220章 試行錯誤
闇範囲によってまわりが暗闇へと包まれていても戦いに支障はなかった。
人間の五感だけでは、この暗闇は、行動を制限させてしまうが、スミスには、人間以外の身体的能力も増し加わり、鋭い感覚がセルフィの位置を把握させていた。
源は、発明王セカンが作り出した伝説級の武器デフォルメーションをリトシスの効果を上乗せして、素早く攻撃を繰り出すが、スミスは、攻撃を躱してしまう。
枝分かれしたデフォルメーションは、源のまわりを囲むかのように、多角的な攻撃を繰り出すので、見えている状態であっても、これを躱すことは難しいはずだが、横からの斬りつけに、身をかがめて躱しながら、上からの攻撃には、源が渡したカーボン製の剣で、受け止め、懐に入り込む。
スミスは、剣を横や縦の線の攻撃ではなく、突くことで、点の攻撃によって、デフォルメーションの隙間を狙う。
デフォルメーションの攻撃の速度を超えたスミスの動きに対処するには、源もスピードをあげて、後ろへと下がり、その突きを躱すが、その源の動きに、またスミスは、踏み込んで、連続的な突き攻撃を繰り出した。
源は、デフォルメーションの動きプラス、はやぶさ斬りを発動させて、さらに攻撃の速度を上げて、その攻撃を弾いた。
デフォルメーション、リトシス、はやぶさ斬り、速度強化を被せた攻撃によって源は、逆にスミスを押し返す。
素早いスミスの突き攻撃も横に弾いて、次の攻撃の間の間隔を開けさせる。
次は、スミスが素早く後ろへと後退して、デフォルメーションの範囲から逃れる。
デフォルメーションの攻撃が始まれば、物理攻撃で、源にダメージを与えることは、難しい。
どうすればいいのかと考えながら、プロットを組み立てて、ファイア系のマナによって白い光りが、スミスの剣のまわりを包み始めた。
グラファイトやカーボンナノチューブは、熱に対する抵抗が弱く600度ほどなら、燃えることはないが、それを超えて、1000度以上になれば、その形状が変化してしまう。
しかし、スミスの剣は、なぜか何の変化もなく、高温のマナを纏わりつかせていた。
その光によって闇範囲の暗闇も照らされ、セルフィの姿をハッキリと映しだした。
人間の割合を増したスミスは、以前のスピードよりも若干、遅くはなっていたが、それでも、かなりの速度で動くことができる。
源の速度強化の50%にさえも、ついていくほどの速度だ。
その速度を使いこなすということは、速度抵抗も、源に次いでスミスは高く、まわりの動きがスローに感じるほど処理能力も高められていた。
ファイア系のマナを使う者は、一番間近で、その炎にさらされる。
それでも、ファイアのマナが使えるということは、それだけ火抵抗が高いということで、封印の珠などでマナを手に入れると同時に、その使えるマナやスキルなどの抵抗も高くなるようになっている。
スピードもまた同じで、それだけ速く動けるのは、その速度でも、まわりを認識して、動けるので、速度抵抗が高いということだ。
そして、源の速度に唯一ついてこれる仲間といえば、スミスだけだ。
100%の速度ではないにしても、これだけのスピードについてこれるのだから、デフォルメーションの攻撃も処理して、その隙間を狙えるのもそのためだ。
スミスは、素早く、セルフィの後ろに移動した。
デフォルメーションの攻撃は、意識していない状態では、前方方向に集中している。
瞬間的になら、後ろのほうが、隙が多い。
はやぶさ斬りも、腕を使うことで成り立つスキルなので、後ろには、腕はまわせないので、それだけ効果が半減する。
合わせて、スミスの特殊なマナを纏った剣は、グラファイトで作られているデフォルメーションを熱エネルギーによって若干防ぎながら、攻撃を突き立てた。
源もすぐに後ろに振り向き、火の対称である水系マナ、水具をデフォルメーションに及ぼして、枝分かれすることなく、その攻撃を防ぐと、水蒸気爆発が起こり、スミスは吹き飛んだ。
源は、リトシスによって爆風であっても防ぎきり、その場にたたずむ。
プロット作成により、あらかじめ作られた特殊マナをまたスミスが使用すると、源を囲むように、小さい丸い白い光りが、無数に飛び回り、ゆっくりと中心へと移動しはじめる。
隙間がないこともないが、人の大きさでは通り抜けることができないほどの数の光りの球が、中心にいる源へと向かったと思うと大爆発を越した。
源の姿は消えた。
スミスは、驚く。
「大丈夫だって、スミス。俺は死んでないよ」
スミスは、後ろを振り向くと、セルフィの姿があったので、また驚いた。
「え・・・どうやって、あの囲いから抜け出せたのですか?」
「瞬間移動だね」
「ああ。そういうことですか・・・。隙間を無くして、確実に倒そうと組んだマナだったんですけど・・・セルフィ様には、まったく意味がなかったのですね・・・」
「そういう攻撃だと分かっていれば意味がないかもしれないけど、初見では、どう対処しようかと悩まされたから、効果はあったよ
スミスも、俺の瞬間移動を予測していたら、少し動揺した俺に攻撃を加えられたかもしれないよね」
「セルフィ様が転移できることは知っていたのですが、戦いの最中に、忘れてました
やられましたね」
