233章 説明会
ワグワナ法国の首都ダリンの広場に、2台の大きなトラックが置かれていた。
運転席側の外壁は透明になっていて、形もトラックとは違い丸い形態になっている。
そのトラックの前に白い台の上に乗ってトラックの説明をしているのは、科学部門責任者のニーナだった。
小さな体を大きく動かし、身振り手振りで説明していく。
祭りの時から科学がワグワナ法国で話題となり、少しだけでも説明してもらいたいと説明会が開かれることとなった。
新大共和ケーシスやレジェンドの祭りで、科学による恩恵を目の当たりにしたワグワナ法国民たちが、その情報を色々な人に口コミしていたので、大勢が興味を持って、広場へと集まっていた。
トラックを目にして、不思議そうな顔でみつめる女性。
「馬車・・・?あれに馬を引かせるのかしら?」
ざわざわと人々が小声でつぶやくが、かなりの数なのでひとりが小声でも、ニーナの生の声はかき消される。
そのニーナの声をミカエルが拾って集まった人々すべてに聞こえるようにサポートする。
「これはガソリンという燃料で火を燃やすことで馬なしで、馬車の20倍もの荷物を一度に運搬できるトラックというものです」
「「「おおー」」」
ニーナが合図を送ると、トラックは、数mだけ前へと進んだ。
動物やモンスター無しで、馬車事体が動いているようにみえて、民は驚く。
「巨大な物質モンスターだ!」
「これは生き物ではありません
中に人が乗り、操作して動かすものです
ミカエルによって自動操作もできるのですが、基本的には、人が操作する道具です
今回もこのトラックに大量の食材を乗せています
トラックの種類によって違いますが、1つは冷気を操ることが出来るので、食材が移動している最中も痛まず、長持ちします
遠い場所にも食べ物を腐らせないで届けることができます
料理店などと提携することで、今までよりも、新鮮な食べ物を提供できるようにもなるでしょう
あのトラックの中だけ、アイス系のマナが常に稼働しているようなイメージでしょうか
ワグワナ法国でも、【人権】が理解できるようになった際には、限定的に、これらの技術を提供していく予定です
どれだけの技術を公開できるかは、ワグワナ法国に多くのクリスチャンが増えるかによります
数年後、問題なく安定したのなら、クリスチャンとなったひとたちの中で、トラックに興味を持たれた方には、トラックを無償で提供していく予定です
また、クリスチャンではなくても、貸出という形で、利用できるようにも考えています
ワグワナ法国にクリスチャン認定者が増えれば、増えるほど、ミカエルを活用できる人々が増えるので、レジェンドなどの発展と変わらなくなっていくはずです
クリスチャンではなくても、多くの恩恵が今まで以上に与えられますが、クリスチャンとなれば、信用度が増して、あらゆる認可が下りるのです
【人権】を理解できれば、恩恵が受けられます。ですが、人権を理解しない人は、今までと、ほとんど変わらない生活になるでしょう
クリスチャン認定されれば、さらなる恩恵が与えられるのです」
ひとりの男性が大声で質問した。
「恩恵はトラック以外に、具体的には、どのようなものがあるのですか?」
「例えば、クリスチャン認定されれば、ミカエルを活用できるようになるので、ミカエルを使って新しい家を建てることもできるようになります
皆さんが、新しい王族中心の政権を人権を理解して指示してくださるのなら、電気というものを提供します
電力施設責任者のハーレ・ワイトさんに説明してもらいます」
ハーレ・ワイトは、深く四方にお辞儀をしたあと、説明をはじめる。
「わたしが行っているのは、生活をより便利にすることが出来る電気の提供です
トラックと同じように、燃料などを燃やして、火の力で、電気を生み出していきます
電気というものは、サンダー系のマナのように攻撃だけ利用できるものではなく、電気を使ってあらゆることが出来るようになるのです
さきほど、トラックに冷気を溜め込む説明がニーナさんからされましたが、その冷気もまた電気によるものです
また、電気は、夜になっても光りを発して明るく安全な街の生活を提供することも出来るようになります
トラックのようなものを動かす時にも、冷気を作り出したり、逆に熱を作り出すこともできる万能なエネルギーが電気なのです」
ハーレ・ワイトが手をあげると、兵士のひとりが、バイクを持って来た。
「これはバイクという乗り物です
これもまた、電気によって動いています
これは小型なので、電気で動く仕組みなのです
ガソリンなどの燃料を使う必要はありません
今ある太陽の光りさえあれば、その熱エネルギーを使って電気を生み出し、この乗り物を動かすことができるようになるのですね」
ハーレ・ワイトが、キックボードのような手軽なバイクにかるく乗りまわすと、見たことが無かった人々は驚いて目を丸くした。
