241章 討伐
俺は生きている!
宿主ゴブリンが死んで、数日間。
それでも、俺は生きていた。
俺はただの寄生物の化け物じゃなかったようだ。
俺単体で、生き物を食べれば、どうやらその時点でエネルギーが満ちて、餓死することはないようだ。
だから食べる!
この世界には、俺の知らない生き物がうじゃうじゃいた。
モンスターといえるような生き物だろう。
俺の知っている鹿などの動物もいるが、多くがそのモンスターだ。
相手がモンスターなら食べてもそんなに罪悪感がない。
気がする・・・。
本音は、止められないだけだ・・・。
ただ、生きるためなら、こんなに殺す必要もないが、生き物を食べれば食べるほど、強くなるこの充実感が最高なのだ!
「ははははは。ホント最高ォォ!!」
それだけじゃない。その食べたモンスターたちの能力を手に入れることが出来る。
ゴブリンたちは、口に毒物を含むと、それが毒だということを認識できたが、今の俺もその能力を持っている。
ゴブリンたちの影響もあるのか、なんだか、大量に生き物を食べるのにも、罪悪感みたいなのが薄れている。
森の中で、目にする生き物は、手あたり次第、食べまくっていた。
体はゴブリンほどの大きさのままだが、実は物凄い巨大なのだ。
それだけ食べたから・・・。
良し悪しなんて関係なく、森にいる生き物を吸収していった。
自分と同じ大きさの自分の分身も作り出していた。
こいつを作り出すと、2つの思考を持ちながら、どこかしら繋がっている。
俺が本体なので、そいつらも俺のように動かせるし、そいつらが感じたことも俺は感じることが出来る。
「お!鹿を発見!」
でも、普通の動物は、あまり狙いたくないんだよねー・・・。
何でかな・・・。
そんなことも忘れた・・・。
そういえば、何か生き物を寄生させる予定だったな。
俺はホストが死んでも数日間、生きていられているからたぶん、もう安全だ。
でも、保険をかけておくのは悪くない。
「あの鹿を宿主にしてみるか」
空を飛ぶ時は、すでにハヤブサのような羽で飛んでいた。虫の羽では、この大きさを早く移動させることが出来なかったからだ。
ハヤブサの羽は、高い位置から急降下するように飛ぶことができるので、かなりの速度を出すことができた。
高い位置にまで飛んで、急降下して、鹿に急激に近づき、腕を伸ばして、グルグル巻きにして、捕らえた。
「キュー!キュー!キィー!」
鹿は暴れようとするが、身動きが取れない。
「さー・・・どうするかなー」
10cmぐらいの俺の体を貼り付けて、寄生するのもいいけど、それだと、どうしても俺の意識が残ってしまうんだよな・・・。
小さくしたらどうだ?
1mmほどの自分の体を外に出したが、繋がりを感じられない。
「うんうん。いいねー。これこれ」
小さい細胞だけだと、どうやら意識が混濁して、繋がりを保つことができないようだ。
でも、寄生物の特性として本能があるようで、1mmでも、少しずつ大きくなろうとしている。小さすぎてまだ、俺という意識はない。
こいつなら、俺とは別に生きていけるはずだ。
俺が、さらに数日たって死んだとしても、こいつが生きていれば、俺は完全に死ぬことはないということだ。
この意識は死ぬけど、またこいつが大きくなって、生きていける。
共通認識さえない、もうひとりの俺という保険だ。
その1mmの体の細胞を鹿に寄生させて、手を振って、逃がした。
「立派に生きて行けよー!!俺ー!と宿主の鹿さん。俺を頼むよー!」
この時点で、宿主なしでも俺は数日生きているのだから、新たな宿主がいるあいつなら、生きて行ってくれるはずだ。
いつかは、たぶん3mm程度に成長して、俺の意識と同じように思考するようになって育っていくだろう。
「よし!食べるぞー!!食事ターイム!」
―――俺、絶対に強い・・・。
食べれば食べるほど、強くなっていくぜ!
俺って何だろ・・・。
ゴブリン?それとも虫?ねずみ?ハヤブサ?牙あり猪?
全部を網羅した【完全体】
なんて・・・ただの寄生物だけど、完全体とか言ったほうが恰好よくない?
すべての生き物の種類を食べれば、完全体だろ。
あの討伐隊のオーガやオークとかは、強かった。俺の攻撃が通じなかったからな・・・。でも、今なら違うぞ!
今の俺ならあいつらも敵じゃないと思う・・・。
宿主のゴブリンが軽すぎて、あいつらの攻撃を受け止められなかったけど、今の俺は、見た目は小さいけど、中身があるからな。
あいつら程度の攻撃、防いでみせるぞ!
たぶんな・・・。
動物みたいに知能がないモンスターは、余裕だけど、知能があるようなモンスターは、ちょっと怖いかな・・・。
ん?何だ?
共通認識を併用している分身体が、森の中に入り込んだ者たちを発見した。
「森を荒らしまくるモンスターってどんな奴なんだろうな」
「さーな。でも、凄い事になっているらしいぞ」
黒い鎧を着た狼系の獣人たち20名ほどが、森へとはいってきていた。
森を荒らしまくるモンスターって・・・もしかして、俺!?
あーやっちまった!
ゴブリンを殺した討伐隊を生かしたままにしたのは、俺をさらに狙う討伐隊を派遣させないためだったのに・・・また、違う理由で、俺を狙う討伐隊を呼び込んじまった!!
「おい!そこのゴブリン待て!」
あ!俺の分身体・・・みつかった・・・。
木の上から隠れてみていたが、どうやら狼系モンスターは、気配に敏感だったようだ。
「はい・・・なんでしょうか?」
「お!?お前、ゴブリンなのに、話ができるのか?」
え・・・話ができないと思っていたのに、話しかけたのかよ!!しまった!
