24章 ガーウの信念
ウオウルフの長ウオガウの息子ガーウは、毎日のようにセーフティエリアと呼ばれ始めた湖の場所に行くようになった。
長の息子として、源に仕えるという選択をしたことをみなにも理解してもらうためだった。
ウオウルフのすべてが源たちを認めたわけではなかった。
古代からウオウルフが守り続けてきたというこの森のことも、軽んじていたウオウルフもいたのだ。だが、ウオウルフの社会では、長の決定がすべてだ。その決定に従わなければ、グループに止まることはできない。
今回、長であるウオガウが、前長の意見を聞き入れ、源たちと共生していくことに決定した。
長の息子であるガーウが率先して、源たちと関わることで、源たちが安全だということを証明するためだった。ウオウルフ側からすれば、いのちがけの証明とも言えたのだ。ウオウルフ社会では、子供と言えども、使命のためなら動かなければいけないのだ。
ガーウは、源たちと関わることで、長の決定が正しいと感じていた。源は、偉大な姿見をしていながらも、モンスターであるウオウルフも平等な目で見ていると時間とともに分かったからだ。
ガーウは、ウオウルフも共生できるということを源にも、理解してもらわなければいけない使命を持っていた。こどものガーウなら、源も警戒を緩めて、理解してもらえると考えたからだ。そして、ウオウルフのことも分かってもらえる。
偉大な存在に理解してもらうということが、今の長の選んだ道だったからだ。
ガーウは、源の仲間にも、敬意を表し、仲良くするように務めた。
ウオウルフを理解してもらうためなら、自分の出来るうることを実行していった。
フォルと呼ばれる狐型のモンスターとも仲良くなることが出来た。
フォルからは、源のことを聞いたが、やはり源は、モンスターだとしても、ないがしろにしないことが分かった。死にかけていたところを助けてくれたということだ。
源が、人間と接触したことを警護していたウオウルフの報告からガーウにも知らされていた。
そして、次の日、湖に、大勢の人間がやってきて、源は、その人間たちと出掛けて行った。湖とフォルを守るようにと源から指示されて、ガーウは、その命令に従った。
警護担当のウオウルフは、ガーウに言った。
「ウォウフオウ・・・ガウ・――」
《ガーウは、フォルを岩の中で守るように》
だが、ガーウは反論した
《ハジメ様たちが、いない間は、俺も湖の見張りをする!》
その意思をみて、警護係も納得した。
源が帰って来るまで、ガーウが、湖を守ると使命感を強めていったのだ。
森の中をグルグルと回りながら、警戒を怠ることはなかった。
すると、モンスターの匂いに気が付いた。ガーウは、5匹しかいなかったが、コボルトが、この森に入り込んで、湖近くの森の場所で留まっているのを他の仲間にも教えないといけないと思った。
コボルトは、決して信じてはいけない相手だということを父ウオガウから教えられていた。彼らはウオウルフの天敵とも言える相手で、長年戦い続けてきたからだ。
ガーウは、すぐに仲間にこれを知らせるために、鳴いた。
「ウォオオオーン!!」
その声にコボルトもガーウの存在に気づいた。だが、ガーウは、まだこどもで、狼の大きさもないほどだった。コボルトに近づこうとはしない。
少し離れた位置で、コボルトの様子を伺い、大人ウオウルフが来るのを待つ。
コボルトは、近づいてこないガーウに、何かジェスチャーをしはじめた。よくみると、一匹のコボルトが血だらけで倒れていた。何か助けてほしいのか?とガーウは思った。
森のモンスターとガーウと会う前に、戦ったのかもしれないと思った。
ガーウを無視するように、コボルトたちは、血だらけの仲間をみていたので、ガーウも、様子をみに近づいた。
木の上から一匹のコボルトがガーウの背中に、飛び降り、槍を突き刺した。
ガーウは驚いて、必死で、背中に乗ったコボルトを振り払う。それを合図に、5匹のコボルトもガーウに襲い掛かった。
血だらけに倒れていたはずのコボルトも立ち上がってガーウに襲いかかる。血は赤色で、青色の血のコボルトのものではなかった。罠だったのだ。まさかすでに木に登っているコボルトがいるとは思いもしなかったのだ。
ガーウは、こどもながらも、必死で抵抗した。まずは、振り払って倒れたコボルトの首に噛みつき倒そうとするが、残りのコボルトが後ろから、槍をガーウに何本も突き立てる。それでも、ガーウは、他のコボルトにも襲い掛かった。
コボルトは、ガーウの目を狙ってボロボロのナイフを刺した。
ガーウは目を刺され、ひるんだところを5匹のコボルトが、槍を刺し続けた。途中からは、弄ぶようにコボルトは、ガーウに攻撃を続けた。
コボルトを一匹しか倒せなかったと悔しい想いを抱きながら、ガーウは息をひきとった。
死んだと思われるウオウルフのこどもをみても、コボルトの攻撃は止まらなかった。何度も楽しむように、槍を刺していく。
そこに、ガーウの声を聞いてかけつけてきたウオウルフが現れた。無残な姿になったガーウをさらに痛めつけているコボルトをみて、ウオウルフは怒りを表し、襲いかかる。大人のウオウルフからすれば、コトボルトは相手にはならない。5匹いたとしても、蹴散らした。
また、そこに別のウオウルフが到着したが、長の息子ガーウの姿をみて、顔を歪めた。
《ガーウ様が・・・》
《ハジメ様が、人間と出掛けたことをウオガウ様にもう伝えられているはずだ。お前は、ガーウ様に起こったことをもうすぐ来るはずのウオガウ様に報告しろ。コボルトが、卑怯な手で、ガーウ様を罠になけたのだと・・・そして勇敢にも5匹ものコボルトと戦ったと・・・》
《お前はどうするんだ?》
《コボルトがこの森に来る時は、必ず大軍で来る。数百匹のコボルトの軍隊が、ここに向かっているはずだ。6匹だけで着たこいつらは、偵察だろう。俺はコボルト軍がどこまで来ているのか、偵察しにいく》
《わかった》
命令を受けたウオウルフは、ガーウを口に咥えて、森から出て、湖で、フォルを守りながら、長のウオガウが到着するのを待った。
フォルは、ガーウが死んだ姿をみて、ショックを受け涙した。
はじめての友達だったガーウが舐めても、つついても動かないからだ。