215章 癒し
祭りの最中だったが、祭りは民全体で行われていたので、来客が来た際は、源もリリスもいつもと変わらず、対応できるようにしていた。
新大共和ケーシスの国内の民なら、ほとんどがレジェンドでも祭りが行われていることは知っていても、他国からの来訪であれば、知らないのも当然だ。
瞬間移動で、首都ハーモニーからレジェンドの来客室に移動すると部屋には、数人の男たちが、待っていた。
ひとりは、確か、首都ドラゴで一番最初に、足を木の炭素で造ってあげた男性だ。
彼らの少し汚れた衣服は、長旅をしてきたことを物語る。
「お久しぶりです
わざわざ、レジェンドまで遥々、お越しいただき、ありがとうございます
少し待っていただければ、わたしが帝国にいる時にでも、お会いできたのですけど・・・」
男は、少し驚く。
「わたしたちのことを覚えていてくださったのですね
セルフィ様に会いたいと帝国議堂に足を運んだのですが、遠征中であるということで、忙しいはずだと言われました
それに、わたしたちも一度は、セルフィ様の作られた村に行ってみたいと思っていたのです」
「そうでしたか。帰りは、わたしが帝国までのゲートを開きますので、安心してください
お名前は、聞いていませんでしたよね?」
足を治してもらった男性が、答えた。
「はい。わたしは、カムタック・レースと申します
帝国騎士だったのですが戦争で傷つき足を負傷し、セルフィ様に癒していただきました」
「ここまで来るのは、相当大変だったでしょう・・・
そこまでして、来られた理由は、何ですか?」
カムタック・レースは、少し申し訳なさそうに話をはじめた。
「実は、わたしは、片足を失い障害者として生きていたので、障害者の知り合いなども多くいるのですが、わたしの足をセルフィ様が癒してくださったことを彼らが知って、組合を作り出したのです
各自、バラバラにセルフィ様に会いに行き、癒しを求めるのは、セルフィ様の負担となると考えて、管理してからお願いしようと思い立ったのです
帝国にいかれた際、癒しを頂けないかとお願いしに来たのです」
「まーそうなりますよね・・・
ですが、わたしは、すべての障害を治せるわけではないのです
治ると思ってわたしの元に来られても、もし、治せなかった時に、落胆させてしまうかもしれません
あらかじめ、治せないものもあることは伝えておいてもらえますか?」
「分かりました。伝えておきます
長年、悩み続けた障害ですから、治らないことも彼らは受け入れています
ですが、かすかな望みをかけて、セルフィ様に会いたいと願っているのです」
「あと、癒してもらった人は、極端に治した者に対して、敬意を表しすぎる場合があります
わたしは、ひとりの人間と変わらず、みなさんと同じだということも伝えておいてください
わたしを崇拝するようなことなど、変な方向にいってほしくはないのです」
男たちは顔を見合わせたと思うと沈黙した。その沈黙から、どうやらすでに、それに近い状態になっているのだろうと推測される。
「あと、皆さんに会えるのは、早くても一カ月後になってしまうと思います
実はある事件で、大勢がモンスター化してしまい、それらを治したいと思っているんです」
「もちろんです!
わたしたちが、勝手に組合を作ってしまったのですから、セルフィ様の都合のいい時だけで結構です」
「組合を作っていただいたのは、ありがたいと思っています
確かに、バラバラに、わたしのところに来られるよりは、組合に管理してもらいながら、順番に治していくほうが、より多くを癒せると思いますし、効率がいいですからね
他に何か話しておきたいことなどはありますか?」
「はい。これはわたしカムタック・レースの個人的な質問なのですが、セルフィ様は、わたしの失った足を付け足して、癒してくださいました
それはもしかしたら、癒すことを超えていることなのではないかと思い至ったのです
わたしは、騎士をしている間、遺跡などに入っては探索を繰り返していた時もあったのですが、遺跡内部には、ミステリアスボーンのなりそこないと言われる生き物たちをよく見かけたのです
その都度、忍びない気持ちになっていたのですが、セルフィ様なら、もしかしたら、彼らも助けることが出来るのではないでしょうか?」
「なるほど・・・それは、考え付きませんでした
わたしも、数体ほど、そのような生き物をみたのですが、やっぱりあれらは、ミステリアスボーンなのですね
うーん・・・。でも・・・それらをもし、治せたとしても、本当に治していいものなんでしょうか?」
「どういうことでしょうか?」
「ミステリアスボーンは、人間だけじゃないんですよね?
