242章 獣人の街
狼旦那は、黒い袋をドサっと冒険者組合の台の上に乗せた。
「もう討伐されたのですか?」
「ああ。だがな、簡単だたと思うなよ
こいつはかなりのモンスターだった
普通のモンスターとは違い、内臓もなければ、不思議な肉を持つ特有のモンスターで、俺の部下ひとりもこいつに殺されている
こいつはあらゆる生き物を簡単に殺しまくり、暴れまくっていたんだ
口からは炎を吐き、手からは氷のマナをも使っていた。
もし、他の部隊を派遣していたとしたら、被害は甚大だっただろう」
「さすがは、ルノー隊長です」
「だから、報酬も上乗せ料を乗せてもらわなければ、割に合わんぞ」
おいおい狼旦那・・・なんか力説していると思いながら聞いてたけど、話しを盛ってないか?
袋の中の巨大熊の顔の分身で、そのまま聞いていた。
「では、確認させてもらいます」
袋を開いて、中身を出した。
やっとかよ。眩しい・・・。小さな目を隠れたところに出して、様子を伺う。
獣人の娘が、俺の顔をゴソゴソと動かして、確認する。
「これが本当に今回の依頼の対称なのかは、数日の確認を経てから分ることなので、報酬もその時に出させてもらいますね」
「なんだとォ!今出せないのか?」
「申し訳ありません。隊長。その化け物を目にした者がいうには、姿を変えられるものだったと言われているので、こんなにハッキリと熊の形をしていたのが気にかかるのです」
マジか・・・。誰かにみられていたのか・・・。バレる!?
「森が安全になったのかの確認が必要なのです」
よし、本当にあの森での狩りは、終わりにしよう・・・。それで、俺は死んだことにすればいい。誤魔化せるだろう。
「チッ時間がかかるのか」
「姿を変えられるようですから、今回は、特別ですね」
狼旦那、ルノー隊長と呼ばれる狼は、出て行った。
そして、俺、俺の首は、獣人娘が板に乗せて、保管庫へと持っていき、他のモンスターたちの牙やら耳やらあらゆるモンスターの一部分と一緒に、棚に並べられた。
そして、すぐに娘は、出て行った。
どうやって出ようかな・・・窓もなければ、穴みたいなのもない。まるで金庫のように頑丈な作りの部屋だ。
穴があるとしたら、鍵穴だけだな・・・。
モグラになって穴を掘ることも岩でできた部屋なので出来ない。
ミミズのように、ほそーい体にして、鍵穴から出てやるか!
鍵穴から体の一部を出して、その先に目をつけて、誰かいないか確認する。
倉庫の外の廊下には、誰もいないのを確認してから、ニョロニョロと脱出する。
念のために、熊の首の分身も残して置く。
数日経てば、その首の体も脱出させればいい。
紐のように長くなった体を天井の隅にはわせて、ゆっくりと外へと脱出していく。
階段を下りると大勢の鎧などの装備をした様々な獣人たちが広場に屯っていた。
そいつらにも、バレないように、こっそり、外の路地へと出て、誰も見ていないのを確認して、狼兵士に、体を変化させて、立ちあがる。
この姿なら、街でも、問題なく出歩けるだろう。
はじめての街だ!
これが街か・・・。
黄色や緑、赤や青となんだか、やたらとカラフルで、統一感のないバラバラな建物が立ち並んでいた。
動物の顔の家?
鹿の顔をした者やオークやオーガ、狼旦那のような狼やうさぎ系の者、4本脚で歩くモンスターなども平気で街を歩いていた。
人間もいたが、ほとんど獣人ばかりだった。
ここは、獣人の街なのか?
というか、もしかして・・・この世界は、人間のほうが少ないのかもしれない・・・。
そう考えると、なんで俺・・・人間だと思い込んでたんだろうな・・・。
お店なども沢山あるけど、お金がないから何も買えない。
狼旦那がくれた銀貨も他の分身が持っていて、今は手元にないからだ。
食堂もあって、そこで獣人たちが、美味しそうに食べている姿をみて、うらやましく思う。
俺にとって食べるとは吸収することで、内臓がないので、味わって食べることもできない。
どんなものを食べてるのかと目を凝らしてみた。
え・・・あれって・・・
獣人たちは、お酒を飲みながら、人間の手足の肉や顔などをテーブルに置いて、ほほなどを切り取って食べていた。
うぇ・・・。なんっじゃ!ここ!
いや・・・俺だって、森の中のモンスターを食べてたわけだし・・・ゴブリンたちも雌オークを食べていた・・・。あいつらにとって人間は、そういう対象だということなのだろう・・・。
なんだろうか・・・。人が食べられているという光景が、一番ショックに感じる。
街を歩いていると、100人ほどのこどもが、全員、お揃いの白い服を着て、並んで、歩いていた。
何かの行事なのか?
