239章 報復
ゴブリンたちが、寝静まると俺は自分の体のことを調べ始める。
3mmだった体は、虫などを捕獲して10cmまで大きくなった。
ゴブリンは、そのことに気づいて、俺の体を爪をたてて掻き毟ったが、10cmも大きくなった俺には、ゴブリンの攻撃は、それほど痛くなかった。
3mmの時は、死ぬほど痛かったが、今は耐えられないほどではない。
皮膚を硬質化することもできるのにも気づいたからだ。
体が10cmにもなると3mも先へと自分の体を移動することができるようになり、行動範囲が広がり、他のゴブリンなどの寝ている様子をみてまわった。
どこから手に入れたのか分からない武器を持っていたが服を着ているゴブリンは、少ない。
ほとんど真っ裸だ。
仲間同士で殺し合いその仲間の肉も食べるところから、野蛮としかいいようがない。
食べられるものは、何でも食べるが、不思議と毒のようなものを、口に含むとすぐに口から吐き出す頭の良さはあった。
なんで俺は、ゴブリンなんかに寄生したんだ・・・。
もっとほかに、人間とかに寄生するとか・・・そういうのにしてほしかった。
意識がなかったから自分にはどうしようもない。
だが、他のゴブリンは、ともかく俺の宿主には、なぜか共感するようになった。
こいつがいなければ、俺は生きていけないからかもしれない。
唯一、デキモノとして俺を相手してくれるのは、こいつだけだし。
んん??
今、何か動いたな。
動いたところに、体をいくつかに枝分かれさせて、それに目をつけて、確認した。
ねずみか。
ゴブリンの餌を狩る本番に向けて、練習でもするか。
ねずみがいるところを後ろにまわりこんで、俺の方へと逃げてくるように、小石を持って、腕を伸ばした。
そして、後ろから地面に転がすように、ねずみに小石を投げた。
ねずみは、その音と気配に気づいて、俺の斜め前へと逃げてきた。
1mの範囲に近づいたので、早い攻撃で、ねずみの首元を切裂いた。
ねずみは、まったくその攻撃に反応できず、そのまま倒れ込んだ。
虫のほうがよっぽど手強わい。
虫の回避能力は高かったが、それに比べて動物は、まるで問題にならない。
だが、虫の時とは違って、何だか体にパワーが宿るように感じたものが、ハッキリと把握できた。
そして、そのねずみの体の半分を以前、虫にしたように取り込んでみた。
俺の体もいっきに大きくなり、目標の20cmになった。
10cmから一気に20cmはやりすぎたかもしれないな・・・。
目立つなんてもんんじゃない・・・。
どうするかなー。
ゴブリンは、服を着ないから隠すこともできない。
分離することが出来ればいいんだが・・・。
そうイメージすると、体が、10cmと10cmとで分かれて離れた。
おおー。
分かれることもできるのか・・・。
しかも、向こうの体も同じように思考ができる。
離れているのに、どこかで繋がっているようで、まるで自分の体が2つあるかのようだ。
《おい。お前、お前は、俺か?》
《そうだ。俺はお前だ》
何を考えているのかさえ分かり、会話もできてしまう。
《よし、お前は、ゴブリンの背中のほうへと移動していてくれ。必要な時に出てくるんだ》
《分かった》
これ結構、便利じゃないのか?
―――朝になると4日目の周期がきて、ゴブリンたちが騒ぎだす。
「グガグゴオオガオ」
「ググググキガ」
あれ・・・!?何か、耳が聞こえてる・・・?
《俺が耳を作ったんだ》
《そういうことか!そちらが作ったものがこちらにも影響するのか?》
離れていても、やはり、見えない何かで繋がっているようだ。
宿主のゴブリンは、下っ端のようで、他のゴブリンに何かを言われて、それについていく
お前には、俺がついている安心しろ。
あいつらなんかよりも、お前は優秀なんだ。
動物の気配を感じ取ったのか、またゴブリンは、木の上に上りはじめ、静かに枝の上で武器を持って待機する。
さー。どうしようか。
ゴブリンには、気づかれてはいけない。気づかれずに、こいつの狩りを手伝う方法は・・・
スルスルとゴブリンの武器のほうへと自分の体を移動させた。
狩りをする時のゴブリンは、少し興奮状態にあって、デキモノの俺にはまったく気づかない。
動物が、木の下を通過する瞬間に、ゴブリンは、木から飛び降りた。
そして、ナタのような武器を獲物の体に向けて振り下ろしたが、そのナタが、なぜか動物の首に振り下ろされ、一撃で、動物の首をはねた。
一瞬で、動物が死んだことにゴブリンは、驚く。
動物の首を斬り落としたのは、ゴブリンの錆びついた武器ではなく、寄生するものの一撃だった。
十分に近づいた距離でナタから離れて、目に見えない速さで、動物の首を斬り落としたのだ。
20cmもの体があれば、薄いが切れ味のある刃を作り出すことができた。
他のゴブリンたちも宿主が一撃で倒したのをみていたのか、武器を上にあげて、大喜びで叫びはじめる。
「グオオゴホッホオオ!」
ねずみよりも、大きな動物を倒せるのか、少し不安だったが、まったく問題なかった。
それよりも、今までより相手を倒した時のみなぎる力のようなものが、体に入り込んでくるかのように感じて、戸惑う。
今までよりも、数段、強くなったような気がするぞ・・・!
