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219章 スミスの岐路

スミスは、久しぶりに、ソロモン家へと戻って来た。

帝国騎士による監視は、常に続けられている。

ソロとスミスのふたりの姿をみて、獣人メイドのメリンダがポロポロと涙を流した。

4年以上もの年月は、メリンダを大人へと近づかせていた。


「ソロ様・・・。スミス様・・・。よくご無事で・・・」


「メリンダ。心配をかけたね」


「スミス様・・・」


メリンダは、うつむき加減で、涙を拭う。


「これからは、また、お屋敷にいてくださるのですね?」


「それは分からない。僕はモンスター化している間に、何人も殺めてしまっている・・・

少しでもそれを償うために、何をするべきなのかを今は考えているだ」


「ソロ様。戻って来てくださるのですよね?」


ソロは、泣いているメリンダの頭を笑顔で撫でるだけだった。


屋敷の玄関から父リアムが現れた。

痩せこけた姿の父の前に、スミスが、近づき、頭を下げた。


「お父様・・・父上・・・申し訳ありません

僕は、ソロモン家を・・・」


リアムは、大きくなったスミスの肩に手をあてて、抱きしめた。


「お前がまずは生きていてくれたことが、何よりも嬉しい

ルイーズだけではなく、お前まで失っては、ご先祖様に申し開きも出来なかったからな

よく戻って来た。スミス」


「ありがとうございます。父上・・・」


そして、父リアムは、ソロに話かけた。


「ソロ・・・。お前がレジェンドで活躍し、スミスを元に戻すことに貢献してくれたということをセルフィ様から聞いた

お前には、済まないことをしたな・・・」


ソロは、首をあちこち向けながら、笑顔をみせた。


―――スミスは、これから何をしていこうかと悩んでいた。

もともと、プリオターク騎士団として騎士となり、サムエル・ダニョル・クライシスのような強くて、帝国を守っていくような存在になることを夢みていたが、人を殺めた自分が、同じように夢に向かって歩むことに対する疑問と帝国騎士になる資格があるのかと考えがよぎるのだった。