むしろ、人間よりもモンスターのほうが生まれる確率が高いのではないでしょうか
それらを治すということは、モンスターを増やすことになるかもしれません」
「そういうことですか・・・」
「治そうと思えば、治せるとは思うのですが、わざわざ敵を増やす行為に成り兼ねませんからね
カムタックさんは、面白いところに目を向けられるのですね」
「足を失う前から気にはなっていたのですが、本格的に体に不調をきたすようになってから、生まれた時からすでに障害を持っているようなものたちのことをさらに考えるようになっていたのです
あれらと比べれば、自分はまだ、マシな方だと言い聞かせていたのです」
「そういうことですか・・・
カムタックさんは、これからは騎士に復帰して、遺跡にも行こうと考えているのですか?」
「出来ればそうしたいと思っています」
源は、前に手を差し出した。
「では、これを持っていてください
これはマナソースといって、一日人間5人分の体積のものを瞬間移動させることができるものです
本来は、クリスチャンだけにしか渡さないのですが、1つだけ、それもミステリアスボーンを発見した時だけ、カムタックさんの家まで、転移できるようにしておきます
使ってください
カムタックさんが、連れてきた障害を持つミステリアスボーンは、治してみましょう
ですが、治した後に、やはり人間を襲うようなモンスターなら退治してしまうということになりますけどね」
「瞬間移動ができる道具をわたしに・・・?」
「瞬間移動できるのは、ミステリアスボーンだけとさせてもらいます」
「また、余計な仕事を増やしてしまい。申し訳ありません。セルフィ様・・・」
「いえ、わたしもミステリアスボーンとして生まれて、彼らをすぐに発見したのですが、これは何だろうと思っていたんですよ
言われてみれば、それらを治してみるのも試してみたいと思わされました
すべてのミステリアスボーンを治すことはできませんが、カムタックさんが連れてきた者だけは、治してみましょう」
「ありがとうございます」
「レジェンドでは、今日から三日間、祭りを行っていますので、もしよければ、すべて無料ですし、宿も無料でご利用できますから楽しんで行ってください
帰ろうと思われた時は、先ほど渡したマナソースに話しかけてもらえば、わたしが、帝国まですぐに送り届けます」
カムタックたちが祭りへと向かうとすぐに、サネル・カパ・デーレピュース上院議員から連絡がはいった。
『セルフィ様。今よろしいでしょうか。サネル・カパ・デーレピュースです』
『はい。議員。どうされましたか?』
『ワグワナ法国侵攻部隊によって報告を受けましたが、少しだけ気になることがありまして・・・』
『気になること?何でしょうか』
『報告によるとソロモン・ライ・スミスが、人間に戻って今、レジェンドにいるということらしいですが、ソロモン・ライ・スミスは、一度、帝国に攻撃を加えようとした疑いがあり、尋問をさせてもらいたいのです
我々の元へと送り届けてもらえないでしょうか?』
源は、それを聞いて、しまったと思った。
スミスが人間に戻った。一件落着。なんてことにはならないのか・・・。
帝国からすれば、危険人物として取り上げられていたのだから、素直に報告すれば、そうなるに決まっている。
『わたしが聞き及んでいるのは、スミスから帝国側への被害は、出なかったのではなかったですか?』
『確かに、人的被害は出なかったのですが、だからと言って、大爆発を起こした者をそのままにしておくわけにもいきません』
『です・・・よね・・・』
『サムエル・ダニョル・クライシスによってあの爆発は、封じ込められたから被害が出なかっただけで、それがなければ、どれだけの事態になっていたかは、分からないのです』
サネル・カパ・デーレピュース上院議員は、ソロを大切に想っている。ソロの兄であるスミスを悪いようにはしないと思うが、モンスター化されて、意識が無かったとはいえ、それだけのことをしでかしたスミスは、どのようになるかは、分からない。
『スミスは、確かに帝国に対して、攻撃したかもしれません
ですが、アモラ化された人々と同じで、意識がなかった以上、彼も被害者であるという考慮もしていただきたいのですが・・・』
『確かにそうですが、これはスミスのためでもあるのです
このまま隠れるように生きていくよりも、一度、彼の事情を聞いて、ハッキリさせることが出来れば、また帝国にも出入りできるようになれるはずです
今回の遠征では、彼も帝国連合軍側として、活躍したことも報告に入っていますからね』
『そうですよ・・・。意識を取り戻したスミスは、アモラ化した人たちを殺めることなく、多く無力化してくれたのです
母親を殺されたはずですが、帝国に敵対心をみせるわけでもありませんでした』
『ソロモン家は、名家です
プリオターク騎士団長ソロモン・ライ・リアムの息子でもあり、帝国のために、育てられていたことも知っています
どのような結果になるかは、わかりませんが、最善を尽くして、わたしが彼を擁護しますので、どうか彼を渡していただきたい』
『分かりました
ですが、スミスは、ソロと出会うことができて、今は一緒に祭りを楽しんでいます
その話をするのは、祭りの後でもいいでしょうか?』
『はい。それで結構です
ですが、彼が逃げるようなことがないようにお願いします
逃げれば、余計、問題になり、状況が悪化してしまいますので・・・』
『彼のことはミカエルに監視させておきます
三日後、しっかりと彼を送り届けます』
『よろしくお願いします。セルフィ様』
スミスは、最悪、どうなるのだろう・・・。
終身刑なんかになる可能性だってあるかもしれない。
マーレ・ソーシャスの弟子となっていたという情報は、父親によって、家名を汚さないように、もみ消されていたようだが、あれだけの実力がある者を野放しにするのも、出来ないのではないだろうか・・・。
源は、頭を悩ませた。