なんだ・・・この世界は、何かを倒すと強くなっていくのか?
ゴブリンたちが、また騒ぎ始めた。
どうやら、他にも獲物がいるようだ。5匹のゴブリンが、その獲物にバレないように、移動していく。
その先にいたのは、2本脚で歩く豚だった。ゴブリンとは違って服を着ていた。
オークか・・・。
だが、あのオーク・・・女?武器とかも持ってないぞ?
ただ散歩しているだけのようにしかみえない。
あれを襲うのかよ!やめておけよ
ゴブリンに自分の存在を教えるわけにもいかない。
ゴブリンたちは、オークを囲って、一斉に襲い掛かった。
うわ・・・。みてられん・・・。マジか・・・。
「ホギャーーー!!」
凄い叫び声をあげて、雌のオークは、血だらけになりながら、殺されていく。
宿主のゴブリンも参加している。
ほんと・・・野蛮だぜ・・・こいつら・・・。
オークは服を着てるから知能がありそうだったのに・・・。それを何の躊躇いもなく、動物と変わらないように殺しやがった・・・。
とんでもない奴の体についちまった・・・。
まったく信じられないな・・・。
ゴブリンたちは、動物とオークの死体をひきずって、洞窟まで運んでいった。
そして、いつもの5匹とはまた別の5匹も呼んだらしく、10匹で、獲物を食べていく。
うえ・・・。
動物を食べている時は、それほどじゃなかったが・・・あのオークを食べるのをみるのは、いただけない・・・。
生きていても、そのまま食べる勢いだ・・・。
これ・・・トラウマになりそう・・・。
俺が人間なら、絶対こいつら全滅させてるぜ・・・。
しかし、宿主は、選べない。こいつが、死ねば、俺も死ぬんだから・・・。
―――数日経ったある日に、ゴブリンたちが、今までにないほど騒ぎだした。
「グオオゴホッホオオ。ガフグフ」
「ガガオウガエア」
なんだ・・・何があったんだ?
ゴブリンたちは、慌てるように、武器を持って洞窟の外に出て、入り口付近でウロウロしていた。
少し経つと洞窟の奥から前に一緒に食事をした5匹のゴブリンたちも現れた。
なんだ・・・?
すぐにその理由が分かった。
宿主のゴブリンは、丘の上に登って、遠くを眺めていた。
そのみている方向に、5人ほどの鎧を着た獣人が歩いて、洞窟の方角へと向かって来ていた。
オーガを含めた、オークの集団だった。
おいおい・・・。あれってもしかして、雌オークを襲ったから来たんじゃねーの?
討伐隊か何かだろ・・・。
お前たちゴブリンじゃ相手にならんだろ・・・。
どうみても、あいつらのほうが強そうだぞ・・・。
宿主のゴブリンは、急いで洞窟の入り口へと戻り、報告したようだが、逃げずに、ここで迎え撃とうとしているようだった。
動物みたいに簡単に倒せるような相手じゃないぞ!
しかも、隠れず、そのまま迎え撃とうとするなんて・・・。動物の時みたいに、奇襲とか考えないのかよ・・・。
オーガたちは、武器を抜いて、悠々と歩いて近づいてきた。ゴブリン10匹は、一斉に、襲い掛かる。
「「「グオオオガオオオ!!」」」
だが、討伐隊たちは、何だか慣れたように、剣を振りぬいて、ゴブリンたちを簡単に切り倒してく。
おい・・・やばいってこれ・・・。全然・・・相手になってないじゃないか!
逃げろ!もういいからお前だけでも逃げろよ!
心で念じるように、叫ぶが、自分の体とは違って宿主は、まったく逃げようとせずに、戦い続ける。
他のゴブリンたちは、5人の討伐隊たちに、次々とほとんど一撃のもと殺されていく。
くっそーーー!!もうしょうがない!やるしかない!