「でも、スミスは、本当に強いな。俺のスピードについてこれるのは、スミスだけだよ
かなり本気で戦ってるからね」
「でも、完全に本気というわけではないということですよね」
「そうかもしれないけど、時間が止まったかのようなギリギリのやり取りができるのは、本当にためになるよ
それにしても、モンスター化していた時のスミスも強かったけど、身体能力こそ若干劣ったとはいえ、意識があるスミスは、さらに強いよ」
「そうなのですね」
「うん。モンスター化していた時のスミスは、早いしパワーもあったけど、意識が動物的で、単調な攻撃ばかりだったから、対処するのは、それほど難しくなかった。
でも、今のスミスは、工夫しながら攻撃してくるから、攻撃が単調じゃないだけ、手強いね
それにしても、スミスの特殊なマナは、フォーマットというものを使っている効果なのか?」
「はい。フォーマットによって組み立てた形式のことをプロットといいます
戦いの最中でも、言葉や文字によってプロット作成を行えるのですが、あらかじめ組んでおけば、無詠唱のように使用できます」
「マナって固定されてるものじゃないのか?」
「そうですね。封印の珠によって手に入れたマナは、プロットが組み込まれている状態になっているようで、そのプロットを上書きするように新しく組み込むことで、変化させた特殊マナにしてるんです」
「使用者のマナ量などによってマナの威力や大きさ、質やコントロールのやり方が、若干変わることは知っているけど、スミスの場合は、まったく違うマナといってもいいよね
それに、カーボン製の剣のまわりに、あれだけの高温のマナを纏わすのは、どうやったんだい?」
「ファイア系のマナは、火ですから、その火を生み出すには、空気が必要です
エネルギーは、空気から得られているということですね
ですから、剣のすぐ外側は、空気の密度を下げるプロットを作成して、逆に、さらに外側には、空気の密度が高くなるように設定したんです」
「プロットって、環境を変化させることもできるということなのか?」
「マナというより、プロットは、環境を作り変えるもので、環境とマナを組み合わせることで、効果を違うものにしてるんです」
『源。やはり、プロットとは、小規模なリトシスのようなものだと思われます
これは予想ですが、この世界である仮想現実の設定を作り変えるような行為がプロットなのかもしれません』
『なるほどね。詠唱というのもプログラムを作成しているというわけか』
『そう予測できます。源』
「環境さえも変えるなんて本当にすごいな」
「マナ事態が、プロットによる作成ではないかとも考えられるようですね
これを発見したのは、エジプタスらしいです
ですが、すべての環境を完全に変えることはできません
若干の変化を生み出す程度ですね」
「へー。そうなんだ」
あれ・・・でも、ちょっと待てよ・・・。環境変化によってマナに変化を及ぼすというのなら、環境を作り変えるようなリトシス使ったらどうなるんだ?
『源。プロットとは、比較にならない効果が得られる可能性があります』
『やっぱり?』
「スミス。君がよく使ってる白い光りを出してもらえないか?」
「はい」
スミスは、掌の上に、1つだけ高温ファイアを作り出して、セルフィに見せた。
『これは、まわりの空気の密度を凝縮させて、ファイア系のマナの効果をあげているものだと思われます。源』
源は、リトシスよって、スミスが行っている同じ量の酸素密度を発生させて、その中で、ファイアを発動させると、スミスと同じように、白い炎が、生み出された。
スミスは、それを見て、驚いた。
「え!?セルフィ様も、フォーマットをお持ちなのですか?」
「いや、フォーマットは持っていないけど、それに似たスキルがあるんだよ
それを利用して、スミスの特殊マナを分析して、作ってみた」
「そんなことができるんですね・・・。ですが、そのマナには、気を付けてください」
「気を付ける?」
「はい。周りの空気の密度をさらに上げていくと、熱エネルギーがさらに高まって、制御できなくなり、大爆発が起こってしまうのです」
『源。それこそが、核爆発だと思われます』
「あー・・・なるほどね・・・。ボルフ王国を吹き飛ばした大爆発は、それを使ったのか」
「攻撃として、大爆発を使用した者がいるんですか!?」
「うん・・・。多分、ボルフ王国を吹き飛ばしたのは、マーレ・ソーシャスだと思う」
「そうなのですね・・・」
「スミスが使っている密度以上のものは、使わないようにしておくよ
危険だからね
でも、スミスには、いいことを教えてもらったよ
マナは、環境に左右されるわけだね
当たり前といえば、当たり前だけど、それに気づかないとマナは、固定されたものだと認識しちゃうからね」
「僕もマナは、固定されているものだと思っていました」
源は、イメージを膨らませて、上に何枚もの鏡のような氷を作り出して、そこに小さい光線を上の一枚の氷に、打ち出すと、光線は、反射して、ピンポン玉が、壁に跳ね返るかのように、ギグザグに、上へと打ち出された。
「すごい・・・もう、新しいマナを作られたのですね」
「まー。ただ反射させただけなんだけどね
でも、これは使えるような気がするよ
他のマナでも色々なことが出来そうだよ」