」
「お肉大好きよ」
「クーテンは?」
「僕は・・・肉は食べない・・・草を食べるんだ」
「そうなのか・・・どんな草がいいんだ?」
「えーっとねー・・・タムラの草。こんな形の葉っぱでね。茎がこれぐらいの太さで、緑色の草で・・・」
クーテンは、手を動かして教えようとしてくれるが、さっぱりどんな草なのか分からない。
「クーテンは、俺の分身体と一緒に、その草を探してくれ、その草を見つけたら、分身体に教えるんだ
サブリナのお肉は、分身体が森で獲って来るからな
俺とサブリナは、そこらへんの木の枝を拾って、火をつけよう」
こどもたちは、元気に返事をする。
「「はい!」」
大きな熊の分身を作り出して、背中にクーテンを乗せて、草を探しに出かける。
「あった!」
「え・・・まだ、洞窟の入り口から離れてすぐなんだけど・・・もうあったのか?」
「うん。あれだよ。お父さん。あの草」
緑色のハート形の葉っぱの草が大量に生えていた。
「探すまでもなかったな・・・」
「うん。この葉っぱは、おいしいんだよ」
「そうなんだ」
「じゃー。クーテンは、食べたいだけ、この葉っぱを摘むといいよ」
サブリナは、どんな肉でもいいと言っていたけど、モンスターの肉は、口にあうのか分からない。
虫の分身を大量に出して、森を捜索させた。
鹿を発見し、虫の分身体を集めて、襲い掛かる。
鹿は逃げようとしたが、鋭い槍のような太い針は、逃げる鹿の心臓を射止めた。
熊の姿になって、鹿を運ぶ。
クーリナは、サブリナと一緒に、枝を探して、火を興そうとするが、火がまったく付かない。
「ダメだな・・・火ってどうやってつければいいんだろうな・・・」
「魔法が使える人は、魔法で火をつけるんだけど・・・」
「魔法!?」
「うん」
「魔法なんてものがあるのか?」
「あるわよ。知らないのね。お父さん」
「そうなんだ・・・サブリナは、魔法使えるのか?」
「魔法は、封印の珠を使わないと手に入らないのよ」
「封印の珠・・・」
「だから、わたしは使えないわ」
「じゃーどうやって、火を興すんだ?」
「街だと火をずっと絶やさない火番という人たちがいるから、その火をもらうんだけど・・・森の中だと、どうやってつければいいんだろう・・・」
「困ったな・・・」
クーテンが戻って来きた。
「木の枝を削って、その削った木を擦れば、火をつけられるよ」
いわれてみれば・・・そんな気がする・・・
クーリナは、うる覚えの方法で、木カスを作って、摩擦を起こした。
この体は素早い動きが可能なので、腕を棒のようにして、その木の粉を擦り始める。
ボッとすぐに火が付いた。
「お父さん。すごい!」
「何だか。クーテンに言われて、俺もイメージが湧いたんだ。こうすれば出来る気がした。上手くいってよかったよ
火が消えないように、枝を燃やさないとな」
ついた火に、残りの木の粉を撒いて、さらに細い枝を組み、その上に太い木を乗せていった。
分身体の熊が、鹿を持って帰って来た。
体を硬質化して、ナイフを作り出して、鹿の肉を捌いて、太目の枝に突き刺し、火であぶる。
「火で焼くぐらいしか出来ないけどいいか?」
「うん。いいわよ」
―――夜になり、クーテンは、葉っぱを、そして、サブリナは、鹿の肉を食べる。
火をつけたから、そのまわりは明るく保つことができた。
「おいしいわ。お父さん」
「そうか。それは良かった」
「僕の葉っぱもおいしいよ」
「うんうん」
「お父さんも食べて」
「ああ。俺はお前たちみたいに、口では食べられないんだよ」
「そうなの?」
「うん。なんていうかな。肉を体で吸収するように食べるしかないから、美味しいとかそういうのは、ないんだ」
「口があるのに?」
「うん。口があるのにだな・・・うーん・・・」
でも、そういえば、どうして、吸収した動物たちの外側だけは、マネできるのに、体の内部は、マネできないんだ・・・?
内蔵とかも、吸収したものと同じようにならないのか?
そう考えると、お腹が、グーーーっと鳴った。
「お父さんもお腹なるのね」
「ほんとだ・・・どういうことだ・・・」
もしかして、内臓も作れたのか?
狼系モンスターの姿のまま、サブリナと同じように、口の中に肉をいれてみた。
「美味い!!美味いぞ!!味が分かる!」
「お父さんも食べられるんだ」
「俺も今知った!そうか・・・俺も普通に食べることが出来るんだ・・・」
内蔵があった食べることが出来るのなら、餓死して死ぬことはないということじゃないのか?
本当に栄養を蓄えられるのかは分からないが、もしかしたら、長く生きていけるかもしれない。
この子たちと一緒に、生きていけるかもしれない・・・。
「肉ってこんなに美味しいものだったんだな・・・」
「そうよ。お父さん。お父さんが獲ってきてくれたお肉だもの」
サブリナにそう言われて、嬉しさが込み上げる。
前は、生物的に生きていけるのかを心配していたが、今は、感情的に生きていたいと思える。
それは、サブリナたちの存在のおかげだろう・・・。
クーテンが、質問する。
「お父さんは、どうして、この洞窟に住んでるの?」
「俺はゴブリンに育てられたようなものなんだ。ここは、ゴブリンが使っていた洞窟で、俺は特に食べ物は食べないから、あの死骸を食べたのはゴブリンたちだったんだよ
あいつら、散らかし放題だったからな・・・
今回、綺麗にして正解だよ」
「ゴブリンと住んでたんだ・・・僕はゴブリンは、ゴブリン同士しか、一緒に住まないと思ってた」
「正確には、一緒に住んでたわけじゃないというか・・・なんていうかなー・・・寄生虫って分かるかな?」
「分からない」
「生き物の体に住み着くような虫がいるんだよ。俺はそんな虫のモンスターみたいなものなんだ
生き物の体に住み着いて生きていくようなものだから、ゴブリンたちは、俺には気づいていなかったんだよ
だから、俺は誰とも話したこともなかったし、ゴブリンとは一緒だったけど、ずっと一人のようなものだったな」
「お父さん。可哀そう・・・」
「ありがとう。サブリナ。でも、お前たちふたりが今は一緒にいてくれるんだから、ひとりじゃないな」
「そうだよ!お父さん!」
「うん・・・。そういえば、クーテンは、帰りたい家とかはないのか?」
「僕のお父さんとお母さんは、ペルマゼ獣王国の兵士たちに襲われて、もういないんだ
僕も食べられそうになったんだけど、お母さんたちが、逃がしてくれた
ひとりで森の中にいたら、兵士たちに捕まって、奴隷にされたんだ」
「ペルマゼ獣王国っていうのは、お前たちを奴隷にしていた国のことか?」
「うん。そうだよ」
「そうか・・・そうだったんだな・・・ほんとあいつらの国は最低だな
俺たちは三人とも、帰る場所がないわけだな・・・
ここが家だ。一緒に暮らしていこう」
「そうだね」