オークの斧が、宿主の頭へと振り下ろされた。
その攻撃を鉄のように硬質化した体で、防いで、さらに枝分かれさせて、オークの首をはねた。
首のないオークは、そのまま後ろへと倒れた。
仲間のオークが殺されたのをみて、討伐隊たちも驚く。
「ゴビシが殺されたぞ!!」
え・・・言葉、普通に聞こえる・・・?
「何ぃ!ゴブリンなんかに、殺されたのか!?」
他のゴブリンたちは、ひとりを倒したのを知って、大きな声をあげた。
「「「グオオオガオオオ!!」」」
おいおい・・・ゴブリン・・・倒したのは、こいつじゃなくて、俺だから・・・。
お前ら逃げたほうがいいんだって・・・。
先ほどの戦いをみていたオークが、宿主へと襲いかかる。
片手に剣を持って、宿主ゴブリンの体を突き刺そうとしてきたので、それを体で撒きつけ、その攻撃を止めた。
オークは、驚きながら、剣を思いっきり引き抜いて、バランスを崩す。
その隙に、首を狙った早い攻撃を繰り出した。
しかし、オークは、その攻撃を、さきほど見て、読んでいたのか、左手の盾で、防いだ。
くっ・・・・。やっぱりこいつら、強いぞ・・・
そのオークに苦戦している間にも、他のゴブリンたちは、殺されていく。
残りは、4人になっていた。ひとりは、すでに腕を斬られ、地面に座り込んで、身動きができないでいる。
宿主と一緒に戦っているオークも、なかなか強いが、一番強そうだったのは、オーガだった。
黒い姿をしたそのオーガは、モリモリの筋肉で、軽々とダンベラの剣を振り回して来た。
それを体を密集させて、盾のようにして、なんとか防いだが、宿主が、吹き飛んだ。
ダメだ・・・。俺が防いでも、本体が軽すぎて、防ぎきれない・・・。
ゴブリンが、倒れているのをみて、オークが、倒れた宿主めがけて、ジャンプして、飛び込んできた。
宿主が倒れたのをみて、油断したのか、大振りでオークが飛び込んできたので、その隙を見逃さず、逆にオークの眉間を鋭い槍をカウンターで貫いた。
グサッ!!
細い槍のような体をオークの頭に指し込んだのと同時に脳に根のように絡みつかせ付かせて、ギュルリとかきまぜた。
オークは、宿主の上にそのまま倒れ込んだ。
オークが倒れ込んだことで、宿主は、動けなくなっていた。必死で、オークをどかそうとするが、慌てているのか、ゴブリンの力では簡単に抜け出せない。
おい!早く起きろよ!!
クソ!
慌てて、オークの鎧の隙間に体を伸ばして、足を斬り落として、軽くしていく。
よし!これで多少、軽くなっただろ!はやく、逃げろ!
え・・・
うそ・・・だろ・・・
オークの体を斬り落として、宿主へと目向けたが、遅かった。
宿主の首は、オーガの剣によって斬り落とされていた。
ええええーーー!!!
他のゴブリンたちも、一匹も逃れることが出来ずに、殺されていった。
「おい・・・どういうことだ・・・ゴビシだけじゃなく、ムールまで?」
「ああ。このゴブリンだけは、普通じゃなかった。俺の攻撃を一度防いだからな」
「そんなゴブリンがいるのかよ!クソっ!」
オーガたちは、ゴブリンたちの耳を切り取り、胸にナイフを突き立て、核を取り出し、文句をいいながら、帰って行く。
おい・・・。本当に死んだのか?
ゴブリン・・・。
おい・・・。
体をゆさぶったが、宿主の顔は、首からなかったので、まったく動かない。
マジか・・・。お前が死んだら・・・お前が死んだら・・・。
死んだ・・・。俺も死んだ・・・。
もう終わりだ・・・。だから逃げろって・・・。お前ら頭が悪すぎるだろ・・・。
勝てるわけないだろうが・・・。
そもそも、雌オークを襲うのが間違ってるんだよ。そんなことしたら、報復に出られるに決まってるだろ・・・。
寄生する宿主を間違えたんだ・・・。もっと賢い宿主に寄生しておいてくれよ・・・。
俺はいつ死ぬんだ・・・。もう宿主は、死んだから、栄養は送られてこない・・・。
だが、息苦しいといったことはない。
どうやら、宿主が死んでも、すぐに死ぬようなことはないみたいだ。
数日ぐらいで、俺は死ぬのか・・・?