今は、何をすれば一番、償いができるのかということに優先順位があると思っていた。


帝国騎士には、なれない。だからと言って、今の自分が一番貢献できることは、自分の持っているこの能力を使って戦い続けることだとも思える。


助けてくれたセルフィ様は、マーレ・ソーシャスのような者がまだまだいるとおっしゃられていた。

自分と同じような人間を増やされたくない。


スミスは、ソロのところへと向かい、セルフィ様と連絡が取れないかと聞くと、ソロから、ソースを渡された。


「これで連絡が取れるのか?」


ミカエルがソロの代わりに答えた。


「セルフィ様との通信を繋げることは可能です。スミス様」


「お願いする」


「少しお待ちください。スミス様」


『セルフィ様。スミス様から連絡がはいっていますが、繋げてもよろしいでしょうか?』


『うん。いいよ』


『ソロモン・ライ・スミスです

セルフィ様。無事にソロモン家に戻れました』


『そうか。それは良かった

この先のことは、ゆっくり考えることは出来た?』


『はい。僕は帝国騎士になることが夢でしたが、セルフィ様の下で、戦士として雇ってもらえないでしょうか』


『そりゃー・・・レジェンドからすれば、君ほどの強い存在が戦士として来てくれるのは、ありがたい

でも、騎士になることが夢だったのなら、それを目指すべきじゃないかな?』


『自分だけ、自分の夢を変えずに歩むことは、出来ません・・・』


『それ逆だから』


『逆?』


『うん。罪を償いたいと思っているのだろうけど、もし君がそう願っているのなら、猶更、夢を追いかけるべきだね

過去の罪に流されて、非生産的になれば、さらに償いはできなくなる

辛いからこそ、罪を背負っているからこそ、自分の感情に流されずに、前に進むべきなんだ』


『そういうものなのですか・・・』


『うん。そういうものだよ

感情はいいものだけど、悪の原則に感情を利用すれば、危険なものとなる

感情を使うのなら、善の原則の基にして、生産的に生きるべきなんだ』


スミスは、意識を取り戻してから、ずっと後ろめたさの感情に囚われていた。

償いのことばかりを考えていたけど、それ自体が、償いの妨げにもなっていたのではないのかとセルフィの言葉で気が付いた。

そして、少し考えた。


『セルフィ様の言う通り、僕は後ろ髪をひかれる想いになっていたかもしれません

今の話を聞いて、前に進むことが償いになるのだと思えました』


『うん。君が立派な帝国騎士になれることを祈っているよ』


『ありがとうございます。ですが、前向きに考えれば、やっぱりレジェンドの戦士として雇ってもらったほうがいいと思いました』


『え?そうなの?』


『はい。僕は、一度、帝国に牙を向いた存在でもあります

受け入れられて騎士となれるのか難しいところです

父も前のように、騎士になることを勧めてこないのは、そういうことだと思います

それに、帝国騎士は、名誉なことですが、行動が制限されてしまいます

4年前のアモラ襲撃事件の時もそうでしたが、騎士であるがゆえに、人を助ける選択ができなくなるのだと思い知らされました

ですから、より多くの人々を自分と同じようにさせないため、より多くを助けることに前に進めるのは、自由度の高いレジェンド戦士になることではないでしょうか』


『ああ。確かに、レジェンドの戦士は、自由度高いと思うよ・・・

帝国のように巨大なわけじゃない。1つの村だから、小回りが利くのは当然だろうね』


『お願いできないでしょうか?』


『さっきも言ったけど、レジェンドに君ほどの戦力が来てくれるのは、願ってもないことだから、断ることはしないよ

でも、条件があるんだ』


『条件とは、何でしょうか?』


『レジェンドの戦士になるには、君がクリスチャンになる必要がある

ドラゴネル帝国を建国した龍王は、意思を残した

それは聖書という意思だ

君の中にも、しっかりと聖書の基準を学んでもらい

心から神を信じ、心の指標をもってほしい

そうでなければ、命を預け合う戦士として、共に戦うことは難しい』


『そうですか・・・

僕は小さい頃からメーゼ神教を教えられ続けていました』


『多神教の宗教だね』


『はい。龍王の意思は、メーゼ神教とは、少し違うイメージがあります』


『違うとは?』


『うーん・・・はっきりとは分かりませんが、古くからの教えというのでしょうか

ソロモン家では、あまり良いイメージとして受け入れられてはいなかったのです』


『そうか

幼い頃からの教えは、深く身に染みていくものだからね

レジェンドには、教会があって教会で、聖書のことは教えてもらえる

そこで学んでみて、どちらが正しいのかを自分の中で、判断すればいい

急ぐ必要はない

ゆっくりと自分の意思で、選んでもらえればいい』


『分かりました。まずは、教会で聖書のことを学べばいいんですね』


『うん。まーでも、君のその高い戦闘能力を使わないのも、もったいない

戦いなどは参加してもらうことにして、正式なレジェンドの戦士になれるかは、君次第ということにしよう

学んでも受け入れられないと思えば、帝国に戻って騎士になるのもいいしね』


『はい。分かりました

ソロと共に、レジェンドの為、モンスター化して人を利用するものたちを倒すために、雇ってください』


『うん。歓迎するよ

実はサネル・カパ・デーレピュース上院議員から、スミスはレジェンドの戦士にしてもらえないかと相談されていたんだ』


『上院議員がですか?』


『うん。モンスター化してしまった人間を元に戻すことができるのは、今のところ俺だけなんだ

俺なら君の監視役としても利用できるということなんだろうけど、君たち兄弟のためには、それが一番いいのではとおっしゃられていた』


『そうだったのですね』



『うん。でも、あとは、お父さんにも許可をきちんともらってきてね』


『はい。きちんと報告するつもりです』


スミスは、父リアムに、今後のことについてのことを告げた。

リアムは、それに納得してくれた。

サネル・カパ・デーレピュース上院議員からセルフィは、次の時代をつくっていく存在になると伝えられていて、帝国騎士としてもいいが、新しい時代を切り開く位置に、息子を送り出すのも悪くないという判断だった。


「お前は、ソロのことを可哀そうだから、庇っているのだと思っていたが、本当にソロには、戦略眼があったのだな

メリンダ親子も連れて行きなさい

彼女たちがいれば、ソロの役にも立つだろう

彼女たちも断ることもしないだろう」


「いいのですか?」


「ああ。彼女たちが嫌がるのでなければ、連れて行けばいい

ただ、たまには、ここにも戻ってくるんだぞ」


「はい。父上。わたしは、償いのこともありますが、父上のように立派な戦士として、活躍できるように生きて行こうと思います

父上には、まだまだ教えてもらいたいこともあります

ソロも連れて、すぐに顔を出しますから」


「うむ。お前が立派な戦士になれるのを心から願っている」


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