「少しだけですけど、話せます」
「そうか。この森の生き物を殺しまくっているモンスターがいると依頼されて来たんだが、お前は、そのモンスターのことを知らないか?」
どうしようかなー・・・
「知ってますけど、そいつは、悪い奴じゃないんですよ」
「ん?どういうことだ?」
「話せば、分かる奴っていうか。荒らすのをやめろって俺から言っておきますので、それで勘弁してやってくれませんか?」
「否、それは出来ない!俺たちは依頼を受けた以上、そいつを倒したという証拠を持っていかなければ、意味が無い」
マジかよ・・・。話せば分るっていっても許してくれないのかよ・・・
どうする?
「分かりました。わたしが、そいつのところまで案内しましょう」
「そうか」
狼は、袋から銀貨を数枚、俺に投げてきた。
「これは?」
「それはお前への報酬だ。お前は、話しが出来ようだから、ペルマゼ獣王国の街なら行き来できる。その時にでもその金を使えばいい」
「あり・・・がとうございます・・・」
街か・・・行ってみたいかも・・・
「報酬をくれるっていうのなら、きちんと案内させてもらいますよ。狼の旦那」
「おう!案内しろ!」
「でも、旦那。あなたたちに、あいつが倒せるんでしょうか?」
「ペルマゼ獣王国の兵士をバカにするな!俺たちは、戦いの中で暮らし続けてきた。それでも生き残っているのが、俺たちなんだぞ」
「戦いの中ですか・・・それは強そうだ・・・」
「いいから、早く案内しろ!」
「はいはい」
俺の分身ゴブリンは、俺の分身熊の元へと案内した。
ゴブリンとは全く違う巨大な熊のモンスターに姿を変えて、わざと森を荒らしまくっている演技をさせた。
「グガアアアアア!!!」
ドガドガドガ!!
木をなぎ倒す。
「あいつか!?」
「そうです。旦那!」
「お前、話せば分るとか言っていたが、本当に話して分る奴なのか!?」
あ・・・そういう設定だったな・・・しまった・・・
「えーっと・・・数日前は、大人しかったんですけどね・・・」
「とてもそんな風にはみえないがな。もうお前も分かるだろ。あいつは、暴走状態になっている」
「そうですね・・・。数日であんな風になっているとは、知りませんでしたよ・・・旦那たちが来てくれてよかったかもしれません
それじゃーわたしはこれで」
狼は、部隊に命令した。
「敵は、狂暴な熊系モンスターだ。知的レベルは、Hほどだろう。お前らの雄姿を見せてみろ!!」
「「「オオオオ!!」」」
狼たちは、俺の分身を囲みはじめた。
知的レベルって・・・そんな言い方になっているのか。Hとか言われてたけど、バカだと言われた気がする・・・。
ちょっとムカついた。
一発だけ殴ってやろうかな・・・。
知的レベルHといった狼の旦那に、走り込んだ。
その間に、狼たちが、剣や槍、矢などで攻撃してきた。
イタ!!痛い・・・。分身でも、斬られると痛いじゃねーか・・・!!
わざと負けようと思ってたけど、痛すぎる・・・。
狼兵士のひとりが、後ろから剣を突き刺した。
この野郎!!
深く剣を刺して来た狼兵士の首を本気で攻撃し、吹き飛ばした。
しまった・・・痛みでイラっときて、殺してしまった・・・。
注意しないと・・・
それらの攻撃を受けながら、狼旦那にかけより、熊の大きな手で殺さないように殴りつけた。
そして、大げさに、叫んで、死んだふりをした。
「グオオオオオ・・・・ウォ・・」
ドサッ
「隊長。目標は動かない!」
「何だ!こいつ・・・血を一滴も出さないぞ!?」
あ・・・俺・・・血ありませんから・・・。
「普通の熊じゃないな。何だこいつの肉は・・・」
あ・・・俺・・・筋肉とかじゃないですから・・・。
狼旦那は、ナイフを出して、熊のお腹を切裂いた。
痛い!!ってマジで・・・!!ひどっ!
「内蔵がないぞ!」
狼たちは、騒めく。
だから・・・俺・・・内蔵ないから・・・。
冗談みたいなセリフを吐きやがって・・・。さっさと倒したと判断して、帰ってくれよ・・・。
「このモンスター。核もないぞ!?
だからか、思ったより、強くは無かったのは」
イラッ
お前たちなんて、倒そうと思えば、瞬殺できるんだよ!可哀そうだから、そうしないだけでさ・・・あと、また違う討伐隊に狙われないようにしてるんだよ!
熊の首を剣で切り取った。
グサッ!
ギャー!痛い・・・
狼旦那は、巨大熊の首を黒い袋にいれて、部下に渡した。
「討伐完了だ!撤収!」
「隊長。死んだ奴はどうする?」
「ペルマゼ獣王国の兵士のクセに、死にやがって!
弱い奴が悪い。そのまま、ほっとけ」
狼たちは、倒したと思ってくれたらしく、そのまま帰って行った。
ふぅー・・・よかったぜ・・・。
知的レベルHとか言われてたけど、俺って天才じゃない?
てか・・・もう調子に乗って森の生き物を食べるのは、やめよう・・・。まさか、こんなことになるとは、痛かったけど、調子に乗った俺への罰として受け取ろう。
狼旦那・・・仲間の遺体、そのままかよ・・・?
しょうがない。俺が吸収してやるよ。
ひとり殺してしまった狼の遺体に体を広げて、包み込み、鎧などは食べれないが、体を吸収していった。
俺がちょっとイラっときて攻撃しただけで、死んじゃったよな・・・こいつ・・・済まないことをした。
俺に剣を深く刺したのが悪いんだよ・・・。