「こどもが利用したり、街中で使用する場合は、速度が出ないように設定されていますが、大人が街の外で使用する際は、スピードは、馬の約半分ほどの速度で走ることができるようになります
ですから、首都ダリン以外の街へと行き来することも容易になることでしょう」
ニーナが、前に出て、大きなモニターの映像を見せる。
「なんだ!?あの絵は・・・」
「これは絵ではありません
科学による恩恵の1つで、映像といいます
わたしたちが見て動いている状態を記憶して、映像でみることが出来ます
そして、この映像の中の女性は、たった30分程度の時間で、料理を作ることもできるのです
火をつけるのも簡単にできるのです」
「「「おおおぉ」」」
ニーナたちの説明に何度も声が上がる。
下水道責任者メイ・プリードも、水道などの説明をしていく。
新大共和ケーシスの122の村々にも説明をしていたので、上手にワグワナ法国民にも伝えていた。
源は、説明会に参加している興味津々の民の様子をみて、交流としては大成功だと思った。
今回の説明会で伝えている技術は、教えたとしても簡単にマネが出来るものではない内容のものばかりが選ばれていた。
レジェンドなどには、そのような技術があると分かったとしても際限できなければ、悪用することも出来ないからだ。
それらの設備は、地下でミカエルのソースが作り続けているわけだが、その施工工場の様子などは、一切流さないので、どのように製造しているのか、ワグワナ法国民たちは想像もつかないだろう。
現在、施工工場は、レジェンドと新大共和ケーシス、そして、ユダ村とヨシュア村、最後に帝国の周辺の地下に広げ続けている。
このことを知っているのは、限られた人たちだけだ。
帝国の地下にそのような施工工場を作り続けていることは、サネル・カパ・デーレピュース上院議員や皇帝陛下にも言っていない。
将来、帝国が龍王の意思を復古させ、クリスチャンが多くなった時のために、近場でソースを生産し続けている。
サネル・カパ・デーレピュース上院議員には、電力施設や下水道施設の提供が出来るとも話してあるので、その際には、施工工場が活躍してくれるはずだ。
すでに、帝国や龍王の意思を受け継ぐ村々の地下で、それらの設備は造っている。
ミカエルの脳であるスーパーコンピューターであるブレインも、さらにあらゆる場所の地下で、増産している。
これらに関して、何か問題が上がれば、すぐにでも、施工工場は取り壊しができるようにしている。
『ミカエル。ワグワナ法国の地下にも、施工工場を作っていくようにしてくれ』
『分かりました。セルフィ様』
ミカエルを作り出してから、1年半が過ぎ、時間とともに、ソースの数も膨大なものとなっていた。
ソースで作られた2mの人型ミカエルの数も、1500機を超えはじめた。
1機につき、約15000個のソースが使われている。
ソースの数は、すべてトータルすると2200万個以上になる。
マナを使用できるソースについては、源だけしか作り出せないので、数は2000個ほどしかない。
大量のソースを使えば、施工工場を数日で1つ作り出すことも可能だ。
ワグワナ法国にどれだけの技術を提供するかは未定だが、今からゆっくり作っていったとしても数年後には、ワグワナ法国の周辺だけで、かなりの生産性を可能になるほどの施設を用意できるだろう。
現在、6割の大量のソースが、ワグワナ法国領土内に、散りばめられている。
シンのような組織の者がいつ攻撃して来るのか分からないので、首都ダリン以外のところにもソースを広げているのだ。
ワグワナ法国の家には、1個のソースが必ず外で待機している状態だ。
プライバシーがあるので、屋内には入らない。
ボルフ王国のように、核爆発を起こされるわけにはいかない。
怪しい者たちの排除は出来ているが、ペルマゼ獣王国の者だと思われるが、密偵をしているのか、北側からよく発見される。
特に攻撃しようとしているわけではないので、ほかってはいるが、ペルマゼ獣王国では、警戒が強まっているのだろう。
ボルフ王国についで、ワグワナ法国と三国同盟の国が倒されているので、それをみれば、誰にでも次はペルマゼ獣王国ということが分かるからだ。
源もペルマゼ獣王国にソースという密偵を送っている。
サムエル・ダニョル・クライシスに対抗するために、身体能力、マナに次いで、科学という新しい力を得るためにミカエルを開発したが、今は帝国がレジェンドを認め、味方となってくれている。
かなり焦りを感じながら、ソースを作っていっていたが、今では帝国がいるからか、余裕さえある。
ワグワナ法国の内政改革は、大変な仕事だが、命がかかっているわけでもないし、反発されないためにも、時間をかけて変えていく必要がある。
この世界に来てから、何の情報もなく、自分が強いのかどうかも分からずやってきて、危機迫ることばかりの日々だった。
核爆発という驚異はあれども、この世界に慣れてきたのか、安堵感を源は感じていた。