「オラぁ!!さっさと歩けよ!!」
白い恰好をしたこどもたちとは、全然違う場所で、オーク兵が、首に縄を付けた裸の人間の女の子を後ろから蹴り飛ばす。
「すみません!すみません!」
「ぼさっとしてんじゃねーぞ!食べられたいのか?カカカカカ」
「すみません!すみません!」
何だ・・・あの娘・・・あの子をどうするつもりなんだ・・・
娘の首は、縄をひっぱられすぎて、赤く腫れあがっていた。
その様子をみて、胸のあたりが、ムカついてくるように感じる。
ほかっておけないと、そのオーク兵の後を追っていくと、大きなテントの中へと娘を連れて行った。
なんだ、このテント?
顔をのりだして、内部をみると、沢山の檻の中に、様々な生き物が閉じ込められていた。
一番多いのは、人間のようだ。
「旦那。奴隷をお望みですか?」
突然、後ろから声をかけられて驚く。
「あ・・・まー見学しようとおもって・・・」
「どうぞ。中へ入ってみてあげてください。良い品が沢山ありますから、手伝いをさせるのもいいですし、食べても美味しいです。ここの者たちは、適度に運動をさせていますからね」
「そ・・・そうか・・・」
「わたしは奥の部屋にいますから、お買い上げしてくださる場合は、そこに来てください。お代もいくらかは、まけますよ
ご自由に見て行ってくださいな」
「うむ・・・」
色々な種族の奴隷たちがいるが、どの奴隷も目が怯えていた。
食べられるなんていう恐れがあるのかもしれない。
いた!さっきの女の子だ・・・。
その子の檻へと近づいて、様子をみる。
狼が近づいてきたので、もの凄く怯え、体を震わせている。
「俺は人を食べるような化け物じゃない。だから、安心して
君は、どうして奴隷にされてるんだい?」
女の子は、怖がりながらも、チラチラと目をやる。
「つ・・・捕まりました・・・」
「捕まった?何か悪いことをしたのか?」
「何も・・・外を散歩していただけでした・・・」
「え・・・散歩していただけ?」
「はい・・・わたしの国は、テレザールという国で、人間が支配している国でした。散歩していたら、突然、馬車に連れ込まれて、気づいたらここに・・・」
「それ誘拐じゃないか!」
「お父さんお母さんもいるんだろ?」
「わたしは孤児院で育てられていたので・・・親はいません・・・」
「そうなのか・・・」
「もしかしたら・・・」
「ん?」
「孤児院の院長先生が、わたしを売ったのかもしれません・・・」
「え・・・そうなのか!?」
「そんな噂を他の子から聞きました・・・院長先生は、獣人たちにこどもたちを売って儲けてるって・・・」
いたたまれなくなり、隣の檻の者にも聞こえないように小声になる。
「酷いな・・・俺が助けてやるよ」
「わ・・・わたしを・・・食べるのですか・・・?」
「そんなことしないって言ってるだろ?自由にしてやるって言ってるんだ」
「買ってくださるのですか?」
「あ・・・いや・・・俺は、お金がないんだ・・・。だから、ここから俺と一緒に逃げよう」
「そんなことしたら・・・あなたも、奴隷にされてしまいますよ?」
「今は狼の姿をしてるが、本当は、俺はもっとすごいモンスターで、強いんだ。ここの奴らなんて、簡単に倒せる
逃げるなんて簡単さ」
「獣人は、大勢いるんです・・・奴隷が逃亡したのを何人もみましたが、すぐに捕まって、わたしたちの目の前で食べ殺されました・・・わたしはあんなふうに、死にたくない・・・」
「それは外から助けてくれる奴がいなかったからだろう?今回は、俺がいるんだ。逃がしてやるよ。今日の夜、ここに忍び込むから、その時に一緒に逃げよう
お前の国まで送り届けてあげてもいい」
「わたしには、帰るところはありません・・・」
「なら、俺と一緒に暮らせばいい。俺がお前の食べる分を用意してやるからさ」
「どうしてですか?どうして、わたしを助けてくださるのですか?」
「え・・・理由・・か・・・さっき道で君をみかけたんだ。酷い扱いをされている君をね・・・それをみて、ここまで来た
分からないけど、ほかっておけない気がしたんだ・・・」
なんだろう・・・小さな女の子・・・どこかで・・・
「だから、大した理由はないな・・・ただ、助けてあげたいと思ったんだ」
「分かりました。わたしを逃がしてください」
「うん。夜まで待ってろよ。誰にもこのことは言うなよ」
「あの子・・・あの子も助けてあげられませんか?」
女の子は指を指した先に、獣人の男の子がいた。
「うん。いいよ。あの子も助けよう。ひとりもふたりも同じだ」
他の檻にも立ち寄って、見て回ってから、そのテントを後にした。
テントのまわりや、周辺の建物などをみて、逃走ルートを考える。
この街の夜は、明るいのだろうか・・・
街は、大きな街だった。兵士たちも多く、出歩いている。
壁も高くて、そこには、大勢の兵士たちが、壁を守っていた。
ここを逃げるように抜けるのは、とても難しいと思われる・・・。
どうしたものか・・・。
夜になるまで、街の様子を覚えるように、見て回った。